2022年12月16日金曜日

ジョン・ディクスン・カー作「嘲る者の座」(The Seat of the Scornful by John Dickson Carr)- その1

大英図書館(British Library)から2022年に出版された
ジョン・ディクスン・カー作「嘲る者の座」の表紙
(Front cover : NRM / Pictorial Collection / Science & Society Picture Library)

米国出身の推理作家であるキャロル・ブッゲ(Carole Bugge:1953年ー)が2000年に発表した「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / トーア寺院に出没する幽霊(The further adventures of Sherlock Holmes / The Haunting of Torre Abbey → 2022年10月24日 / 12月2日 / 12月6日 / 12月8日付ブログで紹介済)」では、イングランドの南西部にあるデヴォン州(Devon)トーキー(Torquay)内に所在し、2世紀にわたり、ケアリー家(Care family)が住むトーア寺院(Torre Abbey → 2022年12月14日付ブログで紹介済)において、首のない修道士の幽霊が出没する事件が発生する。


米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)は、シャーロック・ホームズシリーズで有名なサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の伝記を執筆するとともに、コナン・ドイルの息子であるエイドリアン・コナン・ドイル(Adrian Conan Doyle:1910年ー1970年)と一緒に、ホームズシリーズにおける「語られざる事件」をテーマにした短編集「シャーロック・ホームズの功績(The Exploits of Sherlock Holmes)」(1954年)を発表している。


ジョン・ディクスン・カーも、デヴォン州を舞台にした推理小説を執筆しており、それが、1942年に発表された「嘲る者の座(The Seat of the Scornful)」である。本作品では、ジョン・ディクスン・カーが創り出したシリーズ探偵の一人であるギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)が、探偵役を務めている。


「嘲る者の座」は、英国版の原題であり、これは、旧約聖書の詩篇「一の一」からの引用である。


悪(あ)しき者の謀略(はかりごと)に歩(あゆ)まず

罪人(つみびと)の途(みち)に立たず

嘲るものの座に座らぬ者は、幸(さいわ)いなり


なお、英国よりも先に出版された米国では、「死は形勢を逆転する(Death Turns the Table)」というタイトルであったが、5ヶ月後の1942年4月に、英国で出版される際に、「死は形勢を逆転する」から「嘲る者の座」へと改題されている。


ただ、英国版と米国版のいずれの原題であっても、本作品の主人公と言っても差し支えないホレース・アイアトン(Horace Ireton)のことを指し示している。彼は、英国の高等法院(高等裁判所)の判事で、猫が鼠をいたぶるように、冷酷無比に被告人を裁くことで、世間によく知られた法の番人である。その彼が、彼の別荘において発生した奇々怪界な殺人事件の唯一の容疑者になるという逆説的な設定で、事件の幕が上がるのである。


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