2020年10月31日土曜日

シャーロック・ホームズ記念切手4「踊る人形」(Sherlock Holmes - The Adventure of the Dancing Men)

英国 BBC が制作した TV ドラマ「シャーロック」の放映10周年を記念して
発行された6種類の切手に加えて、
4種類のシャーロック・ホームズシリーズの記念切手が、
2020年8月18日に発行された。
今回紹介するのは、そのうちの一つである「踊る人形」。

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)原作のシャーロック・ホームズシリーズを翻案して、舞台をヴィクトリア朝時代のロンドンから21世紀のロンドンに置き換え、自称「コンサルタント探偵」のシャーロック・ホームズが、同居人かつ相棒であるジョン・ヘイミッシュ・ワトスンと一緒に、スマートフォンやインターネット等の最新機器を駆使して、事件を解決する様を描くTVドラマ「シャーロック(Sherlock)」が2010年7月に英国 BBC1 で放映されてから10周年を記念して、2020年8月18日に英国ロイヤルメール(Royal Mail)から6種類の記念切手が発行された。

それらと一緒に、コナン・ドイル原作のシャーロック・ホームズシリーズについても、4種類の記念切手が発行された。

2014年10月17日から2015年4月12日まで、
ロンドン博物館(Museum of London)において開催された
シャーロック・ホームズ展
(Sherlock Holmes - The Man Who Never Lived and Will Never Die) では、
博物館の入口周辺に、「踊る人形」をテーマにした装飾が施されていた。



4番目に紹介するのは、「踊る人形(The Adventure of the Dancing Men)」である。

本作品は、56ある短編小説のうち、27番目に発表された。

英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1903年12月号に掲載された後、1905年発行の第3短編集「シャーロック・ホームズの帰還(The Return of Sherlock Holmes)」に収録されている。なお、米国では、「コリアーズ ウィクリー」の1903年12月5日号に掲載された。




ノーフォーク州(Norfolk)一番の旧家で、リドリングソープ屋敷(Ridling Thorpe Manor)に住むヒルトン・キュービット氏(Hilton Cubitt)が、ある相談のため、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)に住むシャーロック・ホームズの元を訪れる。

彼によると、ヒルトン・キュービット邸に、踊っているように見える奇妙な人形の落書きが残され、彼が最近結婚した米国出身の妻であるエルシー・パトリック(Elsie Patrick)が、これらの落書きを見て、非常に怯えている、とのこと。ジョン・H・ワトスンは、「子供の落書きではないか?」と推測するが、ホームズは、「それ程簡単なものではなく、何か重要なメッセージを伝えるものではないか?」と考えているようだった。




その後も、キュービット邸の道具小屋の壁や日時計の上等にも、踊るような人形の落書きが続き、事態が急を告げていることに気付いたホームズが、ワトスンと一緒に、翌朝一番の汽車で、ノーフォーク州のキュービット邸へと向かったが、残念ながら、一歩遅く、既に悲劇が起きており、キュービット氏と妻のエルシーが撃たれて、キュービット氏は亡くなっていたのである。




記念切手には、ノーフォーク州のリドリングソープ屋敷において、何者かが道具小屋の壁に踊るような人形の落書きをしているのを、ヒルトン・キュービット氏が室内から様子を窺っている場面が描かれている。



2020年10月25日日曜日

アガサ・クリスティー作「五匹の子豚」<グラフィックノベル版>(Five Little Pigs by Agatha Christie

HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「五匹の子豚」のグラフィックノベル版の表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-
事件の被害者であるアミアス・クレイルが画家であることに因み、
事件の重要関係者である5人を絵の具に例え、
5つのチューブから出ている絵の具が、
16年前に発生した事件を回想する内容として描かれている。


7番目に紹介するアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)によるグラフィックノベル版は、「五匹の子豚(Five Little Pigs)」(1943年)である。

本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第32作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズに属する長編のうち、第21作目に該っている。


HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「五匹の子豚」のグラフィックノベル版の裏表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-
16年前に発生した過去の事件を示すための木の年輪を表しているのだろうか?

本作品のグラフィックノベル版は、元々、フランス人の作家である Miceal O’Griafa (1965年ー)が構成を、そして、フランス人のイラストレーターである David Charrier (1976年ー)が作画を担当して、2009年にフランスの Heupe SARL から「Cinq Petits Cochons」というタイトルで出版された後、2010年に英国の HarperCollinsPublishers から英訳版が発行されている。


物語の冒頭、カーラ・ルマルション嬢が、ある事件の調査を依頼するために、
エルキュール・ポワロの元を訪ねた場面


物語の冒頭、カーラ・ルマルション嬢(Carla Lemarchant)が、ある事件の調査を依頼するために、エルキュール・ポワロの元を訪れる。彼女は、この世で望み得る最高の探偵を必要としていたのだ。

カーラ・ルマルション嬢の母親であるカロリン・クレイルは、
16年前、ビールに毒を盛って、
絵のモデルであるエルサ・グリヤーを愛人にしている夫のアミアス・クレイルを殺害した罪で、
有罪判決を受けて、終身刑を宣告され、1年後に獄中で死亡していた。


21歳の誕生日を迎えるに際して、現在、カナダで暮らすカーラ・ルマルションこと、本名カロリン・クレイル(Caroline Crale)は、恐ろしい事実を突き付けられることになった。彼女は、英国の有名な画家であるアミアス・クレイル(Amyas Crale)の娘として、遺産を相続することになったが、16年前、その父親は、彼女と同名の母親カロリン・クレイル(Caroline Crale)によって毒殺されたと言うのだ。その時、彼女は、まだ5歳だった。彼女は、カナダに住む伯父夫妻へと送られ、名前もカロリン・クレイルから現在のカーラ・ルマルションへと変えられたのであった。彼女の母親は、裁判で有罪判決を受けて、終身刑を宣告され、1年後に獄中で死亡していた。

カーラ・ルマルション嬢の依頼を受けて、ポワロが、彼女と一緒に、
彼女の父親であるアミアス・クレイルが16年前に毒殺された現場を訪れる場面


彼女の母親は、自分の娘(彼女)が21歳になった際に読むようにと、手紙を残していた。その手紙は、自分は無実であることを訴える内容だった。手紙を読んだ彼女は、母親が潔白であることに確信を抱いた。

彼女は、ジョン・ラッテリー(John Rattery)と婚約して、結婚を目前に控えていたが、婚約者であるジョンは、時々、自分をどこか疑うような目つきで見てることに気付く。彼女は、夫殺しの女の娘ではないか、と。

彼女としては、16年前の事件が、これからの自分の結婚生活に不吉な影を落とさないためにも、母親の無実をなんとか証明したいと望んでいたのである。


カーラ・ルマルション嬢の父親で、画家のアミアス・クレイルが、
彼の親友であるフィリップ・ブレイクに対して、
彼の絵のモデルであるエルサ・グリヤーを紹介する場面

カーラ・ルマルション嬢の話に興味を覚えたポワロは、早速、事件の調査に取りかかる。しかしながら、証拠は、彼女の母親にとって圧倒的に不利な上に、夫を毒殺する動機もあった。ポワロは、事件の重要関係者である5人に会い、事件当時における各自の記憶を辿ることで、事件の糸口を見い出そうとするのだった。


タイトルの「五匹の子豚」は、マザーグースの童謡に因んでいる -
ポワロが訪ねる事件の重要関係者である5人に対して、上記の5つの歌詞が割り当てられている。


事件の重要関係者である5人は、以下の通り。

(1)フィリップ・ブレイク(Philip Blake)ーアミアス・クレイルの親友で、カロリン・クレイルに振られた過去がある。現在は、株式仲買人をしている。

(2)メレディス・ブレイク(Meredith Blake)ーフィリップの兄で、カロリン・クレイルに秘かに恋愛感情を抱いていた。現在は、隠居して、薬草の研究をしている。

(3)エルサ・ディティシャム(Elsa Dittisham)ー旧姓は、エルサ・グリヤー(Elsa Greer)。事件当時、アミアスの絵のモデルで、彼の愛人でもあった。現在は、ディティシャム卿夫人(Lady Dittisham)となっている。

(4)セシリア・ウィリアムズ(Cecilia Williams)ー事件当時、カロリン・クレイルの異母妹であるアンジェラ・ウォレン(Angela Warren)の家庭教師だった。

(5)アンジェラ・ウォレンーカロリン・クレイルの異母妹。事件当時、クレイル家に同居しており、女癖の悪いアミアスを毛嫌いしていた。赤ん坊の頃、カロリンがカッとなったため、片目を失明。現在は、考古学者をしている。


ポワロが、16年前に発生した毒殺事件の真相を解明する場面 -
画面左側から、エルキュール・ポワロ、アンジェラ・ウォレン、
カーラ・ルマルション(本名:カロリン・クレイル)、セシリア・ウィリアムズ、
メレディス・ブレイク、フィリップ・ブレイク、そして、エルサ・ディティシャム(旧姓:エルサ・グリヤー)


タイトルの「五匹の子豚」は、マザーグースの童謡(5匹の子豚が登場する数え歌 → 2023年6月2日付ブログで紹介済)に因んでおり、ポワロが訪ねる事件の重要関係者である5人に対して、5つの歌詞が割り当てられている。


この子豚は、市場へ行った。(This little pig went to market.)

この子豚は、家に居た。(This little pig stayed home.)

この子豚は、ローストビーフを食べた。(This little pig had roast beef.)

この子豚は、何も持っていなかった。(This little pig had none.)

この子豚は、「ウィー、ウィー、ウィー」と鳴く。(And this little pig cried, Wee-wee-wee.)

帰り道が分からない。(I can’t find way my home.)


(1)フィリップ・ブレイク: 市場へ行った(Went to Market)

(2)メレディス・ブレイク: 家に居た(Stayed at Home)

(3)エルサ・グリヤー: ローストビーフを食べた(Had Roast Beef)

(4)セシリア・ウィリアムズ: 何も持っていなかった(Had None)

(5)アンジェラ・ウォレン: ウィー、ウィー、ウィーと鳴く(Cried 'Wee Wee Wee')


「市場へ行った」とは、事件後、フィリップ・ブレイクが株式仲買人になったことを、「家に居た」とは、事件後、メレディス・ブレイクが隠居して、薬草の研究をしていることを、「ローストビーフを食べた」とは、アミアス・クレイルの絵のモデルで、彼の愛人でもあったエルサ・グリヤーが、事件後、貴族と結婚して、ディティシャム卿夫人となっていることを、「何も持っていなかった」とは、事件後、セシリア・ウィリアムズが一人寂しく生活していることを、そして、「ウィー、ウィー、ウィーと鳴く」とは、女癖の悪いアミアスを毛嫌いしていたアンジェラ・ウォレンが、事件発生当時、彼に対して、いろいろと悪戯を仕掛けて、彼を閉口させていたことを指すのではないかと思われる。


妻のカロリン・クレイルが注いだビールを飲んで、
アミアス・クレイルが、「Everything tastes foul today.」という重要な言葉を発する場面 -
何故か、前の場面では、「Everything tastes odd today.」と、フランス語から英語に翻訳されている。


ページ数(44ページ)の関係上、アガサ・クリスティーの原作では、他にも登場人物は居るものの、グラフィックノベル版では、登場人物は、ポワロ、事件の依頼者であるカーラ、彼女の父親アミアスと母親カロリン、そして、事件の重要関係者である5人のみに絞られ、物語が描かれている。

全体の約 3/4 は、カーラから依頼を受け、ポワロが事件の重要関係者である5人に会う場面に使われ、残りの約 1/4/ は、ポワロによる真相解明の場面として、丁寧に進められている。

また、現代の場面は、勿論、カラーであるが、過去に遡った場面は、セピア色で描かれ、現代と過去が明確に判るようになっている。

ただ、アミアスが妻のカロリンから注がれたビールを飲んで、重要な言葉である「Everything tastes foul today.」と発しているが、ポワロによる真相解明時には、その通りの言葉となっているものの、事件の重要関係者の一人である回想においては、「Everything tastes odd today.」となっている。これは、フランス語版から英語版に翻訳する際のミスではないかと思われる。


2020年10月24日土曜日

シャーロック・ホームズ記念切手3「第二のしみ」(Sherlock Holmes - The Adventure of the Second Stain)

英国 BBC が制作した TV ドラマ「シャーロック」の放映10周年を記念して
発行された6種類の切手に加えて、
4種類のシャーロック・ホームズシリーズの記念切手が、
2020年8月18日に発行された。
今回紹介するのは、そのうちの一つである「第二のしみ」。

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)原作のシャーロック・ホームズシリーズを翻案して、舞台をヴィクトリア朝時代のロンドンから21世紀のロンドンに置き換え、自称「コンサルタント探偵」のシャーロック・ホームズが、同居人かつ相棒であるジョン・ヘイミッシュ・ワトスンと一緒に、スマートフォンやインターネット等の最新機器を駆使して、事件を解決する様を描くTVドラマ「シャーロック(Sherlock)」が2010年7月に英国 BBC1 で放映されてから10周年を記念して、2020年8月18日に英国ロイヤルメール(Royal Mail)から6種類の記念切手が発行された。


それらと一緒に、コナン・ドイル原作のシャーロック・ホームズシリーズについても、4種類の記念切手が発行された。


3番目に紹介するのは、「第二のしみ(The Adventure of the Second Stain)」である。

本作品は、56ある短編小説のうち、37番目に発表された。

英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1904年12月号に掲載された後、1905年発行の第3短編集「シャーロック・ホームズの帰還(The Return of Sherlock Holmes)」に収録されている。なお、米国では、「コリアーズ ウィクリー(Collier's Weekly)」の1905年1月28日号に掲載された。


秋のある火曜日の朝、英国首相であるベリンガー卿(Lord Bellinger)と欧州問題担当大臣(Secretary for European Affairs)のトレローニー・ホープ(Trelawney Hope)が、ある極秘の用件で、ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪ねて来る。

彼らの説明によると、ある非常に重要な手紙が入った封筒が盗まれたと言う。問題の封筒は、欧州問題担当大臣の自宅寝室の鏡台に置いてある鍵のかかった書類箱内に保管されていたのだが、今朝、それが無くなっていたのである。首相曰く、この手紙を無事に取り戻せるかどうかによって、欧州全体の平和が大きく左右される、とのことだった。

首相と欧州問題担当大臣の二人が帰ると、ホームズはジョン・ワトスンに対して、「こんな大それたことができるのは、僕が知る限りでは、三人だけで、エドアルド・ルーカス(Eduardo Lucas)がその一人だ。」と話す。ワトスンが「新聞記事によると、エドアルド・ルーカスは昨夜自宅で殺害されたようだ。」と告げると、ホームズは非常に驚くのであった。


ウェストミンスター殺人事件

昨夜、ゴドルフィンストリート16番地において、不可解な事件が発生した。現場は、国会議事堂のヴィクトリアタワーすぐ近く、テムズ河とウェストミンスター大寺院の間にあり、古めかしく、そして、辺りから隔絶された18世紀の家々が建ち並ぶ通りの一つである。この小さいながらも洗練された邸宅に、エドアルド・ルーカス氏はここ数年住んでいた。彼は魅力的な性格をしており、その上、我が国における最も優れたアマチュアのテノール歌手の一人であるという正にその通りの評判によって、彼は社交界では非常に有名であった。ルーカス氏は独身の34歳で、彼の世帯構成は、老家政婦のプリングル夫人と従者のミットンの二人だけだった。家政婦は家の最上階で早めに就寝する習慣であった。また、従者はその晩ハマースミスの友人のところへ出かけて不在だった。よって、午後10時以降、ルーカス氏は家に一人で居たのである。その間に何が起きたのかについては、まだ判っていないが、午後11時45分にバレット巡査がゴドルフィンストリートを巡回した際、16番地の戸口が少し開いているのに気がついた。そこで、彼は扉をノックしたが、何の返事もなかった。正面の部屋に灯りが点いているのが判ったので、彼は廊下を進み、もう一度ノックしたものの、応答がなかった。それかれ、彼はドアを押し開いて、その部屋へ入った。その部屋の内は、手に負えない程乱れた状態で、家具は全て片側に寄せられ、部屋の中央には倒れた椅子が一脚あった。椅子の近くには、その椅子の一本の足をまだ握ったままの状態で、その家の不幸な住民であるルーカス氏が横たわっていたのである。彼は心臓を刺されて、即死だったものと思われる。彼の殺害に使用されたナイフは、湾曲したインドの短剣で、ある壁に飾ってあった東洋の武器の戦利品の一つであった。強盗が犯行の目的ではなかったようだ。何故ならば、その部屋にあった貴重品を持ち去ろうとした様子がなかったからである。エドアルド・ルーカス氏は非常に有名で、人気があったので、彼の乱暴で謎に満ちた死は、各方面の友人達に悲痛な関心と強烈な同情を引き起こすだろう。


記念切手は、エドアルド・ルーカスが殺害された部屋で、シャーロック・ホームズが捜査する場面が描かれている。

ホームズが室内を捜査したところ、ルーカスが倒れていた絨毯に付いていた血のしみが、その下の床板には付いておらず、別の箇所の床板に第二のしみ(The Second Stain)がついていた。

ルーカスが殺害された日、彼の部屋で、一体、何が起きたのだろうか?そして、英国首相と欧州問題担当大臣が必死にその行方を捜している「ある非常に重要な手紙」が入った封筒は、どこへ消えたのか?

この手紙の内容が公表されて、英国を含む欧州全体が大混乱に陥るのを回避すべく、ホームズが極秘裏に捜査を進め、これらの謎を解明するのであった。


2020年10月18日日曜日

アガサ・クリスティー作「終わりなき夜に生れつく」<グラフィックノベル版>(Endless Night by Agatha Christie

HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「終わりなき夜に生れつく」の
グラフィックノベル版の表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-
終わりなき夜へと鳥が飛び立つ場面が描かれている。


6番目に紹介するアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)による長編作品のグラフィックノベル版は、「終わりなき夜に生れつく(Endless Night)」(1967年)である。

本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第58作目に該っている。


本作品のグラフィックノベル版は、元々、フランス人の作家であるフランソワ・リヴィエール(Francois Riviere:1949年ー)が構成を、そして、ベルギー出身のイラストレーターであるフランク・ルクレルク(Frank Leclercq:1967年ー)が作画を担当して、2003年にフランスの Heupe SARL から「La Nuit qui ne finit pas」というタイトルで出版された後、2008年に英国の HarperCollinsPublishers から英訳版が発行されている。


HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「終わりなき夜に生れつく」の
グラフィックノベル版の裏表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)


キングストンビショップ村(Kingston Bishop)にある「ジプシーが丘(Gipsy’s Acre)」は、海を臨むことができる美しい眺望の景勝地であったが、そこで以前に起こった不吉な事故によって、キングストンビショップ村の住民達からは、呪われた伝説を持つ土地として、非常に恐れられていた。


キングストンビショップ村にある「ジプシーが丘」において、
マイケル・ロジャース(マイク)とフェニラ・グットマン(エリー)の二人は出会い、恋に落ちる。


ある日、皆に恐れられている「ジプシーが丘」において、

(1)ドライバー等の職業を転々とするその日暮らしの風来坊であるマイケル・ロジャース(Michael Rogersー通称:マイク(Mike))→この物語の語り手

(2)米国の大富豪(石油王)の娘で、裕福な相続人であるフェニラ・グットマン(Fenella Gutemanー通称:エリー(Ellie))

は出会い、会った瞬間に、若い二人は恋に落ちた。

そして、「ジプシーが丘」こそ、自分達の生活のスタート地点として相応しいと考えたのである。


マイクとエリーの二人は、
キングストンビショップ村に住む占い師の老女エスター・リーから
「ジプシーが丘には近づいてはならない。」と警告を受けるが、無視してしまう。


マイクとエリーの二人は、幸いにも、スカンディナヴィア出身で、エリーの世話係であるグレタ・アンダーセン(Greta Andersen)の助けを得て、短い交際期間を経た後、お互いの身分の違いを乗り越え、こっそりと結婚式を挙げた。

マイクとエリーの二人は、「ジプシーが丘」一帯の土地を購入すると、マイクがドライバーとして働いていた頃に知り合った芸術家気質の著名な建築家であるルドルフ・サントニックス(Rudolf Santonix)に対して、荒れた屋敷を取り壊した跡地に二人の夢の邸宅を建ててもらうよう、依頼すると、欧州大陸への新婚旅行へと旅立った。

二人は、キングストンビショップ村に住む占い師の老女エスター・リー(Esther Lee)から、「ジプシーが丘には近づいてはならない。」と強く警告を受けていたが、それを無視してしまったのである。


マイクとエリーの二人は、知り合いの建築家であるルドルフ・サントニックスに依頼して、
「ジプシーが丘」に自分達の夢の邸宅を建ててもらった。


不治の病を患っていて、余命いくばくもないルドルフであったが、マイクとエリーの期待に答えて、二人の夢の邸宅を無事に建て終えた。

新婚旅行から英国へと戻って来たマイクとエリーの二人は、「ジプシー丘」の夢の邸宅に住み始めるが、老女エスター・リーによる警告通り、二人の夢は悪夢へと変わるのであった。


そして、衝撃のラストが待ち構えている。


何者かが、マイクとエリーの二人を「ジプシーが丘」から立ち去らせようとしていた。


イラストレーターであるフランク・ルクレルクによる作画は、「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」のグラフィックノベル版(→2020年9月13日付ブログで紹介済)と同様に、劇画風で、非常にリアルなキャラクターを以って、物語が進行する。

「そして誰もいなくなった」のグラフィックノベル版と比べると、全体を通して、コマ割りはかなり大きく、明るいカラーリングであるが、個人的には、アガサ・クリスティーによる原作が有する不穏な雰囲気をうまく伝えていると思う。


ある悲劇が発生する9月17日の朝の場面 - 
画面左側から、グレタ・アンダーセン、マイク、そして、エリー。


ちなみに、タイトルの「終わりなく夜に生れつく(Endless Night)」は、英国の詩人、画家で、銅版画職人でもあったウィリアム・ブレイク(William Blake:1757年ー1827年)による詩「無垢の予兆(Auguries of Innocence)」の一節から採られている。

Every Night and every Morn

Some to Misery are born.

Every Morn and every Night

Some are born to Sweet Delight,

Some are born to Sweet Delight,

Some are born to Endless Night. 


2020年10月17日土曜日

シャーロック・ホームズ記念切手2「赤毛組合」(Sherlock Holmes - The Red-Headed League)

英国 BBC が制作した TV ドラマ「シャーロック」の放映10周年を記念して
発行された6種類の切手に加えて、
4種類のシャーロック・ホームズシリーズの記念切手が、
2020年8月18日に発行された。
今回紹介するのは、そのうちの一つである「赤毛組合」。

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)原作のシャーロック・ホームズシリーズを翻案して、舞台をヴィクトリア朝時代のロンドンから21世紀のロンドンに置き換え、自称「コンサルタント探偵」のシャーロック・ホームズが、同居人かつ相棒であるジョン・ヘイミッシュ・ワトスンと一緒に、スマートフォンやインターネット等の最新機器を駆使して、事件を解決する様を描くTVドラマ「シャーロック(Sherlock)」が2010年7月に英国 BBC1 で放映されてから10周年を記念して、2020年8月18日に英国ロイヤルメール(Royal Mail)から6種類の記念切手が発行された。それらと一緒に、コナン・ドイル原作のシャーロック・ホームズシリーズについても、4種類の記念切手が発行された。

2番目に紹介するのは、「赤毛組合(The Red-Headed League)」である。本作品は、56ある短編小説のうち、2番目に発表された。「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1891年8月号に掲載された後、1892年発行の第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」に収録されている。「ストランドマガジン」の1927年3月号で、コナン・ドイルは、シャーロック・ホームズシリーズの自選12編の中で、本作品を第2位に推している。


ジョン・H・ワトスンがベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れると、彼は燃えるような赤毛の初老の男性ジェイベス・ウィルスン(Jabez Wilson)から相談を受けている最中であった。ジェイベス・ウィルスンは、ロンドンの経済活動の中心地であるシティー(Cityー2018年8月4日 / 8月11日付ブログで紹介済)近くにあるザクセンーコーブルクスクエア(Saxe-Coburg Squareー2016年1月1日付ブログで紹介済)において質屋(pawnbroker)を営んでおり、最近非常に奇妙な体験をしたと言うので、ホームズとワトスンの二人は彼から詳しい事情を聞くのであった。

ジェイベス・ウィルスンの話に興味を覚えたホームズは、彼が質屋で雇っているヴィンセント・スポールディング(Vincent Spaulding)のことについて質問した。彼の説明を聞いたホームズには、何か思い当たる節があるようだった。ジェイベス・ウィルスンが辞去した後、ホームズはワトスンを誘って、地下鉄でシティー近くまで行き、ジェイベス・ウィルスンが営む質屋へと向かった。ホームズは質屋のドアをノックし、応対に出て来たヴィンセント・スポールディングに道を尋ねると、その場を立ち去った。質屋の前の敷石をステッキで数回叩き、そして、ヴィンセント・スポールディングの膝の汚れを確認したホームズがワトスンに告げた内容は、「あの男(ヴィンセント・スポールディング)はロンドンで4番目に狡賢く、3番目に大胆な奴だ。」だった。ホームズとワトスンの二人が質屋の裏の大通りへ出ると、そこには、タバコ屋、新聞販売所、レストランや馬車製造会社の倉庫等の他に、銀行(City and Surburban Bank)の支店(City branch)が建ち並んでいた。

セントジェイムズホール(St. James's Hallー2014年10月4日付ブログで紹介済)でサラサーテ(パブロ・マルティン・メリトン・デ・サラサーテ・イ・ナバスクエス Pablo Martin Meliton de Sarasate y Navascuez:1844年ー1908年 スペイン出身の作曲家兼ヴァイオリン奏者)の演奏会を楽しんだ後、ホームズはワトスンに「今夜仕事を手伝ってほしい。」と頼む。一旦自宅に戻ったワトスンが夜再度ベーカーストリート221Bを訪れると、そこには、ホームズの他に、スコットランドヤードのピーター・ジョーンズ(Peter Jones)とザクセンーコーブルクスクエアに支店がある銀行の頭取であるメリーウェザー氏(Mr Merryweather)が居た。ホームズは、ワトスンを含めた4人でこれからジョン・クレイ(John Clay)という犯罪者を捕まえるのだと言う。また、ピーター・ジョーンズによると、ジョン・クレイは彼が以前から追っている重罪犯とのこと。ホームズも、ジョン・クレイとは1~2度関わりを持ったことがあるらしい。ホームズ達4人は、2台の馬車に分かれて、ベーカーストリートからザクセンーコーブルクスクエアの質屋の裏側にある銀行へと向かった。

地下鉄ベーカーストリート駅(Baker Street Tube Station)内の
ジュビリーライン(Jubilee Line)のホーム壁に設置されているシャーロック・ホームズシリーズの名場面 -
これは、「赤毛組合」で、ジェイベス・ウィルスンが営む質屋の裏側に建つ銀行の地下室において、
画面左側から、銀行の頭取であるメリーウェザー氏、スコットランドヤードのピーター・ジョーンズ、
シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの4人が、
暗闇の中、黙って待ち伏せを続けている場面が描かれている。

念切手には、ジェイベス・ウィルスンが営む質屋の裏側に建つ銀行の地下室において、シャーロック・ホームズ(画面左手奥)、ジョン・H・ワトスン、スコットランドヤードのピーター・ジョーンズ、そして、銀行の頭取であるメリーウェザー氏の4人が、暗闇の中、黙って待ち伏せを続けたところ、地下室の敷石の一つが持ち上げられ、質屋からトンネルを通って来たヴィンセント・スポールディングこと、ジョン・クレイが姿を現した場面が描かれている。

2020年10月11日日曜日

アガサ・クリスティー作「もの言えぬ証人」<グラフィックノベル版>(Dumb Witness by Agatha Christie

グラフィックノベル版の表紙(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)には、
エミリー・アランデルが転落した小緑荘の階段を背景に、
彼女の愛犬ボブと遊び道具のボールが描かれている。

5番目に紹介するアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)による長編作品のグラフィックノベル版は、「もの言えぬ証人(Dumb Witness)」(1937年)である。 本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第21作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第14作目に該っている。
 
グラフィックノベル版の表紙(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)の裏表紙には、
エミリー・アランデルの愛犬ボブの好きな骨と遊び道具のボールがデザインされている。

本作品のグラフィックノベル版は、元々、イラストレーターであるマレック(Marek)が作画を担当して、2009年にフランスの Heupe SARL から「Temoin muet」というタイトルで出版された後、2010年に英国の HarperCollinsPublishers から英訳版が発行されている。
 
ある年の6月28日、エルキュール・ポワロは、エミリー・アランデルから手紙を受け取るが、
手紙の日付が2ヶ月以上前の4月17日になっているため、
それに興味を覚えたポワロは、相棒で友人でもあるアーサー・ヘイスティングス大尉を伴って、
彼女が住むバークシャー州マーケットベイジングにある小緑荘へと赴く。


ある年の6月28日、エルキュール・ポワロは、エミリー・アランデル(Emily Arundell)と名乗る老婦人から、自分の命に危険が迫っていることを示唆する内容の手紙を受け取る。奇妙なことに、手紙の日付は、その年の4月17日になっており、手紙がかかれてから2ヶ月後に投函されているのだった。ポワロの相棒で、友人でもあるアーサー・ヘイスティングス大尉(Capitain Arthur Hastings)は、「老婦人のとりとめのない妄想ではないか?」と疑問を呈したが、手紙が差し出された経緯について興味を覚えたポワロは、ヘイスティングス大尉を伴って、事実を確かめるために、エミリー・アランデルが住むバークシャー州(Berkshire)のマーケットベイジング(Market Basing)へ赴くことにした。

 ポワロとヘイスティングス大尉の二人が、エミリー・アランデルの住所である小緑荘(Littlegreen House)を訪れると、屋敷の前には、「売家」の札が掲げられていた。疑問を抱いた二人が地元で尋ねると、エミリー・アランデル本人は、1ヶ月以上も前になくなっていたのである。
 
イースター休暇の際、エミリー・アランデルが住む小緑荘には、
アランデル一族が集まった。


亡くなったエミリー・アランデルは、長女マチルダ(Matilda)、三女アラベラ(Arabella)、長男トーマス(Thomas)および四女アグネス(Agnes)の五人兄弟の次女で、ただ一人存命中だった。彼女は、父親のアランデル将軍からかなりの財産を相続しており、非常に裕福であった。彼女は、生涯未婚の上、自分の財産を遺す子供が居なかったため、以下の姪と甥が将来彼女の遺産を分け合うものと思われていた。
 
(1)ベラ・タニオス(Bella Tanios)ー三女アラベラの娘
            ジャコブ・タニオス(Dr. Jacob Tanios)ーギリシア人の医者で、ベラの夫 
(2)チャールズ・アランデル(Charles Arundell)ー長男トーマスの長男で、テリーザの兄
(3)テリーザ・アランデル(Theresa Arundell)ー長男トーマスの長女で、チャールズの妹
   レックス・ドナルドスン(Dr. Rex Donaldson)ー医者で、テリーザの婚約者

ところが、エミリー・アランデルは、亡くなるわずか数日前に、遺言書を書き換えていて、新しい遺言書により、彼女の全財産は、彼女の相手役(コンパニオン)であるウィルへルミナ・ロウスン(Wilhelmina Lawsonー通称:ミニー(Minnie))に遺贈され、彼女の本当の肉親である姪2人と甥1人に対しては、何も残されなかったのである。そのため、地元マーケットベイジングの住人達の間では、その噂でもちきりだった。 エミリー・アランデルの遺族の間で憤懣がつのる中、彼女の愛犬であった「もの言えぬ証人(Dumb Witness)」のテリア犬ボブ(Bob)は、彼女の死の真相究明に乗り出したポワロとヘイスティングス大尉に対して、何かを伝えようとしていた。

イースター休暇のある夜、
小緑荘の女主人であるエミリー・アランデルは、階段からの転落事故に遭う。
事故に居合わせたアランデル一族の面々は、
彼女の愛犬であるボブが階段のてっぺんに置きっ放しにした遊び道具のボールに、
彼女が躓いたためではないかと推測した。


ある年のイースター休暇に、アランデル一族が、エミリー・アランデルが住む小緑荘に集まる。アガサ・クリスティーの原作では、後に出てくる相手役のミニーを含むアランデル一族とエミリーの関係や経緯、そして、ある夜に発生したエミリーの階段からの転落事故、彼女の愛犬ボブの遊び道具で、階段のてっぺんに置きっ放しにしたボールに躓いたのではないかと思われること、更に、ベッドに寝たきりになってしまったエミリーがポワロ宛に手紙を書くに至った経緯等が、4ページでうまく表現された後、約2ヶ月経ってから、ポワロがエミリーからの手紙を受け取り、物語が本格的に始まるという流れに変更されていて、読者には判りやすい展開になっている。 

2020年10月10日土曜日

シャーロック・ホームズ記念切手1「まだらの紐」(Sherlock Holmes - The Adventure of the Speckled Band)

英国 BBC が制作した TV ドラマ「シャーロック」の放映10周年を記念して
発行された6種類の切手に加えて、
4種類のシャーロック・ホームズシリーズの記念切手が、
2020年8月18日に発行された。
今回紹介するのは、そのうちの一つである「まだらの紐」。


サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)原作のシャーロック・ホームズシリーズを翻案して、舞台をヴィクトリア朝時代のロンドンから21世紀のロンドンに置き換え、自称「コンサルタント探偵」のシャーロック・ホームズが、同居人かつ相棒であるジョン・ヘイミッシュ・ワトスンと一緒に、スマートフォンやインターネット等の最新機器を駆使して、事件を解決する様を描くTVドラマ「シャーロック(Sherlock)」が2010年7月に英国 BBC1 で放映されてから10周年を記念して、2020年8月18日に英国ロイヤルメール(Royal Mail)から6種類の記念切手が発行された。

それらと一緒に、コナン・ドイル原作のシャーロック・ホームズシリーズについても、4種類の記念切手が発行されたので、今週から順番に紹介していきたい。

最初に紹介するのは、「まだらの紐(The Adventure of the Speckled Band)」である。本作品は、56ある短編小説のうち、8番目に発表された。「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1892年2月号に掲載された後、同年発行の第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」に収録されている。

シャーロック・ホームズシリーズにおいて、一番有名な長編は「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskerville)」(1901年ー1902年)で、一番有名な短編は「まだらの紐」と言っても良い位である。実際のところ、「ストランドマガジン」の1927年3月号において、コナン・ドイルは、自選の短編ベスト12の中で、本作品を第1位に推している。

地下鉄ベーカーストリート駅(Baker Street Station)内の
ジュビリーライン(Jubilee Line)のホーム壁に設置されているシャーロック・ホームズシリーズの名場面 -
これは、「まだらの紐」で、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの二人が、
ヘレン・ストーナーと入れ替わって、彼女の寝室で寝ずの番をするために、
サリー州にあるストークモラン屋敷の庭に侵入した場面が描かれている。

1883年4月の初め、ヘレン・ストーナー(Helen Stoner)が、双子の姉ジュリア・ストーナー(Julia Stoner)が2年前に遂げた謎の死、そして、自分に現在ふりかかっている不安と恐怖について相談するため、サリー州(Surrey)にあるストークモラン屋敷(Stoke Moran Manor)を早朝に出て、レザーヘッド(Leatherhead)から一番列車に乗り、ウォータールー駅(Waterloo Station→2014年10月19日付ブログで紹介済)に到着、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)のホームズの元を訪れるところから、物語は始まる。

記念切手には、ホームズ(画面左手前)とジョン・H・ワトスンの二人が、ヘレン・ストーナーと入れ替わって、ストークモラン屋敷のヘレンの寝室(元は、ジュリアの寝室)で寝ずの番をする場面が描かれている。義父のグリムズビー・ロイロット博士(Dr. Grimesby Roylott)は、ストーナー姉妹の母が残した相続財産を独占するために、2年前にジュリアを殺害し、そして、今度はヘレンの命を狙っていた。彼が放った毒蛇が、隣の自室から、通気孔を、そして、通気孔横に取り付けられた引いても鳴らない呼び鈴の綱を伝って、呼び鈴の綱の真下になるように、部屋の床板に厳重に釘付けされたヘレンのベッドへと降りてくるイメージが背景に付け加えられている。

絵的には、本作品のトリックそのものを種明かししてしまっているが、あまりにも有名な作品なので、許容されているのかしれない。

2020年10月4日日曜日

アガサ・クリスティー作「ナイルに死す」<グラフィックノベル版>(Death on the Nile by Agatha Christie

HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「ナイルに死す」の
グラフィックノベル版の表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-
ポワロ達が乗船したナイル河の遊覧船が立ち寄るアブ・シンベル神殿の像と
ピラミッドが描かれている。

4番目に紹介するアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)による長編作品のグラフィックノベル版は、「ナイルに死す(Death on the Nile)」(1937年)である。

本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第22作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第15作目に該っている。また、本作品は、「メソポタミアの殺人(Murder in Mesopotamia)」(1936年)に続く中近東を舞台にした長編第2作目で、中近東シリーズの最高峰に該る作品と言われている。


HarperCollinsPublishers から出ている
アガサ・クリスティー作「ナイルに死す」の
グラフィックノベル版の裏表紙
(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)-
ナイル河の遊覧船上の諍いにより、元婚約者であるサイモン・ドイルを負傷させた
ジャクリーン・ド・ベルフォール(通称:ジャッキー)携帯の拳銃が描かれている。
この拳銃は、後に、何者かによって、
サイモンと結婚したリネット・リッジウェイを殺害する凶器として使用された。


本作品のグラフィックノベル版は、元々、フランス人の作家であるフランソワ・リヴィエール(Francois Riviere:1949年ー)が構成を、そして、フランス人のイラストレーターであるソリドール(Solidor)が作画を担当して、2003年にフランスの Heupe SARL から「Mort sur le Nil」というタイトルで出版された後、2007年に英国の HarperCollinsPublishers から英訳版が発行されている。


ジャッキー、サイモン、そして、リネットの経緯が描かれている物語冒頭部分 -
ポワロが、ジャッキーとサイモンの会話を小耳にしている

弱冠20歳のリネット・リッジウェイ(Linnet Ridgeway)は、英国で最も裕福な女性だった。ある日、学生時代の古い友人であるジャクリーン・ド・ベルフォール(Jacqueline De Bellefort)が彼女に電話を架けてきた。

ジャクリーン(通称:ジャッキー(Jackie))の家族が2年前に破産してしまい、それ以来、彼女は辛い日々を送っていた。それに加えて、今度は、彼女の婚約者であるサイモン・ドイル(Simon Doyle)が失業してしまったのである。

ジャッキーは、リネットに対して、サイモンをリネットが住む屋敷の管理人にしてほしいと頼み込んだ。「私、サイモンと結婚できなければ、死んでしまうわ!(If I don’t marry him, I’ll die!)」と。ジャッキーの懇願に根負けしたリネットは、ジャッキーに対して、「面接をするので、あなたの恋人(サイモン)を私の屋敷に連れて来て。」と答えた。

翌日、ジャッキーは、サイモンを連れて、リネットの屋敷へと向かった。ジャッキーによる紹介を受けて、リネットとサイモンはお互いに見つめ合い、リネットは、その場でサイモンを自分の屋敷の管理人として採用することを決める。


エジプトで休暇を過ごすポワロが描かれている。


そして、場面は変わり、エルキュール・ポワロは、エジプトで休暇を楽しんでいた。彼が、アスワンで知り合った若い女性のロザリー・オッタボーン(Rosalie Otterbourne)と一緒に、ナイル河沿いを散歩していると、ルクソールから到着した大型汽船から、あるカップルが降りてくる。それは、リネット・リッジウェイとサイモン・ドイルの二人であった。ロザリーによると、二人が最近結婚したことが新聞に出ていた、とのこと。

ポワロは、リネットの目の下のくまと、そして、指の関節が白くなる程に、彼女が日傘を強く握りしめていたことから、彼女が何かに非常に困っているに違いないと感じるのであった。


リネットが、自分とサイモンの二人につきまとうジャッキーのことについて、
ポワロに相談している場面が描かれている。


夕闇が迫るホテルのテラスにおいて、リネットとサイモンが過ごしていると、回転ドアが廻り、ワインカラーのドレスを着た女性がゆっくりとテラスを横切って、リネットの視線の先に座る。それは、サイモンの元婚約者のジャッキーだった。

この出来事にひどく動揺したりネットは、その晩、ポワロに相談を持ちかける。リネットは、ジャッキーが、新婚の彼女とサイモンの二人が行くところ、ずーっとつきまとっているのだ、と言う。彼女によると、新婚旅行先のヴェネツィア(Venice)から始まり、ブリンジジ(Brindisi)、カイロ(Cairo)、そして、アスワン(Aswan)まで続いているらしい。


ジャッキーによるつきまといから逃れるために、リネットとサイモンの二人は、ある計画を立てた。自分達の周囲の人達には、アスワンにこのまま滞在する予定と話しておいて、実際には、二人は、ナイル河の遊覧に参加することにしたのである。ポワロも、リネットとサイモンの二人が乗る汽船で、ナイル河を遊覧することになった。


ナイル河の遊覧船に乗船して、自分達につきまとうジャッキーを無事撒いたものと安心した
リネットとサイモンの二人であったが、何故か、ジャッキーも乗船しており、
茫然自失となるリネットと怒りを隠せないサイモンが描かれている。


ナイル河の遊覧船への乗船を無事済ませ、ホッと安心して船室から出てきたリネットとサイモンの二人であったが、そこに笑い声が聞こえてくる。リネットが驚いて振り返ると、そこには、ジャッキーが立っていた。茫然自失となるリネットと怒りを隠せないサイモンの二人。


ナイル河の遊覧船がアブ・シンベルに到着した晩、船内の緊張が限界まで高まり、ある悲劇が発生するのであった。


アブ・シンベル神殿において、リネットとサイモンの二人の頭上から岩が落下して、
危うく命を落とすところだった場面が描かれている。


グラフィックノベル版では、物語の冒頭、ジャッキー、サイモンとリネットの三人の経緯について、1ページでうまく処理している。更に、同じページで、ロンドンのウェストエンド(West End)にあるレストランにおいて、ポワロがジャッキーとサイモンの二人を見かけ、二人の会話を小耳にはさむという流れまで入れ込んでいる。


ただし、アガサ・クリスティーに原作に比べると、ジャッキー、サイモンとリネットの三人のキャラクターは、年齢がかなり上に設定されているように思える。リネットはまだしも、ジャッキーとサイモンの二人は、作画上、少なくとも、30代後半から40代前半に見えてしまい、リネットと同年代とはとても思えず、原作、映画や TV ドラマ等のイメージからも大きく乖離していて、正直、個人的には、あまり合わなかった。全体として、よくまとまっているが、本作品の主要人物なだけに、非常に残念である。