2020年10月11日日曜日

アガサ・クリスティー作「もの言えぬ証人」<グラフィックノベル版>(Dumb Witness by Agatha Christie

グラフィックノベル版の表紙(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)には、
エミリー・アランデルが転落した小緑荘の階段を背景に、
彼女の愛犬ボブと遊び道具のボールが描かれている。

5番目に紹介するアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)による長編作品のグラフィックノベル版は、「もの言えぬ証人(Dumb Witness)」(1937年)である。 本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第21作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第14作目に該っている。
 
グラフィックノベル版の表紙(Cover Design and Illustration by Ms. Nina Tara)の裏表紙には、
エミリー・アランデルの愛犬ボブの好きな骨と遊び道具のボールがデザインされている。

本作品のグラフィックノベル版は、元々、イラストレーターであるマレック(Marek)が作画を担当して、2009年にフランスの Heupe SARL から「Temoin muet」というタイトルで出版された後、2010年に英国の HarperCollinsPublishers から英訳版が発行されている。
 
ある年の6月28日、エルキュール・ポワロは、エミリー・アランデルから手紙を受け取るが、
手紙の日付が2ヶ月以上前の4月17日になっているため、
それに興味を覚えたポワロは、相棒で友人でもあるアーサー・ヘイスティングス大尉を伴って、
彼女が住むバークシャー州マーケットベイジングにある小緑荘へと赴く。


ある年の6月28日、エルキュール・ポワロは、エミリー・アランデル(Emily Arundell)と名乗る老婦人から、自分の命に危険が迫っていることを示唆する内容の手紙を受け取る。奇妙なことに、手紙の日付は、その年の4月17日になっており、手紙がかかれてから2ヶ月後に投函されているのだった。ポワロの相棒で、友人でもあるアーサー・ヘイスティングス大尉(Capitain Arthur Hastings)は、「老婦人のとりとめのない妄想ではないか?」と疑問を呈したが、手紙が差し出された経緯について興味を覚えたポワロは、ヘイスティングス大尉を伴って、事実を確かめるために、エミリー・アランデルが住むバークシャー州(Berkshire)のマーケットベイジング(Market Basing)へ赴くことにした。

 ポワロとヘイスティングス大尉の二人が、エミリー・アランデルの住所である小緑荘(Littlegreen House)を訪れると、屋敷の前には、「売家」の札が掲げられていた。疑問を抱いた二人が地元で尋ねると、エミリー・アランデル本人は、1ヶ月以上も前になくなっていたのである。
 
イースター休暇の際、エミリー・アランデルが住む小緑荘には、
アランデル一族が集まった。


亡くなったエミリー・アランデルは、長女マチルダ(Matilda)、三女アラベラ(Arabella)、長男トーマス(Thomas)および四女アグネス(Agnes)の五人兄弟の次女で、ただ一人存命中だった。彼女は、父親のアランデル将軍からかなりの財産を相続しており、非常に裕福であった。彼女は、生涯未婚の上、自分の財産を遺す子供が居なかったため、以下の姪と甥が将来彼女の遺産を分け合うものと思われていた。
 
(1)ベラ・タニオス(Bella Tanios)ー三女アラベラの娘
            ジャコブ・タニオス(Dr. Jacob Tanios)ーギリシア人の医者で、ベラの夫 
(2)チャールズ・アランデル(Charles Arundell)ー長男トーマスの長男で、テリーザの兄
(3)テリーザ・アランデル(Theresa Arundell)ー長男トーマスの長女で、チャールズの妹
   レックス・ドナルドスン(Dr. Rex Donaldson)ー医者で、テリーザの婚約者

ところが、エミリー・アランデルは、亡くなるわずか数日前に、遺言書を書き換えていて、新しい遺言書により、彼女の全財産は、彼女の相手役(コンパニオン)であるウィルへルミナ・ロウスン(Wilhelmina Lawsonー通称:ミニー(Minnie))に遺贈され、彼女の本当の肉親である姪2人と甥1人に対しては、何も残されなかったのである。そのため、地元マーケットベイジングの住人達の間では、その噂でもちきりだった。 エミリー・アランデルの遺族の間で憤懣がつのる中、彼女の愛犬であった「もの言えぬ証人(Dumb Witness)」のテリア犬ボブ(Bob)は、彼女の死の真相究明に乗り出したポワロとヘイスティングス大尉に対して、何かを伝えようとしていた。

イースター休暇のある夜、
小緑荘の女主人であるエミリー・アランデルは、階段からの転落事故に遭う。
事故に居合わせたアランデル一族の面々は、
彼女の愛犬であるボブが階段のてっぺんに置きっ放しにした遊び道具のボールに、
彼女が躓いたためではないかと推測した。


ある年のイースター休暇に、アランデル一族が、エミリー・アランデルが住む小緑荘に集まる。アガサ・クリスティーの原作では、後に出てくる相手役のミニーを含むアランデル一族とエミリーの関係や経緯、そして、ある夜に発生したエミリーの階段からの転落事故、彼女の愛犬ボブの遊び道具で、階段のてっぺんに置きっ放しにしたボールに躓いたのではないかと思われること、更に、ベッドに寝たきりになってしまったエミリーがポワロ宛に手紙を書くに至った経緯等が、4ページでうまく表現された後、約2ヶ月経ってから、ポワロがエミリーからの手紙を受け取り、物語が本格的に始まるという流れに変更されていて、読者には判りやすい展開になっている。 

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