サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作シャーロック・ホームズシリーズの短編小説56作のうち、50番目に発表された作品「高名な依頼人(The Illustrious Client)」の場合、前日の夜、カールトンクラブ(Carlton Club → 2014年11月16日付ブログで紹介済)からシャーロック・ホームズ宛に手紙を事前に出したサー・ジェイムズ・デマリー大佐(Colonel Sir James Damery)が、非常に繊細かつ重要な相談事のため、1902年9月3日の午後4時半にベイカーストリート221B(221B Baker Street → 2014年6月22日 / 6月29日付ブログで紹介済)を訪れる。
ジョン・H・ワトスンは、当時、ベイカーストリート221B を出て、クイーン アン ストリート(Queen Anne Street → 2014年11月15日付ブログで紹介済)に住んでいたが、ホームズの頼みに応じて、ワトスンも、ホームズとサー・ジェイムズ・デマリー大佐の面談に同席した。
ウェルベックストリート(Welbeck Street:「最後の事件(The Final Problem)」において、 ジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)配下の者が乗った二頭立ての馬車が、 シャーロック・ホームズを襲撃した通り → 2015年5月6日付ブログで紹介済)から クイーン アン ストリートを望む。 |
デマリー大佐の話によると、ド・メルヴィル将軍(General de Merville)の令嬢であるヴァイオレット・ド・メルヴィル(Violet de Merville)が、今、オーストリアのアデルバート・グルーナー男爵(Baron Adelbert Grunner:現在、英国のキングストン(Kingston)近くのヴァーノンロッジ(Vernon Lodge)に居住)に夢中で、彼と結婚しようとしていた。
実際、グルーナー男爵はハンサムであるが、非常に残虐な男である。本人曰く、彼が当時結婚していた妻は事故で死亡したと言って、プラハでの裁判では罪を免れたが、本当は彼が自分の妻を自ら殺害したものと一般には考えられていた。
ド・メルヴィル将軍をはじめ、ド・メルヴィル嬢の周りの者は彼女にグルーナー男爵との結婚を思いとどまるよう言い含めるものの、グルーナー男爵に対する妻殺害疑惑を濡れ衣だと思い込まされている彼女の態度は非常に頑なで、どんな説得にも耳を貸そうとはしなかったのである。
ホームズは、デマリー大佐に対して、本件にかかる本当の依頼人が誰なのかを尋ねたが、デマリー大佐は、「依頼人が匿名を望んでいること」、そして、「依頼人の名前が、この事件に一切関与しないことが重要であること」を告げ、本当の依頼人の正体を一切明らかにしなかったのである。
この本当の依頼人の正体については、ハノーヴァー朝(House of Hanover)の第6代女王で、かつ、初代インド女帝であるヴィクトリア女王(Queen Victoria:1819年ー1901年 在位期間:1837年ー1901年 → 2017年12月10日 / 12月17日付ブログで紹介済)の第2子(長男)で、サクス=コバーグ・アンド・ゴータ朝(House of Saxe-Coburg and Gotha)の初代英国国王 / インド皇帝であるエドワード7世(Edward VII:1841年ー1910年 在位期間:1901年ー1910年 → 2025年5月10日 / 5月26日 / 5月31日 / 6月8日 / 6月15日付ブログで紹介済)であると、一般的に考えられている。
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ウォーターループレイス(Waterloo Place)内に建つ エドワード7世の騎馬ブロンズ像 |
「ド・メルヴィル嬢とグルーナー男爵の結婚をなんとか阻止してほしい。」というデマリー大佐の依頼を受けたホームズは、早速行動を開始すると約束した。
昔は危険極まりない悪党として鳴らしていたが、今は前非を悔い改めてホームズに協力的な情報屋のシンウェル・ジョンスン(Shinwell Johnson)に、ホームズはまず手助けを求めた。
生憎と、ワトスンには、本業の医師として急ぎの仕事があったため、その晩、シンプソンズ(Simpson’s → 2014年11月23日付ブログで紹介済)でホームズと会い、彼からデマリー大佐との会見以降の経過を聞いた。
現在の「シンプソンズ」入口 |
ホームズは、キングストン近くのヴァーノンロッジまで、アデルバート・グルーナー男爵に会うために、馬車で出かけた。
ホームズは、自分の正体を隠すことはしなかったが、アデルバート・グルーナー男爵は、ホームズが自分とヴァイオレット・ド・メルヴィル嬢の結婚を阻止するために雇われたと直ぐに察した。
アデルバート・グルーナー男爵は、非常に狡猾な男で、ホームズに対して、「婚約破談の調査をしても、無駄だから、手を引いた方がよい。」と言って、紳士的な態度を崩さなかったが、ホームズの立ち去り際に、「同じようなことをしたフランスの探偵(French agent)のル・ブラン(Le Brun)は、モンマルトル地区(Montmartre district)で暴漢に襲われて、一生不自由な身体になった。」と言う話をして、ホームズに明確な「警告」をしたのである。
