2023年4月24日月曜日

アガサ・クリスティー作「雲をつかむ死」<英国 TV ドラマ版>(Death in the Clouds by Agatha Christie )- その5

英国の TV 会社 ITV 社による制作の下、「Agatha Christie’s Poirot」の第32話(第4シリーズ)として、1992年1月12日に放映されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)作「雲をつかむ死(Death in the Clouds)」(1935年)の TV ドラマ版の場合、名探偵エルキュール・ポワロが最後の謎解きをする場面も、原作とはやや異なる展開が行われていく。


(1)

<原作>

原作の場合、ポワロが事件の真相を明らかにする場面に立ち会うのは、以下の3名。


・ジャップ主任警部(Cheif Inspector Japp - 英国警察の主任警部)

・ノーマン・ゲイル(Norman Gale - 歯科医)

・ダニエル・クランシー(Daniel Clancy - 推理作家)


<英国 TV ドラマ版>


名探偵エルキュール・ポワロが、
スコットランドヤードのジャップ主任警部同席の下、
事件の真相を明らかにする場面に立ち会った人達の座席表
<筆者が独自に作成>


英国 TV ドラマ版の場合、ポワロが事件の真相を明らかにする場面に立ち会うのは、以下の7名。


・ジャップ主任警部(英国警察の主任警部)

・ノーマン・ゲイル(歯科医)

・ジェーン・グレイ(Jane Grey -  Empire Airways のステュワーデス)

・ジャン・デュポン(Jean Dupont - 考古学者)

・ダニエル・クランシー(推理作家)

・シシリー・ホーバリー(Cicely Horbury - 伯爵夫人)

・レイモンド・バラクロー(Raymond Barraclough - 俳優で、ホーバリー伯爵夫人の恋人)


アガサ・クリスティーの原作に比べると、立会者として、ジェーン・グレイ、ジャン・デュポン、シシリー・ホーバリーとレイモンド・バラクローの4名が追加されている。

ジェーン・グレイ、ジャン・デュポンとシシリー・ホーバリーの3名は、マダム・ジゼル(Madame Giselle - フランス人の金貸し / 本名:マリー・モリソー(Marie Morisot))が殺された際、同じ飛行機に搭乗していたので、ポワロによる最後の謎解きに立ち会うのは理解できるが、レイモンド・バラクロー自身、事件の関係者ではないので、正直ベース、何故、彼を立ち会わせるドラマ展開にしたのか、理解に苦しむところである。

事件の関係者と言うことであれば、立会人として、レイモンド・バラクローよりも、ヴェニーシャ・カー(Venetia Kerr - 貴族の令嬢)の方が妥当であるが、何故か、事件の関係者として、彼女だけが立会人となっていない。


(2)

<原作>

マダム・ジゼルを殺害した犯人として、ポワロは、彼女の別居中の娘であるアン・モリソー(Anne Morisot)経由、彼女の財産を狙ったノーマン・ゲイルを名指しした。

ノーマン・ゲイルは、ポワロの推理を否定するが、ポワロに「アン・モリソーの遺体の側に置かれていた毒薬の瓶から、警察がノーマン・ゲイルの指紋を見つけた。」と嘘をつかれると、うっかりと「アン・モリソー殺害の際、手袋をしていた。」と漏らしてしまい、逮捕される羽目となった。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、ポワロに「アン・モリソーの遺体の側に置かれていた毒薬の瓶から、警察がノーマン・ゲイルの指紋を見つけた。」と嘘をつかれた際、犯人のノーマン・ゲイルは、手袋をしていたことについて、ギリギリのところで発言を止めており、ポワロが、彼の発言を捕捉する形となっている。


ノーマン・ゲイル:「That’s absolutely ridiculous, because I wore …」

ポワロ:「You wore the gloves when you committed the murder ?」


(3)

<原作>

原作の場合、犯人のノーマン・ゲイルが逮捕された後、ポワロは、ジェーン・グレイと事件中に彼女に好意を抱いたジャン・デュポンを引き合わせるという展開で、物語は終わりを迎えている。

<英国 TV ドラマ版>

英国 TV ドラマ版の場合、アガサ・クリスティーの原作のような結末には至らない。ジャン・デュポンは、事件中に、ジェーン・グレイに対して、何度も接触するが、その目的は、彼女経由、ポワロに対して、自分の発掘調査の投資を引き出すためであった。

その代わり、物語の序盤、パリで開催されたテニスの試合(Roland Garros Paris)を観戦した後のバーにおいて、ノーマン・ゲイルは、ジェーン・グレイに対して、話し掛ける。その後、パリからロンドンへ戻る Empire Airways の飛行機でも一緒になり(ノーマン・ゲイルは搭乗客で、ジェーン・グレイはステュワーデス)、事件中も、ノーマン・ゲイルは、ジェーン・グレイに対して、積極的なアプローチを続ける。その結果、ジェーン・グレイも、ノーマン・ゲイルに対して、次第に恋愛感情を抱いていく。

ところが、ジェーン・グレイが恋愛感情を抱いたノーマン・ゲイルは、マダム・ジゼルとアン・モリソーを殺害した犯人として、警察に逮捕される。

その後、ホテルのロビーにおいて、悲しむジェーン・グレイに対して、ポワロが慰めの言葉をかける場面で、英国 TV 版は、終わりを迎えるのである。


ジェーン・グレイ:「I thought … I don’t know …」

ポワロ:「You liked Monsieur Gale ?」

ジェーン・グレイ:「Yes.」

ポワロ:「And you thought that he liked you ? But you are wrong, mademoiselle.」

ジェーン・グレイ:「Obviously.」

ポワロ:「No, no, no ! He did not like you. He loved you. It is true. I see it in the eyes.」


ポワロがジェーン・グレイに対して投げ掛ける最後のセリフが、なかなか心にくい。


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