2022年6月29日水曜日

ステュアート・ダグラス作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / アルビノの財宝」(The further adventures of Sherlock Holmes / The Albino’s Treasure by Stuart Douglas) - その1

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2015年に出版された
ステュアート・ダグラス作
「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / アルビノの財宝」の表紙

本作品「アルビノの財宝(The Albino’s Treasure)」は、英国出身の推理作家であるステュアート・ダグラス(Stuart Douglas)によって、2015年に発表された。


1896年のある日の朝5時過ぎに、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンは、スコットランドヤードのレストレード警部(Inspector Lestrade)の不意な訪問を受け、ベッドから起こされる破目になった。レストレード警部は、二人に対して、早朝の急な訪問を詫びるとともに、事件の概要を説明するのであった。


彼によると、トラファルガースクエア(Trafalgar Square)の近くにあるセントマーティンズプレイス(St. Martin’s Place)に新しく建設されたナショナルポートレートギャラリー(National Portrait Gallery)において、午前2時過ぎに、警備員が館内を巡回していた際、政治家の肖像画が展示されている部屋で、英国首相を務めたソールズベリー卿(Lord Sailsbury)の肖像画をナイフで傷つけている男を発見し、警備員二人がかりで、その男を取り押さえた、とのこと。その男は、近くの壁に赤ペンキで「BOI」という謎の言葉を書いていた。


レストレード警部は、逮捕時に犯人の男が発した「次は、肖像画では済まないぞ!(Next time it wo’nt just a painting.)」という言葉に、共犯者の存在と次なる行動に危機感を抱いていた。話を聞いたホームズは、レストレード警部に対して、「直ぐに着替えて、1時間以内にスコットランドヤードに駆け付けるよ。」と告げるのであった。


ホームズとワトスンがスコットランドヤードに到着すると、レストレード警部は、部下の巡査に指示して、犯人を取調室に連れて来させた。容疑者は、背が高く、痩せた30代の男で、口ひげを生やしていたが、左目の下から顎の辺りまで、傷跡があった。3人は、容疑者に対して、逮捕時の真意を尋ねるが、彼は一言も発しようとしなかった。

そうこうするうちに、ホームズが、容疑者に対して、「チャールズ・オドネル伍長(Corporal Charles O’Donnell)」と呼びかけると、彼は驚いてホームズに摑みかかろうとするが、ホームズはすんでのところで身を躱し、彼の手首を折って、事無きを得る。


巡査に連れられて、容疑者が取調室を後にすると、レストレード警部は、ホームズに対して、「どうやって、容疑者の身元が判ったのか?」と尋ねる。レストレード警部の求めに応じて、ホームズが種明かしをする。

ホームズ曰く、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)を出る段階で、今回の事件の性格上、犯人はアイルランド人で、かつ、カトリック教徒だと考えていた、とのこと。また、彼が保管している事件の記録によると、9年前、チャールズ・オドネルは、プロテスタント教会の破壊と牧師の殺害への関与を疑われていて、当時、彼の似顔絵が新聞に載っていたと、ホームズは言う。ただ、チャールズ・オドネルは、アイルランドの官憲の手を逃れて、米国へと逃亡していたようである。ホームズは、この件をよく覚えていて、犯人がチャールズ・オドネルだと、直ぐに判ったのだと説明した。


ホームズによる説明の後、レストレード警部が、「チャールズ・オドネルのような小物に、時間をとられている暇はない。」とぼやくので、ホームズが「何か他に心配事があるのか?」と尋ねる。

レストレード警部によると、「アルビノ(Albino)」と呼ばれる外国人がロンドン内に潜伏しているらしい。この「アルビノ」は、欧州大陸中の犯罪に関係しており、「犯罪界のナポレオン(Napoleon of crime)」と呼ばれたジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)の再来と言われている、とのこと。「アルビノ」がロンドンにやって来たのは、「イングランドの財宝」と呼ばれるものを狙っているようだが、この「イングランドの財宝」が何なのかは、全く判らないのだと、レストレード警部は、ホームズに対して、心配事を開示するのであった。


2022年6月26日日曜日

ロンドン ミルマンストリート(Millman Street)

グレートオーモンドストリートから東側を見たところ -
奥に見える通りが、ミルマンストリート

英国の作家であるデイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ(David Stuart Davies:1946年ー)が2022年に発表した「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 墓場からの復讐」(The further adventures of Sherlock Holmes / Revenge from the Grave → 2022年5月4日 / 5月14日 / 5月24日付ブログで紹介済)」において、「犯罪界のナポレオン(Napoleon of crime)」と呼ばれたジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)の後継者と名乗る人物が、スイスのマイリンゲン(Meiringen)のライヘンバッハの滝(Reichenbach Falls)で彼を死に追いやったシャーロック・ホームズへの復讐劇を開始する。それに加えて、ジェイムズ・モリアーティー教授の後継者は、ホームズによって壊滅させられた組織を再興するべく、フランスから英国へと運ばれてくるある非常に高価なネックレスを奪う計画を遂行するのである。

そのネックレスは、バッキンガム宮殿(Buckingham Palace)へ運ばれるまで、オフィシャルには、City and Counties Bank(架空の銀行)の本店において保管されることになっていた。しかし、盗難のリスクを回避するべく、英国政府は、秘密裡に、そのネックレスを同行の本店からリッソングローヴ通り(Lisson Grove)の近くのブロードストリート(Broad Street)にある同行の支店へ移送する手筈を整えていた。

グレートオーモンドストリートの両側に建ち並ぶ住宅街(その1)

ジェイムズ・モリアーティー教授の後継者と名乗る人物は、ブロードストリートにある City and Counties Bank の支店へ侵入して、そのネックレスを奪う計画に、現在、刑務所に入れられている金庫破りのジェイコブ・ブルックス(Jacob Brooks)を使おうとしていた。その計画を事前に察知したシャーロック・ホームズは、兄のマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)やスコットランドヤードのレストレード警部(Inspector Lestrade)による協力の下、同じく金庫破りのナイジェル・ハリソン(Nigel Harrison)に変装の上、ジェイコブ・ブルックスが入っている刑務所に入り、彼と親しくなる。

ホームズが変装したナイジェル・ハリソンは、ジェイコブ・ブルックスと一緒に、刑務所を脱獄の上、テムズ河(River Thames)の南岸に潜伏し、ジェイコブ・ブルックスから、ジェイムズ・モリアーティー教授の後継者と名乗る人物やネックレスの強奪計画等の情報を得る。

そして、ナイジェル・ハリソンに変装したホームズは、ユーストンロード(Euston Road)の近くにあるミルマンストリート(Millman Street)沿いの隠れ家(=ロンドン市内に5つある隠れ家の一つ)を使い、変装を変えると、アイクロフトやレストレード警部達と連絡をとった。

グレートオーモンドストリートの両側に建ち並ぶ住宅街(その2)


ミルマンストリートは、ロンドンの中心部に所在するロンドン特別区の一つであるカムデン区(London Borough of Camden)のセントパンクラス地区(St. Pancras)内にある通りである。

グレートオーモンドストリートの両側に建ち並ぶ住宅街(その3)

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「赤い輪(The Red Circle)」において、ウォーレン夫人(Mrs. Warren)が営む下宿屋があるグレートオームストリート(Great Orme Street - 架空の住所)に該当すると思われるグレートオーモンドストリート(Great Ormond Street)を東へ向かって進むと、ミルマンストリートに突き当たる。

グレートオーモンドストリートの両側に建ち並ぶ住宅街(その4)

ミルマンストリートへと突き当たった場所を左(北側)へ進むと、ギルフォードストリート(Guilford Street)に、また、右(南側)へ進むと、ラグビーストリート(Rugby Street)に突き当たる。

ミルマンストリートの両側は、閑静な住宅街である。


2022年6月25日土曜日

ロンドン リッソングローヴ通り(Lisson Grove)

セントジョンズウッドロード(St. John's Wood Road - 画面手前を横に延びる通り)から見た
リッソングローヴ通り(画面奥へ延びる通り)


英国の作家であるデイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ(David Stuart Davies:1946年ー)が2022年に発表した「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 墓場からの復讐」(The further adventures of Sherlock Holmes / Revenge from the Grave → 2022年5月4日 / 5月14日 / 5月24日付ブログで紹介済)」において、「犯罪界のナポレオン(Napoleon of crime)」と呼ばれたジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)の後継者と名乗る人物が、スイスのマイリンゲン(Meiringen)のライヘンバッハの滝(Reichenbach Falls)で彼を死に追いやったシャーロック・ホームズへの復讐劇を開始する。それに加えて、ジェイムズ・モリアーティー教授の後継者は、ホームズによって壊滅させられた組織を再興するべく、フランスから英国へと運ばれてくるある非常に高価なネックレスを奪う計画を遂行するのである。



そのネックレスは、バッキンガム宮殿(Buckingham Palace)へ運ばれるまで、オフィシャルには、City and Counties Bank(架空の銀行)の本店において保管されることになっていた。しかし、盗難のリスクを回避するべく、英国政府は、秘密裡に、そのネックレスを同行の本店からリッソングローヴ通り(Lisson Grove)の近くのブロードストリート(Broad Street)にある同行の支店へ移送する手筈を整えていた。


Roman Catholic Church of Our Lady

リッソングローヴ通りからセントジョンズウッドロード方面を眺めたところ -
画面手前の右へ延びる通りは、ロッジロード(Lodge Road)

リッソングローヴ通りは、ロンドンの中心部に所在するロンドン特別区の一つであるシティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)の北西部にあるマリルボーン地区(Marylebone)内の通りである。

Westminster Adult Education Service

リッソングローヴ通りから
フランプトンストリート(Frampton Street - 画面奥へ延びる通り)を見たところ

リッソングローヴ通りは、地下鉄ベーカーストリート駅(Baker Street Tube Station)から、リージェンツパーク(Regent’s Park → 2016年11月19日付ブログで紹介済)の西側を取り巻くように、北へ向かって延びるパークロード(Park Road → 2019年8月18日付ブログで紹介済)と地下鉄エッジウェアロード駅(Edgware Road Tube Station)から北へ向かって延びるエッジウェアロード(Edgware Road → 2016年1月30日付ブログで紹介済)の2つの通りに挟まれるように、北へ向かって延びている。リッソングローヴ通りの東側は、パークロードに、西側は、エッジウェアロードに、そして、北側は、セントジョンズウッドロード(St. John’s Wood Road)に、南側は、マリルボーンロード(Marylebone Road)に囲まれている。

リッソングローヴ通り沿いに建つカウンシルフラット

リッソングローヴ通りからセントジョンズウッドロードへと戻るところ

リッソングローヴ通り近辺は、18世紀後半頃から、貧民街となり、飲酒、犯罪や売春等で悪名高かった場所であった。

リージェンツパークの北側を通り、カムデンタウン地区(Camden Town)まで延びるリージェンツ運河(Regent’s Canal)が1810年に出来上がり、そして、マリルボーン駅(Marylebone Station)が1899年に建設されたことに伴い、リッソングローヴ通り近辺も近代化の道を歩むことになった。

更に、第一次世界大戦(1914年-1918年)後と第二次世界大戦(1939年-1945年)後の再開発を経て、リッソングローヴ通り近辺は、現在に至っている。


チャーチストリートマーケットが終わった後

リッソングローヴ通りとエッジウェアロードを結ぶチャーチストリート(Church Street → 2015年7月4日付ブログで紹介済)沿いで開かれているチャーチストリートマーケット(Church Street Market)が有名である。

なお、英国政府がフランスから運ばれたネックレスを秘密裡に保管する手筈を整えていたブロードストリートにある City and Counties Bank の支店であるが、現在の住居表示上、リッソングローヴ通り近辺には、ブロードストリートは存在していない。

2022年6月24日金曜日

ジェイムズ・ラブグローヴ作「シャーロック・ホームズ / 悪夢の塊」(Sherlock Holmes / The Stuff of Nightmares by James Lovegrove) - その3

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から2013年に出版された
ジェイムズ・ラブグローヴ作「シャーロック・ホームズ / 悪夢の塊」の表紙
(Images : Dreamstime / Shutterstock / funnylittlefish)


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆(3.0)


ロンドン市内を襲う爆弾事件、コシュマー男爵(Baron Cauchemar)とドゥ・ヴィルグラン子爵(Vicomte de Villegrand)を取り巻く因縁と復讐劇、そして、ヴィクトリア女王(Queen Victoria → 2017年12月10日 / 12月17日付ブログで紹介済)が乗った列車を狙うドゥ・ヴィルグラン子爵とそれを防ごうとするシャーロック・ホームズとコシュマー男爵達の闘いと、内容的には、なかなかの派手さを有しているが、物語の終盤、話がかなり荒唐無稽になってしまい、推理小説という物語としての綺麗な着地点をやや失っている感じが強い。


(2)物語の展開について ☆☆☆(3.0)


ウォータールー駅(Waterloo Station → 2014年10月19日付ブログで紹介済)での爆弾事件から始まり、テムズ河(River Thames)の係留地でのホームズ / ジョン・H・ワトスンとコシュマー男爵との出会い、ハムステッド地区(Hampstead → 2018年8月26日付ブログで紹介済)でのホームズとドゥ・ヴィルグラン子爵の決闘等、物語の見せ場は多い。ただし、物語の終盤、ヴィクトリア女王の命を狙うドゥ・ヴィルグラン子爵とそれを防ごうとするホームズ、ワトスンやコシュマー男爵の闘いが、当時の状況からすると、あまりにも荒唐無稽であり、SFぽくなり過ぎていて、正直ベース、物語にあまり入り込めない。


(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆☆半(2.5)


ホームズ達が活躍する場面は、それなりにあるものの、この物語は、もう一人の主人公であるコシュマー男爵によるドゥ・ヴィルグラン子爵への復讐劇がメインであり、特に、物語の終盤は、話が荒唐無稽になり過ぎて、ホームズの活躍が制限されてしまっている。コシュマー男爵が活躍する場面が必要なのは理解するものの、個人的には、ホームズの知力を以って、ドゥ・ヴィルグラン子爵によるヴィクトリア女王殺害計画を未然に防ぐような流れにして欲しかった。


(4)総合評価 ☆☆半(2.5)


話としては、全体的に、それなりに楽しめるものの、繰り返しになるが、物語の終盤、コシュマー男爵とドゥ・ヴィルグラン子爵の闘いが、当時にしては、荒唐無稽になり過ぎてしまい、フィクションとしても、正直、筋に入り込み難い。物語のもう一人の主人公であるコシュマー男爵を重視する必要はあるものの、金属のマスクを被り、金属の装甲をその身に纏うという設定自体から、ホームズものにはやや馴染みにくく、そのため、ホームズものとして、最も重要な知的な対決がなくなってしまったのが、非常に残念である。



2022年6月19日日曜日

キャロル・ブッゲ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / インドの星」(The further adventures of Sherlock Holmes / The Star of India by Carole Bugge) - その1

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2011年に出版された
キャロル・ブッゲ作
「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / インドの星」の表紙


本作品「インドの星(The Star of India)」は、米国出身の推理作家であるキャロル・ブッゲ(Carole Bugge:1953年ー)によって、1997年に発表された。

彼女は、「キャロル・ブッゲ」名義に加えて、「キャロル・ローレンス(Carole Lawrence)」や「エリザベス・ブレーク(Elizabeth Blake)」等の名義でも、推理小説シリーズを発表している。


1894年10月のある土曜日の雨が降る午後、ジョン・H・ワトスンは、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)に住むシャーロック・ホームズの元を訪れる。なお、この時点で、ワトスンの2番目の妻は亡くなっていたが、彼はホームズとは離れて、暮らしていた。


「犯罪界のナポレオン(Napoleon of crime)」と呼ばれたジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)がスイスのマイリンゲン(Meiringen)にあるライヘンバッハの滝(Reichenbach Falls)に姿を消し、そして、彼の右腕であるセバスチャン・モラン大佐(Colonel Sebastian Moran)が逮捕された後、興味を持てる事件がなく、ホームズは非常に退屈していた。ホームズのことを心配したワトスンは、彼をロイヤルアルバートホール(Royal Albert Hall → 2016年2月20日付ブログで紹介済)で行われるコンサートへと連れ出す。


コンサートが始まり、ホームズはコンサートに集中していたが、一方のワトスンは、前の列に座った若い女性がつけている香水の「麝香」の香りが非常に気になった。香りが強過ぎて、喉がむせそうになった程である。そのため、ワトスンは、コンサートの前半の間、演奏に集中できなかった。

その若い女性は、中座の後、席に戻って来なかったので、ワトスンも、コンサートの後半、演奏を楽しむことができた。


ロイヤルアルバートホールから帰る馬車の中で、ホームズは、ワトスンに対して、「あの若い女性は、ある緊急のメッセージを伝えるために、コンサートに来ていたが、それができなかったので、席に戻って来なかったのだ。」と告げる。ホームズは、あることを調べるために、ベーカーストリート221Bへではなく、コヴェントガーデン(Covent Garden → 2016年1月9日付ブログで紹介済)へと、馬車を向かわせた。

馬車を降りると、ホームズは、ワトスンを連れて、いくつかの通りを抜けて、ある店の前に立ち、ドアをノックした。30歳とも、80歳とも知れない男性が、それに答えた。店の内は、外観とも似ても似つかない程、キチンと整えられた内装だった。彼は、香水の専門家であるジェレミア・ウィギンズ(Jeremiah Wiggins)であった。


ホームズの情報に基づいて、ジェレミア・ウィギンズは、ロイヤルアルバートホールに居た若い女性がつけていた香水を3つの候補まで絞り込む。

ホームズが順番に3つの候補の香りを嗅いだ結果、「最後(3番目)の香水が、それだ。」と告げる。ジェレミア・ウィギンズは、「その香水の名は、「Golden Nights」という非常に高価なもので、今までに誰にも売ったことがない。」と答えた。


翌朝、その香水をつけていた若い女性(ブラックヒース(Blackheath)に住むメリーウェザー嬢(Miss Merriweather))が、ホームズの元を訪れた。昨晩、ホームズは、ロイヤルアルバートホールに対して、手袋を拾ったことを届けており、彼女は、それを引き取りに来たのである。

ホームズは、メリーウェザー嬢に対して、香水のことを尋ねるが、彼女は、「ある男性からの贈りもので、その男性は既に亡くなっているため、彼がこの香水をどこで手に入れたのか、判らない。」と答えるだけだった。メリーウェザー嬢が帰った後、ホームズ曰く、「彼女は、何かを隠している。」と、ワトスンに告げる。


その時、コンウォール州(Cornwall)に居るハドスン夫人の姉から、電報が届く。ハドスン夫人は、姉を訪れるために、コンウォール州へ出かけていたのである。ハドスン夫人の姉から届いた電報には、驚くべきことが書かれていた。

「Martha (ハドスン夫人のこと)in extreme danger : Come at once.」と。


2022年6月18日土曜日

ジェイムズ・ラブグローヴ作「シャーロック・ホームズ / 悪夢の塊」(Sherlock Holmes / The Stuff of Nightmares by James Lovegrove) - その2

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2013年に出版された
ジェイムズ・ラブグローヴ作
「シャーロック・ホームズ / 悪夢の塊」の裏表紙
(Images : Dreamstime / Shutterstock / funnylittlefish)

スコットランドヤードのレストレード警部(Inspector Lestrade)から、英国に密入国した中国人女性達を斡旋していると思われる悪名高き売春宿を経営するアダムアベス(Madame Abbess)のことを聞き付けたシャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンは、マダムアベスに会うために、モーゲート(Moorgate)へと出かける。

ホームズは、マダムアベスに対して、常連客のリストを見せてほしいと依頼する。その条件は、


(1)外国人であること

(2)爵位を有する者であること

(3)フランス人であること


という内容だった。「常連客のリストを見せてもらえれば、中国人女性達の人身売買等を含む売春宿の経営に関しては、一切関知しない。」という取引を、ホームズはマダムアベスに持ちかけるのであった。

マダムアベスから渡された常連客のリスト内に自分の予想通りの名前を見つけたホームズは、売春宿を辞去する。外に出たホームズは、ワトスンに対して、「自分の予想通りに見つけた名前は、ドゥ・ヴィルグラン子爵(Vicomte de Villegrand)だ。」と告げる。ホームズは、彼が英国政府の転覆を狙っている張本人だと考えていた。更に、「コシュマー男爵(Baron Cauchemar)」の「コシュマー」とは、フランス語で「悪夢」を意味する、と教える。果たして、「コシュマー男爵」と「ドゥ・ヴィルグラン子爵」の二人は、どのように関連しているのだろうか?


ホームズとワトスンは、モーゲートからドゥ・ヴィルグラン子爵が住むハムステッド地区(Hampstead → 2018年8月26日付ブログで紹介済)へと、辻馬車を走らせる。ドゥ・ヴィルグラン子爵の屋敷は、ハムステッドヒース(Hampstead Heath → 2015年4月25日付ブログで紹介済)から目と鼻のところにあった。

運良く、ドゥ・ヴィルグラン子爵は在宅していた。彼は30代半ば位で、髪をカールし、生やした口髭をポマードで固めており、非常に尊大で気取った男であった。

ドゥ・ヴィルグラン子爵と面会したホームズは、時間を全く無駄にせず、いきなり単刀直入に、彼に対して、最近頻発している爆弾事件との関わりを問い質すのであった。この直球質問に激怒したドゥ・ヴィルグラン子爵は、ホームズの態度を無礼と見做して、彼に決闘を申し込む。ホームズは、これを受けて立った。

ドゥ・ヴィルグラン子爵は、フランス式のキックボクシング(Savate)を体得しており、ホームズに対して攻撃を仕掛けるが、対するホームズは、バリツ(Baritsu)で立ち向かう。


一方で、ロンドンを4つ目の爆弾が襲う。今回は、セントジェイムズパーク(st. James’s Park)のボート小屋に、爆弾が仕掛けられていて、これが爆発する。


ホームズが推測する通り、ドゥ・ヴィルグラン子爵が爆弾事件の黒幕なのか?そして、彼の目的は何か?

また、テムズ河(River Thames)の係留地において、ホームズとワトスンの二人を救ったコシュマー男爵とは、一体、何者なのか?そして、彼は何をしようとしているのだろうか?


2022年6月15日水曜日

大英博物館250周年記念切手(Royal Mail Stamps : The British Museum 1753 - 2003) - その2

Sculpture  of Parvati
(c. AD 1550 / South Indian)


英国のロイヤルメール(Royal Mail)から、大英博物館250周年を記念して、2003年10月7日に、6種類の記念切手が発行されているので、前回(2022年6月8日付ブログで紹介済)に引き続き、御紹介したい。


Mask of Xiuhtecuhtli
(c. AD 1500 / Mixtec-Aztec)

Hoa Hakananai'a
(c. AD 1000 / Easter Island)

2022年6月12日日曜日

イーデン・フィルポッツ作「赤毛のレドメイン家」(The Red Redmaynes by Eden Phillpotts) - その1

東京創元社から、創元推理文庫として出版されている
イーデン・フィルポッツ作「赤毛のレドメイン家」(新訳版)の表紙
       カバーイラスト: 松本 圭以子 氏
カバーデザイン: 中村 聡 氏
物語の冒頭、ダートムーアにおいて、
主人公であるマーク・ブレンドン(画面右手奥の人物)が、
絶世の美女であるジェニー・ペンディーン(画面左手前)と出会う場面が、
表紙には描かれている。

「赤毛のレドメイン家(The Red Redmaynes)」は、主にデヴォン州(Devon)を舞台にした田園小説、戯曲や詩作で既に名を成した英国の作家であるイーデン・ヘンリー・フィルポッツ(Eden Henry Phillpotts:1862年ー1960年 → 2022年2月6日 / 2月13日付ブログで紹介済)が、1921年に発表した最初の推理小説である「灰色の部屋(The Grey Room → 2022年3月13日 / 3月27日付ブログで紹介済)」に続き、1922年に発表した推理小説である。

イーデン・フィルポッツは、上記の2作品の他に、「闇からの声(A Voice from the Dark → 2022年5月23日 / 5月29日付ブログで紹介済)」を1925年に発表している。


イーデン・フィルポッツが発表した推理小説の数々は、残念ながら、英国において、ほとんど顧みられることはなく、本屋の棚を飾ることもないが、日本では、明智小五郎シリーズ等で有名な日本の推理作家である江戸川乱歩(1894年ー1965年)が「赤毛のレドメイン家」を絶賛したこともあって、特に、「赤毛のレドメイン家」と「闇からの声」の2作品は、推理小説ファンの間では、読むべき傑作として、非常に名高い。


江戸川乱歩は、「赤毛のレドメイン家」の読書体験を「万華鏡」に譬えて、探偵小説ベスト10の第1位に推している。以下に、江戸川乱歩のコメントを引用するので、彼の絶賛度合いを御確認いただきたい。


「この小説の読者は、前後三段にわかれた万華鏡が、三回転するかのごとき鮮やかに異なった印象を受けることに一驚を喫するであろう。第一段は前半までの印象であって、そこには不思議な犯罪のほかに美しい風景もあり、恋愛の葛藤さえある。第二段は後半から読了までの印象であって、ここに至って読者はハッと目のさめるような生気に接する。そして二段返し、三段返し、底には底のあるプロットの妙に、おそらくは息をつく暇もないにちがいない。一ヵ年以上の月日を費やしてイタリアのコモ湖畔におわる三重四重の奇怪なる殺人事件が犯人の脳髄に描かれる緻密なる「犯罪設計図」にもとづいて、一分一厘の狂いなく、着実冷静に執行されていった跡は驚嘆のほかはない。そして読後日がたつにつれて、またしてもがらりと変わった第三段の印象が形づくられてくるのだ。万華鏡は最後のけんらんたる色彩を展開するのだ。」(江戸川乱歩)


勇気、機転、勤勉さ、想像力や洞察力等に恵まれたスコットランドヤードの刑事であるマーク・ブレンドン(Mark Brendon - 35歳)は、これまでに数々の実績(第一次世界大戦中には、国際的な事案を解決)を積み上げ、既に警察の犯罪捜査部門で頭角を現し、警部補への昇進辞令を待つばかりだった。彼は、10年後には宮仕えを離れ、以前からの希望でもある私立探偵事務所の開設を視野に入れていた。


過酷な勤務に明け暮れて、いささか疲れが溜まっていたマーク・ブレンドンは、急速と健康のために、ダートムーア(Dartmoor)で休暇中で、趣味のトラウト釣りに興じたり、宿泊先であるプリンスタウンのダッチーホテルの常連客との旧交を温めたりして、休暇を過ごしていた。


6月半ばの日暮れ時、マーク・ブレンドンは、トラウト釣りのため、かつての採掘場内にある小川が流れ込む深い淵を目指して、ダートムーアを抜ける近道を進んでいた。

その時、西の燃えるような陽を背景にして、籠をテニした人影が、彼の方へ向かって歩いて来た。トラウトのことをぼんやりと考えていた彼が、近づいて来る軽やかな足音に顔をあげると、そこには、これまで目にしたことがないような絶世の美女が居たのである。

美女は、そのまま彼の脇を通り過ぎて行ったが、彼女のあまりの美しさに驚いた彼は、それまで考えていたことが、全て頭から吹き飛んでしまった。


一目見て、彼女のことが頭から離れなくなってしまったマーク・ブレンドンであったが、間もなく、ある殺人事件の関係で、彼女、即ち、ジェニー・ペンディーン(Jenny Pendean)に再会することになるのであった。


2022年6月11日土曜日

ジェイムズ・ラブグローヴ作「シャーロック・ホームズ / 悪夢の塊」(Sherlock Holmes / The Stuff of Nightmares by James Lovegrove) - その1

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2013年に出版された
ジェイムズ・ラブグローヴ作
「シャーロック・ホームズ / 悪夢の塊」の表紙
(Images : Dreamstime / Shutterstock / funnylittlefish)

本作品「悪夢の塊(The Stuff of Nightmares)」は、英国イーストサセックス州(East Sussex)ルイス(Lewes)出身の作家であるジェイムズ・マシュー・ヘンリー・ラブグローヴ(James Matthew Henry Lovegrove:1965年ー)によって、2013年に発表された。

1990年から作家活動を始めたジェイムズ・ラブグローヴは、元々、SF小説をメインにしていたが、2013年から、ホームズ作品についても、継続的に発表している。ジェイムズ・ラブグローヴは、「悪夢の塊」(2013年)の後、2014年に「戦いの神々(Gods of War → 2021年10月2日 / 10月8日 / 10月16日付ブログで紹介済)」を発表している。


1890年、ジョン・H・ワトスンの妻メアリーは、3度目の流産を経験して、ケント州(Kent)の田舎で静養していた。妻メアリーの静養先を訪れた後、ワトスンがロンドンのウォータールー駅(Waterloo Station → 2014年10月19日付ブログで紹介済)のコンコースに降り立ったその時(午後3時47分)、何者かが駅構内に仕掛けた爆弾が爆発して、辺りは阿鼻叫喚の渦と化した。

救急活動を手伝うワトスンであったが、爆弾の威力は凄まじく、残念ながら、大きな助けとはならなかった。この緊急事態を知らせるべく、ワトスンは辻馬車を停めて、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)へと向かうのであった。

ベーカーストリート221Bに着いたワトスンであったが、そこには、シャーロック・ホームズと彼にウォータールー駅での爆弾事件を知らせるマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)からの緊急電報が既に待っていた。シャーロックは、ワトスンを伴い、マイクロフトが居るパル・マル通り(Pall Mall → 2016年4月30日付ブログで紹介済)にあるディオゲネスクラブ(Diogenes Club)へと辻馬車を走らせた。


ディオゲネスでは、マイクロフトがシャーロック達の到着を待っていた。マイクロフトが早速話を始める。

マイクロフトによると、1つ目の爆弾は、シティー(City → 2018年8月4日 / 8月11日付ブログで紹介済)のチープサイド通り(Cheapside)のレストランで、2つ目の爆弾は、リージェンツパーク(Regent’s Park → 2016年11月19日付ブログで紹介済)の野外音楽ステージで爆発し、今回のウォータールー駅の爆発が3つ目になる、とのことだった。狙われた場所は、無作為のように見えるものの、爆弾による死者、回を経る毎に、大幅に増加していることから、周到に計画されている可能性が高い。英国議会だけではなく、ヴィクトリア女王(Queen Victoria → 2017年12月10日 / 12月17日付ブログで紹介済)も、この事態を非常に憂慮している、とのことだ。

マイクロフトは、シャーロックに対して、早急な捜査を厳命する。マイクロフトとシャーロックの二人は、ロンドンの暗黒街で暗躍していると噂されている「コシュマー男爵(Baron Cauchemar)」が、今回の爆弾事件の背後に居るのではないかと推測するのであった。


ベーカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)の情報に基づき、シャーロックとワトスンは、「コシュマー男爵」が出現すると言われているテムズ河(River Thames)の係留地に潜入する。そこでは、中国人女性等の人身売買が行われていた。運悪く、シャーロックとワトスンは、密輸業者達に見つかり、取り囲まれてしまう。


そこへ、深い霧の中から「コシュマー男爵」がその姿を現す。金属の仮面を被り、金属の装甲をその身に纏った「コシュマー男爵」に、シャーロックとワトスンは、命を救われるのであった。

噂のように、「コシュマー男爵」は悪人ではないのか?それとも、噂とは違って、謎の「コシュマー男爵」は、犯罪者達と戦う正義の側に立つ者なのか?

その疑問に答えを見い出せないうちに、「コシュマー男爵」はその姿を消してしまうのであった。


2022年6月8日水曜日

大英博物館250周年記念切手(Royal Mail Stamps : The British Museum 1753 - 2003) - その1

Coffin of Denytenamun
(c. 900 BC / Egyptian)


英国の作家であるデイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ(David Stuart Davies:1946年ー)が、Titan Publishing Group Ltd. から、「シャーロック・ホームズの更なる冒険(The further adventures of Sherlock Holmes)」シリーズの一つとして、2009年に発表した作品「死者の書(The Scroll of the Dead)」では、大英博物館(British Museum → 2014年5月26日付ブログで紹介済)から「死者の書(The Scroll of the Dead)」と呼ばれるパピルス(papyrus)が盗まれるという事件が発生する。


1896年春のある月曜日の朝、スコットランドヤードのアモス・ハードキャッスル警部(Inspector Amos Hardcastle)が、事件の相談のため、シャーロック・ホームズの元へやって来た。

ハードキャッスル警部によると、金曜日の夜、大英博物館に二人組の盗賊が侵入して、「死者の書(The Scroll of the Dead)」と呼ばれるパピルス(papyrus)が盗まれた、とのこと。それに加えて、「オールドサミー(Old Sammy)」と呼ばれている警備員(夜のシフト)であるダヴェントリー(Daventry)が、警備員室において、拳銃で頭を撃たれ、殺害されていた。

警備員のダヴェントリーが警備員室で殺されたことから、ホームズは、賭け事の借金を清算するために、ダヴェントリーが、パピルスを盗んだ二人組を手引きしたものと推理する。そして、二人組の一人は、昨年の5月に自分の元を訪れ、「私は、死後の世界(The life beyond living) / 不死(immortality)を研究している。自分は、死が最終だとは思っていない。(I don’t believe death is the end.)」という謎の言葉を残して去ったセバスチャン・メルモス(Sebastian Melmoth)で、盗んだパピルスに書かれた内容を解読して、「死後の世界 / 不死」を握る神官セタフ(high proest Setaph)の墳墓へと至ろうとしていると考えた。


大英博物館の建設構想は、ハンス・スローン卿(Sir Hans Sloane:1660年~1753年)の収集品まで遡る。医師で、博物学者でもあった彼は、1753年に亡くなる際の遺言で、彼が収集した約8万点に及ぶ美術品、植物標本、蔵書や写本等を英国王ジョージ2世に献上し、国への遺贈を希望した。その際、英国議会は、今で言うところの「宝くじ(Lottery)」を発行し、その収益金でスローン卿の収集品を買い上げて、保存・公開するための博物館の建設を目指した。カンタベリー大司教を長とする理事会は、17世紀後期の館であるモンタギューハウスを購入。モンタギュー侯爵と親しかったフランス国王ルイ14世の好意により、一流の彫刻家で、かつ建築家であったピエール・ピュジェが設計を、そして、フランスのベルサイユ宮殿を手がけた画家達が内装を担当したそうである。そうして、大英博物館は1759年1月15日に開館し、膨大なコレクションが一般公開された。


英国のロイヤルメール(Royal Mail)から、大英博物館250周年を記念して、2003年10月7日に、6種類の記念切手が発行されているので、2回に分けて御紹介したい。



Alexander The Great
(c. 200 BC / Greek)

Sutton Hoo Helmet
(c. AD 600 / Anglo-Saxon)

2022年6月5日日曜日

エリザベス2世在位70周年記念切手(Royal Mail Stamps to mark Her Majesty The Queen's Platinum Jubilee) - その2

On a Walkabout
(Worcester / April 1980)


英国のロイヤルメール(Royal Mail)から、英国のウィンザー朝第4代女王であるエリザベス2世(Elizabeth II:1926年ー 在位期間:1952年ー)の在位70周年を記念して、2022年2月に、8種類の記念切手が発行されているので、前回に引き続き、御紹介したい。


At the Order of the Garter Ceremony
(Windsor / June 1999)

After touring the Provincial Museum of Alberta
(Edmonton, Canada / May 2005)

During a Visit to the Headquarters of MI5
(London / February 2020)


2022年6月4日土曜日

デイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 死者の書」(The further adventures of Sherlock Holmes / The Scroll of the Dead by David Stuart Davies) - その2

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2009年に出版された
デイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ作
「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 死者の書」の裏表紙


1895年5月初旬、兄であるマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)からの依頼を受けて、シャーロック・ホームズは、霊媒師を名乗るユーリア・ホークショー(Uriah Hawkshaw)のイカサマを見破り、英国政府の重要機密に通じているロバート・ハイザ卿(Sir Robert Hythe)が騙されるのを防いだ。


それから1週間後の深夜、同じ降霊会に参加していたセバスチャン・メルモス(Sebastian Melmoth)が、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)のシャーロック・ホームズの元を訪れる。

彼は、ホームズに対して、「自分は、死後の世界(The life beyond living) / 不死(immortality)を研究している。自分は、死が最終だとは思っていない。(I don’t believe death is the end.)」という謎の言葉を残すと、ベーカーストリート221Bを後にするのであった。


そして、話は、1896年春へと移る。

ある月曜日の朝、スコットランドヤードのアモス・ハードキャッスル警部(Inspector Amos Hardcastle)が、事件の相談のため、ホームズの元へやって来た。

ハードキャッスル警部によると、金曜日の夜、大英博物館(British Museum → 2014年5月26日付ブログで紹介済)に二人組の盗賊が侵入して、「死者の書(The Scroll of the Dead)」と呼ばれるパピルス(papyrus)が盗まれた、とのこと。それに加えて、「オールドサミー(Old Sammy)」と呼ばれている警備員(夜のシフト)であるダヴェントリー(Daventry)が、警備員室において、拳銃で頭を撃たれ、殺害されていた。


ハードキャッスル警部の依頼を受けて、ホームズは、ジョン・H・ワトスンを伴い、大英博物館へと赴いた。

ホームズ達と面会したエジプト部門の学芸員であるチャールズ・パーゲッター卿(Sir Charles Pargetter)によると、


(1)盗まれたパピルスは、1871年に、考古学者であるジョージ・フェーヴァーショー卿(Sir George Favershaw)とアリステア・アンドリューズ卿(Sir Alistair Andrews)によって、エジプトで発掘された。

(2)盗まれたパピルスは、値段のつけようがない程、非常に重要なものである。


とのこと。

ホームズは、更に、警備員(昼のシフト)のジェンキンス(Jenkins)とも面会する。ジェンキンスによると、殺されたダヴェントリーは、賭け事の借金で、首がまわらなくなっていた、とのことだった。


警備員のダヴェントリーが警備員室で殺されたことから、ホームズは、賭け事の借金を清算するために、ダヴェントリーが、パピルスを盗んだ二人組を手引きしたものと推理する。そして、二人組の一人は、昨年の5月に自分のもとを訪れたセバスチャン・メルモスで、盗んだパピルスに書かれた内容を解読して、「死後の世界 / 不死」を握る神官セタフ(high proest Setaph)の墳墓へと至ろうとしていると考えた。


ホームズとワトスンがカーゾンストリート(Curzon Street → 2015年9月12日付ブログで紹介済)にあるセバスチャン・メルモスの家を訪ねるが、対応に出た彼の友人であるトビアス・フェルショー(Tobias Felshaw)は、「セバスチャン・メルモスは、一昨日、ノーフォーク州(Norfolk)にある自分の父親(フェルショー卿(Lord Felshaw))の地所において、狩猟中、銃の暴発により、亡くなった。」と告げるのであった。


セバスチャン・メルモスの事故死の話を聞いて、愕然とするホームズ達であったが、ベーカーストリート221Bへと戻ると、そこには、カトリーナ・アンドリューズ(Catrina Andrews)と名乗る若い女性が、ホームズの帰りを待っていた。彼女は、問題のパピルスを発掘した考古学者の一人であるアリステア・アンドリューズ卿の娘で、彼女によると、父親のアンドリューズ卿が、セントジョンズウッド地区(St. John’s Wood → 2014年8月17日付ブログで紹介済)にある自宅から、突然、姿を消して、行方不明になったと言う。

一方、問題のパピルスを発掘した考古学者のもう一人であるジョージ・フェーヴァーショー卿は、ケント州(Kent)にある自宅において、何者かに殺害されていたのである。


「死後の世界 / 不死」の秘密を探ろうとする何者かが暗躍しているのだ。ホームズが犯人だと推理したセバスチャン・メルモスが事故死しているとすると、一体、何者なのか?


ホームズとワトスンの二人は、セバスチャン・メルモスの事故死を調べるべく、ノーフォーク州へと向かうのであった。


2022年6月3日金曜日

ボニー・マクバード作「シャーロック・ホームズの冒険 / 不穏な蒸留酒」(A Sherlock Holmes Adventure / Unquiet Spirits by Bonnie MacBird) - その3

英国の HarperCollinsPublishers 社から
Collins Crime Club シリーズの1冊として
2018年に出版されたボニー・マクバード作
「シャーロック・ホームズの冒険 / 不穏な蒸留酒」(ペーパーバック版)の裏表紙の一部
Cover Design : HarperCollinsPublishers Ltd.
Cover Images (Figures) : Bonnie MacBird
Cover Images (Map) : Antiqua Print Gallery / Alamy Stock Photo
Cover Images (Textures) : Shutterstock.com


1889年12月、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)を訪れたイスラ・マクラーレン(Isla McLaren)と名乗る28歳位の女性が、彼女が居住するスコットランドのブレーデルン城(Braedern Castle - 彼女の義理の父であるサー・ロバート・マクラーレン(Sir Robert McLaren)が所有)において発生した事情(サー・ロバート・マクラーレンの亡くなった妻であるレディーマクラーレン(Lady McLaren)の幽霊出没+メイドのフィオナ・ペイズリー(Fiona Paisley)の失踪)の詳細を調べてほしいと、シャーロック・ホームズに依頼する。ところが、不思議なことに、彼女の訪問当初から、何が気に入らないのか、不機嫌な態度を貫いていたホームズは、彼女の依頼をアッサリと拒絶してしまう。彼としては、翌朝の兄マイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)との約束の方が、遥かに気にかかっているようだった。


その翌日の午前9時半、シャーロック・ホームズは、ジョン・H・ワトスンを伴って、約束通り、パル・マル通り(Pall Mall → 2016年4月30日付ブログで紹介済)にあるディオゲネスクラブ(Diogenes Club)へと赴き、兄マイクロフトに会った。


マイクロフトによると、南フランスのブドウ園に寄生虫がばら撒かれたため、フランスにおけるワインの生産が75%落ち込んでおり、関係者の間では、密かに、「ネアブラムシ醜聞(Phylloxera Scandal)」と呼ばれている、とのこと。また、南フランスのブドウ園に、寄生虫をばら撒いた容疑者として、フランス農業省の政務次官(Le Sous Secretaire d’Etat a L’Agriculture)であるフィリッペ・レノー(Philippe Reynaud)は、スコットランドのウイスキー蒸留元3箇所を挙げられており、その中には、イスラ・マクラーレンの義理の父であるサー・ロバート・マクラーレンが経営するウイスキー蒸留所も含まれていたのである。

マイクロフトとしては、南フランスのブドウ園に、寄生虫がばら撒き、フランスにおけるワインの生産を落ち込ませることにより、スコットランドのウイスキー蒸留元が、ウイスキーの販売網を拡大させようと暗躍している、と推測していた。このことが公になれば、英国政府としては、フランスとの関係が一気に緊張に陥るため、一大事であった。


よって、マイクロフトは、シャーロックに対して、以下の3点につき、依頼した。


(1)フランス側のポール=エドゥアール・ジャンヴィエ博士(Dr. Paul-Edouard Janvier)と面会の上、南フランスのブドウ園にばら撒かれた寄生虫に関する調査の進展状況を確認して、マイクロフトに連絡すること


(2)博士自身に危害を加えようとする者、あるいは、博士の調査を妨害しようとする者が居るかどうかを調査の上、発見した場合、その計画を阻止すること(実際に、博士自身に危害を加えようとする者、あるいは、博士の調査を妨害しようとする者が居る場合、かつ、その人物が英国人である場合、直ちにその人物を拘束の上、マイクロフトに連絡すること → そこからの対応は、マイクロフトと英国の外務省が、これを引き継ぐ)


(3)本件には、フランス人探偵のジャン・ヴィドック(Jean Vidocq)が関与しているが、極力、早急に彼を排除すること


なお、ジャン・ヴィドックは、ボニー・マクバード(Bonnie MacBird)の第1作目である「シャーロック・ホームズの冒険 / 芸術家の血」(A Sherlock Holmes Adventure / Art in the Blood → 2022年4月17日 / 4月23日 / 4月30日付ブログで紹介済)に登場済。


その2日後、シャーロック・ホームズとワトスンの二人は、ウォータールー駅(Waterloo Station → 2014年10月19日付ブログで紹介済)から、ドーヴァー(Dover)経由、南フランスへと向かった。

一方、マクラーレン一家は、その時期、寒いスコットランドを避けて、ニース(Nice)近辺のホテル「Grand Hotel du Cap」に滞在していた。


ホームズの指示を受けて、ニースの街中で、偶然を装い、イスラ・マクラーレンと再会したワトスンは、ホームズと一緒に、ホテルでの夕食会へと招待される。

ホームズとワトスンが招待されたマクラーレン一家との夕食会が進み、最後に、デザートのプレートが、テーブルの中央へと運ばれてきた。プレートのカバーが開けられると、そこには、デザートではなく、先日、スコットランドのブレーデルン城から姿を消したメイドのフィオナ・ペイズリーの冷凍された首が供されていたのである。


そして、事件の舞台は、南フランスからマクラーレン一家が住むスコットランドのブレーデルン城へと移り、そこで、ホームズは、彼の過去の悪夢と対峙することになる。


2022年6月2日木曜日

エリザベス2世在位70周年記念切手(Royal Mail Stamps to mark Her Majesty The Queen's Platinum Jubilee) - その1

With HRH The Duke of Edinburgh during a tour of the United States
(Washington / October 1957)


英国のロイヤルメール(Royal Mail)から、英国のウィンザー朝第4代女王であるエリザベス2世(Elizabeth II:1926年ー 在位期間:1952年ー)の在位70周年を記念して、2022年2月に、8種類の記念切手が発行されているので、2回に分けて御紹介したい。

なお、エリザベス2世の全名は、エリザベス・アレクサンドラ・メアリー・オブ・ウィンザー(Elizabeth Alexandra Mary of Windsor)である。

ちなみに、エリザベス2世は、以下の在位記念日を既に経ている。

・1977年:25周年(Silver Jubilee)

・1992年:40周年(Ruby Jubilee)

・2002年:50周年(Golden Jubilee)

・2012年:60周年(Diamond Jubilee)

・2017年:65周年(Sapphire Jubilee)

・2022年:70周年(Platinum Jubilee)


During a tour of the West Indies
(Victoria Park, St. Vincent / February 1966)

During Silver Jubilee celebration
(Camberwell / June 1977)

DuringTrooping the Colour
(London / June 1978)