2021年4月14日水曜日

E・C・R・ロラック作「鐘楼(しょうろう)の蝙蝠(こうもり)」(Bats in the Belfry by E. C. R. Lorac) - その2

大英図書館(British Library)から
British Library Crime Classics シリーズの一つとして出版されている
E・C・R・ロラック作「鐘楼の蝙蝠」の裏表紙


ドブレット(Debrette)が行方をくらませた後の空き家において、パリへ出立した筈のブルース・アテルトン(Bruce Attleton - 作家)のスーツケースを発見した彼の友人であるロバート・グレンヴィル(Robert Grenville - 新聞記者)は、ニール・ロッキンガム(Neil Rockingham - 株式仲買人)と一緒に、スコットランドヤード犯罪捜査課(CID)のマクドナルド主任警部(Cheif Inspector Macdonald)に相談する。

ロバートとニールから相談を受けたマクドナルド主任警部が、部下を引き連れて、ドブレットが行方をくらませた後の空き家の再捜索を行ったところ、空き家の壁の中から、首と両手首が切断された男性の遺体が出てきた。遺体で発見されたのは、行方をくらませたドブレットなのか、それとも、ドブレットに身辺を付き纏われていたブルースなのか?


ところが、首と両手首がない男性の遺体が発見された後、ニールは、「ブルース本人だと名乗る人物から電話があり、『公にできない理由があって、今、姿を隠している。』との説明を受けた。」と、マクドナルド主任警部に連絡してきた。更に、ロバートが、「ロンドン市内のチャリングクロス(Charing Cross)近辺の交差点で、ドブレットを見かけたので、彼を追いかけようとしたが、姿を見失った。」と報告してきた。

それでは、首と両手首がない遺体は、ドブレットでもブルースでもなく、第三者の男性なのか?苦悩するマクドナルド主任警部は、果たして、真相に辿り着けるのだろうか?


E・C・R・ロラック(Edith Caroline Rivett Lorac:1894年ー1958年)は、(1)魅力的な幕開け、(2)深まる謎、そして、(3)意外な真相といった本格推理小説の醍醐味を味わえる作品を数多く発表していると、一般に評価されている。

本作品「鐘楼の蝙蝠(Bats in the Belfry)」の場合、ノッティングヒル(Notting Hill)の空き家において、首と両手首がない男性の遺体が発見され、作家のブルースなのか、それとも、彼に付き纏っていたドブレットなのか判らないという前段、そして、遺体の発見後に、ニールがブルースと名乗る人物からの電話を受け、また、ロバートがロンドン市内においてドブレットを見かけたことにより、男性の遺体がブルース / ドブレット以外の第三者である可能性が出てきた中段と、良い感じで進んできた。ところが、物語の途中で、ある理由に基づいて、遺体の身元がブルースであることが判明してしまう。そして、それ以降は、ドブレットの行方とブルースを殺害する動機を有する人物の捜索へ焦点が移ってしまう。

ドブレットがブルースの変装による自作自演であった場合を含めて、何者かによる架空の人物だった可能性もあり、物語の終盤まで、深まった謎のまま、突き進んでほしかったが、途中で謎が半減した上に、そこから物語がやや停滞してしまったのが、とても残念である。

物語の登場人物は非常に限定されているので、ブルースを殺害した犯人を推理することは、消去法により可能であるが、動機については、物語上、手掛かりはあるものの、論理的に解明するのは困難である。あくまでも、推測でしか辿り着けないところが、ややフェアではないと言える。


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