2023年5月18日木曜日

アガサ・クリスティー作「白昼の悪魔」<英国 TV ドラマ版>(Evil Under the Sun by Agatha Christie )- その3

英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「白昼の悪魔」のペーパーバック版表紙


英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第48話(第8シリーズ)として、2001年4月20日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「白昼の悪魔(Evil Under the Sun)」(1941年)の TV ドラマ版の場合、原作対比、以下のような差異が見受けられる。


(8)

<原作>

原作の場合、クリスティーン・レッドファン(Christine Redfern - 元教師で、パトリック・レッドファン(Patrick Redfern)の妻 / 夫の不倫のため、アリーナ・ステュアート・マーシャル(Arlena Stuart Marshall - 美貌の元女優 / 実業家ケネス・マーシャル(Kenneth Marshall)の後妻)を恨んでいる)は、自分が高所恐怖症であることを告白している。

アリーナ・マーシャルが密会に出かけて、殺害された Pixy Cove と言う場所は、海からのアクセスと高い崖からのアクセスに限られていて、高所恐怖症であるクリスティーン・レッドファンが、高い崖を降りて、Pixy Cove へ至ることは困難という判断から、アリーナ・マーシャル殺害の容疑者から、一旦、彼女は外されることになる。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、クリスティーン・レッドファンは、自分が高所恐怖症であることを告白する場面はない。

実際のところ、夫のパトリック・レッドファンとアリーナ・マーシャルの二人が海で戯れている現場を、高台にある道から、クリスティーン・レッドファンが、苦々しい顔をして、見下ろしている場面が挿入され、エルキュール・ポワロと付き添いのアーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)の二人が、彼女を目撃している。


(9)

<原作>

原作の場合、Pixy Cove において、アリーナ・マーシャルが殺害された頃、クリスティーン・レッドファンと一緒に、Gull Cove へ出かけたのは、実業家ケネス・マーシャルの娘であるリンダ・マーシャル(Linda Marshall)である。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、クリスティーン・レッドファンと一緒に、Gull Cove へ出かけたのは、実業家ケネス・マーシャルの子供ではあるが、リンダ・マーシャルと言う娘ではなく、ライオネル・マーシャル(Lionel Marshall)と言う息子へ変更されている。


(10)

<原作>

原作の場合、Pixy Cove において、アリーナ・マーシャルが殺害された頃(昼の12時)、ホテルのテニスコートに集合したのは、ケネス・マーシャル、ロザモンド・ダーンリー(Rosamund Darnley - ドレスメーカー / 以前、ケネス・マーシャルと交際していた)、オーデル・C・ガードナー(Odell C. Gardener - 米国人)とクリスティーン・レッドファンの4人で、クリスティーン・レッドファンは、集合時間丁度に到着。そこへ、エミリー・ブルースター(Emily Brewster - スポーツが趣味 / 以前、投資話でアリーナ・マーシャルに損害を負わされたため、彼女を恨んでいる)が、アリーナ・マーシャルが殺されていることを知らせにやって来る。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、オーデル・C・ガードナーが登場しないため、ヘイスティングス大尉が、代わりに、テニスメンバーとなっている。


(11)

<原作>

原作の場合、アリーナ・マーシャルが殺害されたことを受けて、デヴォン州(Devon)警察のコルゲート警部(Inspector Colgate)が、捜査責任者として、現場へとやって来る。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、お馴染みのジャップ主任警部(Chief Inspector Japp)が、アリーナ・マーシャルの殺人事件が発生した後、スコットランドヤードから派遣されて、捜査担当者となるため、デヴォン州警察のコルゲート警部は、登場しない。


(12)

<原作>

原作の場合、検死医のニースデン医師(Dr. Neasden)が登場する。

<英国 TV 版>

英国 TV 版の場合、検死医のニースデン医師は、登場しない。


(13)

<原作>

原作の場合、コルゲート警部の上司として、デヴォン州(Devon)警察の本部長(Chief Constable)であるウェストン大佐(Colonel Weston)が、捜査を指揮する。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、スコットランドヤードからジャップ主任警部が派遣される関係上、登場するものの、ポワロの指示に基づいて、ミス・レモン(Miss Lemon)がケント州(Kent)ブラックリッジ(Blackridge)へ出張して、アリス・コリガン(Alice Corrigan)の殺人事件を調べる際に、駅で彼女を出迎えて、調査を手助けする地元の捜査官へと変更されている。彼の肩書きは、「(デヴォン州)警察本部長」から「(ブラックリッジ警察)主任警部」へと変えられている。また、原作の場合、彼の名前については、言及されていないが、英国 TV 版の場合、「チャールズ(Charles)」と言う名前が与えられている。


(14)

<原作>

原作の場合、物語の途中で、実業家ケネス・マーシャルの娘であるリンダ・マーシャル(Linda Marshall)が、ブードゥー教(voodoo)の呪いで、自分が継母のアリーナ・マーシャルを殺したものと思い、クリスティーン・レッドファンの睡眠薬で、自殺未遂をする。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、実業家ケネス・マーシャルの子供として、リンダ・マーシャルと言う娘ではなく、ライオネル・マーシャル(Lionel Marshall)と言う息子が、代わりに登場するが、原作とは異なり、自殺未遂をする場面はない。

ただし、原作のリンダと同様に、英国 TV 版のライオネル・マーシャルも、継母のアリーナ・マーシャルのことを疎ましく感じており、本土にある図書館から、「Dangerous Chemicals and Poisons」と言うタイトルの本を借り出したため、アリーナ・マーシャル殺害犯人として、一時疑われる。


(15)

<原作>

原作の場合、「スティーヴン・レーン(Stephen Lane - 元牧師)」、「バリー少佐(Major Barry - 退役将校)」と「ホーレス・ブラット(Horace Blatt - ヨットが趣味)」の3人には、あまり大きな役割が与えられていない。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、上記の3人に、かなり大きな役割が与えられている。


・「スティーヴン・レーン」:アリス・コリガンの絞殺死体が発見されるブラックリッジに所在するセントマシュー教会(Church of St. Matthew)の牧師として、物語の冒頭から登場する。また、彼の妻が、教会の信者の一人と駆け落ちして、彼の元から去ってしまったことから、不倫関係に陥る女性に対して、激しい憎悪を抱くようになっている。

・「バリー少佐」:表向きは、ホテルで老後を楽しむ退役将校を装っていたが、実際には、ポワロ達が滞在している Sandy Cove Hotel がある Island of the Lost Souls において、密かに行われているヘロインの密輸取引を調べるべく、スコットランドヤードの薬物取締官として、数ヶ月間にわたる捜査を行っていた。

・「ホーレス・ブラット」:表向きは、ヨットが趣味で、毎日、海へ出ていたが、実際には、ヘロインの密輸取引を行っており、最終的には、仲間の2人組と一緒に、バリー少佐によって、逮捕される。


(16)

<原作>

原作の場合、ケント州ブラックリッジにある森の中において、アリス・コリガンの絞殺死体が発見された際、彼女の殺害犯人として、まず最初に疑われたのは、「夫」であるエドワード・コリガン(Edward Corrigan)である。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、ケント州ブラックリッジにある森の中において、アリス・コリガンの絞殺死体が発見された際、彼女の殺害犯人として、まず最初に疑われたのは、「婚約者」であるエドワード・デヴァレル(Edward Deverell)である。


(17)

<原作>

原作の場合、Gull Cove において、リンダ・マーシャルが海で泳いでいる隙に、写生をしていたクリスティーン・レッドファンは、リンダの腕時計の針を、20分進める。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、Gull Cove において、ライオネル・マーシャルが海で泳いでいる隙に、写生をしていたクリスティーン・レッドファンは、ライオネルの腕時計の針を、15分進める。

クリスティーン・レッドファンが腕時計の針を進めたのが、5分短いのは、後述の通り、原作対比、彼女の犯行手順が異なるためではないかと思われる。


(18)

<原作>

原作の場合、クリスティーン・レッドファンの犯行手順は、以下の通り。

(A)朝食後、リンダ・マーシャルを Gull Cove へ誘う。

(B)リンダと一緒に、Gull Cove へと出かける。

(C)Gull Cove において、リンダが海で泳いでいる隙に、腕時計の針を、20分進める。

(D)海から出て来たリンダに時刻を尋ね、「テニスに遅れる。」と言って、Gull Cove を去る。その際、腕時計の針を、20分元に戻す。

(E)ホテルに戻り、自室において、フェイクタン(fake tan)で、肌の色をアリーナ・マーシャルと同じにして、Pixy Cove へと向かう。その際、自室からフェイクタンの瓶を投げ捨て、それがエミリー・ブルースターに危うく当たりかける。

(F)ホテルを出て、Pixy Cove へと向かう。

(G)Pixy Cove に到着して、顔を麦藁帽子で隠して、海岸に寝そべる。

(H)共犯者である夫のパトリック・レッドファンが、証人役のエミリー・ブルースターを連れて、海岸に到着。パトリック・レッドファンが、エミリー・ブルースターに対して、ホテルへの報告を頼んだ後、ホテルへと戻る。(その間に、パトリック・レッドファンが、洞窟内に隠れていたアリーナ・マーシャルを絞殺)

(I)自室のバスルームで、フェイクタンを洗い落とす。

(J)ホテルのテニスコートに集合。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、クリスティーン・レッドファンの犯行手順は、以下の通り。

(A)午前9時30分:朝食後、リンダ・マーシャルを Gull Cove へ誘う。

(B)自室において、フェイクタン(fake tan)で、肌の色をアリーナ・マーシャルと同じにする。その際、自室からフェイクタンの瓶を投げ捨て、それがエミリー・ブルースターに危うく当たりかける。

(C)午前10時30分:リンダと一緒に、Gull Cove へと出かける。

(D)午前11時30分:Gull Cove において、リンダが海で泳いでいる隙に、腕時計の針を、20分進める(午前11時30分 → 午前11時45分)。

(E)午前11時30分:海から出て来たリンダに時刻を尋ね、「テニスに遅れる。」と言って、Gull Cove を去る。その際、腕時計の針を、20分元に戻す(午前11時45分 → 午前11時30分)。

(F)原作とは異なり、ホテルへではなく、Gull Cove から、直接、Pixy Cove へと向かう。

(G)Pixy Cove に到着して、顔を麦藁帽子で隠して、海岸に寝そべる。

(H)共犯者である夫のパトリック・レッドファンが、証人役のエミリー・ブルースターを連れて、海岸に到着。パトリック・レッドファンが、エミリー・ブルースターに対して、ホテルへの報告を頼んだ後、ホテルへと戻る。(その間に、パトリック・レッドファンが、洞窟内に隠れていたアリーナ・マーシャルを絞殺)

(I)自室のバスルームで、フェイクタンを洗い落とす。

(J)午前12時:ホテルのテニスコートに集合。


個人的には、クリスティーン・レッドファンの犯行手順として、アガサ・クリスティーの原作対比、英国 TV ドラマ版の方が、より合理的であると考える。


事件を解決して、ロンドンへと戻ったポワロは、ヘイスティングス大尉に対して、「ヘイスティングス大尉が投資して、開店したアルゼンチン料理レストラン(名前:El Ranchero)において、食事中、自分が途中で気分が悪くなり、倒れ込んでしまったのは、医者が診断した肥満が原因ではなく、食中毒(food poisoning)が原因であった。」と明かす。更に、ポワロは、「El Ranchero において、食中毒が起きたのは、これで14回目だ。」と付け加える。

ミス・レモンは、「El Ranchero は、衛生当局の指示により、閉店させられた。」と報告したことを受け、ヘイスティングス大尉は、自分の投資が無駄になったことを悟り、ガックリするところで、物語は終わりを迎える。


なお、英国 TV ドラマ版の「白昼の悪魔(Evil Under the Sun)」は、英国の小説家で、推理 / サスペンスドラマの脚本家でもあるアンソニー・ホロヴィッツ(Anthony Horowitz:1955年ー)が脚本を担当している。

彼は、コナン・ドイル財団(Conan Doyle Estate Ltd.)による公認(公式認定)の下、シャーロック・ホームズシリーズの正統な続編として、「絹の家(The House of Silk → 2022年1月29日 / 2月5日 / 2月12日付ブログで紹介済)」と「モリアーティー(Moriarty → 2022年4月2日 / 4月10日 / 4月15日付ブログで紹介済)」を発表している。 


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