2025年7月29日火曜日

ロンドン ドーヴァーストリート(Dover Street)- その2

ブラウンズホテルの表玄関は、現在、
ドーヴァーストリート側ではなく、
アルベマールストリート側にある。
(住所:33 Albemarle Street, Mayfair, London W1S 4BP)
<筆者撮影>


アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)の長編第2作目で、かつ、は、トマス・ベレズフォード(Thomas Beresford - 愛称:トミー(Tommy))とプルーデンス・カウリー(Prudence Cowley - 愛称:タペンス(Tuppence))の記念すべきシリーズ第1作目に該る「秘密機関(The Secret Adversary)」(1922年)の冒頭、第一次世界大戦(1914年ー1918年)が終わり、世界が復興へと向かう中、ロンドンの地下鉄ドーヴァーストリート駅(Dover Street Tube Station)のドーヴァーストリート(Dover Street)出口において、昔馴染みのトミーとタペンスは、偶然再会する。

なお、現在、ドーヴァーストリート沿いには、地下鉄の出入口は存在していない。


ビル・ブラッグ氏Mr. Bill Braggが描く
ミス・マープルシリーズの長編第10作目である
「バートラムホテルにて」の一場面


ドーヴァーストリート沿いの建物の中で、推理小説上、特に有名なものは、ブラウンズホテル(Brown's Hotel → 2015年5月10日付ブログで紹介済)である。

アガサ・クリスティーが1965年に発表したミス・マープルシリーズの長編第10作目である「バートラムホテルにて(At Bertram’s Hotel)」に出てくるバートラムホテルは、架空の場所であるが、アガサ・クリスティーがロンドンを訪れた際によく宿泊していた「ブラウンズホテル」から、本作品の着想を得たと、一般に言われている。


ビル・ブラッグ氏によるイラストには、

若き遺産相続人であるエルヴィラ・ブレイクが、旅行鞄を持って、

バートラムホテルのレセプションの前に佇んでいるシーンが描かれている。

Harper Collins Publishers 社から出版されている

「バートラムホテルにて」のペーパーバック版の表紙には、

ビル・ブラッグ氏によるイラストが、

ルームキーの形に切り取られているものが使用されている。


ただし、アガサ・クリスティーの遺族公認の伝記「アガサ・クリスティーの生涯(Agatha Christie : A biography)」を執筆したジャネット・モーガン(Janet Morgan)が、バートラムホテルのモデルになったのは、「ブラウンズホテル」ではなく、「フレミングス メイフェア ホテル(Flemings Hotel → 2015年5月17日付ブログで紹介済)」であると主張しており、現在、2説に分かれている。


フレミングス メイフェア ホテルの玄関
(住所:7 - 12 Half Moon Street, Mayfair, London W1J 7BH)
<筆者撮影>


ブラウンズホテルは、第6代バイロン男爵ジョージ・ゴードン・バイロン(George Gordon Byron, 6th Baron Byron:1788年ー1824年 → 2021年5月9日+2024年8月24日 / 8月30日付ブログで紹介済)の執事(valet)だったジェイムズ・ブラウン(James Brown)とサラ・ブラウン(Sarah Brown)により、1837年にドーヴァーストリート側で創業された。1889年に、ブラウンズホテルは、背中を接し、アルベマールストリート(Albemarle Street → 2022年2月19日付ブログで紹介済)側にあったセントジョージホテル(St. George's Hotel)を買収し、2つのホテルを1つに統合するとともに、最上階を新たに増築の上、アルベマールストリート側を表玄関として、そして、ドーヴァーストリート側を裏玄関として改装した。



アルベマールストリートを北側から望む -
画面右手奥にブラウンズホテルの表玄関(アルベマールストリート側)がある
<筆者撮影>



ドーヴァーストリートの中間辺りを南側を見たところ -
画面右手にブラウンズホテルの裏玄関(ドーヴァーストリート側)がある
<筆者撮影>


現在のブラウンズホテルが旧ブラウンズホテルとセントジョージホテルが統合したものであることを示すモザイクが、アルベマールストリート側のホテル外壁に、左右3つずつ掛けられている。


旧ブラウンズホテルとセントジョージホテルが統合したことを示す
モザイクがホテル外壁に掛けられている。
<筆者撮影>


ブラウンズホテルには、以下の著名人が宿泊したり、利用したりしている。

(1)ナポレオン3世(Napoleon III:1808年ー1873年)

フランス第2共和制の大統領(1848年ー1852年)/フランス第2帝政の皇帝(1852年-1870年)で、第2帝政崩壊に伴い、英国へ亡命した後、1871年に元皇后ウジェニー・ド・モンティジョ(Eugenie de Montijo)と一緒にブラウンズホテルに宿泊している。

(2)アレクサンダー・グラハム・ベル(Alexander Graham Bell:1847年ー1922年)

スコットランド生まれの科学者、発明家かつ工学者で、世界初の実用的電話の発明で知られているが、1876年にブラウンズホテルで英国初の電話実験に成功している。

(3)セオドア・ルーズヴェルト(Theodore Roosevelt:1858年ー1919年)

米国の第25代副大統領(1901年)/第26代大統領(1901年ー1909年)で、最初の夫人アリス・ハサウェイ・リーが1884年に死去した後、2番目の夫人イーディス・カーミット・カーロウと1886年に再婚する前に、ブラウンズホテルに宿泊している。また、ここで結婚式を挙げている。


上記以外にも、アガサ・クリスティーに加えて、以下の作家がブラウンズホテルを利用している。

(4)サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)


第二次ボーア戦争(Second Anglo-Boer War:
1899年10月12日ー1902年5月31日
→ 2022年8月8日付ブログで紹介済)時、
アーサー・コナン・ドイルは、
既に40歳を超えていたため、英国陸軍の兵役検査をパスできず、
従軍を諦めたが、その代わりに、戦地の南アフリカへ派遣される医療医師団に
参加することに決め、現地入りした。

(Dorling Kindersley Limited から発行されている
「The Sherlock Holmes Book」から抜粋)


(5)エイブラハム・”ブラム”・ストーカー(Abraham "Bram" Stoker:1847年ー1912年)ー「ドラキュラ(Dracula)」(1897年)等で有名。


エイブラハム・”ブラム”・ストーカーが住んでいた
セントレオナルズテラス18番地
(18 St. Leonard's Terrace → 2015年1月16日付ブログで紹介済)の全景
<筆者撮影>


セントレオナルズ18番地の外壁には、
ブラム・ストーカーがここに住んでいたことを示す
Greater London Council のブループラークが掛けられている。
<筆者撮影>


(6)ロバート・ルイス・スティーヴンスン(Robert Louis Stevenson:1850年ー1894年)ー「宝島(Treasure Island)」(1883年)と「ジキル博士とハイド氏(Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde)」(1886年)等で有名。


ナショナルポートレートギャラリー(National Portrait Gallery)で展示されている
ロバート・ルイス・スティーヴンスンの肖像画
(By Sir William Blake Richmond / Oil on canvas / 1887年
<筆者撮影>

ロバート・スティーヴンスンが住んでいたマウントヴァーノン通り7番地
(7 Mount Vernon → 2015年6月20日付ブログで紹介済)
<筆者撮影>


マウントヴァーノン通り7番地の外壁には、
ロバート・スティーヴンスンがここに住んでいたことを示すプレートが掛けられている。
<筆者撮影>


(7)オスカー・フィンガル・オフラハティー・ウィルス・ワイルド(Oscar Fingal O'Flahertie Wills Wilde:1854年ー1900年)ー「ドリアン・グレイの肖像(The Picture of Dorian Gray)」(1890年)や「サロメ(Salome)」(1893年)等で有名。


ナショナルポートレートギャラリーで販売されている
オスカー・ワイルドの写真の葉書
(Napoleon Sarony / 1882年 / Albumen panel card
305 mm x 184 mm) 


真ん中の建物が、オスカー・ワイルドが住んでいた
タイトストリート16番地(現在の34番地)
(34 Tite Street → 2015年5月24日付ブログで紹介済)
<筆者撮影>


タイトストリート16番地(現在の34番地)の外壁には、
オスカー・ワイルドがここに住んでいたことを示す
London County Council のプラークが掛けられている。
<筆者撮影>


(8)サー・ジェイムズ・マシュー・バリー(Sir James Matthew Barrie:1860年ー1937年)ーピーターパン(Peter Pan)シリーズ等で有名。


サー・ジェイムズ・バリーが住んでいたベイズウォーターロード100番地
(100 Bayswater Road → 2015年7月25日付ブログで紹介済)
<筆者撮影>


ベイズウォーターロード100番地の外壁には、
サー・ジェイムズ・バリーがここに住んでいたことを示す
London County Council のブループラークが掛けられている。
<筆者撮影>


(9)ジョーゼフ・ラドヤード・キップリング(Joseph Rudyard Kipling:1860年ー1936年)ー「ジャングルブック(The Jungle Book)」(1894年)等で有名。1907年に英国初のノーベル文学賞を受賞。


ナショナルポートレートギャラリーで展示されている
ジョーゼフ・ラドヤード・キップリングの肖像画
(By Ginette Bingguely-Lejeune /
Bronze / 1936年ー1937年頃

<筆者撮影>

ジョーゼフ・ラドヤード・キップリングが住んでいた
ヴィリアーズストリート43番地
(43 Villiers Street → 2018年12月8日付ブログで紹介済)
<筆者撮影>


ヴィリアーズストリート43番地の外壁には、
「ジョーゼフ・ラドヤード・キップリングが、1889年から1891年にかけて、
ここに住んでいた」ことを示す
London County Council のブループラークが掛けられている。
<筆者撮影>


ブラウンズホテルは、2022年に創業185年周年を迎えている。


ブラウンズホテルの表玄関が面しているアルベマールストリートは、オックスフォードストリート(Oxford Street → 2016年5月28日付ブログで紹介済)からピカデリー通り(Piccadilly)へ向かって南に下るニューボンドストリート /オールドボンドストリート(New Bond Street / Old Bond Street → 2017年5月21日付ブログで紹介済)の一本西側にあり、ブランドショップが軒を連ねるショッピング街に非常に近く、利便性が高い。


アルベマールストリート(ブラウンズホテルの表玄関側)とドーヴァーストリート(ブラウンズホテルの裏玄関側)は、共に南から北への一本通行で、トラファルガースクエア(Trafalgar Square)方面からバークレースクエア(Berkeley Square → 2024年8月3日付ブログで紹介済)やグローヴナースクエア(Grosvenor Square → 2015年5月22日付ブログで紹介済)経由、マーブルアーチ(Marble Arch)へと至る近道に該るため、ブラウンズホテル前の通りは必ずしも閑静とは言えず、ロンドン市内の通りに詳しいタクシーや一般車が割合と頻繁に通り抜けて行っている。


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