2023年3月3日金曜日

アガサ・クリスティーの世界<ジグソーパズル>(The World of Agatha Christie )- その18

英国の Orion Publishing Group Ltd. から出ている「アガサ・クリスティーの世界(The World of Agatha Christie)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の生涯や彼女が執筆した作品等に関連した90個の手掛かりについて、前回に続き、紹介していきたい。


今回も、アガサ・クリスティーが執筆した作品に関連する手掛かりの紹介となる。


(57)お祭り用の旗(fete bunting)


右側の本棚の一番右端の棚の上に、
赤色、緑色、そして、黄色のお祭り用の旗が置かれている。

(58)麦藁帽子(floppy hat)


左下の蓄音機が置かれている丸テーブルの前にあるソファーの背もたれ部分に、
麦藁帽子が掛けられている。

(59)ボート小屋(boathouse)


左側の窓の外を流れるダート河沿いに、
ボート小屋が建っている。

本ジグソーパズル内において、アガサ・クリスティーが腰掛けている椅子の右側にある本棚の一番右端の棚の上に、お祭り用の旗が置かれている。また、一番左下にある丸テーブルの上に、蓄音機が設置されているが、その右側のソファーの背もたれの角に、麦藁帽子が掛けられている。更に、アガサ・クリスティーが座っている椅子の左側の窓の外を流れるダート河(River Dart)沿いには、ボート小屋が建っている。

これらから連想されるのは、アガサ・クリスティーが1956年に発表したエルキュール・ポワロシリーズ作品「死者のあやまち(Dead Man’s Folly)」である。本作品は、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第27作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「死者のあやまち」のペーパーバック版の表紙

1954年11月、アガサ・クリスティーは、自分の生まれ故郷デヴォン州のチャーストン フェラーズ(Churston Ferrers)にあるセントメアリー聖母教会(St. Mary the Virgin Church)に寄付するため、ある中編を執筆して、その印税収入を充てようとした。そこで、彼女は自分の住まいがあるグリーンウェイ(Greenway)を小説の舞台にした。それが、「エルキュール・ポワロとグリーンショア屋敷の阿房宮(Hercule Poirot and the Greenshore Folly)」である。殺人事件が発生する小説の舞台に実在の場所である「グリーンウェイ」をそのまま使用できないので、「グリーンショア」と変更したものと思われる。なお、この中編は、雑誌掲載には難しい長さであったため、残念ながら、未発表のままに終わっている。

上記の中編の代わりに、アガサ・クリスティーは、ミス・ジェーン・マープルを主人公とした短編「グリーンショウ氏の阿房宮(Greenshaw's Folly)」を教会に寄付している。


クリスティーは、この中編を長編にして、2年後に出版している。それが「死者のあやまち」である。中編と長編を比較すると、物語のメイン舞台となるのが、グリーンショア屋敷とナス屋敷(Nasse House)で名前が異なることや登場人物の名前の一部が変更されていること等を除くと、基本的なプロットは同じだ。


ある日、ロンドン市内にあるエルキュール・ポワロのオフィスで電話が鳴る。相手は、人気推理作家で、昔なじみのアリアドニ・オリヴァー夫人(Mrs. Ariadne Oliver)であった。電話はデヴォン州(Devon)からで、オリヴァー夫人はポワロにすぐこちらに来てほしいと頼み込む。そこで、ポワロは早速ロンドン発の列車でデヴォン州へ向かう。

駅からオリヴァー夫人が滞在しているナス屋敷へ迎えの車で向かう途中、ポワロは外国人旅行者の女性二人(オランダ人とイタリア人)を車に乗せて、近くのユースホステルまで送ってあげる。この辺り一帯は外国人ハイカー達に人気の場所で、後でも、彼女達はナス屋敷の地所を勝手に横切ろうとして、屋敷の主であるサー・ジョージ・スタッブス(Sir George Stubbs)から厳重な注意を受けている。

屋敷に到着したポワロに対して、オリヴァー夫人は、次のように説明する。屋敷で催される慈善パーティーのために、(殺人)犯人探しゲーム(Murder Hunt)の段取りをしているところだが、このゲーム自体に何かおかしな点があるものの、それが何なのか、よく判らない。オリヴァー夫人は、そんな不安を口にする。彼女としては、それをポワロに明らかにしてほしいと頼む。


ナス屋敷では、次の人達が慈善パーティーの準備をしていた。

(1)屋敷の主サー・ジョージ・スタッブス

(2)彼の年若い妻レデイー・スタッブス ハティー(Lady Stubbs, Hattie Stubbs)

(3)サー・ジョージ・スタッブスの秘書アマンダ・ブレウィス(Amanda Brewis)

(4)サー・ジョージ・スタッブスに雇われて、ナス屋敷の改装を行っている建築家マイケル・ウェイマン(Michael Weyman)

(5)原子科学者のアレック・レッグ(Alec Legge)と彼の妻であるサリー・レッグ(Sally Legge)→「エルキュール・ポワロとグリーンショア屋敷の阿房宮」では、近所のコテージに住むアレックとペギーのレッグ若夫婦(Alec Legge + Peggy Legge)

(6)慈善パーティー全体のとりまとめ役マスタートン夫人(Mrs. Masterton)

(7)彼女の手助けをしているウォーバートン大尉(Captain Warburton)→「エルキュール・ポワロとグリーンショア屋敷の阿房宮」では、ウォーボロー大尉(Captain Warborough)。

(8)ハティーの庇護者フォリアット夫人(Mrs. Folliat)ーナス屋敷の前の持ち主でもある。フォリアット家は1598年から何代にもわたってこの地所を所有していたが、第二次世界大戦前に、彼女の夫が亡くなってしまった。また、彼女の長男は海軍で出征した後、乗っていた艦が沈められ、彼女の次男は陸軍に入隊したが、イタリアで戦死したようである。財政上の窮地に陥ったフォリアット夫人はサー・ジョージ・スタッブスに屋敷を売却し、その代わりに、園丁が住んでいたコテージを貸し与えられて住んでいる。


オリヴァー夫人によると、犯人探しゲームのアイデアを出したのはマスタートン夫人だが、何か腑に落ちないところがあるという言う。ある誰かが何らかの意図をもって、他の人達の背後で彼らを操りながら、何かを計画しているような気がしてならない、と...


犯人探しゲームの被害者は、原子科学者の先妻のユーゴスラビア人女性で、ボート小屋で殺される筋書きになっていた。当初、サリー・レッグが被害者役を務める筈だったが、慈善パーティーで占い師の役を担当することになり、この村に住む少女マーリン・タッカー(Marlene Tucker)が被害者役を代わった。パーティー当日、ポワロとオリヴァー夫人がボート小屋へ様子を見に行くと、マーリンはスカーフで本当に絞殺されていたのであった!


一方、慈善パーティー会場に、(9)ハティーの従兄弟と称するエティエンヌ・ド・スーザ(Etienne da Sousa→「エルキュール・ポワロとグリーンショア屋敷の阿房宮」では、ポール・ロペス(Paul Lopez))が姿を現す。西インド諸島から到着したばかりで、ダートマス(Dartmouth)にヨットを係留し、ダート河をボートで上がって、屋敷にやって来たのである。ハティー・スタッブスに久しぶりに会いたいと言う。ところが、従兄弟を忌み嫌うハティー・スタッブスは、エティエンヌ・ド・スーザの到着前に姿を消してしまい、その後、その行方が杳として知れない。


その後、また一人犠牲者が出る。この村に住むマーデル老人(Old Merdel)で、ある晩、乗っていた船から舟着き場に飛び移ろうとして、ダート河に落ちて溺死したのである。彼は、絞殺された少女の祖父だったことが判明する。警察当局は老人の死を事故死として処理しようとするが、ポワロは、以前マーデル老人に会った際、彼が発した思わせ振りな言葉が非常に気になった。「フォリアット家が、ナス屋敷からは離れることはない。('Always be Folliats at Nasse.')」と...


果たして、マーデル老人の溺死は事故死なのか?彼女の孫であるマーリン・タッカーを殺害したのは誰なのか?そして、その理由は?更に、ハティー・スタッブスは何処に行ってしまったのか?


お祭り用の旗は、ナス屋敷の主であるサー・ジョージ・スタッブスが開催する慈善パーティーにおいて使用されており、麦藁帽子は、彼の年若い妻レデイー・スタッブスであるハティーが冠っている。また、ボート小屋は、少女マーリン・タッカーがスカーフで絞殺されて、ポワロとオリヴァー夫人が彼女の遺体を発見する現場として使用されている。


0 件のコメント:

コメントを投稿