2023年5月13日土曜日

綾辻行人作「水車館の殺人」<小説版>(The Mill House Murders by Yukito Ayatsuji ) - その3

英国のプーシキン出版から2023年に出ている
綾辻行人作「水車館の殺人」の英訳版の裏表紙
(Cover design by Jo Walker /
Cover image by Marcelo Eduardo)

1986年9月28日の朝、岡山県北部の人里離れた山奥に建つ古城を思わせる異形の屋敷「水車館(Mill House)」の主人である「私」は、目を覚ますと、いつものように、白いゴムの仮面と手袋を付けると、寝室を出た。


1985年9月28日の午後から翌日の9月29日の明け方にかけて、


(1)塔から落ちた一人の女性(A woman fallen from the tower.)→ 使用人の根岸文江(Fumie Negishi:当時45歳 - 元看護婦で、藤沼紀一の生活面のサポートも、ほぼ一手に担当)が、雷雨が吹き荒れる中、藤沼由里絵(Yurie Fujinuma:当時19歳 - 藤沼一成(Issei Fujinuma:知る人ぞ知る幻想画家で、故人)の弟子である柴垣浩一郎(Koichiro Shibagaki)の娘で、藤沼紀一の妻)の寝室がある「Tower Room」のバルコニーから落下して、死亡。

(2)盗まれた一枚の絵画(A painting disappeared.)→ 「Northern Gallery」に掛けてあった藤沼一成の絵画の一枚が、何者かによって盗まれた。その絵画の前に佇んでいた古川恒人(Tsunehito Furukawa:当時37歳 - 香川県高松市にある藤沼家の菩提寺の副住職)の不審な行動(絵画の盗難に遡ること、少し前に、執事の倉本庄司が目撃)から、古川恒人が絵画を盗んだものと思われた。

(3)およそ不可能な状況下で失踪した一人の男性(A man vanished under seemingly impossible circumstances.)→ 藤沼紀一(Kiichi Fujinuma:当時41歳 - 藤沼一成の息子)達が古川恒人の5号室を訪れたところ、彼の姿はどこにも発見できなかった。しかも、1階(Ground Floor)のホール(Annex Hall)では、三田村則之(Noriyuki Mitamura:当時36歳 - 兵庫県神戸市で外科病院を経営する外科医師で、12年前の交通事故の際、藤沼紀一の外科手術を担当)と森滋彦(Shigehiko Mori:当時46歳 - 愛知県名古屋市に所在するM**大学の美術史教授)の二人が、夜を徹して、チェスを続けており、2階(First Floor)から螺旋階段を下りてくる古川恒人を全く見かけていなかった。

(4)変な匂いを不審に感じた残された人達が、地下室へ下りると、床の上には、指輪をした人間の指が転がっていた。その場に居た全員が記憶している通り、それは、正木慎吾(Shingo Masaki:当時38歳 - 藤沼紀一の大学の後輩で、友人 / 以前、藤沼一成に師事)の左手に嵌めていた指輪だった。更に、彼らは、地下の焼却炉の中から、黒焦げになった頭部、胴体、両手と両足の6つに切断された遺体を発見した。


と言う事件が連続して発生してから、1年が経過していた。


英国のプーシキン出版から2023年に出ている
綾辻行人作「水車館の殺人」の英訳版に挿入されている登場人物表
(なお、各人の年齢は、1985年9月当時のもの)

年1回、非常に限定した人達に対して、藤沼一成が残した絵画を公開する日が、再び巡ってきたのである。


招待客は、例年通り、


(1)大石源造(Genzo Oishi:50歳):美術商

(2)森滋彦

(3)三田村則之


の3人であったが、例年の招待客だった古川恒人は、この中に含まれていなかった。

何故ならば、1年前の昨年9月、藤沼一成の絵画を盗んだ古川恒人が、自分の後を追って来た正木慎吾を殺害の上、頭部、胴体、両手と両足の6つに切断して、焼却炉に放り込んだ後、姿を再度くらませたものと考えられたからだった。大雨により途絶した道路が元に戻り、水車館へと駆けつけた地元の警察も、同様に断定の上、これらの事件は、一つの「解決」として、葬り去られたのである。その後、地元警察による懸命な捜査にもかかわらず、犯人と目される古川恒人の居所は、杳として知れなかった。


3人の招待客を出迎える水車館側にも、変化があった。

主人である「私」、妻の藤沼由里絵と執事の倉本庄司(Shoji Kuramoto:57歳)の3人には、変わりがなかったが、使用人の根岸文江は昨年亡くなったため、通いの使用人として、野沢朋子(Tomoko Nozawa:32歳)が、新たに加わっていた。


もう一つ、変化があった。

大学時代に、古川恒人と親交があり、「十角館の殺人(The Decagon House Murders → 2023年2月21日 / 2月25日 / 3月9日 / 3月18日付ブログで紹介済)」で探偵役を務めた島田潔(Kiyoshi Shimada:37歳)が水車館を訪れたのだ。

古川恒人のことを、本名で、訓読みの「つねひと(Tsunehito)」ではなく、音読みの「こうじん(Kojin)」と呼ぶ島田潔は、古川恒人が一連の事件を引き起こしたとは考えられず、水車館へとやって来たのである。

水車館の主人である「私」は、当初、予期しない人物の来訪を快く思わなかった。ところが、島田潔が、自分の兄で、大分県警の警部である島田修(Osamu Shimada)に頼んだ甲斐もあり、岡山県警からの非公式な依頼があり、「私」としては、受け入れざるを得なかった。一方では、「私」は、この奇妙な島田潔と言う男に、興味を感じたことを否定できなかった。


水車館への来客として受け入れてもらえた島田潔は、水車館の住人達や招待客達に対して、1年前の事件の詳細をヒアリングし始めた。


島田潔による突然の来訪に呼応するように、水車館において、惨劇の幕が再び開く。そして、島田潔は、1年前の事件の裏に潜む真相の全てを明らかにするのであった。


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