2025年7月27日日曜日

コナン・ドイル作「高名な依頼人」<英国 TV ドラマ版>(The Illustrious Client by Conan Doyle )- その6

1925年2月号 / 3月号に掲載された挿絵(その8)-

キングストン近くのヴァーノンロッジにおいて、

アデルバート・グルーナー男爵と面談したジョン・H・ワトスンは、

猛勉強の成果を見せたが、最終的には、ホームズの密偵であることが知られてしまう。

その時、何かを聞き付けて、じっと聞き耳を立てていたグルーナー男爵が、

自分の後ろの部屋へ飛び込むと、そこには、血塗れの包帯を頭に巻き、

窶れて青ざめた顔のホームズが、恐ろしい幽霊のような姿で立っていた。

挿絵:ハワード・ケッピー・エルコック
(Howard Keppie Elcock:1886年ー1952年)


シャーロック・ホームズシリーズの短編小説56作のうち、50番目に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1925年2月号と同年3月号に、また、米国の「コリアーズ ウィークリー(Collier’s Weekly)」の1924年11月8日号に掲載されたサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「高名な依頼人(The Illustrious Client → 2025年6月18日 / 6月23日 / 6月27日 / 7月5日 / 7月7日付ブログで紹介済)」は、英国のグラナダテレビ(Granada Television Limited)が制作した「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1984年ー1994年)において、TV ドラマとして映像化された。具体的には、第5シリーズ(The Case-book of Sherlock Holmes)の第5エピソード(通算では第31話)として、英国では1991年に放映されている。


グラナダテレビが制作した英国 TV ドラマ版の場合、コナン・ドイルの原作対比、次のような差異があるので、前回に引き続き、述べたい。


(24)

<原作>

キングストン(Kingston)近くのヴァーノンロッジにおいて、アデルバート・グルーナー男爵(Baron Adelbert Gruner)と面談したジョン・H・ワトスンは、猛勉強の成果を発揮するものの、最終的には、グルーナー男爵に、自分がホームズの密偵(emissary)であることが知られてしまい、窮地に陥る。

何かを聞き付けて、じっと聞き耳を立てていたグルーナー男爵が、自分の後ろの部屋へ飛び込むと、庭に面した窓が大きく開け放たれており、その側には、血塗れの包帯を頭に巻き、窶れて青ざめた顔のホームズが、恐ろしい幽霊のような姿で立っていたのである。(The window leading out to the garden was wide open. Besides it, looking like some terrible ghost, his head girt with bloody bandages, his face drawn and white, stood Sherlock Holmes.)

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、原作と同様に、アデルバート・グルーナー男爵と面談したワトスンは、猛勉強の成果を発揮したが、最終的には、グルーナー男爵に、自分がホームズの密偵であることが知られてしまい、原作とは異なり、ワトスンは、グルーナー男爵からピストルを向けられる破目に陥る。

すると、その部屋に、負傷したホームズが入って来る。


(25)

<原作>

グルーナー男爵がホームズの姿を見つけた段階で、ホームズは、グルーナー男爵の手帳(女性の写真を含む詳細が記されている)を既に手に入れていた。

そして、次の瞬間、ホームズが窓枠を乗り越えて、外の月桂樹の茂みに着地する音が、ワトスンには聞こえた。グルーナー男爵は、怒号を上げると、ホームズの後を追って、開いた窓に駆け寄った。(The next instant he was through the gap, and I heard the crash of his body among the laurel bushes outside. With a howl of rage the master of the house rushed after him to the open window.)

その時、女性(キティー・ウィンター(Kitty Winter:アデルバート・グルーナー男爵の元愛人で、被害者))の腕が、葉の間からさっと出てきて、グルーナー男爵に対して、硫酸を浴びせ掛けたのである。

<英国 TV ドラマ版>

グルーナー男爵が、ワトスンに向けていたピストルを、部屋に入って来たホームズへ向けなおした正にその時、キティー・ウィンターも部屋に飛び込んで来て、グルーナー男爵に対して、硫酸を浴びせ掛けている。

ワトスンが、硫酸を浴びたグルーナー男爵の顔に水を掛けている隙に、ホームズは、隠し戸棚の金庫から、男爵の日記を取り出している。

硫酸が掛かったグルーナー男爵の肖像画も、溶け出している映像も追加されている。


(26)

<原作>

キティー・ウィンターに浴びせ掛けられた硫酸が、グルーナー男爵の顔全体を腐食させ、彼の耳と顎から滴り落ちていた。片目は既に白くなり、濁っていた。また、もう一方の目は真っ赤で、炎症を起こしていた。(The vitriol was eating into it everywhere and dripping from the ears and the chin. One eye was already white and glazed. The other was red and inflamed.)

<英国 TV ドラマ版>

「キティー・ウィンターに浴びせ掛けられた硫酸により、グルーナー男爵は、右腕と顔のかなりの部分に被害を受けていて、一生、治らない。」と言う説明を、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)に戻ったワトスンが、ホームズとサー・ジェイムズ・デマリー大佐(Colonel Sir James Damery:今回の事件の表向きの依頼人)に対して、行なっている。


(27)

<原作>

グルーナー男爵の日記と匿名の依頼人から借り受けた明朝の本物の薄手磁器(the real eggshell pottery of the Ming dynasty)を持ったサー・ジェイムズ・デマリー大佐を、ワトスンが、負傷しているホームズの代わりに、外まで見送る。

サー・ジェイムズ・デマリー大佐は、待っていた四輪馬車に飛び乗ると、御者に急ぐように告げ、素早く走り去った。サー・ジェイムズ・デマリー大佐は、馬車のパネルにあった紋章を隠すように、コートを半分窓の外に垂らしていたが、それでも、玄関の明かりで、紋章がワトスンの目に入り、匿名の依頼人が誰なのか、判った。(Sir James carried away both it and the precious saucer. As I was myself overdue, I went down with him into the street. A brougham was waiting for him. He sprang in, gave a hurried order to the cockaded coachman, and drove swiftly away. He flung his overcoat half out of the window to cover the armorial bearings upon the panel, but I had seen them in the glare of our fanlight none the less.)

<英国 TV ドラマ版>

グルーナー男爵の日記と匿名の依頼人から借り受けた明朝の本物の薄手磁器を持ったサー・ジェイムズ・デマリー大佐を、ワトスンが、負傷しているホームズの代わりに、外まで見送る。

サー・ジェイムズ・デマリー大佐を乗せて去って行く馬車の横に、英国王室の紋章が付いているのを見て、ワトスンは驚く。


ウォーターループレイス(Waterloo Place)内に建つ
エドワード7世(Edward VII → 2025年5月10日 / 5月26日 /
5月31日 / 6月8日 / 6月15日付ブログで紹介済)の騎馬ブロンズ像


(28)

<原作>

最後に、事件の後日談が追加されている。

*3日後の「モーニングポスト」紙に、アデルバート・グルーナー男爵とヴァイオレット・ド・メルヴィル(Violet de Merville:ド・メルヴィル将軍(General de Merville)の令嬢で、アデルバート・グルーナー男爵の婚約者)の結婚はなくなった模様だと言う記事が掲載された。(Three days later appeared a paragraph in The Morning Post to say that the marriage between Baron Adelbert Gruner and Miss Violet de Merville would not take place.)

*同じ「モーニングポスト」紙に、グルーナー男爵に硫酸を浴びせ掛けたキティー・ウィンターの裁判の記事も載っており、大きな罪状軽減事由が法廷に亭主ツッされたため、このような犯罪に対する最も軽いものとなっている。(The same paper had the first police-court hearing of the proceedings against Miss Kitty Winter on the grave charge pf vitriol-throwing. Such extenuating circumstances came out in the trail that the sentence, as will be remembered, was the lowest that was possible for such an offence.)

*シャーロック・ホームズも(グルーナー男爵の日記を盗んだ)窃盗罪で起訴される恐れがあったが、その目的が正当で、かつ、依頼人が高名だったため、厳格な英国検察は思いやりと柔軟性を見せ、未だに被告席には立たされていない。(Sherlock Holmes was threatened with a prosecution for burglary, but when an object os good and a client is sufficiently illustrious, even the rigid British law becomes human and elastic. My friend has not yet stood in the dock.)

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、原作とは異なり、事件の後日談については、言及されていない。


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