2022年10月1日土曜日

サム・シチリアーノ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 月長石の呪い」(The further adventures of Sherlock Holmes / The Moonstone’s Curse by Sam Siciliano)- その3

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2017年に出版された
サム・シチリアーノ作
「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 月長石の呪い」の表紙(一部)

読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆半(3.5)


本作品は、ヴィクトリア朝時代(1837年-1901年)に活躍した英国の小説家 / 推理作家 / 劇作家であるウィリアム・ウィルキー・コリンズ(William Wilkie Collins:1824年ー1889年 → 2022年9月2日 / 9月4日付ブログで紹介済)が執筆した長編推理小説で、英国小説界で絶大な人気を得た大ヒット作である「月長石(The Monnstone → 2022年10月1日付ブログで紹介済)」(1868年)をベースにしている。

ロバート・ブロムリー男爵(Baron Robert Bromley)の次男で、事件の相談のために、シャーロック・ホームズの元を訪れたチャールズ・ブロムリー(Charles Bromley)と2年程前に結婚したアリス・ブレイク(Alice Blake)が、ウィルキー・コリンズ原作の「月長石」の主人公で、ヒロインを務めたレイチェル・ヴェリンダー(Rachel Verinder)の孫という設定となっており、彼女の手元にある先祖代々伝わるダイヤモンド「月長石(Monnstone)」に関連して、事件が発生し、彼女の身に危険が迫る。


(2)物語の展開について ☆☆半(2.5)


本作品は、作者であるサム・シチリアーノ(Sam Siciliano:1947年ー)が発表した第3作目「グリムスウェルの呪い(The Grimswell Curse → 2021年9月12日 / 9月19日 / 9月26日付ブログで紹介済))」(2013年)、また、第4作目「白蛇伝説(The White Worm → 2021年10月17日 / 10月21日付ブログで紹介済))」(2016年)と同様に、地方に残る伝説(今回は、先祖代々伝わる呪われた宝石)を背景にして、それに翻弄される恋人達、そして、彼らを助けようとするホームズと彼の相棒を務める彼の従兄弟で、友人でもあるヘンリー・ヴェルニール医師(Dr. Henry Vernier)という図式であり、前々回と前回に使用したパターンの使い回しで、3回連続である。

「グリムスウェルの呪い」と「白蛇伝説」の場合、物語全般にわたって、現地に伝わる呪い / 言い伝えに苦しむヒロインとそれにオロオロするだけの情けない恋人の二人をどうすることもできないまま、ホームズとヘンリー医師は、ただただ手をこまねいているだけで、事件の背後に潜む真相を明らかにしようとする試みが全く見られず、そして、具体的な事件が発生する訳でもなく、物語の最後まで進むという、正直ベース、内容的にあまりにも酷かった。本作品の場合は、ダイヤモンド「月長石」の盗難事件や「月長石」の鑑定を行った有名な宝飾品店ハーター&ベンジャミン(Harter and Benjamin)のハーター氏(Mr. Harter)の殺害事件が発生しており、物語の展開上、前2作に比べると、それなりの改善がみられる。


(3)ホームズ / ヘンリー・ヴェルニール医師の活躍について ☆半(1.5)


ブロムリー家において、パーティーが開催された夜、「今回が最後。」ということで、アリスが身に付けたダイヤモンド「月長石」が、何者かに奪われる事件が発生する。アリスの夫であるチャールズ・ブロムリーから依頼を受けたホームズは、アリスの身に危険が及ばないように、また、「月長石」が盗難に遭わないよう、必要な措置を取る必要があったにもかかわらず、パーティー会場において、他の出席者達とずーっと歓談し続けていた。パーティーの途中で、取り乱してしまったアリスが、上階において休んでいるのに、である。つまり、ホームズは、アリスと「月長石」の両方を、誰の付き添い / 警護もないまま、上階に放ったままの状態にしており、物語の展開上、仕方がないとは言え、これでは、名探偵というか、探偵失格である。本当のホームズであれば、こんなようなヘマはしない筈。


(4)総合評価 ☆☆半(2.5)


作者のサム・シチリアーノが発表した第1作目「オペラ座の天使(The Angel of the Opera → 2015年1月24日付ブログで紹介済)」(1994年)は、まあまあ良かったが、内容的には、第2作目「陰謀の糸を紡ぐ者(The Web Weaver → 2016年11月13日付ブログで紹介済)」(2012年)から下降を始め、第3作目「グリムスウェルの呪い」(2013年)と第4作目「白蛇伝説」(2016年)は、あまりにも酷い内容だった。

それらの続編に該る第5作目の本作品の場合、前2作(第3作目+第4作目)に比べると、それなりの改善がみられるが、先祖代々伝わるダイヤモンド「月長石」の呪いに苦しむヒロインとそれに困惑する夫の二人をどうすることもできないまま、ホームズとヘンリー医師は、ただ手をこまねいているという図式の繰り返しであり、実質的な改善が為されていない。

また、作者のサム・シチリアーノは、第1作目から、他の作家による有名な作品の本歌取りを続けているが、物語の設定上、また、展開上、本歌取りのベースとなっている他の作家による作品に縛られてしまっているように思われる。有名な作品の本歌取りの方が、一から作品を創作するよりも早いし、かつ、簡単であろうし、また、その方が、読者の受けも良いのかもしれないが、第2作目以降、似たような物語の展開であり、この辺で抜本的な改善が必要だと考えられる。



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