2023年3月31日金曜日

アガサ・クリスティー作「死者のあやまち」<英国 TV ドラマ版>(Dead Man’s Folly by Agatha Christie )- その3

エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 9 のうち、
第68話「死者のあやまち」が収録された DVD 本体


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「死者のあやまち(Dead Man’s Folly)」(1956年)をベースにして、英国の TV 会社 ITV 社が制作した「Agatha Christie’s Poirot」の第68話(第13シリーズ)の結末は、原作とは大きく異なる。


<原作>

エルキュール・ポワロは、地元警察のブランド警部(Inspector Bland)に対して、事件の真相を、次のように明らかにする。


*犯人探しゲームの被害者役を務めるマーリン・タッカー(Marlene Tucker)とジョン・マーデル(John Merdell - 村の老人で、マーリン・タッカーの祖父)の2人を殺害したのは、資産家で、ナス屋敷(Nasse House)の現所有者であるサー・ジョージ・スタッブス(Sir George Stubbs)と彼の妻のレディー・ハティー・スタッブス(Lady Hattie Stubbs)。

*サー・ジョージ・スタッブスは、ナス屋敷の前の持ち主であるエミー・フォリアット(Amy Folliat)の次男ジェイムズ・フォリアット(James Folliat)で、イタリアで戦死した訳ではなく、脱走して、生き延びていた。

*厳密に言うと、レディー・ハティー・スタッブスは、本人ではなく、偽者が化けていた。

ジェイムズ・フォリアットは、陸軍から脱走した後、イタリア人の女性と既に結婚していた。その事実を知らない母親のフォリアット夫人は、息子のジェイムズを裕福なハティーと結婚させ、更生させようとしたが、ジェイムズは、ハティーと結婚した後、ハティーを殺害し、既に結婚していたイタリア人の妻が、ハティーと入れ替わった。その時点で、フォリアット夫人は、上記の事実を知ったが、今まで黙っていた。

*ジェイムズ・フォリアットは、サー・ジョージ・スタッブスと名前を変え、母親のフォリアット夫人からナス屋敷を購入すると、現地へとやって来たのである。

*しかし、ジョン・マーデルに、自分の正体を見破られ、また、祖父のジョン・マーデルから話を聞いたマーリン・タッカーから強請られたため、2人を殺害せざるを得ない破目となった。

*偽者のハティー・スタッブスは、イタリア人の女性旅行者に変装して、現地へと潜入、ナス屋敷で催される慈善パーティーにも出没。一方で、ハティー・スタッブスの格好で、ボート小屋に居るマーリン・タッカーに近付き、彼女を殺害した後、ハティー・スタッブスの服装を脱ぎ、イタリア人の女性旅行者へと戻ると、現地から立ち去った。


アガサ・クリスティーの原作では、マーリン・タッカーとジョン・マーデルの2人を殺害したサー・ジョージ・スタッブスとレディー・ハティー・スタッブスは逮捕されたのか、また、彼らの正体を知っていたフォリアット夫人も罪を負ったのかについては、言及されていない。

原作は、本物のハティー・スタッブスの死体が埋められている阿房宮(folly)の地面を、警察が掘り進める場面で、物語が終わっている。


第68話「死者のあやまち」が収録された
エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 9 の内側(その2)-
アガサ・クリスティー作「死者のあやまち」をベースにした
コンピューターゲームの広告となっている。

<英国 TV ドラマ版>

事件の真相は、基本的には、アガサ・クリスティーの原作と同じである。


*物語の舞台が、原作における「第2次世界大戦後」から、英国 TV 版では、他の作品と同様に、「1930年代後半」に設定されている関係上、フォリアット夫人の次男であるジェイムズ・フォリアットが行方不明になったのが、原作における「イタリアでの戦死」から「飛行機を操縦して、アフリカのナイロビ(Nairobi)へと向かう途中、墜落」と言うように変更されている。

*英国 TV 版では、マーリン・タッカーが殺されたボート小屋において、ポワロは、フォリアット夫人に対して、事件の真相を説明する。その後、ポワロは、フォリアット夫人に、事件の終息を委ねるのである。

ポワロから事件の真相説明を聞いたフォリアット夫人は、「息子のジェイムズ(サー・ジョージ・スタッブス)には、もう逃げ場は何処にも無い」ことを悟り、猟銃を持つと、一人ナス屋敷へと向かい、ポワロは、彼女を見送る。

フォリアット夫人がナス屋敷内へ入った後、銃声が2回聞こえる。画面上、ナス屋敷の外観しか撮影されていないが、おそらく、フォリアット夫人は、息子のジェイムズ(サー・ジョージ・スタッブス)を猟銃で撃った後、自分も撃って、自殺したのではないかと思われる。ナス屋敷内から2回の銃声を聞いたポワロは、「Bon.」と一言告げる中、地元警察がナス屋敷へと駆けつける場面で、物語が終了する。ポワロにとって、彼なりの「正義」が為されたと言うことなのだろう。

2014年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
「エルキュール・ポワロとグリーンショア屋敷の阿房宮」のハードカバー版内の
グリーンウェイの挿絵
(By Mr. Tom Adams)


第68話「死者のあやまち」の2話後には、最終話である第70話「カーテン:ポワロ最後の事件(Curtain : Poirot’s Last Case)」が控えている関係上、前シリーズである第12シリーズの第64話「オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express)」辺りから、「罪と罰」、「正義」、「神への信仰」、そして、「贖罪」と言った非常に重いテーマが打ち出されている。

これらのテーマは、第66話「象は忘れない(Elephants Can Remember)」と第68話「死者のあやまち」を経て、第70話「カーテン:ポワロ最後の事件」で結実していると言える。


第68話「死者のあやまち」は、シリーズ13の5エピソードのうち、3番目に放送された作品ではあるが、実際には、本作品の撮影は、一番最後に行われている。

また、撮影は、作者であるアガサ・クリスティーが毎年夏の休暇を過ごしたデヴォン州(Devon)のグリーンウェイ(Greenway)で行われた。


2023年3月30日木曜日

ヴォーン・エントウィッスル作「スラックストンホールの亡霊」(The Revenant of Thraxton Hall by Vaughn Entwistle) - その1

英国の Titan Publishing Group Ltd. から2014年に出ている
ヴォーン・エントウィッスル作「スラックストンホールの亡霊」の表紙
(Images : Dreamstime / Funny Little Fish)


本作品「スラックストンホールの亡霊 / サー・アーサー・コナン・ドイルの超常現象事件簿(The Revenant of Thraxton Hall / The Paranormal Casebook of Sir Arthur Conan Doyle)」は、英国の作家であるヴォーン・エントウィッスル(Vaughn Entwistle)により執筆され、Titan Publishing Group Ltd. から Titan Books シリーズの1冊として、2014年に出版された。


Sherlock Holmes is dead … and I have killed him.

アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)は、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1893年12月号に「最後の事件(The Final Problem → 2022年5月1日 / 5月8日 / 5月11日付ブログで紹介済)」を発表して、シャーロック・ホームズを、「犯罪界のナポレオン(Napoleon of crime)」こと、ジェイムズ・モリアーティー教授(Professor Jame Moriarty)と一緒に、スイスのマイリンゲン(Meiringen)にあるライヘンバッハの滝(Reichenbach Falls)の底へと葬っていた。


1893年は、アーサー・コナン・ドイルにとって、最悪の年で、彼の父で、スコットランド労務局測量士補だったチャールズ・アルタモント・ドイル(Charles Altamont Doyle)が、長年にわたる鬱病とアルコール中毒を経て、精神病院において死去していた。また、彼の妻のルイーズ(Louise)が結核に感染していることが判明したのである。


1894年3月のある火曜日の午前10時、ロンドン郊外のサウスノーウッド(South Norwood)に住むアーサー・コナン・ドイルは、匿名の女性の手紙に呼び出されて、氷のように冷たい雨の中、ロンドンの高級住宅街メイフェア地区(Mayfair)内にある「xxxxx クレッセント42番地(42 xxxxx Crescent)」の建物(6階建)を訪れた。彼が受け取った手紙には、不死鳥(phoenix)の透し模様(watermark)が入った高級なものだった。


アーサー・コナン・ドイルが暗闇の部屋へと通されると、女性の声が聞こえてきた。

姿が見えない女性によると、


・自分は降霊術者(spiritualist medium)であること

・自分は、2週間後に開催される降霊術会(seance)において、銃で胸を2回撃たれて、殺される運命にあること

・残念ながら、自分を殺害する人物の顔については、判らないこと

・「ストランドマガジン」誌上で、アーサー・コナン・ドイルの写真を見て、彼こそが、自分の殺害を止めてくれる人物だと判ったこと(I believe you are the only one who can prevent my death.)

・アーサー・コナン・ドイルに、自分の殺害をなんとか止めてほしい。


とのことだった。


メイフェア地区を出たアーサー・コナン・ドイルは、ストランド地区(Strand)へと向かった。ストランド通り(Strand)で馬車を降りた彼は、「ストランドマガジン」の建物を訪れた。

ホームズの死に対する正式な喪のしるしとして、黒い腕章を付けたロンドン市民が、「ストランドマガジン」に対して、抗議のデモを行っており、アーサー・コナン・ドイルの姿に気付いた人々は、彼を捕まえたり、キャベツやトマト等を投げつけたりした。

なんとか、「ストランドマガジン」の建物内に入ったアーサー・コナン・ドイルが、編集者と一緒に、オフィス内で打ち合わせをしていると、窓ガラスを破って、石が投げ込まれた。投げ込まれた石には、赤インクで「殺人者(Murderer)」と書かれた紙がつけられていたのである。


2023年3月29日水曜日

ジョン・ディクスン・カー作「嘲る者の座」(The Seat of the Scornful by John Dickson Carr)- その3

日本の東京創元社から
創元推理文庫として1981年に出版されている
ジョン・ディクスン・カー作「猫と鼠の殺人」の表紙
(カバー:村山潤一氏)-

米国で出版された際のタイトルは、
「死は形勢を逆転する(Death Turns the Table)」で、
英国で出版された際のタイトルは、
「嘲る者の座(The Seat of the Scornful)」。

問題の1936年4月28日(土)の午前中、ホレース・アイアトン判事(Judge Horace Ireton)は、ロンドンへと出かけ、5年前にアントニー・モレル(Anthony Morell)への殺人未遂罪で告発された裕福な有力者の娘シンシア・リー(Cynthia Lee)の弁護を担当したサー・チャールズ・ホウリー(Sir Charles Hawley)と早い昼食をとると、午後2時15分ロンドン発の列車で、デヴォン州(Devon)のトーニッシュ(Tawnish)にある海岸沿いのバンガロー「デューン荘(The Dune)」へと戻って来た。

なお、デューン荘は一軒家で、半マイル以内には、他に人家はなく、出歩く人も全く見かけない、非常に静かな場所に所在していた。


一方、アントニー・モレルは、午後4時5分ロンドン発の汽車に乗り、トーニッシュに午後8時に着くと、マーケットスクエア(Market Square)において、デューン荘へと向かう海岸道路への道順を尋ねた。

アントニー・モレルは、駅からデューン荘まで、海岸沿いの道路を歩いて行くつもり(徒歩で30分程の道のり)だったが、列車の到着が遅れたため、会見の時刻である午後8時は、既に過ぎていたのである。


ホレース・アイアトン判事の一人娘で、アントニー・モレルの婚約者であるコンスタンス・アイアトン(Constance Ireton)は、デューン荘での二人の会見のことが非常に気になり、密かにデューン荘の近くまで来ていた。

丁度その時、アントニー・モレルが、道の向かうから姿を現して、デューン荘の中へと入って行くのが、コンスタンス・アイアトンには見えた。時刻は、午後8時25分だった。


電話交換手のフローレンス・スワン(Florence Swan)が、俗悪な実話雑誌を読んでいると、電話交換台のブザーが鳴り、赤いランプが点灯した。応答したフローレンス・スワンが、壁の時計をみると、時刻は午後8時半を刺していた。

相手は男性で、ひどく狼狽した声で、囁くように告げた。

「デューン荘。アイアトンのバンガローだ。助けてくれ!(The Dunes. Ireton’s cottage. Help!)」

その直後、銃声が聞こえると、呻き声、格闘の物音、そして、ガチャンと言う音が続いた後、ひっそりとなった。


驚いた電話交換手のフローレンス・スワンは、トーニッシュ警察署(Tawnish police station)で夜勤をしている恋人のアルバート・ウィームズ巡査(Constable Albert Weems)へと連絡した。

アルバート・ウィームズ巡査は、上司の巡査部長へ報告すると、自転車に飛び乗ると、警察署からデューン荘へと向かった。

海岸沿いの道路を急ぐアルバート・ウィームズ巡査は、前方にデューン荘の灯りを認めたところで、通行車線の反対側に、ライトを点けた自動車が停まっていることに気付いた。その自動車の運転手は、彼もよく知っている、そして、尊敬の念を抱いている王室弁護士のフレデリック・バーロウ(Frederick Barlow)だった。

事情を話すアルバート・ウィームズ巡査に対して、フレデリック・バーロウは、同行を申し出る。


デューン荘へと駆けつけたアルバート・ウィームズ巡査とフレデリック・バーロウは、デューン荘の門のすぐ内側の暗闇の中に居たコンスタンス・アイアトンと一緒に、デューン荘の中に入った。

居間のデスクの前の床に、男性がうつ伏せに倒れていた。その男性はアントニー・モレルで、後頭部の右耳の後ろを撃たれて、その穴から血が少し流れているのが見えた。回転椅子はひっくり返っていて、電話機はデスクから払い落とされ、アントニー・モレルの傍に転がっていた。


3人が戦慄したのは、アントニー・モレルの死体ではなかった。アントニー・モレルの死体から3m程離れた安楽椅子に腰を下ろしているホレース・アイアトン判事と、彼が手にしていた回転拳銃だったのである。


ホレース・アイアトン判事は、英国の高等法院(高等裁判所)の判事で、猫が鼠をいたぶるように、冷酷無比に被告人を裁くことで、世間によく知られた法の番人である。法の番人であるホレース・アイアトン判事が、彼のバンガローにおいて発生した奇々怪界な殺人事件の唯一の容疑者になるという逆説的な設定で、事件の幕が上がった。

常識的には、法の番人たるホレース・アイアトン判事が、このように明白な状況下で、殺人を行うとは、到底考えられなかった。ホレース・アイアトン判事は、自身の身の潔白を主張するものの、情況証拠は、彼にとって、どんどん不利になるばかりであった。

果たして、ホレース・アイアトン判事が、自分のバンガローのデューン荘において、アントニー・モレルを殺害したのであろうか?それとも、ホレース・アイアトン判事以外の第三者なのか?


トーニッシュのエスプラネードホテル(Esplanade Hotel)に滞在していた、ホレース・アイアトン判事の知人でもあるギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)は、トーニッシュ警察署のグレアム警部(Inspector Graham)からの依頼を受けて、事件の解明にあたり、意外な真犯人を明らかにする。


2023年3月28日火曜日

<第1100回> アガサ・クリスティー作「死者のあやまち」<英国 TV ドラマ版>(Dead Man’s Folly by Agatha Christie )- その2

第68話「死者のあやまち」が収録された
エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 9 の裏表紙

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「死者のあやまち(Dead Man’s Folly)」(1956年)をベースにして、英国の TV 会社 ITV 社が制作した「Agatha Christie’s Poirot」の第68話(第13シリーズ)の冒頭は、以下のように進んでいく。


(1)

<英国 TV ドラマ版>

雷鳴が轟く大雨の中、ビックフォード(Bickford)が運転する車に乗った資産家のサー・ジョージ・スタッブス(Sir George Stubbs)と彼の妻のレディー・ハティー・スタッブス(Lady Hattie Stubbs)が、彼らが購入したナス屋敷(Nasse House)へと到着し、執事のヘンデン(Henden)達に出迎えられる。

<原作>

アガサ・クリスティーの原作では、この場面から始まる訳ではない。


(2)

<英国 TV ドラマ版>

その1年後、名探偵エルキュール・ポワロは、女流探偵作家で、彼とは旧知の仲であるアリアドニ・オリヴァー(Ariadne Oliver)からの連絡を受け、ロンドンからデヴォン州(Devon)のナス屋敷まで呼び出される。

ポワロを乗せて、駅からナス屋敷へと向かう途中、運転手は、外国人旅行者の女性2人(オランダ人とイタリア人)を乗せた。女性旅行者2人は、車の前部シートに座ったが、オランダ人の女性旅行者のお喋りに、後部シートに座るポワロは、愛想笑いを浮かべるものの、内心、非常に閉口していた。オランダ人の女性旅行者によると、彼女達は、今朝、エクセター(Exeter)駅のプラットフォームで出会って、それから、一緒に行動している、とのことだった。運転手は、ナス屋敷の手前で、彼女達を車から降ろすと、ポワロをナス屋敷まで送り届けたのであった。

<原作>

アガサ・クリスティーの原作では、ポワロは、女性旅行者2人のことを嫌がらず、迎えの車を使って、紳士的に、近くのユースホステルまで送ってあげている。


(3)

<英国 TV ドラマ版>

ナス屋敷に到着したポワロを、オリヴァー夫人は、外へと連れ出すと、次のように説明する。

明日、ナス屋敷で催される慈善パーティーのために、(殺人)犯人探しゲーム(Murder Hunt)の段取りをしているところだが、このゲーム自体に何かおかしな点があるものの、それが何なのか、よく判らないと、オリヴァー夫人は、そんな不安を口にする。彼女としては、それをポワロに明らかにしてほしいと頼む。

基本的には、アガサ・クリスティーの原作通りであるが、犯人探しゲームについては、ウォーバートン夫妻(ジム・ウォーバートン(Jim Warburton - 国会議員)とウォーバートン夫人(Mrs. Warburton))による発案であるとの言及が為されている。

前回に述べたが、ジム・ウォーバートンは、英国 TV 版の場合、国会議員となっているが、アガサ・クリスティーの原作の場合、国会議員を務めるウィルフレッド・マスタートン(Wilfred Masterton)の代理人で、大尉(Captain)である。また、ウォーバートン夫人は、英国 TV 版の場合、国会議員ジム・ウォーバートンの妻となっているが、アガサ・クリスティーの原作の場合、国会議員のウィルフレッド・マスタートンの妻で、名前はコニー・マスタートン(Connie Masterton)である。

<原作>

アガサ・クリスティーの原作では、犯人探しゲームに関しては、コニー・マスタートンによる発案だとされている。


第68話「死者のあやまち」が収録された
エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 9 の内側(その1)-
エルキュール・ポワロシリーズのパーパーバック版の広告となっている。

(4)

<英国 TV ドラマ版>

ポワロは、ナス屋敷の前の持ち主であるエミー・フォリアット(Amy Folliat)に会う。

フォリアット夫人によると、彼女の夫は、ベルギー北部のフランドル地方(Flanders)において亡くなった、とのこと。また、彼女の長男は、陸軍に入隊したが、パシュトゥーン人(Pashtuns - アフガニスタンとパキスタンに居住するイラン系民族)との紛争で亡くなり、彼女の次男は、飛行機を操縦して、アフリカのナイロビ(Nairobi)へと向かう途中、墜落して、行方不明になった、と言う説明を受けた。

<原作>

アガサ・クリスティーの原作によると、フォリアット夫人の夫は、第二次世界大戦前に、亡くなり、また、彼女の長男は、海軍で出征した後、乗っていた艦が沈められ、彼女の次男は陸軍に入隊したが、イタリアで戦死したようである、とのこと。


(5)

夕食を終えたポワロは、散歩を兼ねて、船着場まで降りていき、そこでジョン・マーデル(John Merdell - 村の老人で、犯人探しゲームの被害者役を務めるマーリン・タッカー(Marlene Tucker)の祖父)に出会う。

ポワロからフォリアット夫人の話題をふられたマーデル老人は、「Master Henry(フォリアット夫人の長男), he died for his country, fair dos. Master James(フォリアット夫人の次男), he was wild !」と言う発言をする。ポワロが、マーデル老人に対して、「It is said, is it not, that the time for the Folliat family, it is finished ?」と尋ねると、マーデル老人は、「Always be Folliats at Nasse.」と言う謎めいたコメントを告げるのであった。


2023年3月27日月曜日

パイプを咥えたシャーロック・ホームズ - その11

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)が執筆したシャーロック・ホームズシリーズにおいて、パイプを咥えたシャーロック・ホームズの挿絵について、引き続き、紹介したい。


今回も、ホームズシリーズの第5短編集である「シャーロック・ホームズの事件簿(The Case-Book of Sherlock Holmes)」に収録されている挿絵に関して、紹介する。


ホームズシリーズの第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1892年)、第2短編集「シャーロック・ホームズの回想(The Memoirs of Sherlock Holmes)」(1893年)、第3長編「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」1901年8月ー1902年4月)、そして、第3短編集「シャーロック・ホームズの帰還(The Return of Sherlock Holmes)」(1905年)まで挿絵を担当していた挿絵画家であるシドニー・エドワード・パジェット(Sidney Edward Paget:1860年ー1908年)は、1908年1月28日に亡くなったため、第5短編集「シャーロック・ホームズの事件簿」の挿絵は、他のイラストレーターによる挿絵となっている。


当時、柄がまっすぐとなったパイプが一般的に使用されていたことを示すために、ホームズに加えて、他の登場人物の挿絵も掲載する。


(30)「這う男(The Creeping Man)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1923年3月号に掲載された挿絵 -
ケンフォード大学(Camford University)の生理学者(physiologist)である
プレスベリー教授(Professor Presbury)のことを案じる
彼の助手であるトレヴァー・ベネット(Trevor Bennett)が、
シャーロック・ホームズの元を相談に訪れる。
画面左手前の人物がホームズで、
画面右手前の人物がジョン・H・ワトスン。
そして、画面奥の人物が、トレヴァー・ベネット。
椅子の上で寛ぐホームズは、
右手を椅子の肘掛け部分に置き、
左手に持ったパイプを口に咥えたまま、
部屋の中に入って来たトレヴァー・ベネットを見上げている。


「這う男」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、47番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1923年3月号に、また、米国では、「ハースツ インターナショナル(Heart’s International)」の1923年3月号に掲載された。

同作品は、1927年に発行されたホームズシリーズの第5短編集である「シャーロック・ホームズの事件簿」に収録されている。


(31)「覆面の下宿人(The Veiled Lodger)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1927年2月号に掲載された挿絵 -
1896年の終わり頃、
サウスブリクストン(South Brixton)に住むメリロー夫人(Mrs. Merrilow)が、
シャーロック・ホームズの元を訪れ、
下宿人のロンダー夫人(Mrs. Ronder)に会ってほしいと依頼する。
メリロー夫人が帰ると、彼女経由、ロンダー夫人から伝言された
「アッバス・パルヴァの悲劇(Abbas Parva tragedy)」のことを調べるため、
ホームズは、部屋の隅にある備忘録の山へ突進した。

ホームズは、パイプを口に咥えたまま、
備忘録のページをめくることに集中している。


覆面の下宿人」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、55番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン」の1927年2月号に、また、米国では、「リバティー(Liberty)」の1927年1月22日号に掲載された。

同作品は、ホームズシリーズの第5短編集である「シャーロック・ホームズの事件簿」(1927年)に収録されている。


(32)「隠居絵具屋(The Retired Colourman)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1927年1月号に掲載された挿絵 -
ジョサイア・アンバリー(Josiah Amberley)が、シャーロック・ホームズの元を相談に訪れる。
彼は画材製造業ブリックホール&アンバリー(Brickhall & Amberley)の経営者の一人であったが、
1896年に61歳になった時に引退し、ルイシャム(Lewisham)に家を購入した。
そして、翌年の1897年初め、自分より20歳も年下の女性と結婚して、落ち着いた生活を送る筈だった。
ところが、近所に住む彼のチェス仲間である若い医師レイ・アーネスト(Dr Ray Ernest)が、
自分の妻と親密になり、先週、二人は自分の財産を持って逃げ出した、と言うのだ。
ジョサイア・アンバリーは、「二人の行方を見つけ出してほしい。」と、
ホームズのところへ依頼に来たのであった。
別の事件に謀殺されていたホームズは、代わりにジョン・H・ワトスンに事件の調査を頼む。
現地調査から戻って来たワトスンは、ホームズに結果を報告した。
画面左手の人物がワトスンで、画面右手の人物がホームズ。
寝椅子に凭れたホームズは、
右手にパイプを持ち、左手を寝椅子の肘掛け部分に置き、
ワトスンからの報告を聞いている。

隠居絵具屋」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、54番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン」の1927年1月号に、また、米国では、「リバティー」の1926年12月18日号に掲載された。

同作品は、ホームズシリーズの第5短編集である「シャーロック・ホームズの事件簿」(1927年)に収録されている。


2023年3月26日日曜日

フランケンシュタインの世界<ジグソーパズル>(The World of Frankenstein )- その6

英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より2022年に出ているジグソーパズル「フランケンシュタインの世界(The World of Frankenstein)」のイラスト内には、英国の小説家メアリー・ウルストンクラフト・ゴドウィン・シェリー(Mary Wollstonecraft Godwin Shelley:1797年ー1851年)1818年1月に発表したゴシック小説「フランケンシュタイン、或いは、現代のプロメテウス(Frankenstein; or, the Modern Prometheus. → 2021年3月24日付ブログで紹介済)」の物語に関して、各場面が散りばめられているので、前回と同様に、順番に紹介していきたい。


怪物の話(The Creature’s Narrative)>


今回は、「その1」となる。


(9)


ヴィクター・フランケンシュタインが創造した怪物は、
森の中へその身を潜めると、
小果実を食べて、一時的に飢えを凌いだ。

科学者を志し、故郷のジュネーヴを離れて、ドイツのバイエルン地方の名門大学であるインゴルシュタット大学(Ingolstadt University)に留学中のヴィクター・フランケンシュタイン(Victor Frankenstein)が創造した「怪物(Creature)」は、研究室から逃げ出し、森の中へその身を潜めると、小果実を食べたり、小川の水を飲んだりして、飢えを凌いだ。しかし、それは一時的なもので、怪物は、食べ物等を求めて、更に森の中を彷徨い歩いた。


2014年に米国の出版社 Dover Publications, Inc. から発刊された
「フランケンシュタイン」のグラフィックノベル版から抜粋 -
ヴィクター・フランケンシュタインの研究室から逃げ出した
怪物は、森の中で、小果実を食べたり、小川の水を飲んだりしたが、
それだけでは十分とは言えなかった。

(10)


森から彷徨い出て、村人達と出会った怪物は、
その外見の醜さ故に、忌み嫌われた上に、迫害を受ける。

森の中から彷徨い出て来た怪物は、ある小村に辿り着き、そこで、彼の創造主であるヴィクター・フランケンシュタイン以外の人間に、初めて遭遇する。その出会いは、最悪で、外見の醜さ故に、怪物は、村人達から忌み嫌われ、迫害を受けるのであった。


2014年に米国の出版社 Dover Publications, Inc. から発刊された
「フランケンシュタイン」のグラフィックノベル版から抜粋 -
森から彷徨い出た怪物は、
そこで遭遇した村人達から迫害を受けたため、
再び、森の中へと逃げ込む。

(11)


森の奥深くを彷徨い歩く怪物は、
掘っ立て小屋に暮らすド・レーシー一家の存在を知る。

再び、森の中へ逃げ込んだ怪物は、森の奥深くで、掘っ立て小屋へと辿り着き、その物置小屋で眠りについた。翌朝、人間達の声で目を覚ました怪物が、壁の板の隙間から、掘っ立て小屋の中の様子を伺うと、年老いた盲目の父親を家長とするド・レーシー(De Lacey)一家が暮らしていたのである。


2014年に米国の出版社 Dover Publications, Inc. から発刊された
「フランケンシュタイン」のグラフィックノベル版から抜粋 -
森の中へ再び逃げ込んだ怪物は、
森の奥深くにある掘っ立て小屋に住む
ド・レーシー一家のことを知るのであった。

2023年3月25日土曜日

アガサ・クリスティー作「死者のあやまち」<英国 TV ドラマ版>(Dead Man’s Folly by Agatha Christie )- その1

第68話「死者のあやまち」が収録された
エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 9 の表紙

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「死者のあやまち(Dead Man’s Folly)」(1956年)の TV ドラマ版が、英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第68話(第13シリーズ)として、2013年11月6日に放映されている。英国の俳優であるサー・デイヴィッド・スーシェ(Sir David Suchet:1946年ー)が、名探偵エルキュール・ポワロを演じている。ちなみに、日本における最初の放映日は、2014年9月29日である。


英国 TV ドラマ版における主な登場人物(エルキュール・ポワロを除く)と出演者は、以下の通り。なお、出演者は、登場順。


(1)サー・ジョージ・スタッブス(Sir George Stubbs - 資産家で、ナス屋敷(Nasse House)の主人):Sean Pertwee

(2)ビックフォード(Bickford - サー・ジョージ・スタッブスの運転手):Chris Gordon 

(3)ヘンデン(Henden - サー・ジョージ・スタッブスの執事):Richard Dixon

(4)エミー・フォリアット(Amy Folliat - ナス屋敷の元所有者):Sinead Cusack

(5)アマンダ・ブレウィス(Amanda Brewis - サー・ジョージ・スタッブスの秘書):Rebecca Front

(6)アリアドニ・オリヴァー(Ariadne Oliver - 女流探偵作家で、ポワロとは旧知の仲):Zoe Wanamaker

(7)姓名不明(Dutch Girl Hiker - オランダから来た女性ハイカー):Francesca Zoutewelle

(8)レディー・ハティー・スタッブス(Lady Hattie Stubbs - サー・ジョージ・スタッブスの妻):Stephanie Leonidas

(9)マイケル・ウェイマン(Michael Weyman - 建築家で、ナス屋敷の改装を担当):James Anderson

(10)ジョン・マーデル(John Merdell - 村の老人で、ガーティー&マーリン・タッカーの祖父):Sam Kelly

(11)ジム・ウォーバートン(Jim Warburton - 国会議員):Martin Jarvis

(12)ウォーバートン夫人(Mrs. Warburton - ジム・ウォーバートンの妻):Rosalind Ayres

(13)サリー・レッグ(Sally Legge - アレック・レッグの妻):Emma Hamilton

(14)アレック・レッグ(Alec Legge - 化学者):Daniel Weyman

(15)マーリン・タッカー(Marlene Tucker - ジム・マーデルの孫で、犯人探しゲームの被害者役):Ella Geraghty

(16)エティエンヌ・ド・スーザ(Etienne de Souza - レディー・ハティー・スタッブスの従兄):Elliot Barnes-Worrell

(17)ホスキンス巡査部長(Sergeant Hoskins - 地元警察の巡査部

長):Nichlas Woodeson

(18)ブランド警部(Inspector Bland - 地元警察の警部):Tom Ellis

(19)ガーティー・タッカー(Gertie Tucker - マーリン・タッカーの姉):Angel Witney


英国 TV ドラマ版における主な登場人物には、アガサ・クリスティーの原作対比、次のような差異がある。


(11)ジム・ウォーバートン:英国 TV 版の場合、国会議員となっているが、アガサ・クリスティーの原作の場合、国会議員を務めるウィルフレッド・マスタートン(Wilfred Masterton)の代理人で、大尉(Captain)である。


(12)ウォーバートン夫人:英国 TV 版の場合、国会議員ジム・ウォーバートンの妻となっているが、アガサ・クリスティーの原作の場合、国会議員のウィルフレッド・マスタートンの妻で、名前はコニー・マスタートン(Connie Masterton)である。


(14)アレック・レッグ:英国 TV 版の場合、化学者となっているが、アガサ・クリスティーの原作の場合、原子科学者である。


(16)エティエンヌ・ド・スーザの名前について、英国 TV 版の場合、「Etienne de Souza」であるが、アガサ・クリスティーの原作の場合、「Etienne de Sousa」である。


(17)ホスキンス巡査部長:英国 TV 版の場合、ホスキンス巡査部長であるが、アガサ・クリスティーの原作の場合、名前が異なっており、「フランク・コットレル巡査部長(Sergeant Frank Cottrell)」である。


(19)ガーティー・タッカー:英国 TV 版の場合、名前は「ガーティー・タッカー」で、被害者となったマーリン・タッカーの「姉」となっているが、アガサ・クリスティーの原作の場合、設定が異なっており、名前は「マリリン・タッカー(Marilyn Tucker)」で、マーリン・タッカーの「妹」である。


2023年3月24日金曜日

パイプを咥えたシャーロック・ホームズ - その10

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)が執筆したシャーロック・ホームズシリーズにおいて、パイプを咥えたシャーロック・ホームズの挿絵について、引き続き、紹介したい。


今回も、ホームズシリーズの第5短編集である「シャーロック・ホームズの事件簿(The Case-Book of Sherlock Holmes)」に収録されている挿絵に関して、紹介する。


ホームズシリーズの第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1892年)、第2短編集「シャーロック・ホームズの回想(The Memoirs of Sherlock Holmes)」(1893年)、第3長編「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」1901年8月ー1902年4月)、そして、第3短編集「シャーロック・ホームズの帰還(The Return of Sherlock Holmes)」(1905年)まで挿絵を担当していた挿絵画家であるシドニー・エドワード・パジェット(Sidney Edward Paget:1860年ー1908年)は、1908年1月28日に亡くなったため、第5短編集「シャーロック・ホームズの事件簿」の挿絵は、他のイラストレーターによる挿絵となっている。


当時、柄がまっすぐとなったパイプが一般的に使用されていたことを示すために、ホームズに加えて、他の登場人物の挿絵も掲載する。


(28)「サセックスの吸血鬼(The Sussex Vampire)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1924年1月号に掲載された挿絵 -
モリスン、モリスン&ドッド法律事務所(Morrison, Morrison & Dodd)経由、
同法律事務所の顧客で、
紅茶仲買商であるファーガスン&ミューアヘッド社(Ferguson and Muirhead)の
ロバート・ファーガスン(Robert Ferguson)氏
から調査の依頼を受けた
シャーロック・ホームズは、
自分の資料を用いて、吸血鬼のことを調べて始めた。
画面左側の人物がホームズで、
画面右側の人物がジョン・H・ワトスン。
ホームズは、パイプを口に咥えており、
ワトスンも、右手に持ったパイプを口に咥えれている。
挿絵:ハワード・ケッピー・エルコック
(Howard Keppie Elcock:1886年ー1952年)


「サセックスの吸血鬼」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、48番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1924年1月号に、また、米国では、「ハーツ インターナショナル(Heart’s International)」の1924年1月号に掲載された。

同作品は、1927年に発行されたホームズシリーズの第5短編集である「シャーロック・ホームズの事件簿」に収録されている。


英国で出版された「ストランドマガジン」
1924年1月号に掲載された挿絵 -
モリスン、モリスン&ドッド法律事務所経由、
調査依頼を行ったロバート・ファーガスンが、
翌日の午前10時にベーカーストリート221Bを訪れ、
シャーロック・ホームズに対して、
事件の詳細説明を始めた。
画面左側から、ホームズ、ジョン・H・ワトスン、
そして、ロバート・ファーガスン。
椅子に座ったホームズは、
テーブルの上に肘をついた左手に持ったパイプを口に咥えたまま、
ロバート・ファーガスンの説明を聞いている。
挿絵:ハワード・ケッピー・エルコック
(1886年ー1952年)


(29)「三人のガリデブ(The Three Garridebs)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1925年1月号に掲載された挿絵 -
1902年6月末、
米国から英国へとやって来た弁護士のジョン・ガリデブ(John Garrideb)が、
ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れる。
ジョン・ガリデブ曰く、
カンザス(Kansas)に住む大富豪のアレクサンダー・ハミルトン・ガリデブ
(Alexandar Hamilton Garrideb)が、
「ガリデブ姓の成人男性が三人そろえば、
莫大な遺産を3分割して渡す。」という遺言を残したのだが、
米国内には、他にガリデブ姓の成人男性が居なかったので、
英国まで
ガリデブ姓の成人男性を探しに来た、とのことだった。
画面左側から、ホームズ、ジョン・H・ワトスン、
そして、ジョン・ガリデブ。
ホームズが、ジョン・ガリデブからの途方もない説明を聞いている間、
本棚に右手をついたワトスンが、
左手に持ったパイプを口に咥えている。
挿絵:ハワード・ケッピー・エルコック
(1886年ー1952年)


三人のガリデブ」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、49番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン」の1925年1月号に、また、米国では、「コリアーズ ウィークリー(Collier’s Weekly)」の1924年10月25日号に掲載された。
同作品は、ホームズシリーズの第5短編集である「シャーロック・ホームズの事件簿」(1927年)に収録されている。


2023年3月23日木曜日

アガサ・クリスティー作「鳩のなかの猫」<英国 TV ドラマ版>(Cat Among the Pigeons by Agatha Christie )- その4

第59話「鳩のなかの猫」が収録された
エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 7 ケースの裏表紙 -
右側から2番目のシートが、「鳩のなかの猫」からの場面である。
右側の人物が、
サー・デイヴィッド・スーシェ(Sir David Suchet:1946年ー)が演じる
エルキュール・ポワロで、左側の人物が、
Harriet Walter が演じる
オノリア・バルストロード(メドウバンク校の創設者兼校長)。


英国の TV 会社 ITV 社が制作して、「Agatha Christie’s Poirot」の第59話(第11シリーズ)として、2008年9月21日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「鳩のなかの猫(Cat Among the Pigeons)」(1959年)の TV ドラマ版について、引き続き、原作との差異点を列挙する。


メドウバンク校(Meadow School)の室内競技場(Sports Pavilion)内において、体育教師のグレイス・スプリンガー(Grace Springer)が殺害されたことに伴い、多くの父兄が、自分達の娘達をメドウバンク校から連れ出し始め、学校の評判が大きく傷付けられる。

生徒が少なくなった学校の外で、庭師のアダム・グッドマン(Adam Goodman - 本当は、英国政府の公安課に所属)とアン・シャプランド(Ann Shapland - オノリア・バルストロード(Honoria Bulstrode - メドウバンの創設者兼校長)の秘書)がダンスを踊っていると、レティス・チャドウィック(Lettice Chadwick - メドウバンク校創設以来のバルストロード校長の盟友で、数学教師)の悲鳴が聞こえてきた。

アダム・グッドマンとアン・シャプランドの2人が、悲鳴が聞こえてきた室内競技場へと駆けつけると、そこには、砂袋で背後から頭を殴られたアイリーン・リッチ(Eileen Rich - 英文学教師)が倒れていたのである。


(11)

<原作>

室内競技場において、後頭部を砂袋で強打され、第2の被害者となるのは、エレノア・ヴァンシッタート(Eleanor Vansittart - 歴史とドイツ語の教師で、バルストロード校長の後継者最有力候補)である。

<英国 TV ドラマ版>

エレノア・ヴァンシッタートは、英国 TV ドラマ版には登場しない。そのため、第2の被害者に関しては、エレノア・ヴァンシッタートではなく、別の教師(アイリーン・リッチ)が襲われることになるが、原作とは異なり、亡くなることはなく、負傷で済むことになる。


室内競技場内において、英文学教師のアイリーン・リッチが更に襲われたため、更に多くの父兄が、自分達の娘達をメドウバンク校から連れ戻す結果となった。


(12)

<原作>

父兄が自分達の娘達をメドウバンク校から連れ戻し始めるのは、歴史とドイツ語の教師で、バルストロード校長の後継者最有力候補と見做されていたエレノア・ヴァンシッタートが、室内競技場において、後頭部を砂袋で強打され、第2の被害者となってからである。

<英国 TV ドラマ版>

体育教師のグレイス・スプリンガーが殺害された時点で、既に多くの父兄が、自分達の娘達をメドウバンク校から連れ戻し始めている。


室内競技場内において、後頭部を砂袋で強打され、怪我を負ったアイリーン・リッチに対して、エルキュール・ポワロが尋ねたところ、彼女は、


・新学期前に休職していたのは、未婚のまま妊娠したので、海外へ行って、出産するため。

・残念ながら、流産のため、子供は亡くなった。


と、休職期間中のことを初めて話すのであった。アイリーン・リッチとしては、未婚の母親であることを隠したかった訳である。


アンジェール・ブランシュ(Angèle Blanche - フランス語教師)が、公衆電話から誰かを脅迫している場面が挿入される。


(13)

ポワロは、ロンドンのクラブにおいて、シャイスタ王女(Princess Shaista - 中東のラマット王国(Ramat)の王女。アリ・ユースフ(Prince Ali Yusuf)の従妹で、ユースフ国王の婚約者)に化けていた女性を発見する。

本物のシャイスタ王女は、メドウバンク校に入学する前に、スイスに居たのだが、そこで既に誘拐されていたのである。

<原作>

ジュリア・アップジョン(Julia Upjohn - メドウバンク校の女学生で、ジェニファー・サットクリフ(Jennifer Sutcliffe)の親友)から、事件の相談を受けたポワロが、メドウバンク校へとやって来ると、「シャイスタ王女の膝をよく見たことがありますか?」という当を得た質問を、いきなり発する。ポワロがこの質問を発した時点で、ポワロは、シャイスタ王女に実際に会ったことはない。

<英国 TV ドラマ版>

室内競技場内において、体育教師のグレイス・スプリンガーが襲われて、第1の被害者になった際、シャイスタ王女も事情聴取の対象となっていて、ポワロも、警察による聴取に立ち会っていた。その際、ポワロは、近くにある筒をワザと倒し、テーブル下に屈み込んだ時に、シャイスタ王女の膝を確認して、彼女の実年齢が「14 - 15歳」ではなく、「24 - 25歳」だと、既に見抜いていたのである。このように、原作とは異なり、ポワロがシャイスタ王女が偽者であることを直感で判ったのではなく、キチンと推理の過程を描いている。


夜、待ち合わせの場所である川沿いの納屋の前で、アンジェール・ブランシュが誰かを待っていると、突然、後頭部を砂袋で強打され、第3の被害者となる。


(14)

そして、メドウバンク校の事件関係者を前にして、ポワロによる謎解きが始まる。

第2の被害者が異なることを除けば、基本的に、英国 TV ドラマ版の流れは、原作と同じである。


メドウバンク校の再生を目指すオノリア・バルストロード校長は、アイリーン・リッチを、自分の後継者候補かつパートナーに指名する。


(15)

<原作>

事件を無事解決して、メドウバンク校を去るポワロは、今回の功労者であるジュリア・アップジョンに、御褒美として、エメラルドを渡す。

<英国 TV ドラマ版>

ポワロがジュリア・アップジョンに御褒美として渡すのは、エメラルドではなく、彼女がジェニファー・サットクリフのテニスラケットの柄から見つけた赤いルビーの一つである。

ポワロから赤いルビーを受け取ったジュリア・アップジョンが、陽の光にルビーを透かす場面で、英国 TV ドラマ版は終わりを迎える。


2023年3月22日水曜日

パイプを咥えたシャーロック・ホームズ - その9

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)が執筆したシャーロック・ホームズシリーズにおいて、パイプを咥えたシャーロック・ホームズの挿絵について、引き続き、紹介したい。


今回は、ホームズシリーズの第5短編集である「シャーロック・ホームズの事件簿(The Case-Book of Sherlock Holmes)」に収録されている挿絵に関して、紹介する。


ホームズシリーズの第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1892年)、第2短編集「シャーロック・ホームズの回想(The Memoirs of Sherlock Holmes)」(1893年)、第3長編「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」1901年8月ー1902年4月)、そして、第3短編集「シャーロック・ホームズの帰還(The Return of Sherlock Holmes)」(1905年)まで挿絵を担当していた挿絵画家であるシドニー・エドワード・パジェット(Sidney Edward Paget:1860年ー1908年)は、1908年1月28日に亡くなったため、第5短編集「シャーロック・ホームズの事件簿」の挿絵は、他のイラストレーターによる挿絵となっている。


当時、柄がまっすぐとなったパイプが一般的に使用されていたことを示すために、ホームズに加えて、他の登場人物の挿絵も掲載する。


(25)「高名な依頼人(The Illustrious Client)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1925年2月号に掲載された挿絵 -
1902年9月3日、トルコ風呂で寛いでいた
シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの元に、
サー・ジェイムズ・デマリー大佐(Colonel Sir James Damery)から
「ある特別な剣について、依頼したい。」と言う内容の手紙が届いた。
翌日の午後4時半に、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)を訪れた
サー・ジェイムズ・デマリーは、待っていたホームズとワトスンに対して、
「ド・メルヴィル将軍(General de Merville)」の娘である
ヴァイオレット・ド・メルヴィル(Violet de Merville)が、
悪名高いオーストリア貴族のグルーナー男爵(Baron Gruner)に騙されて、婚約してしまった。
これは、ある非常に高名な方からの依頼で、この婚約を破棄させてほしい。」と説明した。
画面左側から、シャーロック・ホームズ、ジョン・H・ワトスン、
そして、サー・ジェイムズ・デマリー。
ハッキリとしないものの、椅子に腰掛けているワトスンが、
右手にパイプを持っているように見える。
挿絵:ハワード・ケッピー・エルコック
(Howard Keppie Elcock:1886年ー1952年)

「高名な依頼人」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、50番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1925年2月号 / 3月号に、また、米国でも、「コリアーズ ウィークリー(Collier’s Weekly)」の1924年11月8日号に掲載された。

同作品は、1927年に発行されたホームズシリーズの第5短編集である「シャーロック・ホームズの事件簿」に収録されている。


(26)「白面の兵士(The Blanched Soldier)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1926年11月号に掲載された挿絵 -
第二次ボーア戦争が終結した直後の1903年1月、
ジェイムズ・M・ドッド(Mr. James M. Dodd)が、
ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れる。
彼は、戦友のゴドフリー・エムズワース(Godfrey Emsworth)が音信不通となったため、
ゴドフリーの居所を探し出そうとして、必死になっていたのである。
画面左側の人物がホームズで、
画面右側の人物がジェイムズ・M・ドッド。
椅子に腰掛けて、ジェイムズ・M・ドッドの話を聞くホームズが、
左手に持ったパイプを口に咥えている。
挿絵:
ハワード・ケッピー・エルコック(1886年ー1952年)


白面の兵士」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、52番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン」の1926年11月号に、また、米国でも、「リバティー(Liberty)」の1926年10月16日号に掲載された。

同作品は、ホームズシリーズの第5短編集である「シャーロック・ホームズの事件簿」(1927年)に収録されている。


(27)「三破風館(The Three Gables)」


英国で出版された「ストランドマガジン」
1926年10月号に掲載された挿絵 -
物語の冒頭、
親分のバーニー・ストックデイル(Barney Stockdale)からの指示を受け、
ボクサーのスティーヴ・ディクシー(Steve Dixie)が
ベーカーストリート221Bに押しかけて来て、
シャーロック・ホームズに対して、事件から手を引くように凄む。
画面手前に、ジョン・H・ワトスンが、
画面奥の左側にスティーヴ・ディクシー、
そして、画面奥右側にホームズが描かれている。

椅子に腰掛けて、スティーヴ・ディクシーに凄まれているホームズが、
左手に持ったパイプを口に咥えている。
挿絵:
ハワード・ケッピー・エルコック(1886年ー1952年)


三破風館」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、51番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン」の1926年10月号に、また、米国でも、「リバティー(Liberty)」の1926年9月18日号に掲載された。

同作品は、ホームズシリーズの第5短編集である「シャーロック・ホームズの事件簿」(1927年)に収録されている。