2024年4月18日木曜日

アガサ・クリスティーの世界<ジグソーパズル>(The World of Agatha Christie )- その43

(90)ドクニンジン(Hemlock)


ドクニンジンの化学式(構造式)-
Bloomsbury Publishing Plc から出版された
キャサリン・ハーカップ作「アガサ・クリスティーと14の毒薬
(A is for Arsenic - The Poisons of Agatha Christie by Kathryn Harkup)」の
ペーパーバック版から抜粋。

目:セリ目(Apiales)

科:セリ科(Apiaceae)

属:ドクニンジン属(Conium)


ドクニンジンは、古代ギリシアの哲学者であるソクラテス(Socrates:紀元前470年頃ー紀元前399年)の処刑の際、毒薬として使用されたと言われており、そのため、欧州において、茎にある紫紅色の斑点が、「ソクラテスの血」と呼ばれたりする。


原産:欧州(特に、地中海沿岸)を原産とする「Conium maculatum」と北アフリカを原産とする「C. chaerophylloides」の2種類がある。


最近では、かつては自生していなかった日本(北海道や東日本)、アジア各地、北アメリカやオーストラリア等に持ち込まれて、帰化植物となっている。


多年生草木


茎:高さは2m位 / 毛がなく、つるつるした緑色 / 下半分には、紫紅色の斑点があり、生長すると、暗紫色に変わる。

根:肉色をしており、枝分かれしていない。

葉:三角形をしており、レース状に分かれている。

花:小さな白い花が密集して、多く咲く。


ドクニンジンは、植物全体が臭気を放っていることが特徴で、この臭いが、食用植物と区別する基準となる。


ドクニンジンは、全草、特に、果実に猛毒成分を含んでいる。

ただし、用法や用量を守って使用する限り、有用であり、鎮静剤や痙攣止め等の用途に使われてきた。


ドクニンジンを誤食した場合や大量に摂取した場合の副作用として、コニイン(Coniine - 神経毒)を初めとする各種の毒性アルカロイドにより、


*嘔吐

*下痢

*呼吸困難

*麻痺

*言語障害


等を引き起こし、最悪の場合には、死に至るので、取扱いに注意が必要。


2024年4月17日水曜日

恐竜の時代(The Age of the Dinosaurs)記念切手 - その1

2024年3月12日に、英国のロイヤルメール(Royal Mail)から、恐竜の時代(The Age of the Dinosaurs)に関する12種類の記念切手が発行されたので、3回に分けて御紹介したい。


Tyrannosaurus(ティラノサウルス / 暴君竜 - 肉食恐竜) lived
during the Late Cretaceous period(白亜紀後期)
between 68 and 66 million years ago.
The first known specimen was discovered n 1900  in Wyoming, USA.
< Designed by The Chase & Illustration by Joshua Dunlop >

Triceratops(トリケラトプス / 三角竜) lived around 68 million years ago
during the Late Cretaceous period.
< Designed by The Chase & Illustration by Joshua Dunlop >

Coloborhynchus(コロボリンクス - 翼竜) was one of the earliest pterosaurs to be discovered.
< Designed by The Chase & Illustration by Joshua Dunlop >

Iguanodon(イグアノドン - 草食恐竜) lived during the Early Cretaceous period(白亜紀前期)
between 125 and 110 million years ago.
< Designed by The Chase & Illustration by Joshua Dunlop >

2024年4月16日火曜日

江戸川乱歩作「三角館の恐怖」- その2

講談社から江戸川乱歩推理文庫の1冊(第25巻)として
1989年に第1刷が発行された
江戸川乱歩作「三角館の恐怖」内に付されている
「三角館の見取図」


イヴリン・ペイジ(Evelyn Page:1902年ー1977年)とドロシー・ブレア(Drothy Blair:1903年ー1976年)と言う女性2人のペンネームである米国の推理作家ロジャー・スカーレット(Roger Scarlett)による第4作目の長編推理小説「エンジェル家の殺人(Murder Among the Angells → 2024年4月2日 / 4月5日 / 4月8日付ブログで紹介済)」(1932年)と、明智小五郎シリーズ等で有名な日本の推理作家である江戸川乱歩(Rampo Edogawa:1894年ー1965年)が翻案した「三角館の恐怖」(1951年)の間には、以下の差異がある。


1.事件発生時期

(原作)3月初旬の火曜日の朝

(翻案)1月下旬の雪上がりのある午後


2.事件発生場所

(原作)原作上、明記されていないが、作者のイヴリン・ペイジとドロシー・ブレアの2人は、大学卒業後、マサチューセッツ州(Commonwealth of Massachusetts)ボストン(Boston)にあるホートンミフリンハーコート(Houghton Mifflin Harcourt)と言う出版社で、編集者として働いている時に出会い、共同生活を始め、ロジャー・スカーレットと言うペンネームを使い、僅か4年の間に、長編推理小説を5作発表しているので、おそらく、事件発生場所は、「ボストン」を想定しているものと思われる。

(翻案)「東京中央区の隅田川寄り、築地付近」と言及されている。


3.事件が発生する邸の名前

(原作)「エンジェル邸」と言及されている。

(翻案)「三角館」と名付けられている。


講談社から江戸川乱歩推理文庫の1冊(第25巻)として
1989年に第1刷が発行された
江戸川乱歩作「三角館の恐怖」内に付されている
「三角館1階の平面図」

4.主要な登場人物

(原作)

<ダライアス家の住人>

(1)ダライアス・エンジェル(Darius Angell):双子の兄

(2)ピーター・エンジェル(Peter Angell):ダライアスの長男

(3)ディヴィッド・エンジェル(David Angell):ダライアスの次男

(4)スーザン・コッドマン(Susan Codman):ダライアスの義理の妹

<キャロラス家の住人>

(5)キャロラス・エンジェル(Carolus Angell):双子の弟

(6)カール・エンジェル(Carl Angell):キャロラスの養子

(7)カレン・アダムズ(Karen Adams):キャロラスの養女

(8)ホイットニー・アダムズ(Whitney Adams):カレンの夫

(9)ブラード:キャロラス家の執事

<捜査関係者>

(10)ノートン・ケイン(Norton Kane):犯罪捜査部の警部(Inspector)

(11)アンダーウッド(Underwood):弁護士


講談社から江戸川乱歩推理文庫の1冊(第25巻)として
1989年に第1刷が発行された
江戸川乱歩作「三角館の恐怖」内に付されている
「三角館各階の居住者」

(翻案)

<右三角館の住人>

(1)蛭峰 健作(70歳):双子の兄

(2)蛭峰 健一(36歳):健作の長男 / 独身

(3)蛭峰 丈二(32歳):健作の二男 / 独身

(4)穴山 弓子(58歳):健作の亡妻の妹

<左三角館の住人>

(5)蛭峰 康造(70歳):双子の弟

(6)蛭峰 良助(33歳):康造の養子 / 独身

(7)鳩野 桂子(26歳):康造の養女 / 結婚して、夫の姓を名乗る

(8)鳩野 芳夫(38歳):桂子の夫 / 桂子の希望で、蛭峰家に同居している

(9)猿田老人(60歳):先代から住みつきの執事

<捜査関係者>

(10)篠警部:警視庁捜査一課の名探偵

(11)森川 五郎:弁護士


2024年4月15日月曜日

ジョン・ディクスン・カー作「緑のカプセルの謎」(The Problem of the Green Capsule by John Dickson Carr)- その4

大英図書館(British Library)から2023年に出版された
ジョン・ディクスン・カー作「黒眼鏡(英国版タイトル)/
緑のカプセルの謎(米国版タイトル)」の表紙
(Front cover image : NRM / Pictorial Collection / Science & Society Picture Library)


「緑のカプセルの謎(The Problem of the Green Capsule → 2019年8月3日 / 8月17日 / 8月28日付ブログで紹介済)」は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が1939年に発表した推理小説で、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)シリーズの長編第10作目に該る。


本作品の場合、ソドベリークロス(Sodbury Cross - 架空の場所)と言う村に3軒ある煙草店兼菓子店のうち、ミセス・テリー(Mrs. Terry)が営む一番人気の店において、何者かにより、菓子の中に毒入りチョコレート・ボンボンが混ぜられ、メイドの少女と子供3人に被害が出て、更に、子供の1人が亡くなると言う惨事が発生する。

続いて、村に住む桃栽培の実業家であるマーカス・チェズニー(Marcus Chesney)が、自宅において行った心理学的なテストの最中に殺害されると言う事件も起きる。彼は、フランス窓から室内へと入って来た「透明人間(The Invisible Man)」のような風体の人物によって、緑のカプセルを飲まされると言う寸劇において、緑のカプセルの中に入っていた青酸カリで殺されたのである。

ロンドン警視庁犯罪捜査部(スコットランドヤード CID)の上司であるハドリー警視(Superintendent Hadley)から命じられて、現地へと派遣されたアンドルー・マッカンドルー・エリオット警部(Inspector Andrew MacAndrew Elliot)は、対処に困り、バース(Bath)に滞在していた知り合いのギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)に助力を求めるのであった。


大英図書館(British Library)から2023年に出版された
ジョン・ディクスン・カー作「黒眼鏡(英国版タイトル)/
緑のカプセルの謎(米国版タイトル)」の裏表紙
(Front cover image : NRM / Pictorial Collection / Science & Society Picture Library)

作者のジョン・ディクスン・カーは、当初、本作品のタイトルを「黒眼鏡(The Black Spectacles)」とした。英国の出版社であるハーミッシュ・ハミルトン社(Hamish Hamilton)は、作者のタイトルをそのまま受け入れて、同タイトルで出版した。一方、米国の出版社であるハーパー社(Harper)の場合、「The Black Spectacles」では、推理小説のタイトルとして判りづらいと考えて、マーカス・チェズニーの殺害に使用された青酸カリ入れの緑のカプセルに焦点を絞り、タイトルを「緑のカプセルの謎(The Problem of the Green Capsule)」へと変更した。日本においては、米国版のタイトルがベースとなっている。


大英図書館(British Library → 2014年5月31日付ブログで紹介済)が2023年に本作品を復刊した際、作者のジョン・ディクスン・カーが付けた「The Black Spectacles」を使用している。

また、本の表紙には、ケント州(Kent)にあるロイヤルタンブリッジウェルズ(Royal Tunbridge Wells → 2023年6月18日付ブログで紹介済)のハイストリートのポスターが使われている。これは、毒入りチョコレート・ボンボン事件が発生したミセス・テリーが営む煙草店兼菓子店が所在するソドベリークロス村のハイストリートを念頭に置いているからではないかと思われる。


2024年4月14日日曜日

英国にあるヴァイキングの遺跡(Viking Britain)記念切手 - その2

2024年2月20日に、英国のロイヤルメール(Royal Mail)から、英国にあるヴァイキングの遺跡(Viking Britain)に関する8種類の記念切手が発行されたので、前回に引き続き、御紹介したい。


< Norse settlement remains, Jarlshof, Shetland >


< Antler comb and case, Coppergate, York >

< Gilded bronze brooch, Pitney, Somerset >

< Hogback gravestone, Govan Old, Glasgow >

2024年4月13日土曜日

江戸川乱歩作「三角館の恐怖」- その1

講談社から江戸川乱歩推理文庫の1冊(第25巻)として
1989年に第1刷が発行された
江戸川乱歩作「三角館の恐怖」の表紙
<装画:天野 喜孝
  装幀:安彦 勝博>

イヴリン・ペイジ(Evelyn Page:1902年ー1977年)とドロシー・ブレア(Drothy Blair:1903年ー1976年)と言う女性2人のペンネームである米国の推理作家ロジャー・スカーレット(Roger Scarlett)による第4作目の長編推理小説「エンジェル家の殺人(Murder Among the Angells → 2024年4月2日 / 4月5日 / 4月8日付ブログで紹介済)」(1932年)について、明智小五郎シリーズ等で有名な日本の推理作家である江戸川乱歩(Rampo Edogawa:1894年ー1965年)が、同作品を「三角館の恐怖」(1951年)として翻案している。


「エンジェル家の殺人」を読んだ江戸川乱歩は、翻訳家で研究家の井上良夫に宛てた第二次世界大戦(1939年ー1945年)/ 太平洋戦争(1941年-1945年)中の昭和18年(1943年)2月10日付の手紙の中で、同作品に「感歎したる次第」を、原稿用紙14枚程の長さで述べている。


「一月以来の初読をひっくるめて、巻をおく能わざる興味と興奮を覚えたのは、『僧正(僧正殺人事件(The Bishop Murder Case → 2024年2月7日 / 2月11日 / 2月15日 / 2月19日付ブログで紹介済))』『赤毛(赤毛のレドメイン家(The Red Redmaynes)』『黄色(黄色い部屋の謎(Le Mystere de la chambre jaune))』『Y(Y の悲劇(The Tragedy of Y))』の四作でしたが、『エンジェル』にやはり同じ興奮を感じたのです。この点だけでもベストに入れないわけにはいきません。この作は小生のいわゆる不可能興味が偉大なわけでもなく、他人の悪念が深刻なわけでもなく、『僧正』『Y』『赤毛』などの病的異常性があるわけでもなく、そういう点では感歎するほどではありませんが、筋の運び方、謎の解いて行き方、サスペンスの強度、などに他の作にないような妙味があり、書き方そのものが小生の嗜好にピッタリ一致するのです。(中略)アアなるほどその通りその通り、それこそ私の一番好きな書き方だと、一行ごとにそう感じてよむというわけです。

もっとも初め百七八十頁まではそうはいきません。あとにどんなにいいものが隠れているか全く分らないのですから、その辺までは半信半疑でよみます。靴の包みが川に投込まれる出発点などは、余り好きではなく、ひょっとしたらこれはフレッチャー流じゃないかという疑が去りません。(中略)

第二のエレベーターの殺人から、俄然不可能興味が濃厚になります。サスペンスの出し方の巧みさには感歎し、この辺から巻をおく能わざる興味を生じて来ます。丁度そこまで読んだ頃はもう夜更けすぎだったので、明日にして寝るつもりだったところ、もうとても中途でよせなくなり、夜明けまでかかって全部読み終り、しばらくは感歎の反芻のために眠ることが出来なかったという次第です。(後略)」


講談社から江戸川乱歩推理文庫の1冊(第25巻)として
1989年に第1刷が発行された
江戸川乱歩作「三角館の恐怖」の裏表紙
<装幀:安彦 勝博>

江戸川乱歩は、昭和21年(1946年)に「エンジェル家の殺人」を再読して、本作が大きな独創性に欠けていること、また、作者の文章が良くないことを理由に、ベストテンに準ずると、当初の評価を改めている。


それでも、昭和18年(1943年)の初読時の印象が非常に深かったためか、江戸川乱歩は、「エンジェル家の殺人」のプロットとトリックを借りて、自分の文章による翻案を試みた。

そして、「エンジェル家の殺人」を翻案した「三角館の恐怖」は、昭和26年(1951年)1月から同年12月にかけて、「面白俱楽部」(第4巻第1号ー第12号)に連載された。その後、昭和27年(1952年)9月に、文芸図書出版社から単行本として刊行された。その際、扉裏に、「ロジャー・スカーレット『エンジェル家の殺人事件』に拠る」と記されたのである。 

2024年4月11日木曜日

アガサ・クリスティーの世界<ジグソーパズル>(The World of Agatha Christie )- その42

英国の Orion Publishing Group Ltd. から出ている「アガサ・クリスティーの世界(The World of Agatha Christie)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の生涯や彼女が執筆した作品等に関連した90個の手掛かりについて、前回に続き、紹介していきたい。


今回も、アガサ・クリスティーが執筆した作品に関連する手掛かりの紹介となる。


(90)ドクニンジン(Hemlock)



本ジグソーパズル内において、アガサ・クリスティーが腰掛けている椅子の左側にある窓の外に、「ドクニンジン」が植えられている。


これから連想されるのは、アガサ・クリスティーが1942年に発表したエルキュール・ポワロシリーズ作品「五匹の子豚(Five Little Pigs → 2023年11月9日 / 11月13日付ブログで紹介済)」である。本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第32作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第21作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「五匹の子豚」のペーパーバック版の表紙

物語の冒頭、カーラ・ルマルション嬢(Carla Lemarchant)が、ある事件の調査を依頼するために、エルキュール・ポワロの元を訪れる。彼女は、この世で望み得る最高の探偵を必要としていたのだ。


21歳の誕生日を迎えるに際して、現在、カナダで暮らすカーラ・ルマルションこと、本名カロリン・クレイル(Caroline Crale)は、恐ろしい事実を突き付けられることになった。彼女は、英国の有名な画家であるアミアス・クレイル(Amyas Crale)の娘として、遺産を相続することになったが、16年前、その父親は、彼女と同名の母親カロリン・クレイル(Caroline Crale)によって、ドクニンジンで毒殺されたと言うのだ。その時、彼女は、まだ5歳だった。彼女は、カナダに住む伯父夫妻へと送られ、名前もカロリン・クレイルから現在のカーラ・ルマルションへと変えられたのであった。彼女の母親は、裁判で有罪判決を受けて、終身刑を宣告され、1年後に獄中で死亡していた。


彼女の母親は、自分の娘(彼女)が21歳になった際に読むようにと、手紙を残していた。その手紙は、自分は無実であることを訴える内容だった。手紙を読んだ彼女は、母親が潔白であることに確信を抱いた。

彼女は、ジョン・ラッテリー(John Rattery)と婚約して、結婚を目前に控えていたが、婚約者であるジョンは、時々、自分をどこか疑うような目つきで見てることに気付く。彼女は、夫殺しの女の娘ではないか、と。

彼女としては、16年前の事件が、これからの自分の結婚生活に不吉な影を落とさないためにも、母親の無実をなんとか証明したいと望んでいたのである。


カーラ・ルマルション嬢の話に興味を覚えたポワロは、早速、事件の調査に取りかかる。しかしながら、証拠は、彼女の母親にとって圧倒的に不利な上に、夫を毒殺する動機もあった。ポワロは、事件の重要関係者である5人に会い、事件当時における各自の記憶を辿ることで、事件の糸口を見い出そうとするのだった。


事件の重要関係者である5人は、以下の通り。


(1)フィリップ・ブレイク(Philip Blake)ーアミアス・クレイルの親友で、カロリン・クレイルに振られた過去がある。現在は、株式仲買人をしている。

(2)メレディス・ブレイク(Meredith Blake)ーフィリップの兄で、カロリン・クレイルに秘かに恋愛感情を抱いていた。現在は、隠居して、薬草の研究をしている。

(3)エルサ・ディティシャム(Elsa Dittisham)ー旧姓は、エルサ・グリヤー(Elsa Greer)。事件当時、アミアスの絵のモデルで、彼の愛人でもあった。現在は、ディティシャム卿夫人(Lady Dittisham)となっている。

(4)セシリア・ウィリアムズ(Cecilia Williams)ー事件当時、カロリン・クレイルの異母妹であるアンジェラ・ウォレン(Angela Warren)の家庭教師だった。

(5)アンジェラ・ウォレンーカロリン・クレイルの異母妹。事件当時、クレイル家に同居しており、女癖の悪いアミアスを毛嫌いしていた。赤ん坊の頃、カロリンがカッとなったため、彼女が投げ付けた文鎮により、片目を失明。現在は、考古学者をしている。


タイトルの「五匹の子豚」は、マザーグースの童謡(5匹の子豚が登場する数え歌 → 2023年6月2日付ブログで紹介済)に因んでおり、ポワロが訪ねる事件の重要関係者である5人に対して、5つの歌詞が割り当てられている。


この子豚は、市場へ行った。(This little pig went to market.)

この子豚は、家に居た。(This little pig stayed home.)

この子豚は、ローストビーフを食べた。(This little pig had roast beef.)

この子豚は、何も持っていなかった。(This little pig had none.)

この子豚は、「ウィー、ウィー、ウィー」と鳴く。(And this little pig cried, Wee-wee-wee.)

帰り道が分からない。(I can’t find way my home.)


(1)フィリップ・ブレイク: 市場へ行った(Went to Market)

(2)メレディス・ブレイク: 家に居た(Stayed at Home)

(3)エルサ・グリヤー: ローストビーフを食べた(Had Roast Beef)

(4)セシリア・ウィリアムズ: 何も持っていなかった(Had None)

(5)アンジェラ・ウォレン: ウィー、ウィー、ウィーと鳴く(Cried 'Wee Wee Wee')


「市場へ行った」とは、事件後、フィリップ・ブレイクが株式仲買人になったことを、「家に居た」とは、事件後、メレディス・ブレイクが隠居して、薬草の研究をしていることを、「ローストビーフを食べた」とは、アミアス・クレイルの絵のモデルで、彼の愛人でもあったエルサ・グリヤーが、事件後、貴族と結婚して、ディティシャム卿夫人となっていることを、「何も持っていなかった」とは、事件後、セシリア・ウィリアムズが一人寂しく生活していることを、そして、「ウィー、ウィー、ウィーと鳴く」とは、女癖の悪いアミアスを毛嫌いしていたアンジェラ・ウォレンが、事件発生当時、彼に対して、いろいろと悪戯を仕掛けて、彼を閉口させていたことを指すのではないかと思われる。