2017年8月27日日曜日

ロンドン パンプコート1番地(1 Pump Court)

TV版のポワロシリーズ「複数の時計」において、
ハードキャッスル警部とジェンキンス巡査の二人がマリーナ・ライヴァルの刺殺死体を発見する場面に、
パンプコート1番地のG階柱廊スペースが使用されている

アガサ・クリスティー作「複数の時計(The Clocks)」(1963年)は、エルキュール・ポワロシリーズの長編で、今回、ポワロは殺人事件の現場へは赴かず、また、殺人事件の容疑者や証人への尋問も直接は行わないで、ロンドンにある自分のフラットに居ながらにして(=完全な安楽椅子探偵として)、事件の謎を解決するのである。

パンプコートに面した
パンプコート1番地の建物への入口部分

キャサリン・マーティンデール(Miss Katherine Martindale)が所長を勤めるキャヴェンディッシュ秘書紹介所(Cavendish Secretarial Bureau)から派遣された速記タイピストのシーラ・ウェッブ(Sheila Webb)は、ウィルブラームクレッセント通り19番地(19 Wilbraham Crescent)へと急いでいた。シーラ・ウェッブが電話で指示された部屋(居間)へ入ると、彼女はそこで身なりの立派な男性の死体を発見する。男性の死体の周囲には、6つの時計が置かれており、そのうちの4つが何故か午後4時13分を指していた。鳩時計が午後3時を告げた時、ウィルブラームクレッセント19番地の住人で、目の不自由な女教師ミリセント・ペブマーシュ(Miss Millicent Pebmarsh)が帰宅する。自宅内の異変を感じたミリセント・ペブマーシュが男性の死体へと近づこうとした際、シーラ・ウェッブは悲鳴を上げながら、表へと飛び出した。そして、彼女は、ちょうどそこに通りかかった青年コリン・ラム(Colin Lamb)の腕の中に飛び込むことになった。
実は、コリン・ラム青年は、警察の公安部員(Special Branch agent)で、何者かに殺された同僚のポケット内にあったメモ用紙に書かれていた「M」という文字、「61」という数字、そして、「三日月」の絵から、ウィルブラームクレッセント19番地が何か関係して入るものと考え、付近を調査していたのである。「M」を逆さまにすると、「W」になり、「ウィルブラーム」の頭文字になる。「三日月」は「クレッセント」であり、「61」を逆さまにすると、「19」となる。3つを繋げると、「ウィルブラームクレッセント通り19番地」を意味する。

パンプコートの全景−
奥に見えるのが、ミドルテンプルレーン

クローディン警察署のディック・ハードキャッスル警部(Inspector Dick Hardcastle)が本事件を担当することになった。
シーラ・ウェッブは、ミリセント・ペブマーシュの家へ今までに一度も行ったことがないと言う。また、ミリセント・ペブマーシュは、キャヴェンディッシュ秘書紹介所に対して、シーラ・ウェッブを名指しで仕事を依頼する電話をかけた覚えはないと答える。更に、シーラ・ウェッブとミリセント・ペブマーシュの二人は、ウィルブラームクレッセント通り19番地の居間で死体となって発見された男性について、全く覚えがないと証言するのであった。
ミリセント・ペブマーシュの居間においてキッチンナイフで刺されて見つかった身元不明の死体は「R.・H・カリイ(R. H. Curry)」とされたが、スコットランドヤードの捜査の結果、全くの偽名であることが判明し、身元不明へと逆戻りする。彼が目の不自由な老婦人の居間で刺殺される理由について、スコットランドヤードも、そして、コリン・ラムも、皆目見当がつかなかった。途方に暮れたコリン・ラムは、ポワロに助けを求める。年若き友人からの頼みを受けて、ポワロの灰色の脳細胞が事件の真相を解き明かす。

パンプコートに面した
パンプコート1番地の建物外壁(その1)
パンプコートに面した
パンプコート1番地の建物外壁(その2)

英国のTV会社 ITV1 で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie’s Poirot」の「複数の時計」(2011年)では、アガサ・クリスティーの原作が第二次世界大戦(1939年ー1945年)後の米ソ冷戦状態を物語の時代背景としたことに対して、他のシリーズ作品と同様に、第一次世界大戦(1914年ー1918年)と第二次世界大戦の間に物語の時代設定を置いている関係上、第二次世界大戦前夜を時代背景として、英国の仮想敵国を原作のソビエト連邦からアドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツへと変更している。また、物語の舞台も、サセックス州(Sussex)のクロウディーン(Crowdean)からケント州(Kent)のドーヴァー(Dover)へと変更されている。更に、コリン・ラムの名前は、コリン・レイス大尉(Liteunant Colin Race)となり、警察の公安部員ではなく、MI6 の秘密情報部員(intelligence officer)という設定に変えられている。

パンプコート1番地のG階柱廊スペースから見た
インナーテンプルレーン

TV版では、物語の後半、ミリセント・ペブマーシュが住むウィルブラームクレッセント19番地(ドーヴァー)の居間において死体で見つかった身元不明の男性の妻と称するマリーナ・ライヴァル(Merlina Rival)が警察へ名乗り出た。死体で見つかった男性は、当初、保険会社 Metroploitan and Provincial Insurance Company に勤務するR・H・カリイ氏とされたが、後に偽名であることが判明。マリーナ・ライヴァルによると、彼の本名はハリー・キャッスルトン(Harry Castleton)で、結婚していたが、約5年前に行方が判らなくなったと言う。彼女が言う通り、男性の左耳の後ろに傷跡があったが、彼女の説明とは異なり、15年以上前の傷ではなく、数年前の傷であるとの検死結果が出た。彼女の証言内容に疑問を感じたハード・キャッスル警部やジェンキンス巡査(Constable Jenkins)は、道端に停めた警察車輌の中から彼女の動向を探るが、二人で話をしている間に彼女の姿を見失ってしまう。慌てたハードキャッスル警部達は警察車輌から跳び出ると、彼女の行方を追うのであった。彼らがある階段を駆け上がった後、彼女の刺殺死体を発見することになる。彼女が刺殺されて、ハードキャッスル警部達に発見される場面は、パンプコート1番地(1 Pump Court)のG階柱廊(cloisters)スペースで撮影されている。

インナーテンプルレーンから見たパンプコート1番地の建物−
右側に一部見えるのが、テンプル教会(Temple Church)

なお、アガサ・クリスティーの原作では、ハードキャッスル警部の部下はクレイ巡査部長(Sergeant Cray)であるが、TV版では、ジェンキンス巡査に変更されている。また、原作において、マリーナ・ライヴァルは、背中を刺されて、ロンドンの地下鉄ヴィクトリア駅(Victoria Tube Station→2017年7月2日付ブログで紹介済)において、死体で発見されるが、TV版では、設定上、ドーヴァーにおいて刺し殺されるものの、実際の撮影はロンドンのパンプコート1番地で行われているのである。

インナーテンプルレーンから見た
パンプコート1番地の建物の外壁と柱廊スペース

パンプコート1番地は、ロンドンの経済活動の中心地であるシティー・オブ・ロンドン(City of London)の西端に位置している「テンプル(Temple→2014年8月25日付ブログで紹介済)」と呼ばれるエリア内に所在している。テンプル地区は、テムズ河(River Thames)沿いを東西に延びるヴィクトリアエンバンクメント通り(Victoria Embankment)とストランド地区(Strand)からシティー・オブ・ロンドンへ向かって東に延びるフリートストリート(Fleet Street→2014年9月21日付ブログで紹介済)に南北を挟まれたエリアで、ここには「ミドルテンプル(Middle Temple)」 / 「インナーテンプル(Inner Temple)」と呼ばれる2つの法曹院(Inns of Court)や法廷弁護士(barrister)の事務所等が集中している。ロンドンには、全部で4つの法曹院があり、他の2つは直ぐ北側のホルボーン地区(Holborn→2016年9月24日付ブログで紹介済)内にあるリンカーン法曹院(Lincoln’s Inn→2017年3月19日付ブログで紹介済)とグレイ法曹院(Gray’s Inn)である。

パンプコート1番地のG階柱廊スペース−
ここでマリーナ・ライヴァルは何者かに刺殺された

テンプル地区の一番西側で、ヴィクトリアエンバンクメント通りとフリートストリートを南北に結ぶ通りが、ミドルテンプルレーン(Middle Temple Lane→2017年8月13日付ブログで紹介済)で、この通りから一番北側にある横道に入ると、そこがパンプコートで、四方を法廷弁護士の事務所が入居する建物に囲まれた中庭スペースである。中庭スペースの中央にあった揚水器に因んで、ここは「パンプコート」と名付けられた、とのこと。
17世紀前半に、パンプコートを取り囲むように、煉瓦造りの建物が建てられ、現在、パンプコート1番地から同5番地の建物がパンプコートの周りに建っている。

パンプコート1番地のG階柱廊スペース−
奥に見えるのが、エルムコートへと繋がる階段

ミドルテンプルレーンからパンプコートへ入った後、パンプコートはインナーテンプルレーン(Inner Temple Lane)へと繋がっており、パンプコートからインナーテンプルレーンへと出たところに、パンプコート1番地の建物が建っている。パンプコート1番地の建物のうち、インナーテンプルレーンに面するG階(日本で言うところの1階)の一部が柱廊スペースとなっており、このスペースを使って、マリーナ・ライヴァルが刺殺死体となって、ハードキャッスル警部とジェンキンス巡査の二人に発見されるシーンが撮影された。

エルムコート側から見た階段−
ハードキャッスル警部とジェンキンス巡査が
ここを駆け上がるシーンも撮影されている
ハードキャッスル警部とジェンキンス巡査が階段を駆け上がると、
パンプコート1番地のG階柱廊下スペースが目の前にある

ちなみに、この柱廊スペースを南へ下ると、階段になっていて、エルムコート(Elm Court→2017年8月20日付ブログで紹介済)へ繋がっている。TV版では、警察車輌の中で話をしている間に、マリーナ・ライヴァルの姿を見失ったハードキャッスル警部達が彼女の行方を捜して、エルムコート側からこの階段を駆け上がり、パンプコート1番地のG階柱廊スペースへと到達する流れである。

2017年8月26日土曜日

ロンドン ロチェスターロウ(Rochester Row)

ホームズ、ワトスンとモースタン嬢の3名が乗った馬車は、
北側(画面奥)から南側(画面手前)へと、ロチェスターロウを走り抜けたものと思われる

サー・アーサー・コナン・ドイル作「四つの署名(The Sign of the Four)」(1890年)では、若い女性メアリー・モースタン(Mary Morstan)がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れて、風変わりな事件の調査依頼をする。


元英国陸軍インド派遣軍の大尉だった彼女の父親アーサー・モースタン(Captain Arthur Morstan)は、インドから英国に戻った10年前に、謎の失踪を遂げていた。彼はロンドンのランガムホテル(Langham Hotel→2014年7月6日付ブログで紹介済)に滞在していたが、娘のモースタン嬢が彼を訪ねると、身の回り品や荷物等を部屋に残したまま、姿を消しており、その後の消息が判らなかった。そして、6年前から年に1回、「未知の友」を名乗る正体不明の人物から彼女宛に大粒の真珠が送られてくるようになり、今回、その人物から面会を求める手紙が届いたのである。
彼女の依頼に応じて、ホームズとジョン・H・ワトスンの二人は彼女に同行して、待ち合わせ場所のライシアム劇場(Lyceum Theatreー2014年7月12日付ブログで紹介済)へ向かった。そして、ホームズ達一行は、そこで正体不明の人物によって手配された馬車に乗り込むのであった。

ヴォクスホールブリッジロードに近い
ロチェスターロウの南側

奇妙な状況だった。私達は、知らない用件で知らない場所へと、馬車に乗って向かっていた。私達が受けたこの招待は、全くの悪ふざけかーこれはありえない仮説だがーそれとも、私達が向かう先に重要なことが待ち構えていると考えるに足る十分な根拠があるのだろうか。モースタン嬢の態度は、それまでと同じように、決意を固めた落ち着いたものだった。私はアフガニスタンへ従軍した思い出話をして、彼女を元気付けたり、そして楽しませようと努めたが、正直に言うと、私は自分自身がこの状況に非常に興奮して、私達の行き先に興味津々だったため、私の思い出話は少しばかり混乱していた。今でも、彼女は、私が動揺してこんな話をしたと言うのだ。ー真夜中に、マスケット銃(旧式歩兵銃)が私のテントの中を覗き込んだため、私がマスケット銃に向けて、二重銃身の虎の子を発砲した、と。最初は、私達が乗った馬車がどの方面へ向かっているのか、私もある程度判っていたが、馬車の速度、霧やロンドンの地理に不案内であることから、直ぐに私は方向を見失ってしまい、非常に長い距離を進んでいるようだということを除くと、全く何も判らなくなった。一方、シャーロック・ホームズは決して方向を見失っておらず、私達が乗った馬車が広場を走り抜け、曲がりくねった通りを出たり入ったりする度、彼は通りの名前を呟いたのである。
「ロチェスターロウだ。」と、彼は言った。「次は、ヴィンセントスクエアだ。ちょうど今、ヴォクスホールブリッジロードに出たな。見たところ、僕達はサリー州方面へ向かっているようだ。そうだ。そうだと思ったよ。今、ヴォクスホール橋を渡っている。少しばかり、テムズ河の川面が見えるぞ。」

ロチェスターロウの中間辺り

The situation was a curious one. We were driving to an unknown place, on an unknown errand. Yet our invitation was either a complete hoax - which was an inconceivable hypothesis - or else we had good reason to think that important issues might hang upon our journey. Miss Morstan’s demeanour was as resolute and collected as ever. I endeavoured to cheer and amuse her by reminiscences of my adventure in Afghanistan; but, to tell the truth, I was myself so excited at our situation, and so curious as to our destination, that my stories were slightly involved. To this day she declares that I told her one moving anecdote as to how a musket looked into my tent at the dead of night, and how I fired a double-barreled tiger cub at it. At first I had some idea as to the direction in which we were driving; but soon, what with our pace, the fog, and my own limited knowledge of London, I lost my bearings, and knew nothing, save that we seemed to be going a very long way. Sherlock Holmes never at fault, however, and he muttered the names as the cab rattled through squares and in and out by tortuous by-streets.
‘Rochester Row,’ said he. ‘Now Vincent Square. Now we come out on the Vauxhall Bridge Road. We are making for the Surrey side, apparently. Yes. I thought so. Now we are on the bridge. You can catch glimpses of the river.’

ロチェスターロウの「Shepherds」は製本工房(bindery)で、
美術工芸製本および本の修復等を行なっている

ロチェスターロウロチェスターロウ(Rochester Row)は、ロンドンの中心部シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のウェストミンスター地区(Westminster)内に所在している。
ロチェスターロウの南側は、ヴィクトリア駅(Victoria Stationー2015年6月13日付ブログで紹介済)からヴァヴォクスホールブリッジ(Vauxhall Bridge)まで延びるヴォクスホールブリッジロード(Vauxhall Bridge Road)から始まり、北側はセントアンドリュース・グレイコート病院(St. Andrews Grey Coat Hospital)の前にある環状交叉路 / ロータリー(round about)で終わる通りである。

ロチェスターロウの中間辺り(東側)には、
The Rochester Hotel が建っている

正体不明の人物が手配した馬車は、ホームズ達一行にどこへ向かおうとしているのか判らないように、ロンドン市内の曲がりくねった道を意図的に使った訳であるが、シティー・オブ・ウェストミンスター区のストランド地区(Strand)内にあるライシアム劇場の前で彼らを乗せた後、同区のウェストミンスター地区内にあるロチェスターロウまでかなり西へ移動し、ヴィンセントスクエア(Vincent Square)を抜けて、ヴォクスホールブリッジロードまで達すると、南東へ向かい、ヴォクスホールブリッジを渡っている。意図的とは言え、かなりの迂回ルートを取って、テムズ河を渡り、南方面へ向かっているのである。

2017年8月20日日曜日

ロンドン エルムコート(Elm Court)

エルムコート内にある中庭

アガサ・クリスティー作「複数の時計(The Clocks)」(1963年)は、エルキュール・ポワロシリーズの長編で、今回、ポワロは殺人事件の現場へは赴かず、また、殺人事件の容疑者や証人への尋問も直接は行わないで、ロンドンにある自分のフラットに居ながらにして(=完全な安楽椅子探偵として)、事件の謎を解決するのである。

左側に建つ建物の外壁に、「エルムコート」の表示が為されている

キャサリン・マーティンデール(Miss Katherine Martindale)が所長を勤めるキャヴェンディッシュ秘書紹介所(Cavendish Secretarial Bureau)から派遣された速記タイピストのシーラ・ウェッブ(Sheila Webb)は、ウィルブラームクレッセント通り19番地(19 Wilbraham Crescent)へと急いでいた。シーラ・ウェッブが電話で指示された部屋(居間)へ入ると、彼女はそこで身なりの立派な男性の死体を発見する。男性の死体の周囲には、6つの時計が置かれており、そのうちの4つが何故か午後4時13分を指していた。鳩時計が午後3時を告げた時、ウィルブラームクレッセント19番地の住人で、目の不自由な女教師ミリセント・ペブマーシュ(Miss Millicent Pebmarsh)が帰宅する。自宅内の異変を感じたミリセント・ペブマーシュが男性の死体へと近づこうとした際、シーラ・ウェッブは悲鳴を上げながら、表へと飛び出した。そして、彼女は、ちょうどそこに通りかかった青年コリン・ラム(Colin Lamb)の腕の中に飛び込むことになった。
実は、コリン・ラム青年は、警察の公安部員(Special Branch agent)で、何者かに殺された同僚のポケット内にあったメモ用紙に書かれていた「M」という文字、「61」という数字、そして、「三日月」の絵から、ウィルブラームクレッセント19番地が何か関係して入るものと考え、付近を調査していたのである。「M」を逆さまにすると、「W」になり、「ウィルブラーム」の頭文字になる。「三日月」は「クレッセント」であり、「61」を逆さまにすると、「19」となる。3つを繋げると、「ウィルブラームクレッセント通り19番地」を意味する。

エルムコートの西側から東方面を見たところ

クローディン警察署のディック・ハードキャッスル警部(Inspector Dick Hardcastle)が本事件を担当することになった。
シーラ・ウェッブは、ミリセント・ペブマーシュの家へ今までに一度も行ったことがないと言う。また、ミリセント・ペブマーシュは、キャヴェンディッシュ秘書紹介所に対して、シーラ・ウェッブを名指しで仕事を依頼する電話をかけた覚えはないと答える。更に、シーラ・ウェッブとミリセント・ペブマーシュの二人は、ウィルブラームクレッセント通り19番地の居間で死体となって発見された男性について、全く覚えがないと証言するのであった。
ミリセント・ペブマーシュの居間においてキッチンナイフで刺されて見つかった身元不明の死体は「R.・H・カリイ(R. H. Curry)」とされたが、スコットランドヤードの捜査の結果、全くの偽名であることが判明し、身元不明へと逆戻りする。彼が目の不自由な老婦人の居間で刺殺される理由について、スコットランドヤードも、そして、コリン・ラムも、皆目見当がつかなかった。途方に暮れたコリン・ラムは、ポワロに助けを求める。年若き友人からの頼みを受けて、ポワロの灰色の脳細胞が事件の真相を解き明かす。

エルムコート内の中庭中央に設けられている休憩場所

英国のTV会社 ITV1 で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie’s Poirot」の「複数の時計」(2011年)では、アガサ・クリスティーの原作が第二次世界大戦(1939年ー1945年)後の米ソ冷戦状態を物語の時代背景としたことに対して、他のシリーズ作品と同様に、第一次世界大戦(1914年ー1918年)と第二次世界大戦の間に物語の時代設定を置いている関係上、第二次世界大戦前夜を時代背景として、英国の仮想敵国を原作のソビエト連邦からアドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツへと変更している。また、物語の舞台も、サセックス州(Sussex)のクロウディーン(Crowdean)からケント州(Kent)のドーヴァー(Dover)へと変更されている。更に、コリン・ラムの名前は、コリン・レイス大尉(Liteunant Colin Race)となり、警察の公安部員ではなく、MI6 の秘密情報部員(intelligence officer)という設定に変えられている。

エルムコートは、
四方を法廷弁護士の事務所が多数入居する建物に囲まれている

TV版では、物語の後半、ミリセント・ペブマーシュが住むウィルブラームクレッセント19番地(ドーヴァー)の居間において死体で見つかった身元不明の男性の妻と称するマリーナ・ライヴァル(Merlina Rival)が警察へ名乗り出た。死体で見つかった男性は、当初、保険会社 Metroploitan and Provincial Insurance Company に勤務するR・H・カリイ氏とされたが、後に偽名であることが判明。マリーナ・ライヴァルによると、彼の本名はハリー・キャッスルトン(Harry Castleton)で、結婚していたが、約5年前に行方が判らなくなったと言う。彼女が言う通り、男性の左耳の後ろに傷跡があったが、彼女の説明とは異なり、15年以上前の傷ではなく、数年前の傷であるとの検死結果が出た。彼女の証言内容に疑問を感じたハード・キャッスル警部やジェンキンス巡査(Constable Jenkins)は、道端に停めた警察車輌の中から彼女の動向を探るが、二人で話をしている間に彼女の姿を見失ってしまう。慌てたハードキャッスル警部達は警察車輌から跳び出ると、彼女の行方を追うのであった。彼らがある階段を駆け上がった後、彼女の刺殺死体を発見することになるが、彼らが階段を駆け上がる場面は、エルムコート(Elm Court)とパンプコート1番地(1 Pump Court→来週紹介予定)の柱廊部分を繋ぐ場所で撮影されている。
なお、アガサ・クリスティーの原作では、ハードキャッスル警部の部下はクレイ巡査部長(Sergeant Cray)であるが、TV版では、ジェンキンス巡査に変更されている。


エルムコートは、ロンドンの経済活動の中心地であるシティー・オブ・ロンドン(City of London)の西端に位置している「テンプル(Temple→2014年8月25日付ブログで紹介済)」と呼ばれるエリア内に所在している。テンプル地区は、テムズ河(River Thames)沿いを東西に延びるヴィクトリアエンバンクメント通り(Victoria Embankment)とストランド地区(Strand)からシティー・オブ・ロンドンへ向かって東に延びるフリートストリート(Fleet Street→2014年9月21日付ブログで紹介済)に南北を挟まれたエリアで、ここには「ミドルテンプル(Middle Temple)」 / 「インナーテンプル(Inner Temple)」と呼ばれる2つの法曹院(Inns of Court)や法廷弁護士(barrister)の事務所等が集中している。ロンドンには、全部で4つの法曹院があり、他の2つは直ぐ北側のホルボーン地区(Holborn→2016年9月24日付ブログで紹介済)内にあるリンカーン法曹院(Lincoln’s Inn→2017年3月19日付ブログで紹介済)とグレイ法曹院(Gray’s Inn)である。

ハードキャッスル警部とジェンキンス巡査の二人が
この階段を駆け上がるシーンが撮影に使用されている

テンプル地区の一番西側で、ヴィクトリアエンバンクメント通りとフリートストリートを南北に結ぶ通りが、ミドルテンプルレーン(Middle Temple Lane→2017年8月13日付ブログで紹介済)で、この通りから北側より2番目の横道に入ると、そこがエルムコートである。エルムコートは、四方を法廷弁護士の事務所が多数入居する建物に囲まれた中庭スペースである。

ハードキャッスル警部とジェンキンス巡査の二人が
上の写真の階段を駆け上がると、
パンプコート1番地の柱廊に繋がっている

このエルムコートの左奥(東側)が階段となっていて、パンプコート1番地の柱廊部分に繋がっていて、ここをハードキャッスル警部とジェンキンス巡査の二人が駆け上がっている。残念ながら、画面上に映るのは、この階段部分だけで、中庭を含めて、エルムコート自体は撮影には使用されていない。

2017年8月19日土曜日

ロンドン ウィグモアストリート(Wigmore Street)

ウィグモアストリートの中間辺りから
キャヴェンディッシュスクエア方面(東側)を望む

サー・アーサー・イグナチウス・コナン・ドイル作「四つの署名(The Sign of the Four)」(1890年)の冒頭は、1888年の或る日、ここのところ興味を惹かれるような事件が起きないため、暇を持て余したシャーロック・ホームズが退屈しのぎに麻薬の注射に手を伸ばして、その悪しき習慣を諌めるジョン・H・ワトスンとの間で言い合いになる場面から始まる。


彼(ホームズ)は肘掛け椅子にどっしりと凭れ掛かって、パイプから濃く青い輪を吹き出しながら答えた。「例えば、君が今朝ウィグモアストリートの郵便局へ行ったことが判るのは、観察によるものだが、君がその郵便局から電報を打ったことが判るのは、推理によるものだ。」
「その通りだ!」と、私は言った。「両方とも合っている!しかし、実を言うと、君がどうやってそれを判ったのか、皆目見当がつかないよ。今朝郵便局へ出かけたのは、急に思い立ったことだったし、誰にも言わなかった。」
「単純なことさ。」と、私が驚いているのを見て、彼はくすくす笑いながら言った。馬鹿馬鹿しい程、単純なことだから、説明するのも不要な位だ。しかし、それでも、観察と推理の境界線を定義付けることに役立つかもしれない。僕は観察することによって、君の靴の甲に小さな赤い土が付着していることを知った。ウィグモアストリートにある郵便局のちょうど向かい側で、敷石を剥がして、土が掘り返されているから、その土を踏まないで、郵便局の中に入るのは無理なようになっている。僕が知る限り、この赤みを帯びた土は、この辺りではあの場所以外には見当たらない。ここまでが観察だ。後は、推理によるものだ。」
「それじゃ、どうやって、君は電報のことを推理したんだい?」
「午前中ずーっと、僕は君の向かい側に座っていたから、君が手紙を書いていなかったことを知っている。それに、君が机の中に切手と分厚い葉書の束をしまってあることも知っている。と言うことは、電報を打つ以外に、君が郵便局へ行く用として何があるんだい?他の全ての要因を取り除けば、唯一残ったものが真実でなければならない。」

右手に見えるのは、ウィグモアホールの入り口
ウィグモアホールの向かい側の建物

He answered, leaning back luxuriously in his armchair and sending up thick blue wreaths from his pipe. ‘For example, observation shows me that you have been to the Wigmore Street Post Office this morning, but deduction lets me know that when there you dispatched a telegram.’
‘Right!’ Said I. ‘Right on both points! But I confess that I don’t see how you arrived at it. It was a sudden impulse upon my part, and I have mentioned it to no one.’
‘It is simplicity itself,’ he remarked, chuckling at my surprise - ‘so absurdly simple that an explanation is superfluous; and yet it may serve to define the limits of observation and deduction. Observation tells me that you have a little reddish mould adhering to your instep. Just opposite the Wigmore Street office they have taken up the pavement and thrown up some earth, which lies in such a way that it is difficult to avoid treading in it in entering. The earth is of this reddish tint which is found as far as I know nowhere else in the neighbourhood. So much is observation. The rest is deduction.’
‘How, then, did you deduce the telegram?’
‘Why, of course I know that you had not written a letter, since I sat opposite to you all morning. I see also in your open desk there that you have a sheet of stamps and a thick bundle of postcards. What would you go into the post-office for, then, but to send a wire? Eliminate all other factors, and the one which remains must be the truth.’

ハーリーストリートに近い関係上、
ウィグモアストリート沿いには、
薬局等の医療関係の店舗が数多く並んでいる

ワトスンが電報を打ちに出かけた郵便局があるウィグモアストリート(Wigmore Street)は、ロンドンの中心部シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のマリルボーン地区(Marylebone)内にある。

ウィグモアストリートの中間辺りから
キャヴェンディッシュスクエア方面(東側)を見たところ
ウィグモアストリートの中間辺りから
ポートマンスクエア方面(西側)を見たところ

ウィグモアストリートは、キャヴェンディッシュスクエア(Cavendish Squareー2015年4月5日付ブログで紹介済)からポートマンスクエア(Portman Square)へ向かって西に延びる通りで、地下鉄オックスフォードサーカス駅(Oxford Circus Tube Station)から地下鉄ボンドストリート駅(Bond Street Tube Station)前を通り、地下鉄マーブルアーチ駅(Marble Arch Tube Station)へ向かって西に延びるオックスフォードストリート(Oxford Streetー2016年5月28日付ブログで紹介済)の一本北側を並行して走っている。

ウィグモアストリート沿いのショーウィンドウ(その1)
ウィグモアストリート沿いのショーウィンドウ(その2)

19世紀後半より、ウィグモアストリート沿位には、検眼士、眼鏡技師や眼科器具の製造業者等が多く集中していた。これは、ウィグモアストリートが交差するハーリーストリート(Harley Streetー2015年4月11日付ブログで紹介済)やウィンポールストリート(Wimpole Street)に医療関係者が数多く開業していたことによるものと思われる。

ウィグモアホールの入口(その1)
ウィグモアホールの入口(その2)

ウィグモアストリートの北側で、ウィンポールストリートとウェルベックストリート(Welbeck Streetー2015年5月16日付ブログで紹介済)に東西を挟まれたところに、「ウィグモアホール(Wigmore Hall)」と呼ばれるコンサートホールが建っている。

老舗の薬局ジョン・ベル&クロイデン
ジョン・ベル&クロイデンは、
英国王室の御用達に指定されている

また、ウィグモアストリートがウィンポールストリートと交差する北西の角には老舗の薬局ジョン・ベル&クロイデン(John Bell & Croyden)が1912年から営業を続けている。

ポートマンスクエア近くのウィグモアストリート

ちなみに、ウィグモアストリート95番地には、ビートルズ(Beatles)が所属していたアップルコーポレーション(Apple Corporation)がサヴィルロウ(Savile Row)へ移転するまでの間、元々のオフィスが所在していた。

2017年8月13日日曜日

ロンドン ミドルテンプルレーン(Middle Temple Lane)

ハードキャッスル警部とジェンキンス巡査の二人が、
道端に停めた警察車輌の中から、マリーナ・ライヴァルの動向を探る場面として、
ミドルテンプルレーンが撮影に使用されている

アガサ・クリスティー作「複数の時計(The Clocks)」(1963年)は、エルキュール・ポワロシリーズの長編で、今回、ポワロは殺人事件の現場へは赴かず、また、殺人事件の容疑者や証人への尋問も直接は行わないで、ロンドンにある自分のフラットに居ながらにして(=完全な安楽椅子探偵として)、事件の謎を解決するのである。



キャサリン・マーティンデール(Miss Katherine Martindale)が所長を勤めるキャヴェンディッシュ秘書紹介所(Cavendish Secretarial Bureau)から派遣された速記タイピストのシーラ・ウェッブ(Sheila Webb)は、ウィルブラームクレッセント通り19番地(19 Wilbraham Crescent)へと急いでいた。シーラ・ウェッブが電話で指示された部屋(居間)へ入ると、彼女はそこで身なりの立派な男性の死体を発見する。男性の死体の周囲には、6つの時計が置かれており、そのうちの4つが何故か午後4時13分を指していた。鳩時計が午後3時を告げた時、ウィルブラームクレッセント19番地の住人で、目の不自由な女教師ミリセント・ペブマーシュ(Miss Millicent Pebmarsh)が帰宅する。自宅内の異変を感じたミリセント・ペブマーシュが男性の死体へと近づこうとした際、シーラ・ウェッブは悲鳴を上げながら、表へと飛び出した。そして、彼女は、ちょうどそこに通りかかった青年コリン・ラム(Colin Lamb)の腕の中に飛び込むことになった。

ヴィクトリアエンバンクメント通り側から
ミドルテンプルレーンへ入る門のアップ(その1)
ヴィクトリアエンバンクメント通り側から
ミドルテンプルレーンへ入る門のアップ(その2)

実は、コリン・ラム青年は、警察の公安部員(Special Branch agent)で、何者かに殺された同僚のポケット内にあったメモ用紙に書かれていた「M」という文字、「61」という数字、そして、「三日月」の絵から、ウィルブラームクレッセント19番地が何か関係して入るものと考え、付近を調査していたのである。「M」を逆さまにすると、「W」になり、「ウィルブラーム」の頭文字になる。「三日月」は「クレッセント」であり、「61」を逆さまにすると、「19」となる。3つを繋げると、「ウィルブラームクレッセント通り19番地」を意味する。

ヴィクトリアエンバンクメント通り側から
ミドルテンプルレーンへ入る(その1)
ヴィクトリアエンバンクメント通り側から
ミドルテンプルレーンへ入る(その2)
ヴィクトリアエンバンクメント通り側から
ミドルテンプルレーンへ入る(その3)

クローディン警察署のディック・ハードキャッスル警部(Inspector Dick Hardcastle)が本事件を担当することになった。
シーラ・ウェッブは、ミリセント・ペブマーシュの家へ今までに一度も行ったことがないと言う。また、ミリセント・ペブマーシュは、キャヴェンディッシュ秘書紹介所に対して、シーラ・ウェッブを名指しで仕事を依頼する電話をかけた覚えはないと答える。更に、シーラ・ウェッブとミリセント・ペブマーシュの二人は、ウィルブラームクレッセント通り19番地の居間で死体となって発見された男性について、全く覚えがないと証言するのであった。
ミリセント・ペブマーシュの居間においてキッチンナイフで刺されて見つかった身元不明の死体は「R.・H・カリイ(R. H. Curry)」とされたが、スコットランドヤードの捜査の結果、全くの偽名であることが判明し、身元不明へと逆戻りする。彼が目の不自由な老婦人の居間で刺殺される理由について、スコットランドヤードも、そして、コリン・ラムも、皆目見当がつかなかった。途方に暮れたコリン・ラムは、ポワロに助けを求める。年若き友人からの頼みを受けて、ポワロの灰色の脳細胞が事件の真相を解き明かす。

フリートストリート側から
ミドルテンプルレーンへ入る(その1)
フリートストリート側から
ミドルテンプルレーンへ入る(その2)
フリートストリート側から
ミドルテンプルレーンへ入る(その3)

英国のTV会社 ITV1 で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie’s Poirot」の「複数の時計」(2011年)では、アガサ・クリスティーの原作が第二次世界大戦(1939年ー1945年)後の米ソ冷戦状態を物語の時代背景としたことに対して、他のシリーズ作品と同様に、第一次世界大戦(1914年ー1918年)と第二次世界大戦の間に物語の時代設定を置いている関係上、第二次世界大戦前夜を時代背景として、英国の仮想敵国を原作のソビエト連邦からアドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツへと変更している。また、物語の舞台も、サセックス州(Sussex)のクロウディーン(Crowdean)からケント州(Kent)のドーヴァー(Dover)へと変更されている。更に、コリン・ラムの名前は、コリン・レイス大尉(Liteunant Colin Race)となり、警察の公安部員ではなく、MI6 の秘密情報部員(intelligence officer)という設定に変えられている。

ミドルテンプルレーンの西側にある
ブリックコート(Brick Court)ーその1
ミドルテンプルレーンの西側にある
ブリックコート(Brick Court)ーその2

TV版では、物語の後半、ミリセント・ペブマーシュが住むウィルブラームクレッセント19番地(ドーヴァー)の居間において死体で見つかった身元不明の男性の妻と称するマリーナ・ライヴァル(Merlina Rival)が警察へ名乗り出た。死体で見つかった男性は、当初、保険会社 Metroploitan and Provincial Insurance Company に勤務するR・H・カリイ氏とされたが、後に偽名であることが判明。マリーナ・ライヴァルによると、彼の本名はハリー・キャッスルトン(Harry Castleton)で、結婚していたが、約5年前に行方が判らなくなったと言う。彼女が言う通り、男性の左耳の後ろに傷跡があったが、彼女の説明とは異なり、15年以上前の傷ではなく、数年前の傷であるとの検死結果が出た。彼女の証言内容に疑問を感じたハード・キャッスル警部やジェンキンス巡査(Constable Jenkins)は、道端に停めた警察車輌の中から彼女の動向を探るが、二人で話をしている間に彼女の姿を見失ってしまう。慌てたハードキャッスル警部達は警察車輌から跳び出ると、彼女の行方を追うのであった。この場面は、ミドルテンプルレーン(Middle Temple Lane)で撮影されている。
アガサ・クリスティーの原作では、ハードキャッスル警部の部下はクレイ巡査部長(Sergeant Cray)であるが、TV版では、ジェンキンス巡査に変更されている。

ミドルテンプルレーンの中間辺りから
フリートストリート方面を望む

ミドルテンプルレーンは、ロンドンの経済活動の中心地であるシティー・オブ・ロンドン(City of London)の西端に位置している「テンプル(Temple→2014年8月25日付ブログで紹介済)」と呼ばれるエリア内に所在している。テンプル地区は、テムズ河(River Thames)沿いを東西に延びるヴィクトリアエンバンクメント通り(Victoria Embankment)とストランド地区(Strand)からシティー・オブ・ロンドンへ向かって東に延びるフリートストリート(Fleet Street→2014年9月21日付ブログで紹介済)に南北を挟まれたエリアで、ここには「ミドルテンプル(Middle Temple)」 / 「インナーテンプル(Inner Temple)」と呼ばれる2つの法曹院(Inns of Court)や法廷弁護士(barrister)の事務所等が集中している。ロンドンには、全部で4つの法曹院があり、他の2つは直ぐ北側のホルボーン地区(Holborn→2016年9月24日付ブログで紹介済)内にあるリンカーン法曹院(Lincoln’s Inn→2017年3月19日付ブログで紹介済)とグレイ法曹院(Gray’s Inn)である。

ミドルテンプルレーンから
ヴィクトリアエンバンクメント通りを望む
ミドルテンプルレーンの中間辺りから
ヴィクトリアエンバンクメント通り方面を望む 
ミドルテンプルレーンから
クラウンオフィスロウ(Crown Office Row)へ入る場所

テンプル地区の一番西側で、ヴィクトリアエンバンクメント通りとフリートストリートを南北に結ぶ通りが、ミドルテンプルレーンである。
ミドルテンプルレーンの両側には、ロンドン内に4つある法曹院の1つである「ミドルテンプル」関係の講堂ミドルテンプルホール(Middle Temple Hall)や図書館等、そして、法廷弁護士の事務所が立ち並んでいる。

ミドルテンプルホールの建物
ミドルテンプルホールの北側にある
ファウンテンコート(Fountain Court)

ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare::1564年ー1616年)作「十二夜(Twelfth Night)」(1601年ー1602年)の最初の公演は、1602年にミドルテンプルホールで行われたとの記録が残っている。ミドルテンプルホールは、祝宴、結婚式やパーティー等のために、外部への貸出も行われている。