2023年3月14日火曜日

アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」<戯曲版>(And Then There Were None by Agatha Christie )- その2


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1939年に発表したノンシリーズ作品「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」は、彼女の手により戯曲版となって、1943年11月17日にロンドンのセントジェイムズ劇場(St. James’ Theatre → 2014年10月4日付ブログで紹介済)において初演された。

なお、本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第26作目に該り、彼女の作品の中でも、代表作に挙げられている。


2011年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
「The Mousetrap and Other Plays」の表紙
(Cover Design : HarperCollinsPublishers 2011)


小説版と比べると、戯曲版には、以下のような変更が為されている。


*戯曲版において、主要となる10名の登場人物の名前は、基本的に、小説版と同じであるが、退役した老将軍であるジョン・ゴードン・マッケンジー(John Gordon MacKenzie)の場合、小説版の名前は、ジョン・ゴードン・マッカーサー(John Gordon MacArthur)となっている。


*小説版の場合、ヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne)は、謎のオーウェン氏(Mr. Owen)により、家庭教師をしていた子供に無理な距離を泳がせることを許可し、その結果、その子供を溺死させたと告発され、実際のところ、その通りだった。

一方、戯曲版の場合、ヴェラ・クレイソーンは、謎のオーウェン氏により、同様の告発をされているが、実際に、彼女が家庭教師をしていた子供に無理な距離を泳がせることを許可したのは、子供の叔父で、彼女が恋していたヒュー(Hugh)であったことに変更されている。

小説版では、ヴェラ・クレイソーンが、ヒューとの結婚を期待して、家庭教師をしていた子供に遠泳をを許可したが、戯曲版では、亡くなった兄の爵位と財産を狙っていたヒュー自身が、甥に遠泳を許可したのである。


*小説版の場合、フィリップ・ロンバード(Philip Lombard)は、謎のオーウェン氏により、東アフリカにおいて先住民族から食料を奪った後、彼ら21人を見捨てて死なせたと告発され、実際のところ、その通りだった。

戯曲版の場合、フィリップ・ロンバードは、先住民族に自分のライフルと弾薬、そして、残っている食べ物を渡すと、助けを求めに向かったものの、彼の帰還が間に合わなかったと言うことに変更されている。


*小説版の場合、ヴェラ・エリザベス・クレイソーンとフィリップ・ロンバードの2人が最後に残る。フィリップ・ロンバードは、ヴェラ・クレイソーンに銃で打たれて、死亡し、その後、ヴェラ・クレイソーンは、ロープで自死する。それによって、犯人の目的は達成される。

一方、戯曲版の場合、フィリップ・ロンバードは、ヴェラ・クレイソーンに銃で打たれたものの、弾丸は彼を外れたため、助かった。遂にその姿を現した犯人に、ヴェラ・クレイソーンが命を狙われた際、フィリップ・ロンバードは、ヴェラ・クレイソーンの助けに入り、犯人を射殺する流れに変更されている。そして、フィリップ・ロンバードは、ヴェラ・クレイソーンに対して、「One little Indian boy left all alone, We got married - and then there were none!」と告げ、遠くに迎えの船の汽笛が聞こえるというハッピーエンドになっている。


2011年に英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
「The Mousetrap and Other Plays」の裏表紙
(Cover Design : HarperCollinsPublishers 2011)-
「そして誰もいなくなった」の戯曲版も含まれている。


アガサ・クリスティーが1939年に「そして誰もいなくなった」を発表した時点での英語の原題は「Ten Little Niggers(10人の小さな黒んぼ)」で、作品中、これは非常に重要なファクターを占める童謡を暗示している。

ただし、「Nigger」という単語がアフリカ系アメリカ人に対する差別用語だったため、米国版のタイトルは「Ten Little Indians(10人の子供のインディアン)」に改題された。それに伴い、

*島の名前: 黒人島(Nigger Island)→インディアン島(Indian Island)

*童謡名: 10人の小さな黒んぼ(Ten Little Niggers)→10人の子供のインディアン(Ten Little Indians)

*人形名: 黒人人形→インディアン人形

へと変更された。


近年、「インディアン」も差別用語と考えられているため、英米で発行されている「そして誰もいなくなった」のタイトルには、「And Then There Were None」が使用されている。「And Then There Were None」は、童謡の歌詞の最後の一文から採られている。その結果、

*島の名前: インディアン島(Indian Island)→兵隊島(Soldier Island)

*童謡名: 10人の子供のインディアン→10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers)

*人形名: インディアン人形→兵隊人形

へという変遷を辿っている。


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