2025年7月13日日曜日

ミシェル・バークビー作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団」(The Women of Baker Street by Michelle Birkby)- その5

日本の出版社である KADOKAWA から、
角川文庫として出版されている

ミシェル・バークビイ作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団
ミセス・ハドスンとメアリー・ワトスンの事件簿2」の表紙

       カバーイラスト: いとう あつき
 カバーデザイン: 西村 弘美

読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆半(3.5)


ベーカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)の家主であるハドスン夫人(Mrs. Hudson)と呼ばれているマーサ・ハドスン(Martha Hudson)と、「四つの署名(The Sign of the Four → 2017年8月12日付ブログで紹介済)を経てワトスン夫人(Mrs. Watson)となったメアリー・ワトスン(Mary Watson)の2人が、金銭目的ではなく、自分の支配力を誇示したいがために、大勢の女性を食い物にしている強請屋(ゆすりや)を退治した「ベイカー街の女たち(The House at Baker Street → 2025年3月30日 / 4月2日 / 4月10日 / 4月26日付ブログで紹介済)」事件(1889年4月)から約6ヶ月が経過した同年10月30日から、再度、物語が始まる。

「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」事件を解決して、ダートムーア(Dartmoor)からロンドンへと帰還したシャーロック・ホームズは、自室に閉じこもって、まるで孤島暮らしをしているかのようだった。

ホームズと同じく、ロンドンに戻ったワトスンは、妻のメアリーを連れて、2週間の予定で、エディンバラ(Edinburgh)へ休暇旅行に出かけていた。彼らは、ベイカーストリート221B 住み込みの給仕であるビリー(Billy)も一緒に伴っていた。


日本の出版社である KADOKAWA から、
角川文庫として出版されている

ミシェル・バークビイ作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団
ミセス・ハドスンとメアリー・ワトスンの事件簿2」
内に付されている
セントバーソロミュー病院の特別病棟の見取り図


そんな最中、ハドスン夫人は、腹部の閉塞症のために倒れて、セントバーソロミュー病院(St. Bartholomew's Hospital → 2014年6月14日付ブログで紹介済)において緊急手術を受ける。ハドスン夫人が入院した特別病棟(ワトスンが手配)において、夜間に患者の不可解な死が連続する。その上、ハドスン夫人は、患者のベッドの上に覆いかぶさる謎の影のかたまりも目撃。

一方、ハドスン夫人の見舞いに訪れたメアリー・ワトスンは、給仕のビリー経由、ベイカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)のウィギンズ(Wiggins)から「ロンドンの街角から、少年達が忽然と姿を消している。」と言う話を耳にする。

一見、無関係のように思えた2つの事件であったが、ハドスン夫人とメアリー・ワトスンが立ち向かった結果、やがて1つの悲惨な事件へと収束していくのである。


(2)物語の展開について ☆☆☆半(3.5)


ハドスン夫人とメアリー・ワトスンの2人は、ホームズとは異なり、事件捜査の専門家ではないので、ホームズとワトスンを主人公とする他のパスティーシュのようには、なかなかうまく行かず、前作の「ベイカー街の女たち」と同様に、何度も試行錯誤が続く。


マーサ・ハドスンとメアリー・ワトスンは、前作と同様に、


*ベーカーストリート不正規隊のリーダーであるウィギンズ

*ベーカーストリート221B の給仕であるビリー


のサポートを受けつつ、最後には、セントバーソロミュー病院内での連続殺人事件と少年達の連続失踪事件の2つを解決に導いていく。


前作の「ベイカー街の女たち」において、ハドスン夫人 / メアリー・ワトスンとウィギンズ / ビリー(特に、ハドスン夫人とウィギンズ)は、強い絆を築いており、二人の信頼関係が、ハドスン夫人とメアリー・ワトスンにとって、大きなサポートとなっている。


日本の出版社である KADOKAWA から、
角川文庫として出版されている

ミシェル・バークビイ作「ベイカー街の女たちと幽霊少年団
ミセス・ハドスンとメアリー・ワトスンの事件簿2」の文庫表紙


(3)マーサ・ハドスン / メアリー・ワトスンの活躍について ☆☆☆☆(4.0)


マーサ・ハドスンとメアリー・ワトスンの2人は、前作の「ベイカー街の女たち」で築いたウィギンズやビリーからの大きなサポートを受けて、何度も試行錯誤を繰り返しつつも、最後には、セントバーソロミュー病院内での連続殺人事件と少年達の連続失踪事件の真相を明らかにする。


ハドスン夫人は、セントバーソロミュー病院において腹部の閉塞症の緊急手術を経た後、退院間もないため、体調的に優れない状況。

それに加えて、前作の「ベイカー街の女たち」において、金銭目的ではなく、自分の支配力を誇示したいがために、大勢の女性を食い物にしている強請屋(ゆすりや)ではあったが、物語の最後、結果として、死に導いてしまったことについて、ハドスン夫人は、良心の呵責に苛まれている。更に悪いことに、スコットランドヤードのレストレイド警部(Inspector Lestrade)が、強請屋の焼死を「事故」とは考えず、「事件」として捜査を進めていた。

そのため、ハドスン夫人は、セントバーソロミュー病院内での連続殺人事件と少年達の連続失踪事件に対しても、二の足を踏む展開が続く。

今回も、ホームズは、脇役へとまわっているものの、強請屋の焼死を含む前作の「ベイカー街の女たち」事件の詳細に関しては、全て判っているようで、ハドスン夫人 / メアリー・ワトスンのことを実は高く評価しており、ハドスン夫人 / メアリー・ワトスン(特に、ハドスン夫人)に対して、温かい目を向け、陰ながら大きなサポートをしている。


(4)総合評価 ☆☆☆半(3.5)


本作品は、マーサ・ハドスンとメアリー・ワトスンの2人を主人公とはしているものの、脇役ながら、


*シャーロック・ホームズ

*ジョン・H・ワトスン

*ウィギンズ

*ビリー


*アイリーン・ノートン(旧姓:アドラー):「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia → 2022年12月18日 / 2023年8月6日 / 2023年8月9日 / 2023年8月19日付bログで紹介済)」に登場 → 前作の「ベイカー街の女たち」とは異なり、手紙でほんの少しだけ出てくる。


と言ったサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)が生み出したキャラクターが登場して、関与の仕方に差異はあるが、物語に彩りを与えている。


今回は、特に、強い絆を築いたハドスン夫人とウィギンズの信頼関係、そして、ハドスン夫人とホームズの心の交流(お互いに孤独な人物同士であり、また、事件捜査により、それらから発生した結果(人の生き死にを含む)に対する責任を負わなければならない人物同士でもある)が、非常に良く描かれている。


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