2023年7月1日土曜日

サイモン・ゲリエ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 大いなる戦争」(The further adventures of Sherlock Holmes / The Great War by Simon Guerrier) - その4

英国の Titan Publishing Group Ltd. の Titan Books 部門から
2021年に出版された
サイモン・ゲリエ作「シャーロック・ホームズの更なる冒険 / 大いなる戦争」の表紙(一部)


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆☆半(3.5)


1917年12月、東部戦線(East Front)において、英国軍を含む連合国側と同盟国側が相対していた。

連合国側であるフランスのレベック(Rebecq - 現在のベルギーのワロン地域にある場所)から2 - 3マイル離れた野戦病院において、救急看護奉仕隊(VAD - Voluntary Aid Detachment)として勤務していたオーガスタ・ワトスン(Miss Augusta Watson)の前に、60歳代後半となっていたシャーロック・ホームズが、来客として姿を見せる。

同年11月1日の夜、この野戦病院において、フィリップ・オグル=トンプソン大尉(Captain Philip Ogle-Thompson)が亡くなったのだが、彼の記録が病院内に全く残っておらず、ジョン・H・ワトスン経由、彼の両親から依頼を受けたホームズは、その経緯を調べにやって来たのである。

フィリップ・オグル=トンプソン大尉が残した私物の中から、賭けの倍率のようなものが書かれた謎のメモが見つかり、ホームズが調査を進める中、フィリップ・オグル=トンプソン大尉の後任の将校であるボイス大尉(Captain Boyce)やレイナー・フィッツジェラルド将軍(General Rayner Fitzgerald)のところからも、同じような謎のメモが出てくる。

東部戦線において、同盟国側と相対する英国軍を含む連合国側の中で、何か良からぬ計画が進行しているではないかと、ホームズは疑わざるを得なかった。

事件や背景の設定としては、標準を少し上回るかと思います。


(2)物語の展開について ☆☆☆(3.0)


ホームズがいろいろと調べ回ることをあまり快く思わない看護師長(Matron)のシスター グロリア(Sister Gloria)やレイナー・フィッツジェラルド将軍からの指示を受けて、オーガスタ・ワトスンは、当初、彼らのスパイとして、ホームズからの依頼もあり、彼の調査に同行する。ところが、ホームズの影響を受けて、彼女は、次第に、調査に深く関わって行くようになる。

ホームズとオーガスタ・ワトスンの2人が再度前線へと調査に出向いた際、彼らの車が、謎の狙撃者に狙われる。横転した車から逃げ出した2人は、謎の狙撃者から逃れるために、東部戦線を横切り、同盟国側の領地に入ることになり、ドイツ軍の捕虜となってしまう。

2人が非常に驚いたことに、連合国側だけではなく、同盟国側でも、賭けの倍率のような謎のメモが出回っていたことを発見するのであった。

物語的に難しいかとは思うが、序盤から話がなかなか前に進まない。亡くなったフィリップ・オグル=トンプソン大尉の後任の将校であるボイス大尉が居る前線へと向かうのが、やっと60ページを過ぎた辺り。その後、ボイス大尉や彼の部下達(=フィリップ・オグル=トンプソン大尉の元部下達)へのヒアリング、前線から戻って来てからのレイナー・フィッツジェラルド将軍との面談、再度前線へ調査に出向いた際、謎の狙撃者に狙われ、ドイツ軍の捕虜となり、そこからの脱出と、約300ページある全体のうち、そこまでで、全体の9割程度を使ってしまい、最後の展開がやや大急ぎのため、不満が残る。


(3)ホームズ / オーガスタ・ワトスンの活躍について ☆☆☆(3.0)


ホームズの場合、60歳代後半という年齢のこともあるが、権限が全くない戦争の前線での調査でもあるので、彼の真価をなかなかうまく発揮できていない。

オーガスタ・ワトスンの場合、ジョン・H・ワトスンよりも優秀な助手と言うか、相棒の役を務めているのではないだろうか?

なお、オーガスタ・ワトスンが、ジョン・H・ワトスンの娘なのかどうかについては、物語上、全く言及されていない。彼女自身が、ホームズに対して、自分のことを「リッチモンド(Richmond)の裕福な家庭の出身」と話す場面があるだけである。筆者としては、オーガスタ・ワトスンは、ジョン・H・ワトスンの娘であるが、何らかの確執があって、リッチモンドの家を飛び出して、東部戦線の野戦病院において、救急看護奉仕隊として勤務していたのではないかと推測する。フィリップ・オグル=トンプソン大尉がこの野戦病院において亡くなったのは、単なる偶然であるが、ジョン・H・ワトスン経由、大尉の両親から依頼を受けて、調査に訪れたたホームズは、彼女を自分の助手として指名したのであろう。


(4)総合評価 ☆☆☆(3.0)


物語の内容的には、仕方ないのかもしれないが、序盤から話がなかなか前に進まない。

その後、前線での調査、将軍との面談、謎の狙撃者による襲撃、ドイツ軍の捕虜となるが、そこからの脱出と、それなりの展開はあるものの、それらの展開に、約300ページある全体のうち、全体の9割程度を使ってしまった結果、最後の展開がやや大急ぎになっており、不満が残る。

また、東部戦線を挟んで、連合国側と同盟国側の両方で進行する計画自体が、規模は大きいのかもしれないが、個人的には、あまり驚愕する程の内容ではなかったので、加算点にはなっていない。

本当は、「☆☆☆(3.0)」よりも、若干低い評価であるが、多分、ジョン・H・ワトスンの娘だと思われるオーガスタ・ワトスンが、ホームズとの出会いを通して、今まではあまり打ち解けていなかった野戦病院で働く同僚達との親交を深め、成長していく部分が描かれているので、「☆☆☆(3.0)」とした。



0 件のコメント:

コメントを投稿