2024年2月7日水曜日

S・S・ヴァン・ダイン作「僧正殺人事件」(The Bishop Murder Case by S. S. Van Dine)- その1

英国のプーシキン出版(Pushkin Press)から
2024年に刊行されている
 Pushkin Vertigo シリーズの一つである

S・S・ヴァン・ダイン作「僧正殺人事件」の表紙
(Cover design by Jo Walker)


「僧正殺人事件(The Bishop Murder Case)」は、米国の推理作家である S・S・ヴァン・ダイン(S. S. Van Dine)が1929年に発表した長編推理小説で、素人探偵であるファイロ・ヴァンス(Philo Vance)シリーズ12長編のうち、第4作目に該る。


実は、S・S・ヴァン・ダインと言うのは、ペンネームで、本名は、美術評論家のウィラード・ハンティントン・ライト(Willard Huntington Wright:1888年ー1939年)である。

1888年10月15日に米国ヴァージニア州(Commonwealth of Virginia)に生まれたウィラード・ハンティントン・ライトは、ハーヴァード大学(Harvard University)を卒業した後、美術評論家として、雑誌や新聞に寄稿していたが、生活への不安や第一次世界大戦(1914年-1918年)中の緊張等の影響で健康を害して、1923年に神経衰弱に罹り、長期の療養を余儀なくされた。

担当の医者から仕事や学問を止められたウィラード・ハンティントン・ライトは、暇つぶしに軽い小説を読み始めたが、冒険小説や恋愛小説を読む気にはなれなかったため、推理小説、特に英国の推理小説に興味を持った。自叙伝によると、彼は、2年間で、約2000冊の推理小説を読破して、体系的な研究を重ねた。その結果、彼は、「経験の浅い他の作家が成功しているのであれば、自分にもできないことはない。」と考え、退院後、推理小説を執筆し始めた。

そして、ウィラード・ハンティントン・ライトは、第1作目に該る「ベンスン殺人事件(The Benson Murder Case)」を書き上げると、1926年にチャールズ・スクリブナーズ・サンズ社(Charles Scribner’s Sons - 1846年に創業)からS・S・ヴァン・ダイン名義で出版すると、たちまち大評判を得て、自国の推理小説が低迷していた米国において、彗星の如く現れた存在となった。


こうして、S・S・ヴァン・ダインこと、ウィラード・ハンティントン・ライトは、1939年4月11日に50歳で亡くなるまでの間に、ファイロ・ヴァンスシリーズの長編12作、短編や犯罪実話を発表した。


(1)「ベンスン殺人事件」(1926年)

(2)「カナリア殺人事件(The Canary Murder Case)」(1927年)

(3)「グリーン家殺人事件(The Greene Murder Case)」(1928年)

(4)「僧正殺人事件(The Bishop Murder Case)」(1929年)

(5)「カブト虫殺人事件(The Scarab Murder Case)」(1930年)

(6)「ケンネル殺人事件(The Kennel Murder Case)」(1931年)

(7)「ドラゴン殺人事件(The Dragon Murder Case)」(1933年)

(8)「カジノ殺人事件(The Casino Murder Case)」(1934年)

(9)「ガーデン殺人事件(The Garden Murder Case)」(1935年)

(10)「誘拐殺人事件(The Kidnap Murder Case)」(1936年)

(11)「グレイシー・アレン殺人事件(The Gracie Allen Murder Case)」(1938年)

(12)「ウインター殺人事件(The Winter Murder Case)」(1939年)


英語の原題は、第11作目の「グレイシー・アレン殺人事件」を除くと、全作が「The + 6文字の英単語 + Murder Case」で統一されている。


S・S・ヴァン・ダインは、「面白い長編推理小説を執筆するのは、一作家6作が限度だ。」とコメントしていたが、彼の言葉通り、彼の全12作のうち、前期の6作の評価は高いが、後期の6作の評価はあまり芳しくない。

本作「僧正殺人事件」は、その前作の「グリーン家殺人事件」と並んで、非常に高い評価を得ている。


S・S・ヴァン・ダインの場合、米国において、現在、半ば忘れられかけた存在であるが、日本においては、明智小五郎シリーズや少年探偵団シリーズ等で有名な日本の推理作家である江戸川乱歩(1894年ー1965年)による紹介もあり、彼の人気は依然として高く、東京創元社では全作品が文庫化されて、特に「グリーン家殺人事件」と「僧正殺人事件」の2作は、版を重ねている。


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