2021年4月28日水曜日

デイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 欺かれた探偵」(The further adventures of Sherlock Holmes / The Veiled Detective by David Stuart Davies) - その2

英国の Titan Books 社から2009年に出版されている
デイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ作
「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 欺かれた探偵」の表紙 -
なお、本作品自体が執筆されたのは、2004年。

デイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ(David Stuart Davies)作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 欺かれた探偵(The further adventures of Sherlock Holmes / The Veiled Detective)」において、第二次アフガニスタン戦争に医師として従軍していたものの、飲酒癖のために除隊を言い渡されたジョン・ウォーカー(John Walker)は、犯罪界のナポレオンと呼ばれるジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)からの指示を受け、ジョン・ワトスンと名前を変えて、ロンドンで諮問探偵として活躍するシャーロック・ホームズと一緒に、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)で下宿生活を始めていた。そして、彼ら二人は、かの有名な「緋色の研究(A Study in Scarlet → 2016年7月30日付ブログで紹介済)」事件に関わるようになる。


今回、ジョン・ワトスンこと、ジョン・ウォーカーは、モリアーティー教授の手先となって、ホームズをスパイすることになるが、ホームズとワトスンの女家主であるハドスン夫人(Mrs. Hudson)が、更に、ホームズの兄であるマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)までもが、モリアーティー教授の協力者になっていた。


物語は、「四つの署名(The Sign of the Four → 2017年8月12日付ブログで紹介済)」事件を経て、1891年4月、「最後の事件(The Final Problem)」にかかるライヘンバッハの滝(Reichenbatch Falls)において、最後を迎えるのであった。


物語には、将来のワトスン夫人となるメアリー・モースタン(Mary Morstan)も登場するが、彼女が依頼人として関わる「四つの署名」事件が発生するのは、1888年9月で、「緋色の研究」事件(1881年3月)よりも数年後である。

雑誌への発表順としては、「緋色の研究」事件(=ホームズシリーズ第1作)と「四つの署名」事件(=ホームズシリーズ第2作)は連続しているが、事件の発生順としては、かなり離れている。


更に言うと、「最後の事件」が発生するのは、1891年4月であり、「緋色の研究」事件から「最後の事件」までに、聖典における時間の流れでは、10年以上を要しているが、本作では、「緋色の研究」事件の後、「最後の事件」が割合と直ぐに発生しているように、駆け足で記述されていて、少し気になった。


「最後の事件」は、本作において非常に重要な位置を占めるので、作者としても記述せざるを得ないが、「緋色の研究」事件と「最後の事件」の間にある数々の事件を、「四つの署名」事件を除き、全てすっとばしてしまい、時間的な隔たりを一冊でうめようとすると、やや無理な感じを否めない。

サー・アーサー・コナン・ドイルの聖典のうち、おいしいところだけを集めて、物語を展開するのは、難しいところである。


2021年4月24日土曜日

メアリー・シェリー作「フランケンシュタイン」の記念切手

2021年4月15日に、メアリー・シェリー作「フランケンシュタイン」を初めとする英国の SF 作家による古典 SF 作品の記念切手が、英国のロイヤルメール(Royal Mail)から6種類発行されたので、紹介したい。


(1)Frankenstein by Mary Shelly

・作者: メアリー・ウルストンクラフト・ゴドウィン・シェリー(Mary Wollstonecraft Godwin Shelley:1797年ー1851年)

・邦題: 「フランケンシュタイン、或いは、現代のプロメテウス(→ 2021年3月24日付ブログで紹介済)」

・発表年: 1818年

・記念切手のイラストレーター: Sabina Sinko



(2)The Time Machine by H. G. Wells

・作者: ハーバート・ジョージ・ウェルズ(Herbert George Wells:1866年ー1946年) → 日本では、一般に、H・G・ウェルズとして知られている。

・邦題: 「タイムマシン」

・発表年: 1895年

・記念切手のイラストレーター: Francisco Rodriguez


(3)Brave New World by Aldous Huxley

・作者: オルダス・レナード・ハクスリー(Aldous Leonard Huxley:1894年ー1963年)

・邦題: 「すばらしい新世界」

・発表年: 1932年

・記念切手のイラストレーター:  Thomas Danthony


(4)The Day of the Triffids by John Wyndham

・作者: ジョン・ウィンダム・パークス・ルーカス・ベイノン・ハリス(John Wyndham Parkes Lucas Beynon Harris:1903年ー1969年)

・邦題: 「トリフィド時代 - 食人植物の恐怖」、「トリフィドの日」、「怪奇植物トリフィドの侵略」、「地球滅亡の日 植物人間」や「トリフィド時代」等の邦題がある。

・発表年: 1951年

・記念切手のイラストレーター: Mick Brownfield


(5)Childhood’s End by Arthur C. Clarke

・作者: サー・アーサー・チャールズ・クラーク(Sir Arthur Charles Clarke:1917年ー2008年)

・邦題: 「幼年期の終り」

・発表年: 1953年

・記念切手のイラストレーター: Matt Murphy



(6)Shikasta by Doris Lessing

・作者: ドリス・メイ・レッシング(Doris May Lessing:1919年ー2013年)

・邦題: 「シカスタ - アルゴ座のカノープス」 → 「アルゴ座のカノープスシリーズ」(1979年ー1983年)の第1作

・発表年: 1979年

・記念切手のイラストレーター: Sarah Jones


ロイヤルメールによると、今年は、H・G・ウェルズの没後75周年で、かつ、ジョン・ウィンダム作「トリフィド時代 - 食人植物の恐怖」の発表後70周年に該る、とのこと。


2021年4月21日水曜日

デイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 欺かれた探偵」(The further adventures of Sherlock Holmes / The Veiled Detective by David Stuart Davies) - その1

英国の Titan Books 社から2009年に出版されている
デイヴィッド・ステュアート・デイヴィーズ作
「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 欺かれた探偵」の表紙 -
なお、本作品自体が執筆されたのは、2004年。


物語は、1880年6月27日、満月が空を照らす暖かい夜、アフガニスタンで始まる。

第二次アフガニスタン戦争に軍医として従軍していたジョン・ウォーカー(John Walker)は、自分の無力感に苛まれ、戦線において泥酔していた。それを見咎めた上官(Captain Alistair Thornton)に、彼は除隊を言い渡された。


一方、同年10月4日、ロンドンにおいて、若きシャーロック・ホームズは、諮問探偵として、スコットランドヤードのジャイルズ・レストレード警部(Inspector Giles Lestrade)に協力し、犯罪界のナポレオンと呼ばれるジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)による事件を未然に防いだ。右腕であるセバスチャン・モラン大佐(Colonel Sebastian Moran)から報告を受けたモリアーティー教授は、ホームズの類いまれな素質に注目し、自分の味方に引き入れるべく、ある一計を巡らすのであった。


除隊を言い渡されたジョン・ウォーカーは、1881年1月、兵員輸送船オロンティーズ号(Orontes)に乗り、インドから英国へと出航。英国到着前に、彼は、モリアーティー教授の手下であるアレキサンダー・リード元大尉(Retired Captain Alexander Reed)から接触を受け、モリアーティー教授に引き会わされる。


一方、当時、大英博物館(British Museum → 2014年5月26日付ブログで紹介済)近くのモンタギューストリート(Montague Street → 2014年5月25日付ブログで紹介済)に一室を借りていたホームズは、モリアーティー教授の差し金により、家主(Ambrose Jones)から追い出しをくらい、新たな下宿先を探し始めていた。


3月のある日、カード博打でお金を擦ってしまったセントバーソロミュー病院(St.

 Bartholomew’s Hospital → 2014年6月14日付ブログで紹介済)の外科医ヘンリー・スタンフォード(Henry Stamford)は、次の給料日までの金策に困っていた。モリアーティー教授の手下に付け込まれたスタンフォードは、ホームズに対して、新たな下宿先として、ベーカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)を紹介する。ベーカーストリート221Bを下見した帰りに、ホームズとスタンフォードの二人がピカデリーサーカス(Piccadilly Circus)にあるクライテリオンバー(Criterion Bar → 2014年6月8日付ブログで紹介済)に立ち寄ると、モリアーティー教授の指示を受けて、スタンフォードの旧友でもあるジョン・ウォーカーが、ホームズの前に、姿を見せる。ー ただし、ジョン・ウォーカーではなく、ジョン・ワトスン(John Watson)として。


こうして、ホームズとジョン・ワトスンと名前を変えたジョン・ウォーカーは、ベーカーストリート221Bにおいて、一緒に下宿生活を始め、かの有名な「緋色の研究(A Study in Scarlet → 2016年7月30日付ブログで紹介済)」事件に関わるようになる。

ワトスンは、モリアーティー教授の命を受けて、ホームズをスパイするが、一方で、そんな行為に対する良心の呵責に苛まれるのであった。

果たして、ワトスンは、最終的に、どういう判断を下すのか?


このように、ホームズファンにとって、衝撃の話が展開する。


2021年4月20日火曜日

エディンバラ公爵フィリップ(Prince Philip, Duke of Edinburgh) - その3

 2021年4月9日に薨去された英国のエディンバラ公爵フィリップ(Prince Philip, Duke of Edinburgh:1921年 –2021年)の葬儀と埋葬が同年4月17日に行われたウィンザー城(Windsor Castle)内の聖ジョージ礼拝堂(St. George's Chapel)について、2017年に英国のロイヤルメール(Royal Mail)から4種類の記念切手が発行されている。








2021年4月19日月曜日

エディンバラ公爵フィリップ(Prince Philip, Duke of Edinburgh) - その2

 2021年4月9日に英国のエディンバラ公爵フィリップ(Prince Philip, Duke of Edinburgh:1921年 –2021年)が薨去されたウィンザー城(Windsor Castle)について、2017年に英国のロイヤルメール(Royal Mail)から6種類の記念切手が発行されている。









2021年4月18日日曜日

エディンバラ公爵フィリップ(Prince Philip, Duke of Edinburgh) - その1

2021年4月9日にウィンザー城(Windsor Castle)で薨去されたエディンバラ公爵フィリップ(Prince Philip, Duke of Edinburgh:1921年 –2021年)と英国のウィンザー朝第4代女王であるエリザベス2世(Elizabeth II:1926年–  / 在位期間:1952年–)の結婚70周年(Platinum Anniversary)を記念して、2017年に英国のロイヤルメール(Royal Mail)から6種類の記念切手が発行されている。









2021年4月14日水曜日

E・C・R・ロラック作「鐘楼(しょうろう)の蝙蝠(こうもり)」(Bats in the Belfry by E. C. R. Lorac) - その2

大英図書館(British Library)から
British Library Crime Classics シリーズの一つとして出版されている
E・C・R・ロラック作「鐘楼の蝙蝠」の裏表紙


ドブレット(Debrette)が行方をくらませた後の空き家において、パリへ出立した筈のブルース・アテルトン(Bruce Attleton - 作家)のスーツケースを発見した彼の友人であるロバート・グレンヴィル(Robert Grenville - 新聞記者)は、ニール・ロッキンガム(Neil Rockingham - 株式仲買人)と一緒に、スコットランドヤード犯罪捜査課(CID)のマクドナルド主任警部(Cheif Inspector Macdonald)に相談する。

ロバートとニールから相談を受けたマクドナルド主任警部が、部下を引き連れて、ドブレットが行方をくらませた後の空き家の再捜索を行ったところ、空き家の壁の中から、首と両手首が切断された男性の遺体が出てきた。遺体で発見されたのは、行方をくらませたドブレットなのか、それとも、ドブレットに身辺を付き纏われていたブルースなのか?


ところが、首と両手首がない男性の遺体が発見された後、ニールは、「ブルース本人だと名乗る人物から電話があり、『公にできない理由があって、今、姿を隠している。』との説明を受けた。」と、マクドナルド主任警部に連絡してきた。更に、ロバートが、「ロンドン市内のチャリングクロス(Charing Cross)近辺の交差点で、ドブレットを見かけたので、彼を追いかけようとしたが、姿を見失った。」と報告してきた。

それでは、首と両手首がない遺体は、ドブレットでもブルースでもなく、第三者の男性なのか?苦悩するマクドナルド主任警部は、果たして、真相に辿り着けるのだろうか?


E・C・R・ロラック(Edith Caroline Rivett Lorac:1894年ー1958年)は、(1)魅力的な幕開け、(2)深まる謎、そして、(3)意外な真相といった本格推理小説の醍醐味を味わえる作品を数多く発表していると、一般に評価されている。

本作品「鐘楼の蝙蝠(Bats in the Belfry)」の場合、ノッティングヒル(Notting Hill)の空き家において、首と両手首がない男性の遺体が発見され、作家のブルースなのか、それとも、彼に付き纏っていたドブレットなのか判らないという前段、そして、遺体の発見後に、ニールがブルースと名乗る人物からの電話を受け、また、ロバートがロンドン市内においてドブレットを見かけたことにより、男性の遺体がブルース / ドブレット以外の第三者である可能性が出てきた中段と、良い感じで進んできた。ところが、物語の途中で、ある理由に基づいて、遺体の身元がブルースであることが判明してしまう。そして、それ以降は、ドブレットの行方とブルースを殺害する動機を有する人物の捜索へ焦点が移ってしまう。

ドブレットがブルースの変装による自作自演であった場合を含めて、何者かによる架空の人物だった可能性もあり、物語の終盤まで、深まった謎のまま、突き進んでほしかったが、途中で謎が半減した上に、そこから物語がやや停滞してしまったのが、とても残念である。

物語の登場人物は非常に限定されているので、ブルースを殺害した犯人を推理することは、消去法により可能であるが、動機については、物語上、手掛かりはあるものの、論理的に解明するのは困難である。あくまでも、推測でしか辿り着けないところが、ややフェアではないと言える。


2021年4月11日日曜日

アガサ・クリスティー作「死との約束」<映画版>(Appointment with Death by Agatha Christie

アガサ・クリスティーの原作「死との約束」の映画版(1988年)において、
名探偵エルキュール・ポワロを演じた
英国の俳優であるサー・ピーター・アレクサンダー・ユスティノフ
(なお、上記の画像は、主演した「ナイル殺人事件」(1978年)時のもの。)


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「死との約束(Appointment with Death → 2021年3月13日付ブログで紹介済)」(1938年)の映画版が、米国の制作会社であるキャノンフィルムズ(Cannon Films)によって撮影されて、1988年4月(米国)に公開された。なお、日本では、1988年5月に「死海殺人事件」というタイトルで公開されている。


英国の俳優であるサー・ピーター・アレクサンダー・ユスティノフ(Sir Peter Alexander Ustinov:1921年ー2004年)が、名探偵エルキュール・ポワロを演じている。

ちなみに、彼は、1978年に公開された EMI = パラマウント作品「Death on the Nile」(→ 日本では、アガサ・クリスティーの原作である「ナイルに死す」(1937年)ではなく、「ナイル殺人事件」というタイトルで公開)と1982年に公開されたユニヴァーサル作品「Evil Under the Sun」(→ 日本では、アガサ・クリスティーの原作である「白昼の悪魔」(1941年)ではなく、「地中海殺人事件」というタイトルで公開)においても、ポワロを既に演じているので、映画版でポワロを演じるのは、第3作目である。


アガサ・クリスティーによる原作では、エルサレム(Jersalem)にあるキングソロモンホテル(King Solomon Hotel)とヨルダン(Jordan)の古都ペトラ(Petra)にある遺跡が、物語の舞台となっている。映画版では、ボイントン一家が豪華客船で世界一周旅行中、立ち寄った死海(Dead Sea)のほとりにおいて、ボイントン夫人が毒殺される。


映画版における主な登場人物(エルキュール・ポワロとカーバリー大佐(Colonel Carbury)を除く)は、以下の通り。


(1)エミリー・ボイントン(Emily Boynton): 大富豪であるエルマー・ボイントンの未亡人。以前、刑務所の看守を務めていた。

(2)レノックス・ボイントン(Lennox Boynton): ボイントン夫人の(義理の)長男

(3)ネイディーン・ボイントン(Nadine Boynton): レノックス・ボイントンの妻

(4)レイモンド・ボイントン(Raymond Boynton): ボイントン卿夫人の(義理の)次男

(5)キャロル・ボイントン(Carol Boynton): ボイントン卿夫人の(義理の)長女

(6)ジネヴラ・ボイントン(Ginevra Boynton): ボイントン卿夫人の次女(実子)

(7)ジェファーソン・コープ(Jefferson Cope): ボイントン家の顧問弁護士

(8)サラ・キング(Sarah King): 女医

(9)ウエストホルム卿夫人(Lady Westholme): 英国下院議員

(10)ミス・クイントン(Miss Quinton): ウエストホルム卿夫人の友人で、考古学愛好家。


(1)アガサ・クリスティーの原作では、「ボイントン夫人(Mrs. Boynton)」としてしか言及されていないが、映画版では、「エミリー・ボイントン」というフルネームが与えられている。また、亡くなった夫の名前として、「エルマー・ボイントン」も設定されている。

(2)-(6)レノックス・ボイントン / ネイディーン・ボイントン / レイモンド・ボイントン / キャロル・ボイントン / ジネヴラ・ボイントンの設定は、アガサ・クリスティーの原作通りである。

(7)ジェファーソン・コープは、アガサ・クリスティーの原作では、ネイディーン・ボイントンの友人である米国人という設定であったが、映画版では、ボイントン家の顧問弁護士という設定になっている。

(8)サラ・キングの設定も、アガサ・クリスティーの原作通りで、レイモンド・ボイントンと恋仲になる。なお、アガサ・クリスティーの原作に出てくるフランス人の精神科医であるテオドール・ジェラール(Theodore Gerard)は、サラ・キングと職業がややかぶるためか、映画ドラマ版には登場しない。

(9)ウエストホルム卿夫人の設定は、アガサ・クリスティーの原作通りである。

(10)ミス・クイントンは、映画版用のキャラクターであるが、アガサ・クリスティーの原作における保母のアマベル・ピアス(Amabel Pierce)に相当するものと思われる。


レノックス・ボイントンの妻であるネイディーン・ボイントンを演じたのは、米国の女優であるキャリー・フランシス・フィッシャー(Carrie Frances Fisher:1956年ー2016年)で、「スターウォーズ(Star Wars)」シリーズのレイア・オーガナ / レイア姫(Leia Organa / Princess Leia)役で非常に有名である。


ボイントン家の顧問弁護士であるジェファーソン・コープを演じたのは、米国の俳優であるデイヴィッド・ソウル(David Soul:1943年ー)で、映画「ダーティーハリー2(Magnum Force)」(1973年)の悪徳警官役や TV ドラマ「刑事スタスキー&ハッチ(Starsky and Hutch)」(1975年ー1979年)の「ハッチ(Hutch)」ことケネス・リチャード・ハッチンソン(Kenneth Richard Hutchinson)役で有名である。


英国下院議員であるウェストホルム卿夫人を演じたのは、米国の女優であるローレン・バコール(Lauren Bacall:1924年ー2014年)で、英国の俳優であるアルバート・フィニー(Albert Finney:1936年ー2019年)が名探偵エルキュール・ポワロを演じた映画「オリエント急行殺人事件(Murder on the Orient Express)」(1974年)において、ハバード夫人(Mrs. Hubbard)役を演じている。


2021年4月5日月曜日

E・C・R・ロラック作「鐘楼(しょうろう)の蝙蝠(こうもり)」(Bats in the Belfry by E. C. R. Lorac) - その1

大英図書館(British Library)から
British Library Crime Classics シリーズの一つとして出版されている
E・C・R・ロラック作「鐘楼の蝙蝠」の表紙

エディス・キャロライン・リヴェット・ロラック(Edith Caroline Rivett Lorac:1894年ー1958年)は、英国における探偵小説の黄金期にほぼ該る1930年代初頭から1950年代末期にかけて活躍した英国の女流推理作家である。


彼女は、1894年にロンドンのヘンドン地区(Hendon)に出生。サウスハムステッド高校(South Hampstead High School)を教育を受け、美術工芸中央学校(Central School of Arts and Crafts)を卒業した後、1931年にマクドナルド主任警部(Chief Inspector Macdonald)が登場する「避難所の殺人(The Murder on the Burrows)」で、推理作家としてデビュー。その後、コリンズ社(クライムクラブ)の看板作家となった。

生涯を通じて、彼女は、「E・C・R・ロラック(E. C. R. Lorac)」と「キャロル・カーナック(Carol Carnac)」という2つのペンネームを使い分け、「E・C・R・ロラック」名義では、マクドナルド主任警部(Chief Inspecor Macdonald)シリーズを主とする約50作品を、また、「キャロル・カーナック」名義では、3シリーズ((1) Inspector Ryvet / (2) Chief Inspector Julian Rivers / (3) Inspector Lancing)を含む20を超える作品を執筆している。

なお、本作品「鐘楼の蝙蝠(Bats in the Belfry)」は、1937年に「E・C・R・ロラック」名義で発表されている。


当初、彼女が「E・C・R・ロラック」名義を使ったのは、作者が、女性ではなく、男性と思わせたかったのではないか、また、「E・C・R・ロラック」と「キャロル・カーナック」の2つの名義を使い分けたのは、一つの名義で数多くの作品を世に出すことを避けたかったのではないか、と言われている。


作家のブルース・アテルトン(Bruce Attleton)は、作家デビュー直後に発表した1-2作は売れたものの、それ以降、鳴かず飛ばずの状態が続いていた。そのため、ブルースの妻で、舞台女優のシビラ・アテルトン(Sybilla Attleton)は、夫のブルースに対して、愛想を尽かしており、彼との離婚を進めようとしていたのである。


不調が続くブルースは、それに加え、ドブレット(Debrette)と名乗る謎の男に身辺を付き纏われていて、神経をとがらせていた。ブルースとドブレットの二人がどういった関係にあって、何故にドブレットがブルースに対して執拗に付き纏うのかは、全く不明だった。


ブルースのことを心配する友人で、株式仲買人のニール・ロッキンガム(Neil Rockingham)は、同じく、ブルースの友人で、新聞記者のロバート・グレンヴィル(Robert Grenville)に対して、ドブレットが何者かを突き止めるよう、依頼した。ニールは、近日中に所用でパリへ出かける必要があり、1週間から10日程、ロンドンを不在にするためであった。ニールからの依頼を、ロバートは、快く引き受けた。安心したニールは、3月18日(水))、パリへ向けて旅立った。


ニールの依頼を受けたロバートは、ニールの不在中、ドブレットの住み処を突き止めることになんとか成功したが、翌日、ノッティングヒル(Notting Hill)にあるドブレットの住所を訪れると、件の人物は既に行方を晦ませた後だった。


パリから戻って来たニールと会ったロバートは、彼から驚くべきことを聞かされる。

ニールによると、パリにあるホテルブリストル(Hotel Bristol)において、ブルースと会う約束になっていたが、約束の時刻に、ブルースは姿を見せず、会うことができなかった、とのことだった。


ブルース / シビラの使用人にニールとロバートが尋ねると、ブルースは、3月18日(水)にスーツケースを持参の上、パリへ出かけたまま、まだ戻って来ていないと言う。

ブルースのことを心配したロバートは、ドブレットが行方を晦ませた後の空き家の契約を引き継いで、空き家内を搜索したところ、地下室において、パリへ出立した筈のブルースのスーツケースが発見されたのである。


2021年4月3日土曜日

アガサ・クリスティー作「死との約束」<日本 TV ドラマ版>(Appointment with Death by Agatha Christie

JR 東海から出ている「南紀・熊野古道 フリーきっぷ」のうち、
「中辺路(Nakahechi)コース」の地図 -
日本 TV ドラマ版「死との約束」では、熊野本宮大社を含む熊野古道が、
物語の舞台となる。


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「死との約束(Appointment with Death → 2021年3月13日付ブログで紹介済)」(1938年)の TV ドラマ版が、日本のフジテレビ系「土曜プレミアム」枠で、2021年3月6日に放送されている。

本 TV ドラマ版は、アガサ・クリスティー作「オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express)」(1938年)を原作とする「オリエント急行殺人事件」(2015年)、同「アクロイド殺し(The Murder of Roger Ackroyd)」(1926年)を原作とする「黒井戸殺し」に続く脚本家の三谷幸喜(1961年ー) x 狂言師の野村萬斎(1966年ー)によるドラマシリーズ第3弾に該る。


アガサ・クリスティーによる原作では、エルサレム(Jersalem)にあるキングソロモンホテル(King Solomon Hotel)とヨルダン(Jordan)の古都ペトラ(Petra)にある遺跡が、物語の舞台となっている。日本 TV ドラマ版では、物語の舞台を巡礼の道として世界遺産に登録されている「熊野古道」に、また、時代設定を昭和30年代に置き換えている。そして、キングソロモンホテルは熊野古道の近くにある和歌山県天狗村の「黒門ホテル」(架空のホテル)として、ペトラにある遺跡は「熊野古道」に設定されている。


日本 TV ドラマ版における主な登場人物は、以下の通り。


(1)勝呂 武尊(演 - 野村 萬斎)

原作の「エルキュール・ポワロ」に相当。

原作とは異なり、事件が発生する前から登場して、事件の関係者達と一緒に、事件に立ち会っている。

(2)本堂夫人(演 - 松坂 慶子)

本堂家を束ねる未亡人で、原作の「ボイントン夫人(Mrs. Boynton)」に相当。

(3)本堂 礼一郎(演 - 山本 耕史)

本堂夫人の(義理の)長男で、原作の「レノックス・ボイントン(Lennox Boynton)」に相当。

(4)本堂 凪子(演 - シルビア・グラブ)

本堂 礼一郎の妻で、原作の「ネイディーン・ボイントン(Nadine Boynton)」に相当。

(5)本堂 主水(演 - 市原 隼人)

本堂夫人の(義理の)次男で、原作のレイモンド・ボイントン(Raymond Boynton)」に相当。

(6)本堂 鏡子(演 - 堀田 真由)

本堂夫人の(義理の)長女で、原作の「キャロル・ボイントン(Carol Boynton)」に相当。

(7)本堂 絢奈(演 - 原菜 乃木華)

本堂夫人の次女(実子)で、原作の「ジネヴラ・ボイントン(Ginevra Boynton)」に相当。

自分のことを「伊邪那美命(イザナミノミコト)」の生まれ変わりだと思っている。

(8)十文字 幸太(演 - 坪倉 由幸)

原作の「ジェファーソン・コープ(Jefferson Cope)」に相当。

原作にはない税理士という設定で、本堂家の資産を管理している。一方で、原作と同様に、本堂 凪子の友人という設定になっている。

(9)沙羅 絹子(演 - 比嘉 愛未)

原作と同様に、医師という設定で、原作の「サラ・キング(Sarah King)」に相応。

(10)上杉 穂波(演 - 鈴木 京香)

原作と同様に、婦人代議士という設定で、原作の「ウエストホルム卿夫人(Lady Westholme)」に相当。

以前、ある窃盗団に所属し、怪盗として働いていた過去があり、刑務所に入っていたことがある。原作とは異なり、ポワロに相当する勝呂 武尊と古い知人同士(元怪盗と彼女を逮捕した警官)という設定が追加され、彼との淡いロマンスが描かれる。

(11)飛鳥 ハナ(演 - 長野 里美)

原作の「アマベル・ピアス(Amabel Pierce)」に相当。

原作とは異なり、保母ではなく、上杉 穂波に随行する編集者という設定に変更されている。

(12)川張 大作(演 - 阿南 健治)

熊野警察署の署長で、原作の「カーバリー大佐(Colonel Carbury)」に相当。


アガサ・クリスティーの原作に登場するフランス人の心理学者であるテオドール・ジェラール(Theodore Gerard)については、登場人物を整理して、物語を円滑に進めるためか、あるいは、職業柄、サラ・キングに相当する沙羅 絹子と重なるためか、日本 TV ドラマ版には、登場しない。

日本 TV ドラマ版では、物語の前半における被害者となる本堂夫人の自分勝手さにかかる描写を除くと、(1)勝呂 武尊と上杉 穂波、(2)本堂 礼一郎、本堂 凪子と十文字 幸太、そして、(3)本堂 主水と沙羅 絹子の関係性にかかる描写が主体となっており、本堂 鏡子と本堂 絢奈に対する比重は、(配役的にも、)あまり強くない。

テオドール・ジェラールの場合、本堂夫人による手厚い庇護を受けるあまり、自我が弱くなっている本堂 絢奈との関わりが強くなるが、放送時間的には、そこまでの描写を加えるのは、難しかったのかもしれない。


脚本を担当した三谷 幸喜は、「『死との約束』は、アガサ・クリスティーの隠れた傑作で、ポワロシリーズの中では、僕が一番好きな作品です。」とコメントしている。

そのため、アガサ・クリスティーの原作に敬意を表して、物語の舞台を中東から日本へと移したこと、また、主要ではない登場人物が一部割愛されていることを除けば、原作の内容をほぼ忠実に脚色していると言える。