2024年2月18日日曜日

アガサ・クリスティーのトランプ(Agatha Christie - Playing Cards)- その11

英国の Laurence King Publishing Group Ltd. より、昨年(2023年)に発行されたアガサ・メアリー・クラリッサ・クリスティー(Agatha Mary Clarissa Christie:1890年ー1976年)をテーマにしたトランプの各カードについて、引き続き、紹介したい。


(37)10 ♠️「レディー・アイリーン・バンドル・ブレント(Lady Eileen “Bundle” Brent)」



レディー・アイリーン・バンドル・ブレントは、チムニーズ館(Chimneys)の所有者である第9代ケイタラム侯爵クレメント・エドワード・アリスター・ブレント(Clement Edward Alistair Brent, 9th Marquess of Caterham)の長女で、デイジー(Daisy)とダルシー(Dulcie)と言う2人の妹が居る。なお、母親は、既に亡くなっている。


彼女は、非常に魅力的な上に、頭の回転が速く、怖いもの知らずのため、冒険に目がない。


登場作品

<長編>

*「チムニーズ館の秘密(The Secret of Chimneys)」(1925年)

*「七つの時計(The Sven Dials Mystery)」(1929年)


(38)10 ❤️「ABC 鉄道案内(ABC Railway Guide)



ABC 鉄道案内は、長編ABC 殺人事件(The ABC Murders)」(1935年)において、1番目の被害者となったアリス・アッシャー(Alice Asher)、2番目の被害者となったエリザベス(ベティー)・バーナード(Elizabeth (Betty) Barnard)、そして、3番目の被害者となったサー・カーマイケル・クラーク(Sir Carmichael Clarke)の殺害現場に、犯人を名乗る ABC によって残されていたものである。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第18作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第11作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「ABC 殺人事件」のペーパーバック版の表紙


南アフリカから戻ったアーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)は、ロンドンに新しいフラットを構えた友人エルキュール・ポワロの元を訪れた。

そんなポワロの元に、ABC と名乗る謎の人物から、「アンドーヴァー(Andover)を警戒せよ。」と警告する手紙が届いていたのだ。


そして、その手紙通り、「A」で始まるアンドーヴァーにおいて、小さなタバコ屋を切り盛りしていた老女で、イニシャルが「A. A.」のアリス・アッシャーが殺害されたのである。その上、彼女の死体の傍らには、「ABC 鉄道案内」が置かれていた。

アリス・アッシャーの殺害犯として、大酒飲みで、妻の彼女に度々お金をせびっていた夫のフランツ・アッシャー(Franz Ascher)が、警察によって疑われる。


その最中、ABC と名乗る謎の人物からポワロの元に、第2、そして、第3の犯行を予告する手紙が届く。


第2の殺人事件として、「B」で始まるべクスヒル(Bexhill)において、カフェのウェイトレスとして働いていた若い女性で、イニシャルが「B. B.」のエリザベス(ベティー)・バーナードが殺害される。

今度は、ベティー・バーナードの殺害犯として、彼女の婚約者で、不動産関係の仕事をしているドナルド・フレーザー(Donald Fraser)が、警察によって疑われる。何故なら、殺されたベティー・バーナードの場合、異性関係に少々だらしなかったため、彼女の異性関係に着いて、2人の間で、何度も言い争いが起きていたからである。


続いて、第3の殺人事件として、「C」で始まるチャーストン(Churston)において、かつて医師として成功した大富豪で、イニシャルが「C. C.」のサー・カーマイケル・クラークが殺害された。


ベティー・バーナードとサー・カーマイケル・クラークの死体の傍にも、「ABC 鉄道案内」が置かれていたのである。


ポワロは、ABC と名乗る犯人が、住んでいる場所の頭文字とイニシャルが合致する人物を、アルファベット順に選び出した上で、殺害しているものと推測した。

ところが、それぞれの被害者に対して、殺害動機を有する者は存在しているが、全ての被害者に対して、殺害動機を有する人物は居なかった。また、被害者達には、ABC 以外の関連性はなく、ABC と名乗る犯人の正体とその動機については、判らなかった。


ポワロは、以下の事件関係者達を集まると、ABC と名乗る犯人の正体を捕まえるチームを結成するのであった。


*メアリー・ドローワー(Mary Drower)- アリス・アッシャーの姪で、アンドーヴァー近郊の屋敷でメイドとして働いている。

*ドナルド・フレーザー - ベティー・バーナードの婚約者

*メーガン・バーナード(Megan Barnard)- ベティー・バーナードの姉で、ロンドンでタイピストとして働いている。

*フランクリン・クラーク(Franklin Clarke)- サー・カーマイケル・クラークの弟で、兄の右腕として、兄が趣味としている骨董品を、世界中から買い集めている。

*ソーラ・グレイ(Thora Grey)- サー・カーマイケル・クラークの秘書


「ABC 殺人事件」は、ミッシングリンクをテーマにしたミステリー作品の中でも、最高峰と評価される作品で、知名度・評価ともに非常に高く、アガサ・クリスティーの代表作の一つとなっている。


(39)10 ♣️「斧(Axe)」



斧は、ノンシリーズ作品の長編「そして誰もいなくなった(And Then There Were None)」(1939年)において、エリック・ノーマン・オーウェン氏(Mr. Ulick Norman Owen)とユナ・ナンシー・オーウェン夫人(Mrs. Una Nancy Owen)と言うオーウェン夫妻と名乗る人物が、召使いのトーマス・ロジャーズ(Thomas Rogers)を殺害する際に使用した凶器である。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第26作目に該り、彼女の作品の中でも、代表作に挙げられている。


1930年代後半の8月のこと、英国デヴォン州(Devon)の沖合いに浮かぶ兵隊島(Soldier Island)に、年齢も職業も異なる8人の男女が招かれる。彼らを島で迎えた召使と料理人の夫婦は、エリック・ノーマン・オーウェン氏とユナ・ナンシー・オーウェン夫人に自分達は雇われていると、招待客に告げる。しかし、彼らの招待客で、この島の所有者であるオーウェン夫妻は、いつまで待っても、姿を現さないままだった。


招待客が自分達の招待主や招待状の話をし始めると、皆の説明が全く噛み合なかった。その結果、招待状が虚偽のものであることが、彼らには判ってきた。招待客の不安がつのる中、晩餐会が始まるが、その最中、招待客8人と召使夫婦が過去に犯した罪を告発する謎の声が室内に響き渡る。謎の声による告発を聞いた以下の10人は戦慄する。


*ヴェラ・エリザベス・クレイソーン(Vera Elizabeth Claythorne)

秘書や家庭教師を職業とする若い女性で、家庭教師をしていた子供に無理な距離を泳がせることを許可し、その結果、その子供を溺死させたと告発された。

*フィリップ・ロンバード(Philip Lombard)

元陸軍中尉で、東アフリカにおいて先住民族から食料を奪った後、彼ら21人を見捨てて死なせたと告発された。

*エドワード・ジョージ・アームストロング(Edward George Armstrong)

医師で、酔って酩酊したまま手術を行い、患者を死なせたと告発された。

*ウィリアム・ヘンリー・ブロア(William Henry Blore)

元警部で、偽証により無実の人間に銀行強盗の罪を負わせて、死に追いやった告発された。

*ローレンス・ジョン・ウォーグレイヴ(Lawrence John Wargrave)

高名な元判事で、陪審員を誘導して、無実の被告を有罪として、死刑に処したと告発された。

*エミリー・キャロライン・ブレント(Emily Caroline Brent)

信仰心の厚い老婦人で、使用人の娘に厳しく接して、その結果、彼女を自殺させたと告発された。

*ジョン・ゴードン・マッカーサー(John Gordon MacArthur)

退役した老将軍で、妻の愛人だった部下を故意に死地へ追いやったと告発された。

*アンソニー・ジェームズ・マーストン(Anthony James Marston)

遊び好きの上、生意気な青年で、自動車事故により二人の子供を死なせたと告発された。

*トーマス・ロジャーズ

*エセル・ロジャーズ(Ethel Rogers)

仕えていた老女が発作を起こした際、彼らは必要な薬を投与しないで、老女を死なせたと告発された。


彼らを告発する謎の声は蓄音機からのもので、トーマス・ロジャーズによると、オーウェン夫妻から、最初の日、晩餐会の際に録音したメッセージを流すよう、手紙で指示を受けていたと言う。謎の声による告発を聞いて彼の妻エセル・ロジャーズが気を失ってしまうという混乱の直後、毒物が入った飲み物を飲んだアンソニー・ジェームズ・マーストンが急死するのであった。


その翌朝、エセル・ロジャーズがいつまで経っても起きて来ず、死亡しているのが発見される。残された8人は、アンソニー・ジェームズ・マーストンとエセル・ロジャーズの死に方が屋敷内に飾ってある童謡「10人の子供の兵隊」の内容に酷似していること、また、食堂のテーブルの上に置いてあった兵隊人形が10個から8個へと減っていることに気付く。それに加えて、迎えの船が兵隊島へやって来ないことが判り、残された8人は兵隊島に閉じ込められた状態になってしまう。


童謡「10人の子供の兵隊」の調べにのって、一人また一人と、残された8人が正体不明の何者かに殺害されていく。それに伴って、食堂のテーブルの上にある兵隊人形の数も減っていくのである。彼らを兵隊島へ招待したオーウェン夫妻とは一体何者なのか?オーウェン夫妻の名前を略すと、どちらも「U. N. Owen」、つまり、「UNKOWN(招正体不明の者)」となる。オーウェン夫妻が正体不明の殺人犯で、残された人の中に居るのか?それとも、屋敷内のどこか、あるいは、兵隊島のどこかに隠れ潜んでいるのだろうか?恐怖が満ちる中、また一人、残された人と兵隊人形が減っていくのであった。


アガサ・クリスティーが1939年に「そして誰もいなくなった」を発表した時点での英語の原題は「Ten Little Niggers(10人の小さな黒んぼ)」で、作品中、これは非常に重要なファクターを占める童謡を暗示している。

ただし、「Nigger」という単語がアフリカ系アメリカ人に対する差別用語だったため、米国版のタイトルは「Ten Little Indians(10人の子供のインディアン)」に改題された。それに伴い、

*島の名前: 黒人島(Nigger Island)→インディアン島(Indian Island)

*童謡名: 10人の小さな黒んぼ(Ten Little Niggers)→10人の子供のインディアン(Ten Little Indians)

*人形名: 黒人人形→インディアン人形

へと変更された。


近年、「インディアン」も差別用語と考えられているため、英米で発行されている「そして誰もいなくなった」のタイトルには、「And Then There Were None」が使用されている。「And Then There Were None」は、童謡の歌詞の最後の一文から採られている。その結果、

*島の名前: インディアン島(Indian Island)→兵隊島(Soldier Island)

*童謡名: 10人の子供のインディアン→10人の子供の兵隊(Ten Little Soldiers)

*人形名: インディアン人形→兵隊人形

へという変遷を辿っているのである。


(40)10 ♦️「フェルメールの絵画(Vermeer Portrait)」



フェルメールの絵画は、長編葬儀を終えて(After the Funeral)」(1953年)において、物語の冒頭、アバネシー家の当主であるリチャード・アバネシー(Richard Abernethie)の葬儀の席で驚くべき言葉を投げかけた末妹であるコーラ・ランスケネ(Mrs. Cora Lansquenet)が殺害されて、彼女の付き添い(コンパニオン)であるギルクリスト(Miss Gilchrist)に贈られた彼女の絵画の下に隠されていたのである。


本作品は、アガサ・クリスティーが執筆した長編としては、第44作目に該り、エルキュール・ポワロシリーズの長編のうち、第25作目に該っている。


英国の Harper Collins Publishers 社から出版されている
アガサ・クリスティー作エルキュール・ポワロシリーズ
「葬儀を終えて」のペーパーバック版の表紙

アバネシー家の当主で、富豪のリチャード・アバネシーが亡くなり、葬儀が執り行われた。その後、リチャード・アバネシーの邸宅であるエンダビーホール(Enderby Hall)に、彼の親族が一堂に会した。


*ティモシー・アバネシー(Timothy Abernethie):リチャードの弟

*ヘレン・アバネシー(Helen Abernethie):リチャードの義妹 / リチャードの亡き弟レオ(Leo)の妻

*コーラ・ランスケネ:リチャードの妹

*ジョージ・クロスフィールド(George Crossfield):リチャードの甥 / リチャードの妹ローラ(Laura)の息子

*スーザン・バンクス(Susan Banks):リチャードの姪 / リチャードの弟ゴードン(Gordon)の娘

*ロザムンド・シェーン(Rosamund Shane):リチャードの姪 / リチャードの妹ジェラルディン(Geraldine)の娘 / 女優


リチャード・アバネシーの遺産は、彼の遺言に基づき、上記の親族の間で、6等分されることになっていた。

自分の相続分を聞いた末妹のコーラ・ランスケネは、小首をかしげると、驚くべき言葉を無邪気に言い放ったのである。

「リチャードは、殺されたんでしょう?」と。


コーラは、子供の頃から、頭が少し弱く、思い付いたことを直ぐに口にする性格だったので、他の親族からは、彼女は無邪気過ぎると思われていた。

そのため、リチャード・アバネシーの葬儀の席に同席していた親族達は、コーラ・ランスケネの発言を誰も真剣には取り合わなかった。

一方で、リチャード・アバネシーの遺言執行者である弁護士のエントウイッスル氏(Mr. Entwhistle)は、コーラ・ランスケネの発言には、昔から真実が込められていたことを知っていたため、彼女の発言が非常に気に掛かった。


エントウイッスル氏の懸念通り、翌日、コーラ・ランスケネが、彼女の自宅において、斧で殺されているのが発見された。

彼女の付き添い(コンパニオン)であるギルクリストによると、亡くなる3週間程前に、リチャード・アバネシーが彼女の元を訪れて、何かを話していた、とのこと。


コーラ・ランスケネの殺害を受けて、彼女の取り分は、アバネシー家の遺産へと戻されて、スーザン・バンクスが相続することになる。

また、コーラ・ランスケネが描いた風景画は、ギルクリストに対して、贈られることになった。


アバネシー家の代理人として、今回の事件の真相を究明したいエントウイッスル氏は、エルキュール・ポワロに対して、調査を依頼するのであった。

調査に乗り出したポワロは、バークシャー州(Berkshire County)警察署のモートン警部(Inspector Morton)に協力して、捜査を進めていく。


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