2024年7月10日水曜日

エラリー・クイーン作「チャイナ橙の謎」(The Chinese Orange Mystery by Ellery Queen) - その3

米国の Penzler Publishers 社から
American Mystery Classics シリーズの1冊として
2018年に出版された
エラリー・クイーン作「チャイナ橙の謎」の内扉


出版社「マンダリンプレス(The Mandarin Press)」の社長であるドナルド・カーク(Donald Kirk)は、チャンセラーホテル(Hotel Chancellor)の22階に豪華な住居を有しており、父親のヒュー・カーク博士(Dr. Hugh Kirk)や妹のマーセラ・カーク(Marcella Kirk)と同居している。

その上、廊下を挟んだ反対側には、事務所もあり、秘書のジェイムズ・オズボーン(James Osborne)と一緒に、そこで出版社を経営していた。稀少な切手や宝石の収集家としても有名なドナルド・カークは、出版社の事務所を切手や宝石を買い取る場所としても使用していた。

従って、ドナルド・カークの事務所には、出版事業の関係者、切手や宝石の関係者に加えて、家族、友人やスタッフ等、多くの人達が普段から出入りしていたのである。


米国の Penzler Publishers 社から
American Mystery Classics シリーズの1冊として
2018年に出版された
エラリー・クイーン作「チャイナ橙の謎」に付された
チャンセラーホテル22階の見取り図

< 午後5時43分 >

ある日の夕方、チャンセラーホテルの22階において、ヒュー・カーク博士の世話をしている付き添いの看護婦であるミス・ダイヴァーシー(Miss Diversey)が、廊下側からドナルド・カークの事務所に隣接する待合室内を覗く。中には、誰も居なかった。

そこで、彼女は、テーブルの上に置かれている果物カゴからタンジェリンオレンジ(tangerine)を一つ失敬して、食べた。

その後、ミス・ダイヴァーシーは、廊下沿いに、待合室とドナルド・カークの事務所を回り込み、エレヴェーターのドアの前にある机に座る同階の受付係であるシェーン夫人(Mrs. Shane)と話をすると、ドナルド・カークの事務所内へ入った。中には、秘書のジェイムズ・オズボーンだけが居て、ドナルド・カークが収集する切手の整理をしていた。

お互いを心憎からず思っている2人の会話はぎこちなかったが、勇気を振り絞ったジェイムズ・オズボーンは、ミス・ダイヴァーシーを映画へと誘った。

それは、午後5時43分だった。


< 午後5時44分 >

午後5時44分、22階のエレヴェーターのドアが開き、首にスカーフを巻いた中年の男性が降りて来た。

エレヴェーターのドアの前にある机に座るシェーン夫人に対して、その中年男性は、ドナルド・カークの事務所である「Room 2210」の場所を尋ねる。

シェーン夫人に案内されて、その中年男性は、ドナルド・カークの事務所へと向かった。事務所内に居たのは、ジェイムズ・オズボーンとミス・ダイヴァーシーの2人だけで、生憎と、ドナルド・カークは外出中のため不在だった。

来客である中年男性を見たミス・ダイヴァーシーは、慌てて事務所から出て行く。

一方、中年男性は、ジェイムズ・オズボーンにより、事務所に隣接する待合室(anteroom)へと通されて、ドナルド・カークの帰りを待つことになるが、それから約1時間後に、あまりにも奇妙な殺人事件が、この待合室において発生することになる。


< 午後6時25分 >

ドナルド・カークの親友で、マーセラ・カークと婚約中であるグレン・マクゴーワン(Glenn Macgowan)が、ディナーパーティー用の服装で、ドナルド・カークの事務所へ入って来る。

ドナルド・カークの不在を知ったグレン・マクゴーワンは、ジェイムズ・オズボーンに対して、ドナルド・カーク宛の手紙を託すと、エレヴェーターで下へ降りて行った。


< 午後6時35分 >

後に宝石を専門とする女性詐欺師と判明するアイリーン・リューズ(Irene Llewes)が、ドナルド・カークの事務所へ入って来る。

ドナルド・カークの不在を知ったアイリーン・リューズは、何も要件を言わないまま、出て行くと、階段を使い、下階の自分の部屋へと向かった。


続いて、中国で育った米国女性で、作家志望のジョー・テンプル(Jo Temple)も、ドナルド・カークの事務所へ入って来る。

ドナルド・カークの不在を知ったジョー・テンプルは、何も要件を言わないまま、出て行くと、カーク家の部屋へと戻って行った。


丁度そこに、ドナルド・カークの共同経営者であるフェリックス・バーン(Felix Berne)からの電話が入る。

「ディナーパーティーに遅れると、ドナルド・カークに伝えてくれ!」との伝言だった。


< 午後6時45分 >

皆が帰りを待ちわびていたドナルド・カークが、エラリー・クイーン(Ellery Queen)を伴って、エレヴェーターから降りて来る。

事務所へと戻ったドナルド・カークは、秘書のジェイムズ・オズボーンから手渡されたグレン・マクゴーワンの手紙を読むと、急に機嫌が悪くなり、手紙を握り潰すと、ポケットへ入れてしまった。

続いて、ジェイムズ・オズボーンから来客のことを伝えられたドナルド・カークは、事務所に隣接する待合室へ向かうが、反対側からドアが施錠されていて、開かなかった。


仕方なく、ドナルド・カーク、エラリー・クイーンとジェイムズ・オズボーンの3人は、一旦、事務所から廊下へと出て、角を周り、反対側から待合室へと入った。幸いなことに、こちらのドアは、施錠されていなかった。

反対側から待合室へと入った3人は、驚くべき光景を目にした。


約1時間程前にドナルド・カークの事務所を訪ねて来た正体不明の中年男性が、後頭部を暖炉の火搔き棒で激しく殴打されて、殺害されていたのである。

部屋の調度品が全て上下逆にひっくり返されている中、俯せに倒れた彼の着衣は全て裏返しにされていることに加えて、2本のアフリカ槍が彼の身体と服の間に挿し込まれていた。


この非常に奇妙な謎に対して、エラリー・クイーンが挑むことになる。


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