2025年7月26日土曜日

コナン・ドイル作「高名な依頼人」<英国 TV ドラマ版>(The Illustrious Client by Conan Doyle )- その5

英国で出版された「ストランドマガジン」
1925年2月号 / 3月号に掲載された挿絵(その7)-
シャーロック・ホームズの依頼に応じて、
中国時期に関する猛勉強をしたジョン・H・ワトスンは、
ホームズから渡された明朝の本物の薄手磁器
サー・ジェイムズ・デマリー大佐が匿名の依頼人から借り受けたもの)を手にして、
「ヒル・バートン博士」の名刺をポケットに入れると、
ベイカーストリート221B から
馬車でキングストン(Kingston)近くのヴァーノンロッジへと向かった。
そして、午後8時半に、アデルバート・グルーナー男爵を訪ねたワトスンは、
明朝の薄手磁器を見せると、グルーナー男爵は、感に耐えない様子を見せた。
挿絵:ハワード・ケッピー・エルコック
(Howard Keppie Elcock:1886年ー1952年)


シャーロック・ホームズシリーズの短編小説56作のうち、50番目に発表された作品で、英国の「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1925年2月号と同年3月号に、また、米国の「コリアーズ ウィークリー(Collier’s Weekly)」の1924年11月8日号に掲載されたサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「高名な依頼人(The Illustrious Client → 2025年6月18日 / 6月23日 / 6月27日 / 7月5日 / 7月7日付ブログで紹介済)」は、英国のグラナダテレビ(Granada Television Limited)が制作した「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」(1984年ー1994年)において、TV ドラマとして映像化された。具体的には、第5シリーズ(The Case-book of Sherlock Holmes)の第5エピソード(通算では第31話)として、英国では1991年に放映されている。


グラナダテレビが制作した英国 TV ドラマ版の場合、コナン・ドイルの原作対比、次のような差異があるので、前回に引き続き、述べたい。


(20)

<原作>

アデルバート・グルーナー男爵(Baron Adelbert Gruner)が、金曜日にルリタニア号(Ruritania)で(英国の)リヴァプール(Liverpool)から渡米する予定であることを知ったシャーロック・ホームズは、ジョン・H・ワトスンに対して、「これから24時間で、中国磁器に関する勉強を徹底的に行ってほしい。(Well, then, spend the next twenty-four hours in an intensive study of Chinese pottery.)」と頼む。ホームズとしては、貴重で珍しい美術工芸品には目がないグルーナー男爵を英国内にできる限り長くとどめて、時間稼ぎをするとともに、ヴァイオレット・ド・メルヴィル(Violet de Merville:ド・メルヴィル将軍(General de Merville)の令嬢で、アデルバート・グルーナー男爵の婚約者)との結婚を阻止できるための証拠を手に入れる段取りをすることを考えていたのである。



セントジェイムズスクエアガーデンズ(St. James's Square Gardens
→ 2015年10月25日付ブログで紹介済)を東側から見たところ


ホームズからの依頼を受けて、ワトスンは、馬車でセントジェイムズスクエア(St. James’s Square → 2014年12月7日付ブログで紹介済)のロンドン図書館(London Library  → 2014年12月7日付ブログで紹介済)まで赴いた。そして、ワトスンは、彼の友人で、副司書(sub-librarian)であるローマックス(Lomax)に対して事情を説明の上、分厚い本を借り出すと、クイーン アン ストリート(Queen Anne Street → 2014年11月15日付ブログで紹介済)の自宅に帰り、その日の夕方から翌日の午前中一杯、中国磁器について、猛勉強をした。



画面中央に見える建物が、セントジェイムズスクエア14番地に該るロンドン図書館である。


ロンドン図書館の入口


<英国 TV ドラマ版>

原作と同様に、ホームズから「これから24時間で、中国磁器に関する勉強を徹底的に行ってほしい。(Then spend the next twenty-four hours in an intensive study of Chinese pottery.)」と頼まれたワトスンは、ホームズの怪我の看病をしながら、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)にそのままとどまって、中国磁器について、猛勉強をしている。従って、英国 TV ドラマ版の場合、原作とは異なり、ワトスンは、セントジェイムズスクエアのロンドン図書館へは出かけてはいないし、また、クイーン アン ストリートの自宅にも戻っていない。



ウェルベックストリート(Welbeck Street → 2015年5月16日付ブログで紹介済)から
クイーン アン ストリートを望む


(21)

<原作>

サー・ジェイムズ・デマリー大佐(Colonel Sir James Damery:今回の事件の表向きの依頼人)が匿名の依頼人から借り受けた明朝の本物の薄手磁器(the real eggshell pottery of the Ming dynasty)に加えて、ホームズがワトスンに手渡した名刺には、「ハーフムーンストリート369番地 ヒル・バートン博士(Dr Hill Barton, 369 Half Moon Street)」と印刷されていた。これが、今回、ワトスンが演じる偽名だった。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、ホームズがワトスンに手渡した名刺には、原作よりももう少し詳細に、「西区メイフェア地区ハーフムーンストリート369番地 ヒル・バートン博士(Dr Hill Barton, 369 Half Moon Street, Mayfair, West)」と書かれている。


ホームズがワトスンに渡したヒル・バートン博士の名刺に記載されていたハーフムーンストリート369番地は、架空の住所であり、同ストリートは3桁の番地が存在できる程には長くない。

ハーフムーンストリートの中間辺りから
北側のカーゾンストリート(Curzon Street → 2015年9月1日付ブログで紹介済)を見たところ


(22)

<原作>

ワトスンは、ホームズの指示通り、アデルバート・グルーナー男爵が住むキングストン(Kingston)近くのヴァーノンロッジ(Vernon Lodge)を午後8時半に訪問するべく、明朝の本物の薄手磁器を手にして、ヒル・バートン博士の名刺をポケットに入れると、ベイカーストリート221B を馬車で出発した。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、基本的に、原作と同じであるが、ワトスンが乗った馬車の後ろに、キティー・ウィンター(Kitty Winter:アデルバート・グルーナー男爵の元愛人で、被害者)が飛び付いて、張り付く場面が、映像上、追加されている。


(23)

<原作>

キングストン(Kingston)近くのヴァーノンロッジにおいて、アデルバート・グルーナー男爵と会見したワトスンは、猛勉強の成果を発揮するものの、グルーナー男爵から、日本の聖武天皇(Emperor Shomu)、奈良の正倉院(Shoso-in near Nara)や中国の北魏王朝(Northern Wei dynasty)等の質問を次々と繰り出されて、答えに窮してしまう。そして、最終的には、ワトスンは、グルーナー男爵に、自分がホームズの密偵(emissary)であることが知られてしまい、窮地に陥る。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、原作と同様に、アデルバート・グルーナー男爵と面談したワトスンは、猛勉強の成果を発揮。ただし、ワトスンは、グルーナー男爵から、日本の聖武天皇、奈良の正倉院や中国の北魏王朝等の質問を繰り出されてはいない。しかしながら、最終的には、ワトスンは、グルーナー男爵に、自分がホームズの密偵であることが知られてしまい、原作とは異なり、ワトスンは、グルーナー男爵からピストルを向けられる破目に陥るのであった。


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