2024年2月15日木曜日

S・S・ヴァン・ダイン作「僧正殺人事件」(The Bishop Murder Case by S. S. Van Dine)- その3


ニューヨークのウェスト75番ストリート(West 75th Street)とウェスト76番ストリート(West 76th Street)に挟まれたエリアに、高名な物理学者(physicist)であるバートランド・ディラード教授(Professor Bertrand Dillard)の邸宅があるが、4月2日(土)の昼頃、その邸宅の横にあるアーチェリー練習場において、教授の姪であるベル・ディラード(Belle Dillard)に思いを寄せていたアーチェリー選手であるジョーゼフ・コクレーン・ロビン(Joseph Cochrane Robin)が、心臓に矢が突き刺さったまま、死亡しているのが発見された。

更に、ジョーゼフ・コクレーン・ロビンの恋敵で、彼の死の直前まで一緒に居たレイモンド・スパーリング(Raymond Sperling)が、姿を消していた。


弓と矢で射抜かれたジョーゼフ・コクレーン・ロビン。

(ジョーゼフ・)コクレーン・ロビンとクック・ロビン(駒鳥(コマドリ))。

また、(レイモンド・)スパーリングは、ドイツ語で、「雀(スズメ)」を意味した。


このように、状況は、マザーグース(Mother Goose - 英国において、古くから口誦によって伝承されて来た童謡の総称)の「駒鳥の死と葬い(The Death and Burial of Cock Robin)」の内容と、不気味なまでに合致した。


Who killed Cock Robin?(誰が駒鳥を殺したの?)

‘I’, said the sparrow,(それは私、と雀(スズメ)が言った。)

‘With my bow and arrow,(私の弓と矢で)

I killed Cock Robin.’’(私が駒鳥を殺したの。)


こうして、火蓋が切って落とされた「僧正殺人事件」だったが、事件はそれだけでは終わらず、レイモンド・スパーリングがニューヨーク警察に捕らえられたにもかかわらず、「僧正(The Bishop)」を名乗る人物により、マザーグースに見立てた殺人事件が続いていった。


<第2の殺人事件>


バートランド・ディラード教授の養子で、コロンビア大学(Columbia University)の数学の准教授であるジガード・アーネッスン(Sigurd Arnesson)の教え子の大学生であるジョン・E・スプリッグ(John E. Sprigg)が、4月11日(月)の朝、大学へ行く前の散歩中、ウェスト84番ストリート(West 84th Street)の近くにあるリヴァーサイドパーク(Riverside Park)において、32口径のピストルで頭を撃たれて、亡くなっているのが発見された。

そして、凶器のピストルは、ディラード家が保管しているもので、ジョン・E・スプリッグの死体が発見された時点では、紛失しており、後に元の場所に戻されていた。また、旋条痕が一致したため、これが、凶器のピストルであることが確定。


ジョン・E・スプリッグ殺害状況は、以下のマザーグースの内容に合致した。


There was a little man,(小さな男が居た。)

And he had a little gun,(小さな鉄砲を持っていた。)

And his bullets were made of lead, lead, lead;(鉄砲の弾丸は、鉛でできていた。)

He shot Johnny Sprig(彼は、ジョニー・スプリッグを撃った。)

Through the middle of his wig,(ジョニーの額の中央を撃って。)

And knocked it right off his head, head, head.(ジョニーの頭を吹き飛ばした。)


<第3の殺人事件>


バートランド・ディラード教授の邸宅が面しているウェスト75番ストリートの反対側のウェスト76番ストリートに面した邸宅に住む科学者であるアドルフ・ドラッカー(Adolph Drukker)が、4月16日(土)の朝、リヴァーサイドパークの高い塀から突き落とされて、首の骨を折り、亡くなっているのが発見された。


アドルフ・ドラッカーは、赤ん坊の時、レディー・メイ(Lady Mae)こと、母親のオットー・ドラッカー夫人(Mrs. Otto Drukker)が誤って地面に落としてしまったため、脊椎が彎曲異常しており、子供達から「ハンプティー・ダンプティー(Humpty Dumpty)」と呼ばれていたのである。



アドルフ・ドラッカー殺害状況は、以下のマザーグースの内容に合致した。


Humpty Dumpty sat on a wall,(ハンプティー・ダンプティーは、塀の上に座っていた。)

Humpty Dumpty had a great fall;(ハンプティー・ダンプティーは、塀の上から落っこちた。)

All the king’s horses and all the king’s men(王様の馬と王様の従者達が、)

Cannot put Humpty Dumpty together again.(ハンプティー・ダンプティーを元通りにしようとするが、できないのだ。


残念ながら、「僧正」による凶行は、更に続くのであった。


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