2025年7月10日木曜日

ロンドン グラスハウスストリート(Glasshouse Street)

グラスハウスストリートの名を冠した
パブ「The Glassblower」-
グラスハウスストリートの西端に所在。


サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)が、シャーロック・ホームズシリーズの短編小説56作のうち、50番目に発表された作品「高名な依頼人(The Illustrious Client)」において、1902年9月4日の午後5時半に、シャーロック・ホームズは、ロンドンの裏社会に通じた情報屋で、ホームズの協力者であるシンウェル・ジョンスン(Shinwell Johnson)から紹介されたキティー・ウィンター(Kitty Winter - オーストリアの貴族であるアデルバート・グルーナー男爵(Baron Adelbert Gruner)の元愛人で、被害者)を連れて、ド・メルヴィル将軍(General de Merville)とヴァイオレット・ド・メルヴィル(Violet de Merville)嬢が住むバークリースクエア104番地(104 Berkeley Square → 2014年11月29日付ブログで紹介済)を訪問した。


バークリースクエアガーデンズ(Berkeley Square Gardens)の内部 -
なお、シャーロック・ホームズとキティー・ウィンターが訪ねた
ヴァイオレット・ド・メルヴィル嬢の住まいであるバークリースクエア104番地は架空の住所であり、
同スクエアには3桁の番地は存在していない。


しかしながら、ヴァイオレット・ド・メルヴィル嬢は、ホームズによる説得、そして、キティー・ウィンターによる暴露にも、全く聞く耳を持たず、アデルバート・グルーナー男爵に対する妻殺害疑惑を濡れ衣だと思い込んでいる彼女の態度は非常に頑なで、残念ながら、アデルバート・グルーナー男爵との結婚を思いとどませることは、不調に終わった。


現在の「シンプソンズ」入口


その日の夜、ストランド通り(Strand → 2015年3月29日付ブログで紹介済)のレストラン(シンプソンズだと思われる)において、本業の医師の仕事を終えたジョン・H・ワトスンと一緒に食事をしたホームズは、ワトスンに対して、「こちらが次の一手(を指す前に、向こうが次の一手を打ってくる可能性がありうる。(it is possible that the next move may lie with them rather than with us.)」と告げる。


ストランド通りに面しているチャリングクロス駅の正面


2日後の夕方、ホームズの読みは、悪い方に的中した。

ワトスンが、グランドホテル(Grand Hotel)とチャリングクロス駅(Charing Cross Station → 2014年9月20日付ブログで紹介済)の間で、夕刊紙の売り子が持つ新聞見出しを見て、暫し呆然と立ち尽くす。そこには、黄色の地に黒色の文字で、次のように書かれていた。


「シャーロック・ホームズ氏が暴漢の襲撃に遭う!(Murderous Attack upon Sherlock Holmes)」と...


リージェントストリート沿いの
カフェロイヤルの入口


新聞によると、今日の昼の12時頃、カフェロイヤル(Cafe Royal → 2014年11月30日付ブログで紹介済)の外のリージェントストリート(Regent Street)の路上において、ホームズは、ステッキを持った二人組の暴漢に襲われたのだった。


グラスハウスストリートの西端から東方面を見たところ。

有名な私立探偵のシャーロック・ホームズ氏が今朝襲撃に遭って重態に陥ったことは非常に遺憾である。今のところ、その詳細は不明なるも、事件は昼の12時頃、リージェントストリート沿いのカフェロイヤルの前で発生した模様。襲撃はステッキで武装した二人の男達によって行われ、ホームズ氏は頭部と身体に打撃を受けて、医師団によると、重傷とのこと。当初、ホームズ氏はチャリングクロス病院へ運ばれたが、その後、本人の希望でベイカーストリートの自宅に移送された。ホームズ氏を襲撃した犯人達は紳士然とした服装の男達で、カフェロイヤルの中を通り、裏側のグラスハウスストリートへと抜けて、目撃者の追及から免れた模様。負傷したホームズ氏の活動と明晰な頭脳に常日頃悩まされてきた犯罪者達の一味と目される。


グラスハウスストリートの西端の建物の外壁。

We learn with regret that Mr Sherlock Holmes, the well-known private detective, was the victim this morning of a murderous assault which has left him in a precarious position. There are no exact details to hand, but the event seems to have occurred about twelve o'clock in Regent Street, outside the Cafe Royal. The attack was made by two men armed with sticks, and Mr Holmes was beaten about the head and body, receiving injuries which the doctors describe as most serious. He was carried to Charing Cross Hospital, and afterwards insisted upon being taken to his rooms in Baker Street. The miscreants who attacked him appear to have been respectably dressed men, who escaped from the bystanders by passing through the Cafe Royal and out into Glasshouse Street behind it. No doubt they belonged to that criminal fraternity which has so often had occasion to bewail the activity and ingenuity of the injured man.)」


グラスハウスストリートの中間辺り。-
左斜め奥へと延びている通りがグラスハウスストリートで、
右奥へと延びている通りがエアーストリート。


元のカフェロイヤルは、フランス人のワイン商人だったダニエル・ニコラス・セヴェノン(Daniel Nicholas Thevenon)によって1865年に創業された。フランスで自己破産した彼は、妻を伴い、1863年に英国に移住した際に、英国風の名前ダニエル・ニコルス(Daniel Nicols)に改名。

彼の息子(名前は父親と同じダニエル・ニコルス)の下でカフェロイヤルは繁盛。1890年代に入ると、ロンドンの人気スポットとなり、オスカー・ワイルド(Oscar Wilde:1854年ー1900年 / 代表作:「サロメ」や「ドリアン・グレイの肖像(The Picture of Dorian Gray → 2022年9月18日 / 10月8日付ブログで紹介済)」)、ヴァージニア・ウルフ(Virginia Wolf:1882年ー1941年 / 代表作:「ダロウェイ夫人」、「灯台」、「オーランドー」や「波」)、デイヴィッド・ハーバート・ローレンス(David Herbert Lawrence:1885年ー1930年 / 代表作:「チャタレイ夫人の恋人」や「息子と恋人」)やジョージ・バーナード・ショー(George Bernard Shaw:1856年ー1950年 / 代表作:「ピグマリオン」や「ウォレン夫人の職業」)等、英国を代表する作家達が多数つめかけた。

大改装のため、カフェロイヤルは2008年12月に一旦閉鎖され、約4年間の改装工事を経て、2012年12月に5つ星ホテルに新しく生まれ変わり、現在に至っている。



リージェントストリートとグラスハウスストリートを繋ぐ
エアーストリート沿いにあるホテルの玄関口


現在のカフェロイヤルの場合、


(1)リージェントストリート側:カフェの入口

(2)エアーストリート(Air Street):ホテルの入口

(3)グラスハウスストリート(Glasshouse Street):バーの入口


がある。



現在、カフェロイヤルの裏口は、バーの入り口になっており、
ホームズを襲撃した二人組の暴漢は、ここからグラスハウスストリートへと抜け出て、
何処かへ逃走したのである。-
左奥へと延びる通りがグラスハウスストリートで、
右斜め奥へと延びる通りがエアーストリート。

ホームズを襲撃した二人組の暴漢(アデルバート・グルーナー男爵が放ったと思われる)は、カフェロイヤルの中を通り、裏のグラスハウスストリートへ抜け出た後、逃走している。

従って、現在のカフェロイヤルの場合、グラスハウスストリート側に面したバーの入口から、彼らは逃走したことになる。


グラスハウスストリートとエアーストリートが交差した地点から、
グラスハウスストリート沿いの建物外壁を見上げたところ(その1)

グラスハウスストリートは、ロンドン中心部のシティー・オブ・ウェストミンスター(City of Westminster)区内のリージェントストリートの北側に所在する通り(約240m)で、リージェントストリートとピカデリーサーカス(Piccadilly Circus)を結んでいる。


グラスハウスストリートとエアーストリートが交差した地点から、
グラスハウスストリート沿いの建物外壁を見上げたところ(その2)

グラスハウスストリートは、ガラス工業の店が多数この通り沿いにあったことから、この名前が付けられたものと思われる。


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