2022年12月22日木曜日

競作短編集「マープル」(Marple)- その2

英国の Harper Collins Publishers 社から今年(2022年)出版された
競作短編集「マープル」のハードカバー版の裏表紙

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1930年に発表した「牧師館の殺人(The Murder at the Vicarage)」に初登場したミス・ジェーン・マープル(Miss Jane Marple)を主人公にして、現代の女性作家12名が競作した短編集「マープル(Marple)」が、アガサ・クリスティーの作品を出版している英国の Harper Collins Publishers 社から今年(2022年)に出ており、今回以降、上記の12作品について、個別に紹介したい。


(1)Lucy Foley 作「Evil in Small Places」


ミス・マープルは、サウスダウンズ(South Downs)を見下ろすことができる町 Meon Maltravers に住むプルーデンス・フェアウェザー(Prudence Fairweather)の家に滞在していた。ミス・マープルは、ノルウェーのフィヨルド観光の際に、プルーデンスと知り合って、今回、招待されたのである。

プルーデンスは、八百屋の娘で、奨学金を得て、教師や図書館員として働いた後、薬剤師で、彼女よりも遥かに年上の夫と結婚して、娘のアリス(Alice)を出産。夫が亡くなった後、ジョージ・フェアウェザー(George Fairweather)の秘書として働いていた際、彼と再婚。15年前にジョージは亡くなり、プルーデンスは、現在、地元の教区評議会長(head of the Parish Council)を務めていた。


一方、プルーデンスの一人娘であるアリスは、地元の地主であるサー・ヘンリー・タイスン(Sir Henry Tyson)と結婚して、現在、郊外に住んでいた。


プルーデンスが教区評議会長を務める教会の聖歌隊では、今までリーダーを務めていたプルフロック夫人(Mrs. Prufrock)を追いやって、現在、セリア・ボーテンプ(Celia Beautemps)がリーダーに就任していた。

セリア自身によると、フランス人で、年齢は40歳弱(アリスと同じ)、未婚とのことだった。彼女は、ロンドンの Guildhall School of Music and Drama を卒業した後、オペラ歌手(ソプラノを担当)をしていたが、喉の不調のために引退し、当町に移住して来たのである。


その日の夕方(午後5時半頃)、ミス・マープルが、プルーデンスに連れられて、聖歌隊の練習を見に向かう途中、仮面を付けた人物が教会から出て来て、プルーデンスにぶつかって、彼女を押し倒すと、そのまま走り去った。不審に思うミス・マープルとプルーデンスの二人が教会に入ると、そこには、殺されたセリアが倒れていた。


セリアを殺害した容疑者として、聖歌隊の中には、以下の通り、事欠かなかった。


(1)クリストファー・パルフレイ(Christopher Palfrey):詩人 / テノールを担当 / セリアと関係があった模様。

(2)アナベル・パルフレイ(Annabelle):クリストファーの妻 / 夫とセリアの関係を知っていた模様。

(3)ウッデイジ大佐(Colonel Woodage):バスを担当 / フランス人が大嫌い。

(4)プルフロック夫人:セリアに聖歌隊のリーダーから追いやられた。

(5)ゴードン・キップリング(Gordon Kipling):バスを担当 / セリアに自分の猟犬3匹を殺されたと疑っている。


果たして、セリアを殺害した犯人は、誰なのか?


(2)Val McDermid 作「The Second Murder at the Vicarage」


アガサ・クリスティーが1930年に発表したミス・マープルシリーズの第1作目に該る「牧師館の殺人(The Murder at the Vicarage)」の続編となっている。


ロンドン郊外のセントメアリーミード(St. Mary Mead)という小さな村にある教会の司祭(vicar)であるレナード・クレメント牧師(Reverend Leonard Clement)と若き妻のグリゼルダ(Griselda)の間には、長男のデイビッド(David)が生まれていた。そして、彼の甥のデニス(Dennis)は、見習いの巡査(probationary police constable)になっていた。


妻のグリゼルダは、デイビッドを自分の両親に見せるため、メイドのフローラ(Flora)を伴って、両親が住むチッピングマルベリー(Chipping Marlbury)へと出かけて、不在だった。

留守を預かるクレメント牧師は、牧師館のキッチンにおいて、元メイドのメアリー・ヒル(Mary Hill)が殺されているのを発見した。彼女は、以前、牧師館でメイドとして働いていたが、料理の出来が非常に悪く、暇を出されていたので、殺害された時点で、彼女は既に牧師館のメイドではなかった。彼女は、何者かにフライパンで頭を殴打されていたのである。元メイドの彼女が、何故、牧師館のキッチンに居たのか?


それで、牧師館において、殺人事件が発生したのは、2回目となった訳だ。


その上、メアリーと関係があったと思われる密猟者(poacher)のビル・アーチャー(Bill Archer)が、自宅において、野生のマッシュルームを食べて、死亡しているのが、見つかったのである。

地元警察のスラック警部(Inspector Slack)が捜査を始めるが、又もや、ミス・マープルの手助けが必要だった。


(3)Alyssa Cole 作「Miss Marple Takes Manhattan」


ミス・マープルは、甥のレイモンド・ウェスト(Raymond West)と妻のジョアン(Joan)に連れられて、ニューヨークへと来ていた。レイモンドは、自分の小説が、劇場で上演されることで、鼻高々だった。

レイモンドとジョアンに、ホテルでおとなしくしてしているように言われたが、二人の不在中に、ミス・マープルは、ホテルの向かい側にあるデパートへと出かけて、ニューヨーク滞在を楽しんだ。


その後、ミス・マープル、レイモンドとジョアンの3人は、劇場へと観劇に出かけた。彼らが劇場に到着すると、そこは、演劇の本場であるブロードウェイ(Broadway)ではなく、ウェストブロードウェイ(West Broadway)だった。やや意気消沈するレイモンドを、ミス・マープルは慰める。


彼らが劇場に入ると、出演者の一人である男性が、床の上にうつ伏せになって倒れたまま、全く動かなかった。彼は、濡れた室内履きのスリッパという状態だった。どうやら、彼は、感電死のようなのだ。


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