2022年12月11日日曜日

コナン・ドイル作「孤独な自転車乗り」<小説版>(The Solitary Cyclist by Conan Doyle )- その1

シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの二人が、
グリムズビー・ロイロット博士の魔の手から、
ヘレン・ストーナーを救うべく、
列車でサリー州のレザーヘッドへと向かう途中、
その脇の道を、黒ずくめの男につけられたヴィオレット・スミス嬢の自転車が進んで行く。

チェコ共和国(Czech Republic)ヴィソチナ州トシェビーチ郡の都市トシェビーチ出身のイラストレーターであるペトル・コプル(Petr Kopl:1976年ー)が発表したサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)」のグラフィックノベル版は、


(1)「プロローグ(Prologue)」

(2)「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)

(3)「まだらの紐(The Speckled Band)」

(4)「ボヘミア国王の名にかけて(In the name of the King)」

(5)「エピローグ(Epilogue)」


の章によって構成されている。


シャーロック・ホームズは、ボヘミア国王(King of Bohemia)からの依頼に基づいて、アイリーン・アドラー(Irene Adler)からの写真奪還に着手する前に、先にヘレン・ストーナー(Helen Stoner)から依頼された「まだらの紐」事件を解決するために、ジョン・H・ワトスンを伴い、サリー州(Surrey)のレザーヘッド(Leatherhead)へと赴く。

その際、ホームズとワトスンを乗せた列車がレザーヘッドへと向かって進む線路の横の道を、若い女性(ヴァイオレット・スミス(Violet Smith))が乗った自転車の後を、黒ずくめの男が乗った自転車がつけている場面が描かれているが、これは、コナン・ドイル作「孤独な自転車乗り(The Solitary Cyclist)」を彷彿させる。「孤独な自転車乗り」事件の舞台も、サリー州のファーナム(Farnham)付近なので、年代的な問題は別にして、地理的には、問題ないと言える。


「孤独な自転車乗り」は、シャーロック・ホームズシリーズの短編小説56作のうち、28番目に発表された作品で、英国では、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」の1904年1月号に、また、米国では、「コリアーズ ウィークリー(Collier’s Weekly)」の1903年12月26日号に掲載された。

また、同作品は、1905年に発行されたホームズシリーズの第3短編集「シャーロック・ホームズの帰還(The  Return of Sherlock Holmes)」に収録された。


英国で出版された「ストランドマガジン」
1904年1月号に掲載された挿絵(その1) -
1895年4月23日(土)、
ヴァイオレット・スミス嬢が、相談のために、
ベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れた。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット
(Sidney Edward Paget 1860年 - 1908年)


本作品には、ヴァイオレット・スミス嬢と彼女の後をつける黒ずくめの男の二人の自転車乗りが登場する。本作品のタイトルである「The Solitary Cyclist」とは、どちらを指すのか?今のところ、日本語訳では、定番となっているものがなく、翻訳者や出版社によって、以下の3つのパターンに分かれている。


(1)自転車乗りがどちらを指すのか、不明なパターン → 「孤独な自転車乗り」

このパターンには、河出書房新社版、ハヤカワ・ミステリ文庫版、ちくま文庫版、講談社文庫版や創元推理文庫版等が含まれる。


(2)ヴァイオレット・スミスを指すパターン → 「美しき自転車乗り」

このパターンには、新潮社文庫版、光文社文庫版や角川文庫版等が含まれる。


(3)黒ずくめの男を指すパターン → 「怪しい自転車乗り」

このパターンに属する例は少ないが、コナン・ドイルの原作上、黒ずくめの男の正体であるカラザース氏(Mr. Carruthers)を「a solitary cyclist」と表現する場面があるため、このパターンを補強する要因となって居る。


日本語の訳一つで、本作品のタイトルから受ける印象が微妙に異なってくるので、なかなか面白い。ちなみに、本稿のタイトルは、「solitary」の単語の意味通り、「孤独な自転車乗り」としてある。


「孤独な自転車乗り」事件は、コナン・ドイルの原作によると、1895年4月23日(土)、ヴァイオレット・スミス嬢が、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)のホームズの元を訪れるところから始まる。

なお、実際には、1895年4月23日は、土曜日ではなく、火曜日である。


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