2025年7月5日土曜日

コナン・ドイル作「高名な依頼人」<小説版>(The Illustrious Client by Conan Doyle )- その4

英国で出版された「ストランドマガジン」
1925年2月号 / 3月号に掲載された挿絵(その4)-
シャーロック・ホームズは、
彼の協力者である情報屋のシンウェル・ジョンスンから紹介されたキティー・ウィンターを伴って、
1902年9月4日の午後5時半に、
バークリースクエア104番地に住む
ヴァイオレット・ド・メルヴィル嬢の元を訪れた。
生憎と、
ヴァイオレット・ド・メルヴィル嬢の態度は頑なで、
ホームズ達の説得には、全く耳を傾けず、
ホームズの計画は不調に終わってしまった。
画面左側から、シャーロック・ホームズ、キティー・ウィンター、
そして、
ヴァイオレット・ド・メルヴィル嬢。
挿絵:ハワード・ケッピー・エルコック
(Howard Keppie Elcock:1886年ー1952年)


1902年9月3日の午後4時半に、ベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)において、サー・ジェイムズ・デマリー大佐(Colonel Sir James Damery)の訪問を受けた後、ジョン・H・ワトスンは、本業の医師として急ぎの仕事があったため、その晩、シンプソンズ(Simpson’s → 2014年11月23日付ブログで紹介済)でシャーロック・ホームズと会い、彼からデマリー大佐との会見以降の経過を聞いた。


ローストビーフが有名なシンプソンズは、
ストランド通り沿いに立っている。


デマリー大佐が帰った後、ホームズは、早速、キングストン(Kingston)近くのヴァーノンロッジ(Vernon Lodge)まで馬車で出かけて、オーストリアの貴族であるアデルバート・グルーナー男爵(Baron Adelbert Gruner)に会っていた。

残念ながら、ド・メルヴィル将軍(General de Merville)の令嬢であるヴァイオレット・ド・メルヴィル(Violet de Merville)との婚約破談にかかるホームズとアデルバート・グルーナー男爵の交渉は不調に終わった。また、ホームズが男爵邸を辞去する際、紳士的な態度を崩さなかったものの、アデルバート・グルーナー男爵は、ホームズに対して、本件から手を引くように伝えるとともに、フランスの探偵(French agent)のル・ブラン(Le Brun)を引き合いに出して、明確な「警告」を与えたのだった。


ホームズがワトスンを連れて、シンプソンズからベーカーストリート221B に戻ると、ロンドンの裏社会に通じた情報屋で、ホームズの協力者であるシンウェル・ジョンスン(Shinwell Johnson)が、一人の女性と一緒に、ホームズの帰りを待っていた。

彼女の名前は、キティー・ウィンター(Kitty Winter)で、アデルバート・グルーナー男爵の元愛人で、被害者でもあり、今回の件で、ホームズに協力することを喜んで確約する。

キティー・ウィンター曰く、アデルバート・グルーナー男爵は、蝶や蛾の収集家のように、女性を収集する人物で、今までに弄んだ女性の情報(スナップ写真、名前やその他の詳細)を記した手帳を、奥の書斎の古い引き出しの整理箱の中に隠してある筈、とのことだった。


バークリースクエアガーデンズ(Berkeley Square Gardens)の内部 -
なお、シャーロック・ホームズとキティー・ウィンターが訪ねた
ヴァイオレット・ド・メルヴィル嬢の住まいであるバークリースクエア104番地は架空の住所であり、
同スクエアには3桁の番地は存在していない。


翌日(9月4日)の午後5時、キティー・ウィンターにベイカーストリート221B に来てもらうと、ホームズは、彼女を連れて、同日の午後5時半に、ド・メルヴィル将軍とヴァイオレット・ド・メルヴィル嬢が住むバークリースクエア104番地(104 Berkeley Square → 2014年11月29日付ブログで紹介済)を訪問した。

生憎と、またもや、ワトスンは、本業の医師としての仕事があったため、ホームズ達に同行することは叶わなかった。


ヴァイオレット・ド・メルヴィル嬢は、ホームズの訪問は既に判っていたようで、落ち着き払った冷淡な態度を全く崩さなかったが、キティー・ウィンターの同席は全く想定していなかったのか、少し驚いた表情を見せた。

しかしながら、ヴァイオレット・ド・メルヴィル嬢は、ホームズによる説得、そして、キティー・ウィンターによる暴露にも、全く聞く耳を持たず、アデルバート・グルーナー男爵に対する妻殺害疑惑を濡れ衣だと思い込んでいる彼女の態度は非常に頑なで、どんな説得にも耳を貸そうとはしなかったのである。

ド・メルヴィル将軍をはじめ、ヴァイオレット・ド・メルヴィル嬢の周りの者が、彼女に対して、アデルバート・グルーナー男爵との結婚を思いとどまるよう言い含めるものの、彼らの説得が全く無意味だったのと同様だった。

感情が激した結果、ヴァイオレット・ド・メルヴィル嬢の方へ思わず飛び出したキティー・ウィンターであったが、ホームズがすかさず手首を掴むと、キティー・ウィンターを扉の方へ引き摺っていき、馬車に戻して、なんとか事無きを得たのである。


地下鉄チャリングクロス駅(Charing Cross Tube Station)の構内にある地図 -
チャリングクロス交差点(Charing Cross → 2016年5月25日付ブログで紹介済)から東へ向かって、
ストランド通りは始まる。


本業の医師の仕事を終えたワトスンは、その日の夜、ストランド通り(Strand → 2015年3月29日付ブログで紹介済)のレストラン(シンプソンズだと思われる)において、ホームズから、ヴァイオレット・ド・メルヴィル嬢との会見の結果を聞いた。

その際、ホームズは、ワトスンに対して、「こちらが次の一手(を指す前に、向こうが次の一手を打ってくる可能性がありうる。(it is possible that the next move may lie with them rather than with us.)」と告げる。


不幸なことに、後日、ホームズの読みは的中したのである。


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