2023年5月3日水曜日

綾辻行人作「水車館の殺人」<小説版>(The Mill House Murders by Yukito Ayatsuji ) - その2

1973年12月24日、兵庫県神戸市にある藤沼家の屋敷に行われたパーティーの後、大学の後輩で、友人でもある正木慎吾(Shingo Masaki)と正木の婚約者の二人を車で送って行った際、凍った路面にハンドルをとられて、大事故を起こした藤沼紀一(Kiichi Fujinuma)は、その事故で顔と手足に大怪我を負ってしまい、車椅子生活を余儀なくされた。また、顔に負った酷い傷を隠すために、白いゴムの仮面をつける羽目となった。


父親の藤沼一成(Issei Fujinuma)の弟子である柴垣浩一郎(Koichiro Shibagaki)が病気で亡くなった際、藤沼紀一は、幼少だった娘の柴垣由里絵(Yurie Shibagaki)を引き取り、自分が営んでいた不動産業を全て処分すると、由里絵を伴い、岡山県北部の人里離れた山奥に建つ古城を思わせる異形の屋敷「水車館(Mill House)」へと隠棲した。

また、父親の藤沼一成が残した莫大な遺産を使い、藤沼紀一は、父親の絵画をほとんど買い戻して、水車館内に飾った。美術マニアにとって、藤沼一成の絵画は垂涎の的であり、誰もが鑑賞したがったが、美術マニアの期待に反して、藤沼紀一は、父親の絵画を非公開としてしまい、水車館を訪れて、藤沼一成が残した絵画を鑑賞できる人は、非常に限定的だった。

その後、長じた柴垣由里絵は、藤沼紀一と結婚して、藤沼由里絵(Yurie Fujinuma)となった。


そして、12年の時が経過した1985年9月28日。

今日は、年1回、藤沼紀一が、非常に限定した人達に対して、父親の藤沼一成が残した絵画を公開する日だった。


招待客は、例年通り、以下の4名だった。


(1)大石源造(Genzo Oishi:49歳):美術商

(2)森滋彦(Shigehiko Mori:46歳):愛知県名古屋市に所在するM**大学の美術史教授

(3)三田村則之(Noriyuki Mitamura:36歳):兵庫県神戸市で外科病院を経営する外科医師で、12年前の交通事故の際、藤沼紀一の外科手術を担当。

(4)古川恒人(Tsunehito Furukawa:37歳):香川県高松市にある藤沼家の菩提寺の副住職


水車館の主人である藤沼紀一(41歳)、妻の藤沼由里絵(19歳)、執事の倉本庄司(Shoji Kuramoto:56歳)と使用人の根岸文江(Fumie Negishi:45歳)が、彼ら4人を一晩饗すのが、常であった。

なお、根岸文江は、元看護婦で、藤沼紀一の生活面のサポートも、ほぼ一手に引き受けていた。


英国のプーシキン出版から2023年に出ている
綾辻行人作「水車館の殺人」の英訳版に付されている
水車館の1階(Ground Floor)の見取り図


例年であれば、別翼(Annex Wing)にある来客用の部屋は、


1号室:大石源造

2号室:三田村則之

3号室:森滋彦

4号室:古川恒人


というようにあてがわれていたが、今年の場合、12年前の交通事故以降、行方不明になっていた正木慎吾(38歳)が、半年前に藤沼紀一の前に姿を現して、それ以来、水車館に身を寄せていたため、



1号室:大石源造

2号室:三田村則之

3号室:森滋彦

4号室:正木慎吾

5号室:古川恒人


という組み合わせに変更された。


英国のプーシキン出版から2023年に出ている
綾辻行人作「水車館の殺人」の英訳版に付されている
水車館の2階(First Floor)の見取り図


心配なのは、その日、嵐が近付いていたことで、大雨のため、水車館と
人里を繋ぐ道路が途絶してしまったのである。


そして、その日の午後、水車館において、惨劇の幕が開けた。


(1)塔から落ちた一人の女性(A woman fallen from the tower.)→ 使用人の根岸文江が、雷雨が吹き荒れる中、藤沼由里絵の寝室がある「Tower Room」のバルコニーから落下して、死亡。

(2)盗まれた一枚の絵画(A painting disappeared.)→ 「Northern Gallery」に掛けてあった藤沼一成の絵画の一枚が、何者かによって盗まれた。その絵画の前に佇んでいた古川恒人の不審な行動(絵画の盗難に遡ること、少し前に、執事の倉本庄司が目撃)から、古川恒人が絵画を盗んだものと思われた。

(3)およそ不可能な状況下で失踪した一人の男性(A man vanished under seemingly impossible circumstances.)→ 藤沼紀一達が古川恒人の5号室を訪れたところ、彼の姿はどこにも発見できなかった。しかも、1階(Ground Floor)のホール(Annex Hall)では、三田村則之と森滋彦の二人が、夜を徹して、チェスを続けており、2階(First Floor)から螺旋階段を下りてくる古川恒人を全く見かけていなかった。


その後、「Northern Gallery」と「Dining Room」を繋ぐ廊下にある「Back Door」から外を見た正木慎吾は、「古川恒人が外に居る。」と叫ぶと、「Back Door」から外へ飛び出して、姿を消してしまう。


そして、翌日の明け方、水車館において幕を開けた惨劇は、最終局面を迎えた。


変な匂いを不審に感じた残された人達が、地下室へ下りると、床の上には、指輪をした人間の指が転がっていた。その場に居た全員が記憶している通り、それは、正木慎吾の左手に嵌めていた指輪だった。

更に、彼らは、地下の焼却炉の中から、黒焦げになった頭部、胴体、両手と両足の6つに切断された遺体を発見したのである。


状況的に、藤沼一成の絵画を盗んだ古川恒人が、自分の後を追って来た正木慎吾を殺害の上、頭部、胴体、両手と両足の6つに切断して、焼却炉に放り込んだ後、姿を再度くらませたものと考えられた。

途絶した道路が元に戻り、水車館へと駆けつけた地元の警察も、同様に断定の上、これらの事件は、一つの「解決」として、一旦葬り去られた筈だった。

その後、地元警察による懸命な捜査にもかかわらず、犯人と目される古川恒人の居所は、杳として知れなかった。


それから1年後の1986年9月28日、大学時代に、古川恒人と親交があり、「十角館の殺人(The Decagon House Murders → 2023年2月21日 / 2月25日 / 3月9日 / 3月18日付ブログで紹介済)」で探偵役を務めた島田潔(Kiyoshi Shimada:37歳)が水車館を訪れた時、惨劇の幕が再び開くのであった。


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