2022年12月8日木曜日

キャロル・ブッゲ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / トーア寺院に出没する幽霊」(The further adventures of Sherlock Holmes / The Haunting of Torre Abbey)- その4

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2018年に出版された
キャロル・ブッゲ作
「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / トーア寺院に出没する幽霊」の表紙(部分)

読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆(3.0)


サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)が短編「サセックスの吸血鬼(The Sussex Vampire → 2021年8月15日 / 8月29日付ブログで紹介済)」(1924年)を発表した頃、精霊や妖精について、彼が熱心に講演をしたり執筆したりしていた時期に符合する。ところが、本作品の冒頭部分で、コナン・ドイルは、シャーロック・ホームズからジョン・H・ワトスンに対して、「This Agency stands flatfooted upon the ground, and there it must remain. The world is big enough for us. No ghosts need apply. (我が探偵局は、しっかりと足を地につけて建っているし、いつまでもそうあるべきだ。この世は、我々にとって、広大過ぎて、幽霊なぞに関わってはいられない。)」というセリフを言わせており、心霊研究家という顔と(推理)作家という顔をうまくバランスさせている。

米国出身の推理作家であるキャロル・ブッゲ(Carole Bugge:1953年ー)による本作品「トーア寺院に出没する幽霊(The Haunting of Torre Abbey)」(2000年)において、ホームズは、デヴォン州(Devon)トーキー(Torquay)に所在するトーア寺院(Torre Abbey)で発生する幽霊事件に取り組むことになる。


(2)物語の展開について ☆☆☆半(3.5)


ホームズが今回取り組む幽霊事件が発生する元修道院だったトーア寺院が所在するトーキーは、コナン・ドイル作「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」(1901年ー1902年)の舞台となるダートムーア(Dartmoor)に比較的近い。

本作品の場合、幽霊事件で、「バスカヴィル家の犬」の場合、魔犬伝説と、ホームズが取り組む事件の内容は異なっているが、同じデヴォン州内で発生する事件のためか、それとも、事件の裏に潜む犯人の悪意のためか、何故か、同じような雰囲気を湛えたまま、物語が進行する。

こういった幽霊事件においては、幽霊が何度も姿を現わして、細かいことは発生するものの、物語が大きく展開することは、あまりないのだが、本作品の場合も、その例にもれない。ただし、他の作家による作品とは異なり、同じようなことの繰り返しはなく、また、文書自体も読みやすいので、悪い印象を与えない。


(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆☆☆半(3.5)


米国ユタ州ソルトレークシティー出身の作家であるサム・シチリアーノ(Sam Siciliano:1947年ー)による「グリムスウェルの呪い(The Grimswell Curse → 2021年9月12日 / 9月19日 / 9月26日付ブログで紹介済)」(2013年)、「白蛇伝説(The White Worm → 2021年10月17日 / 10月21日付ブログで紹介済)」(2016年)やおよび「月長石の呪い(The Moonstone’s Curse → 2022年8月28日 / 9月28日 / 10月1日付ブログで紹介済)」(2017年)も、コナン・ドイル作「バスカヴィル家の犬」、アイルランド人の小説家であるブラム・ストーカー(Bram Stoker)こと、エイブラハム・ストーカー(Abraham Stoker:1847年ー1912年)が執筆したホラー小説「白蛇の巣(The Lair of the White Worm → 2021年12月12日付ブログで紹介済)」(1911年)や英国の小説家 / 推理作家 / 劇作家であるウィリアム・ウィルキー・コリンズ(William Wilkie Collins:1824年ー1889年 → 2022年9月2日 / 9月4日付ブログで紹介済)が執筆した推理小説「月長石(The Monnstone → 2022年9月30日 / 10月13日付ブログで紹介済)」(1868年)をベースにしているが、ホームズは、事件の依頼人である恋人達が恐怖に震える中、手を拱いている上に、堂々巡りを繰り返すばかりで、悪い印象しかないが、本作品の場合、そのようなことはなく、事件の依頼人に振り回されることもなく、キチンと事件の解決に至る。


(4)総合評価 ☆☆☆半(3.5)


他の作家による作品とは異なり、本作品は、とても読みやすいし、内容的にも、非常に手堅いものの、残念ながら、作者の前作品である「インドの星(The Star of India → 2022年6月19日 / 7月13日 / 9月22日付ブログで紹介済)」(1997年)のレベルには達していないという印象である。



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