2025年3月26日水曜日

アガサ・クリスティー作「エッジウェア卿の死」<英国 TV ドラマ版>(Lord Edgware Dies by Agatha Christie )- その2

第47話「エッジウェア卿の死」が収録された
エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 5 の裏表紙

英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第47話(第7シリーズ)として、2000年1月19日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「エッジウェア卿の死(Lord Edgware Dies)」(1933年)の TV ドラマ版の場合、原作対比、以下のような差異が見受けられる。


(1)

<原作>

エルキュール・ポワロとアルゼンチンから一時帰国したアーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)の2人が、米国からロンドン/パリ公演ツアーに来ている女芸人カーロッタ・アダムズ(Carlotta Adams)の舞台を観たところから、その物語が始まる。

背景や衣装等を必要としない彼女の「人物模写演技」は完璧で、一瞬で顔つきや声音等を変えて、その人自身になりきるのであった。第4代エッジウェア男爵ジョージ・アルフレッド・セント・ヴィンセント・マーシュ(George Alfred St. Vincent Marsh, 4th Baron Edgware)/ エッジウェア卿(Lord Edgware)と結婚している米国出身の舞台女優ジェーン・ウィルキンスン(Jane Wilkinson)の物真似に関しても見事の一言で、ポワロは深く感銘を受ける。

更に、驚くことには、ポワロとヘイスティングス大尉の真後ろの席には、ジェーン・ウィルキンスン本人と映画俳優のブライアン・マーティン(Bryan Martin)の2人が、カーロッタ・アダムズによるジェーン・ウィルキンスンの人物模写演技を楽し気に観劇していたのである。

<英国 TV 版>

英国 TV 版の場合、原作の開始部分に至るまでに、かなりの話が追加されている。


(A)

英国 TV 版の場合、エッジウェア卿が、ジェラルディン・マーシュ(Geraldine Marsh - エッジウェア卿の先妻の娘)と一緒に、イングランドの劇作家 / 詩人であるウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare:1564年ー1616年 → 2023年5月19日付ブログで紹介済)による四大悲劇の一つである「マクベス(Macbeth)」(1606年)を観劇しているところから、物語が始まる。

舞台上、マクベス夫人(Lady Macbeth)を演じるジェーン・ウィルキンスンが、マクベス(Macbeth)を演じる俳優に抱かれる場面があり、エッジウェア卿がこれに激怒。

ジェーン・ウィルキンスンは、激怒するエッジウェア卿に対して、離婚を求めるが、エッジウェア卿は、彼女の求めを拒否。


(B)

エルキュール・ポワロは、引退先からホワイトヘイヴンマンションズ(Whitehaven Mansions)へと戻り、私立探偵業を再開。ミス・フェリシティー・レモン(Miss Felicity Lemon)は、業者に対して、事件ファイルが入った箱の整理を指示。


チャーターハウス スクエア6-9番地 フローリンコート
(Florin Court, 6-9 Charterhouse Square → 2014年6月29日付ブログで紹介済)が、
ホワイトヘイヴンマンションズとして、撮影に使用されている。


その最中、ポワロは、カーロッタ・アダムズが出演する舞台(場所:Gaiety Theatre / 時刻:午後8時)の招待状を受領。

更に、ポワロは、アーサー・ヘイスティングス大尉からの電報も受け取る。その電報によると、彼が搭乗したブエノスアイレス(Buenos Aires)からの飛行機は、パリ経由で、午前9時半にロンドン到着の予定、とのことだった。


(C)

ポワロは、ミス・レモンを伴い、ヘイスティングス大尉を出迎えるために、タクシーで飛行場へと向かう。

ポワロとミス・レモンに久し振りに再会したヘイスティングス大尉は、2人に対して、


*アルゼンチンにおいて、Pampas de Fernandez Consolidated Railway に全額を投資したが、鉄道の施設がうまく行かず、投資が失敗し、全額を失ったこと

*牧場を売却するため、彼の妻は現地にまだ残っていること

*ヘイスティングス大尉夫妻は、アルゼンチンから英国へ戻る計画であること

*ヘイスティングス大尉は、住居を探すために、先に帰国した次第で、住居を探す間、ピカデリーパレスホテル(Piccadilly Palace Hotel)に宿泊する予定であること


を告げる。

ヘイスティングス大尉説明を受け、ミス・レモンは、ポワロに対して、気落ちするヘイスティングス大尉を、カーロッタ・アダムズの舞台へ連れて行くように提案する。


(2)

<原作>

エルキュール・ポワロとアーサー・ヘイスティングス大尉が観劇する舞台上、女芸人カーロッタ・アダムズは、ジェーン・ウィルキンスンの人物模写演技を行っているが、ポワロの人物模写演技は行っていない。

<英国 TV 版>

女芸人カーロッタ・アダムズは、舞台上、ポワロの人物模写演技を行い、それを見たポワロは、笑うこともできず、気不味い顔をする。


サヴォイホテルの正面玄関(その1)


(3)

<原作>

女芸人カーロッタ・アダムズによる舞台が終わった後、エルキュール・ポワロとアーサー・ヘイスティングス大尉は、サヴォイホテル(Savoy Hotel → 2016年6月12日付ブログで紹介済)へと移動して、夕食をとる。

その夕食の途中、ブライアン・マーティンと一緒に居たジェーン・ウィルキンスンが、ポワロの席を訪れて、内密の会話を求める。


サヴォイホテルの正面玄関(その2)


<英国 TV 版>

女芸人カーロッタ・アダムズによる舞台が終わった後、劇場において、ジェーン・ウィルキンスンが、ポワロを呼び止めて、内密の会話を求める。

更に、カーロッタ・アダムズも、ポワロの元を訪れて、食事へ誘うのであった。


2025年3月24日月曜日

アガサ・クリスティー作「エッジウェア卿の死」<英国 TV ドラマ版>(Lord Edgware Dies by Agatha Christie )- その1

第47話「エッジウェア卿の死」が収録された
エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 5 の表紙

アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「エッジウェア卿の死(Lord Edgware Dies)」(1933年)の TV ドラマ版が、英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第47話(第7シリーズ)として、2000年1月19日に放映されている。英国の俳優であるサー・デヴィッド・スーシェ(Sir David Suchet:1946年ー)が、名探偵エルキュール・ポワロを演じている。ちなみに、日本における最初の放映日は、2000年12月31日である。


英国 TV ドラマ版における主な登場人物(エルキュール・ポワロを除く)と出演者は、以下の通り。


(1)アーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings):Hugh Fraser

(2)ジャップ主任警部(Chief Inspector Japp):Philip Jackson

(3)ミス・フェリシティー・レモン(Miss Felicity Lemon):Pauline Moran


(4)ジェーン・ウィルキンスン(Jane Wilkinson - 舞台女優 / エッジウェア卿の2番目の妻):Helen Grace

(5)エッジウェア卿(Lord Edgware - 第4代エッジウェア男爵ジョージ・アルフレッド・セント・ヴィンセント・マーシュ(George Alfred St. Vincent Marsh, 4th Baron Edgware)/ 美術品のコレクター):John Castle

(6)カーロッタ・アダムズ(Carlotta Adams - 女芸人 / 人物模写が得意):Fiona Allen

(7)ブライアン・マーティン(Bryan Martin - 映画俳優 / エッジウェア卿との間が険悪になったジェーン・ウィルキンスンと一時期恋愛関係にあった):Dominic Guard

(8)ペニー・ドライヴァー(Penny Driver - カーロッタ・アダムズの友人 / 帽子屋を営む):Deborah Cornelius

(9)ジェラルディン・マーシュ(Geraldine Marsh - エッジウェア卿の先妻の娘):Hannah Yelland

(10)ロナルド・マーシュ(Ronald Marsh - エッジウェア卿の甥):Tim Steed

(11)ミス・キャロル(Miss Carroll - エッジウェア卿の秘書):Lesley Nightingale

(12)アルトン(Alton - エッジウェア卿の執事):Christopher Guard

(13)ドナルド・ロス(Donald Ross - ジェーン・ウィルキンスンが出席した晩餐会に同席した若い俳優)

(14)マートン公爵(Duke of Merton - ジェーン・ウィルキンスンとの結婚を考えている若き貴族):Tom Beared

(15)サー・モンタギュー・コーナー(Sir Montague Corner - ジェーン・ウィルキンスンが出席した晩餐会を開催 / ホルボーン地区(Holbron)に在住):John Quentin

(16)レディー・エレノア・コーナー(Lady Eleanor Corner - サー・モンタギュー・コーナーの妻):Janet Hargreaves

(17)ルシー・アダムズ(Lucie Adams - カーロッタ・アダムズの妹):Aliza James

(18)エリス(Ellis - ジェーン・ウィルキンスンのメイド):Fenella Woolgar


アガサ・クリスティーの原作に比べると、英国 TV ドラマ版における登場人物には、以下の違いが見受けられる。


(2)

<原作> アーサー・ヘイスティングス大尉は、アルゼンチンから英国へ一時帰国している形になっている。

<英国 TV 版> アーサー・ヘイスティングス大尉は、アルゼンチンにおいて、Pampas de Fernandez Consolidated Railway に全額を投資したが、鉄道の施設がうまく行かず、投資が失敗し、全額を失う。牧場を売却するため、彼の妻は現地にまだ残っている。ヘイスティングス大尉は、英国へ戻る計画で、住居を探すために、先に帰国し、現在、ピカデリーパレスホテル(Piccadilly Palace Hotel)に宿泊中。


(3)

<原作> ジャップはまだ警部(Inspector)で、主任警部には昇進していない。

<英国 TV 版> シリーズ当初から、ジャップは主任警部。


(4)

<原作> ミス・フェリシティー・レモンは登場しない。

<英国 TV 版> ミス・レモンは、主に、物語の序盤と終盤に登場。


(8)

<原作> 名前は、ジュヌヴィエーヴ・ドライヴァー(Genevieve Driver / 愛称:ジェニー(Jenny))となっている。

<英国 TV 版> 名前が、ペニー・ドライヴァーへ変更されている。


(10)

<原作> エッジウェア卿の甥ロナルド・マーシュは、大尉(Captain)と言う設定になっている。

<英国 TV 版> ロナルド・マーシュは、劇場のプロデューサー(theatrical producer)と言う設定に変更されている。


(12)

<原作> エッジウェア卿の執事であるアルトンは、物語上、特に重要な役割を果たしていない。

<英国 TV 版> アルトンは、エッジウェア卿がフランスで美術品を買い付けるために金庫に保管していたフランスフランの大金を盗んで、国外への逃亡を計画して、飛行場において、ジャップ主任警部をはじめとするスコットランドヤードとの間で、捕り物劇を演じる。


(15)・(16)

<原作> サー・モンタギュー・コーナーは、テムズ河(River Thames)畔のチジック地区(Chiswick → 2016年7月23日付ブログで紹介済)内に邸宅を所有しており、エッジウェア卿が殺害された夜、そこで盛大な晩餐会を開催し、ジェーン・ウィルキンスンも出席。


筆者がチジックハウス(Chiswick House)で購入した
イングリッシュヘリテージ(English Heritage)のガイドブック


<英国 TV 版> サー・モンタギュー・コーナーは、チジック地区ではなく、ロンドン市内のホルボーン地区に邸宅を所有しており、エッジウェア卿が殺害された夜、そこで盛大な晩餐会を開催し、ジェーン・ウィルキンスンも出席。物語では、「ホルボーン地区からエッジウェア卿の邸宅があるリージェントゲート(Regent Gate → 2025年3月23日付ブログで紹介済)までは、タクシーで5分程度の距離。」と語られている。


リージェンツパーク(Regent’s Park → 2016年11月19日付ブログで紹介済)内に設置されている
リージェンツパークの俯瞰地図


(17)

<原作> カーロッタ・アダムズの妹であるルシー・アダムズは、パリ在住であり、ポワロとのやりとりも、手紙を介してである。姉のカーロッタ・アダムズから受け取った手紙についても、ポワロ宛に郵送している。従って、ルシー・アダムズ本人が、英国へやって来ることはない。

<英国 TV 版> ルシー・アダムズは、英国へやって来て、姉のカーロッタ・アダムズのフラットやカーロッタ・アダムズの友人であるペニー・ドライヴァーが営む帽子店を訪ねている。そして、ペニー・ドライヴァーの帽子店において、姉のカーロッタ・アダムズから受け取った手紙を、ポワロに直接渡している。


2025年3月23日日曜日

ロンドン リージェントゲート(Regent Gate)



アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1932年に発表したエルキュール・ポワロシリーズの長編「エッジウェア卿の死」(Lord Edgware Dies - 米国版タイトル:「Thirteen at Dinner(晩餐会の13人)」」は、エルキュール・ポワロとアルゼンチンから一時帰国したアーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)の2人が、米国からロンドン/パリ公演ツアーに来ている女芸人カーロッタ・アダムズ(Carlotta Adams)の舞台を観たところから、その物語が始まる。


リージェンツパーク内に設置されている
リージェンツパークの俯瞰地図


なお、「エッジウェア卿の死」は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第13作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第7作目に該っている。


リージェンツパークの東側にあり、
リージェンツパークを周回するアウターサークル沿いに建つ高級フラット群(その1)


背景や衣装等を必要としない女芸人カーロッタ・アダムズの「人物模写演技」は完璧で、一瞬で顔つきや声音等を変えて、その人自身になりきるのであった。第4代エッジウェア男爵ジョージ・アルフレッド・セント・ヴィンセント・マーシュ(George Alfred St. Vincent Marsh, 4th Baron Edgware)/ エッジウェア卿(Lord Edgware)と結婚している米国出身の舞台女優ジェーン・ウィルキンスン(Jane Wilkinson)の物真似に関しても見事の一言で、ポワロは深く感銘を受ける。


リージェンツパークの東側にあり、
リージェンツパークを周回するアウターサークル沿いに建つ高級フラット群(その2)


その夜、ポワロの元をジェーン・ウィルキンスン本人が訪れる。

彼女から「離婚話に応じない夫を説得してもらいたい。」という依頼を受けたポワロが、翌日、リージェントゲート(Regent Gate)にあるエッジウェア卿の邸を訪問したところ、彼は「6ヶ月も前に、離婚に同意する旨を彼女宛に手紙で既に伝えた。」と答えるのであった。話のくい違いに納得がいかないポワロであったが、そのまま帰宅せざるを得なかった。



チェスターゲート通り(Chester Gate)から
リージェンツパークを周回するアウターサークルを見たところ


米国出身の舞台女優ジェーン・ウィルキンスンと結婚したエッジウェア卿こと、第4代エッジウェア男爵ジョージ・アルフレッド・セント・ヴィンセント・マーシュの邸宅は、リージェンツパーク(Regent’s Park → 2016年11月19日付ブログで紹介済)の近くにあると推測される。



エッジウェア卿こと、
第4代エッジウェア男爵ジョージ・アルフレッド・セント・ヴィンセント・マーシュの邸宅とも見間違う
ハノーヴァーテラス(Hanover Terrace)の外壁(その1) -
リージェンツパークの西側にあり、
リージェンツパークを周回するアウターサークル(Outer Circle)沿いに建っている。


現在の住所表記上、リージェンツパークの周辺には、北東部分から北西部分へと向かって、時計回りに、


(1)グロースターゲート(Gloucester Gate)

(2)カンバーランドゲート(Cumberland Gate)

(3)チェスターゲート(Chester Gate)

(4)ケンブリッジゲート(Cambridge Gate)

(5)ヨークゲート(York Gate)

(6)クラレンスゲート(Clarence Gate)

(7)ハノーヴァーゲート(Hanover Gate)


等、リージェンツパークへの入口は存在するものの、残念ながら、エッジウェア卿が住むリージェントゲートは存在していない。


ハノーヴァーテラスの外壁(その2)


エッジウェア卿の死」において殺害されるエッジウェア卿が住む場所として、実在の場所を使用した場合、実際にその場所に住む貴族が居たとしたら、いろいろとあらぬ誤解を生じる関係上、意図的に架空の住所を使用したものと考えられる。


2025年3月21日金曜日

アガサ・クリスティー作「二十四羽の黒つぐみ」<英国 TV ドラマ版>(Four-and-Twenty Blackbirds by Agatha Christie )- その4

第4話「二十四羽の黒つぐみ」が収録された
エルキュール・ポワロシリーズの DVD コレクション No. 1 の
DVD ケースの表紙(その2)


英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第4話(第1シリーズ)として、1989年1月29日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「二十四羽の黒つぐみ(Four-and-Twenty Blackbirds)」(1940年)の TV ドラマ版の場合、原作対比、以下のような差異が見受けられる。


(17)

<英国 TV ドラマ版>

エルキュール・ポワロは、相棒のアーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)を伴い、階段から転落して亡くなった画家のヘンリー・ガスコイン(Henry Gascoigne)が招待されていたファリンドンギャラリー(Farringdon Gallery)へと赴き、そこでヘンリー・ガスコインのエージェントだったピーター・メイキンスン(Peter Makinson)に会う。

<原作>

このような場面はない。


ロンドン大学(University of London → 2016年8月6日付ブログで紹介済)の
セナトハウス(Senate House → 2017年1月15日付ブログで紹介済)の内部が、

ファリンドンギャラリーとして、撮影に使用されている。



(18)

<英国 TV ドラマ版>

双子のアンソニー・ガスコイン(Anthony Gascoigne)とヘンリー・ガスコインの不仲について、ヘンリー・ガスコインのエージェントだったピーター・メイキンスンが語る。

また、2人の不仲は、ヘンリー・ガスコインが、アンソニー・ガスコインの妻シャーロット(Charlotte)の裸婦像を描いたことが原因で、夫のアンソニー・ガスコインとしては、自分の妻の裸婦像が公に展示されることを良しとしなかったため、ヘンリー・ガスコインは、彼のエージェントのピーター・メイキンスンに対して、問題の裸婦像を預けていた。

<原作>

双子のアンソニー・ガスコインとヘンリー・ガスコインの不仲に関しては、キングスロード(King’s Road → 2025年3月8日 / 3月10日付ブログで紹介済)から外れた場所で外科医院を開業しており、ヘンリー・ガスコインの検死も行ったマックアンドリュー医師(Dr. MacAndrew)が語っている。

また、2人の不仲は、裕福な女性と結婚したアンソニー・ガスコインが画家を辞めたため、同じく画家だったヘンリー・ガスコインが腹をたて、喧嘩になったことが原因で、これも、マックアンドリュー医師がポワロに対して話している。


(19)

<英国 TV ドラマ版>

ポワロとヘイスティングス大尉の2人は、美術学校を訪れ、画家ヘンリー・ガスコインのモデルだったダルシー・ラング(Dulcie Lang)から再度話を聞く。

<原作>

このような場面はない。


ユニヴァーシティー・カレッジ・ロンドン(University College London / UCL
→ 2015年8月16日付ブログで紹介済)の入口から見た
主要校舎であるウィルキンスビル(Wilkins Building)が、
美術学校として、撮影に使用されている。


(20)

<英国 TV ドラマ版>

ポワロとヘイスティングス大尉の2人は、ベスナルグリーン地区(Bethnal Green → 2024年9月19日付ブログで紹介済)にあるカールトン劇場(Carlton Theatre)の支配人であるジョージ・ロリマー(George Lorrimer)の元を訪ねるが、生憎と、彼は不在。

ジョージ・ロリマーのアシスタントであるハリー・クラーク(Harry Clarke)から、「彼(ジョージ・ロリマー)は、叔父の葬儀のため、ブライトン(Brighton)へ出かけている。」と告げられる。ポワロとヘイスティングス大尉の2人は、「叔父」を「ヘンリー・ガスコイン」のことだと勘違いするが、ハリー・クラークは、「双子の兄であるアンソニー・ガスコインのことだ。」と訂正。

<原作>

ジョージ・ロリマーは、ウィンブルドン(Wimbledon)に住む医師と言う設定になっているので、ハリー・クラークなる人物は、登場しない。

また、物語の早い段階で、ポワロは、マックアンドリュー医師から「アンソニー・ガスコインとヘンリー・ガスコインは、双子の兄弟であること / 彼ら2人が同じ日(11月3日(木))に亡くなっていること / ジョージ・ロリマーが、彼らの甥であること」を既に聞いている。


(21)

<英国 TV ドラマ版>

ハリー・クラークからの話を聞いたポワロとヘイスティングス大尉の2人は、ブライトンへと向かい、アンソニー・ガスコインの葬儀に立ち会う。そして、そこで2人はジョージ・ロリマーに会う。

ポワロは、当初、アンソニー・ガスコインの家政婦だったヒル夫人(Mrs. Hill)を、ガスコイン夫人だと誤解するが、ジョージ・ロリマーは、「ガスコイン夫人(シャーロット)は、10年前に亡くなった。」と訂正。

<原作>

ポワロは、アンソニー・ガスコインの葬儀に立ち会っていない。

ポワロがジョージ・ロリマーに会うのは、物語の中盤ではなく、物語の終盤。場所も、ブライトンではなく、ウィンブルドンにあるジョージ・ロリマー邸。

更に、物語の早い段階で、ポワロは、マックアンドリュー医師から「アンソニー・ガスコインの妻は、数年前に亡くなっている。」と既に聞いている。


(22)

<英国 TV ドラマ版>

ヒル夫人と面会したポワロは、彼女から「アンソニー・ガスコインは、6月15日(金)の午後1時に亡くなった。」と告げられる。

<原作>

マックアンドリュー医師と面会したポワロは、彼から「アンソニー・ガスコインは、11月3日(木)の午後3時に亡くなった。」と告げられている。


(23)

<英国 TV ドラマ版>

ポワロとヘイスティングス大尉の2人は、「Bishop’s Chop House」(原作では、「ギャラント エンデヴァー(Gallant Endeavour)」の近くにある公衆トイレを清掃する男性から、ヘンリー・ガスコインを殺害した犯人が着ていた帽子、スカーフやコート等を押収する。

<原作>

このような場面はない。


(24)

<英国 TV ドラマ版>

ホワイトヘイヴンマンションズ(Whitehaven Mansions)において、ポワロは、ヘイスティングス大尉から、


*画家ヘンリー・ガスコインのモデルだったダルシー・ラングは、事件当日の6月16日(土)午後1時から午後5時まで、美術学校でモデルを務めていた。

*画家ヘンリー・ガスコインのエージェントだったピーター・メイキンスンは、事件当日の6月16日(土)、パリへ出張中。


と報告を受ける。

<原作>

ダルシー・ラングとピーター・メイキンスンは登場しないので、このような場面はない。


チャーターハウス スクエア6-9番地 フローリンコート
(Florin Court, 6-9 Charterhouse Square → 2014年6月29日付ブログで紹介済)が、
ホワイトヘイヴンマンションズとして、撮影に使用されている。


(25)

<英国 TV ドラマ版>

ベスナルグリーン地区にあるカールトン劇場において、ポワロは、支配人のジョージ・ロリマーをヘンリー・ガスコインの殺害犯として指摘する。その際、詳しい推理の内容も述べている。

逃げようとしたジョージ・ロリマーは、スコットランドヤードのジャップ主任警部(Chief Inspector Japp)と警官達によって逮捕される。

<原作>

ポワロは、単身、ウィンブルドンのジョージ・ロリマー邸を訪れて、ジョージ・ロリマーをヘンリー・ガスコインの殺害犯として指摘する。


(26)

<英国 TV ドラマ版>

Bishop’s Chop House」において、ポワロ、ヘイスティングス大尉、ジャップ主任警部と歯科医のボニントン(Bonnington)の4人が食事をする場面を以って、物語は終わりを迎える。


ボールコート(Ball Court)内に建つ
シンプソンズ タヴァーン(Simpson's Tavern → 2017年2月5日付ブログで紹介済)が、
Bishop’s Chop House」として、撮影に使用されている。



<原作>

「ギャラント エンデヴァー」において、ポワロと友人のヘンリー・ボニントン(Henry Bonnington)の2人が食事をする際、ポワロは、ヘンリー・ボニントンに対して、事件の詳しい解説を行っている。


           

2025年3月19日水曜日

アガサ・クリスティー作「エッジウェア卿の死」(Lord Edgware Dies by Agatha Christie)- その1

英国の HarperCollins Publishers 社から以前に出版されていた
アガサ・クリスティー作「エッジウェア卿の死」の
ペーパーバック版の表紙


今回から、アガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)が1932年に発表したエルキュール・ポワロシリーズの長編「エッジウェア卿の死」(Lord Edgware Dies)」について、紹介したい


エッジウェア卿の死」は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第13作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第7作目に該っている。


本作品は、英国では、「Lord Edgware Dies」と言うタイトルで出版されたが、米国では、「Thirteen at Dinner(晩餐会の13人)」と言う題名へ変更されている。


英国の HarperCollins Publishers 社から以前に出版されていた
アガサ・クリスティー作「エンドハウスの怪事件」の
ペーパーバック版の表紙


英国の HarperCollins Publishers 社から現在出版されている
アガサ・クリスティー作「エンドハウスの怪事件」の
ペイパーバック版の表紙


2024年に英国の HarperCollins Publishers 社から出版された
アガサ・クリスティー作「エンドハウスの怪事件」の
愛蔵版(ハードカバー版)の表紙
(Cover design and 
illustration
by Sarah Foster / 
HarperCollinsPublishers Ltd. 


エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、「エッジウェア卿の死」の前作は、「エンドハウスの怪事件(Peril at End House)」(1933年)で、「エッジウェア卿の死」の次作は、ポワロシリーズの中でも最も有名とも言える「オリエント急行の殺人(Murder on the Orient Express → 2023年8月25日 / 8月29日付ブログで紹介済)」である。


英国の HarperCollins Publishers 社から以前に出版されていた
アガサ・クリスティー作「オリエント急行の殺人」の
ペーパーバック版の表紙


英国の HarperCollins Publishers 社から現在出版されている
アガサ・クリスティー作「オリエント急行の殺人」の
ペーパーバック版の表紙


アガサ・クリスティー作「エッジウェア卿の死」は、エルキュール・ポワロとアルゼンチンから一時帰国したアーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)の2人が、米国からロンドン/パリ公演ツアーに来ている女芸人カーロッタ・アダムズ(Carlotta Adams)の舞台を観たところから、その物語が始まる。

背景や衣装等を必要としない彼女の「人物模写演技」は完璧で、一瞬で顔つきや声音等を変えて、その人自身になりきるのであった。第4代エッジウェア男爵ジョージ・アルフレッド・セント・ヴィンセント・マーシュ(George Alfred St. Vincent Marsh, 4th Baron Edgware)/ エッジウェア卿(Lord Edgware)と結婚している米国出身の舞台女優ジェーン・ウィルキンスン(Jane Wilkinson)の物真似に関しても見事の一言で、ポワロは深く感銘を受ける。


その夜、ポワロの元をジェーン・ウィルキンスン本人が訪れる。

彼女から「離婚話に応じない夫を説得してもらいたい。」という依頼を受けたポワロが、翌日、リージェントゲート(Regent Gate)にあるエッジウェア卿の邸を訪問したところ、彼は「6ヶ月も前に、離婚に同意する旨を彼女宛に手紙で既に伝えた。」と答えるのであった。話のくい違いに納得がいかないポワロであったが、そのまま帰宅せざるを得なかった。