2023年1月6日金曜日

シャーロック・ホームズの世界<ジグソーパズル>(The World of Sherlock Holmes )- その5

英国の Laurence King Publishing Group Ltd. から出ている「シャーロック・ホームズの世界(The World of Sherlock Holmes)」と言うジグソーパズル内に散りばめられているシャーロック・ホームズシリーズに登場する人物や物語の舞台となる建物、また、作者であるサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年-1930年)本人と彼に関連する人物等、50個にわたる手掛かりについて、引き続き、順番に紹介していきたい。

なお、本ジグソーパズル内に描かれているロンドンの建物に関して言うと、実際の位置関係とは大きく異なっているので、誤解がないようにお願いしたい。


舞台は、前回のサセックス州(Sussex)から、今回、サリー州(Surrey)へと移る。


(22)ヴァイオレット・スミス嬢(Miss Victoria Smith)

(23)彼女の後をつける黒ずくめの男(Unknown Pursuer)


本ジグソーパズルでは、
チルタン屋敷とファーナム駅を結ぶ道において、
ヴァイオレット・スミス嬢が乗る自転車の後を、
黒ずくめの男が乗る自転車が付けている場面が描かれている。


ヴァイオレット・スミス嬢と彼女の後をつける黒ずくめの男は、「孤独な自転車乗り(The Solitary Cyclist)」に登場する人物達である。


「孤独な自転車乗り」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、28番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1904年1月号に、また、米国では、「コリアーズ ウィークリー(Collier’s Weekly)」の1903年12月26日号に掲載された。

また、同作品は、1905年に発行されたホームズシリーズの第3短編集「シャーロック・ホームズの帰還(The  Return of Sherlock Holmes)」に収録された。


挿絵画家であるシドニー・エドワード・パジェット
(Sidney Edward Paget:1860年ー1908年)が描く
「ヴァイオレット・スミス嬢」と
「彼女の後をつける短い顎鬚を生やした黒ずくめの男」。
(「ストランドマガジン」
1904年1月号の「孤独な自転車乗り」より)


「孤独な自転車乗り」事件は、1895年4月23日(土)、音楽の家庭教師をしているヴァイオレット・スミス嬢が、ベーカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日付ブログで紹介済)のホームズの元を訪れるところから始まる。


ヴァイオレット・スミス嬢によると、彼女の父親であるジェイムズ・スミス(James Smith)は、旧帝国劇場(Imperial Theatre)において、オーケストラの指揮者を務めていたが、亡くなったため、彼女と彼女の母親は、身寄りのない上に、非常に貧しい状態となり、親類は、叔父のラルフ・スミス(Ralph Smith)ただ一人であった。ただし、ラルフ叔父は、25年前にアフリカへと行き、それ以降、消息不明のままだった。

昨年(1894年)12月のある日、彼女達は、タイムズ紙上に自分達の所在を尋ねる広告が掲載されているのを見て、誰かが自分達に遺産を残してくれたものと喜び、直ぐに弁護士のところへと出かけた。

彼女達は、弁護士の事務所において、南アフリカから英国へと戻ったカラザース氏(Mr. Carruthers)とウッドリー氏(Mr. Woodley)に会った。彼らは、ラルフ叔父の友人で、数ヶ月前に、ラルフ叔父は、ヨハネスブルグにおいて、貧しいまま亡くなったが、その際、ラルフ叔父から、「親類(=彼女達のこと)を探し出して、面倒をみてやってほしい。」と頼まれた、とのことだった。


自分に対して色目を使うウッドリー氏に対して、ヴァイオレット・スミス嬢は、非常な嫌悪感を抱いたが、年長のカラザース氏は、感じのよい人物で、好印象だった。

彼女達の懐状況を知ると、カラザース氏は、ヴァイオレット・スミス嬢に対して、サリー州のファーナム(Farnham)から約6マイルのところにあるチルタン屋敷(Chiltern Grange)に住み込んで、彼の一人娘(10歳)に音楽を教えてほしいと提案してきた。カラザース氏は、妻に先立たれていたので、ディクスン夫人(Mrs. Dixon)という年配の女性を家政婦として雇っていた。

ヴァイオレット・スミス嬢は、「母親を一人にはしたくない。」と言うと、

カラザース氏は、「毎週末、家へ戻れば、問題ないのでは?」と答え、更に、「年に100ポンドを払う。」と申し出た。カラザース氏の申し出は、素晴らしい内容だったので、ヴァイオレット・スミス嬢は、それを了承して、話がまとまった。


早速、ヴァイオレット・スミス嬢は、チルタン屋敷に住み込んで、カラザース氏の一人娘に音楽を教えるとともに、毎週土曜日、住み込みの屋敷からロンドンの母親の元へ帰り、翌週の月曜日に屋敷へ戻って来る生活を始めた。彼女が住み込みの音楽の家庭教師を始めてから、数ヶ月が経過したが、基本的には、問題はなかった。


ただし、ヴァイオレット・スミス嬢には、気にかかることが、2つあった。


一つは、カラザース氏は申し分のない紳士であったが、チルタン屋敷に客人としてやって来るウッドリー氏は、下品な男の上に、彼女に対して、露骨に色目を使ってくるので、非常に不快であった。


もう一つは、彼女は、毎週土曜日の午前中、12時22分発の上り列車に乗るために、チルタン屋敷からファーナム駅(Farnham Station)まで、自転車で向かい、翌週の月曜日に、ファーナム駅からチルタン屋敷まで、自転車で戻って来る。

チルタン屋敷からファーナム駅までの行き帰りは寂しい道であった。片側がチャーリントン荒野(Charlington Heath)で、もう一方の側のチャーリントン屋敷(Charlington Hall)を森が取り囲む場所は、1マイル以上続く特に寂しいところで、彼女は、駅までの行き帰り、短い顎鬚を生やした黒ずくめの男が、自転車で彼女の後をつけていることに気付き、非常に不安だった。


地下鉄ベーカーストリート駅(Baker Street Tube Station)内の
ジュビリーライン(Jubilee Line)のホーム壁に設置されているシャーロック・ホームズシリーズの名場面 -
ヴァイオレット・スミス嬢が、チルタン屋敷での住み込みの家庭教師の職を辞するある土曜日、
彼女は何者かに連れ去られてしまう。
猿ぐつわをされ、結婚式を強要されつつある彼女
を助けに、
ホームズ、ジョン・H・ワトスンとカラザース氏が駆け付ける場面が描かれている。


本ジグソーパズルの場合、ファーナム駅へ行く途中か、あるいは、ファーナム駅からの帰る途中なのか、判らないが、ヴァイオレット・スミス嬢が乗る自転車の後を、黒ずくめの男が乗る自転車が付けている場面が描かれている。ただし、厳密に言うと、コナン・ドイルの原作上、ヴァイオレット・スミス嬢の後を付ける黒ずくめの男は、短い顎鬚を生やしている設定になっているが、本ジグソーパズルの場合、コナン・ドイルの原作通りにはなっておらず、黒ずくめの服装をしていないし、また、短い顎鬚も生やしていないように見受けられる。


(24)グリムズビー・ロイロット博士(Dr. Grimesby Roylott)


本ジグソーパズルでは、
ストークモラン屋敷内に居るグリムズビー・ロイロット博士と
ストーナー姉妹を殺害するために、彼が飼育して居る毒蛇等が描かれている。


グリムズビー・ロイロット博士は、「まだらの紐(The Speckled Band)」に登場する人物である。

挿絵画家のシドニー・パジェットが描く
「グリムズビー・ロイロット博士」。
(「ストランドマガジン」1892年2月号の
「まだらの紐」より)

「まだらの紐」は、ホームズシリーズの短編小説56作のうち、8番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン」の1892年2月号に掲載された後、同年発行の第1短編集「シャーロック・ホームズの冒険(The Adventures of Sherlock Holmes)」に収録されている。


英国 BBC が制作した TV ドラマ「シャーロック」の放映10周年を記念して
発行された6種類の切手に加えて、
4種類のシャーロック・ホームズシリーズの記念切手が、
2020年8月18日に発行された。
これは、そのうちの一つである「まだらの紐」。


ホームズシリーズにおいて、一番有名な長編は「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskerville)」(1901年ー1902年)で、一番有名な短編は「まだらの紐」と言っても良い位である。

実際のところ、「ストランドマガジン」の1927年3月号で、コナン・ドイルは、シャーロック・ホームズシリーズの自選12編の中で、本作品を第1位に推している。


地下鉄ベーカーストリート駅内の
ジュビリーラインのホーム壁に設置されているシャーロック・ホームズシリーズの名場面 -
これは、「まだらの紐」で、ホームズとワトスンの二人が、
ヘレン・ストーナーと入れ替わって、彼女の寝室で寝ずの番をするために、
サリー州にあるストークモラン屋敷の庭に侵入した場面が描かれている。


1883年4月の初め、ヘレン・ストーナー(Helen Stoner)が、双子の姉ジュリア・ストーナー(Julia Stoner)が2年前に遂げた謎の死、そして、自分に現在ふりかかっている不安と恐怖について相談するため、サリー州にあるストークモラン屋敷(Stoke Moran Manor)を早朝に出て、レザーヘッド(Leatherhead)から一番列車に乗り、ウォータールー駅(Waterloo Station→2014年10月19日付ブログで紹介済)に到着、ベーカーストリート221Bのホームズの元を訪れるところから、物語は始まる。


本ジグソーパズルの場合、義父のグリムズビー・ロイロット博士は、ストーナー姉妹の母が残した相続財産を独占するために、2年前にジュリアを殺害し、そして、今度はヘレンの命を狙っていた。

本ジグソーパズルの場合、グリムズビー・ロイロット博士、ストーナー姉妹を殺害するために、彼が放った毒蛇(緑色)、そして、彼が毒蛇を飼育するのに使用している金庫等が描かれている。

ただし、厳密に言うと、コナン・ドイルの原作上、グリムズビー・ロイロット博士の部屋、ジュリア・ストーナーの部屋およびヘレン・ストーナーの部屋は、どれも日本で言う1階(Ground Floor)にある筈だが、本ジグソーパズルの場合、コナン・ドイルの原作通りにはなっておらず、何故か、日本で言う2階(First Floor)になっている。 


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