2022年11月20日日曜日

コナン・ドイル作「這う男」<小説版>(The Creeping Man by Conan Doyle )- その3

英国で出版された「ストランドマガジン」
1923年3月号に掲載された挿絵(その4) -
プレスベリー教授の助手であるトレヴァー・ベネットの依頼に基づいて、
教授の屋敷を訪れたシャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンであったが、
話をしている間に、
教授は、途方も無い敵意を顔に浮かべて、
甲高い悲鳴のような声で叫ぶと、怒り狂ったように、両手を振った。
更に、教授は、顔を痙攣させ、歯を剥き出しにすると、
ホームズとワトスンの二人に対して、訳の分からない言葉を発した。
助手のトレヴァー・ベネットが、慌てて間に入らざるを得なかった。

1903年9月のある日曜日(→後のホームズの発言から、9月6日であることが判る)の晩、ジョン・H・ワトスンは、シャーロック・ホームズからの電報を受け取り、急いでベーカーストリート221B(221B Baker Street)へと駆け付ける。

丁度、そこへ、事件の依頼人であるトレヴァー・ベネット(Trevor Bennett)が、ホームズの元を訪れ、ホームズとワトスンの二人に対して、自分が助手を務めるプレスベリー教授(Professor Presbury)にかかる驚くべき話を始めるのであった。


プレスベリー教授(Professor Presbury)は、ケンフォード大学(Camford University)の生理学者(physiologist)で、欧州中で名声を獲得しており、醜聞の欠片もない人物だった。夫人に先立たれたプレスベリー教授は、現在、61歳で、娘のエディス(Edith Presbury)と暮らしていた。そして、教授の助手であるトレヴァー・ベネットは、教授の家に同居して、教授をサポートする一方、彼の娘であるエディスと婚約していた。


そのような静かで、学究の生活を送ってきたプレスベリー教授が、2、3ヶ月前に、同じ大学の同僚で、比較解剖学の議長を務めるモーフィー教授(Professor Morphy)の娘で、親と子程の年齢差があるアリス(Alice Morphy)と婚約下のを契機に、教授の行動におかしなことが起き始めた。

プレスベリー教授は、突然、行き先を誰にも告げないまま、2週間の間、家を空けたのである。そして、彼は、げっそりと疲れた様子で、戻って来たが、どこへ行っていたのかについては、全く言及しなかった。


プレスベリー教授が旅行から戻って来てから、彼の奇行が更に激しくなる。


・トレヴァーに対して、ロンドンから届く手紙のうち、切手の下に十字の印が付いているものは、開封しないまま、別途、そのまま保管しておくよう、指示をした。

・旅先から持ち帰った木の小箱に、トレヴァーが偶然触れだだけで、恐ろしい勢いで激怒した。(7月2日)

・教授が飼っている忠実なウルフハウンド犬のロイが、時折、教授に噛み付くようになった。(7月2日、7月11日および7月20日)

・真夜中、四つん這いではないものの、這うようにして、教授が廊下を歩いている現場を、トレヴァーは目撃した。(一昨日(9月4日)の夜)

・教授は、61歳という年齢にもかかわらず、トレヴァーが知っている限り、以前よりも若々しく、かつ、壮健になってきた。


上記のような不可解な話の数々をトレヴァーがホームズとワトスンに対してしていると、プレスベリー教授の娘で、トレヴァーの婚約者であるエディスがホームズの元を訪れて、更に驚くような話をし始めた。


彼女が、昨夜(9月5日)、屋敷の3階にある自室で眠っていた際、非常にけたたましく吠える犬の声に目を覚まして、窓の方を見ると、窓の外に父親であるプレスベリー教授が居て、窓ガラスに顔を押し付け、そして、片手を上げ、窓を押し上げようとしているように見えた。

屋敷の庭に、長い梯子等はないため、誰であっても、3階にある彼女の部屋の窓まで登ることは不可能だった。

驚きと恐怖でほとんど死にそうになった彼女は、窓の外をそれ以上見ることができず、朝が明けるまで、寒気に震えていた。


そして、彼女は、ロンドンへ出る口実をつくると、大急ぎでここまでやって来た、と言うのであった。


トレヴァー・ベネットとエディス・プレスベリーからの話を聞いたホームズは、翌日の月曜日(9月7日)の朝、ワトスンを伴い、ケンフォードへと向かい、「チェッカーズ(Chequers)」という宿に旅行鞄を預けると、プレスベリー教授の調査を開始する。

ホームズとワトスンは、午前11時の講義が終わって、屋敷で休憩するプレスベリー教授を訪問した。「私は、別の人物を通じて、ケンフォード大学のプレスベリー教授が、私の手助けを必要としていると伺いました。(I heard through a second person that Professor Presbury of Camford had need of my services.)」と語るホームズに対して、教授は、途方も無い敵意を顔に浮かべて、甲高い悲鳴のような声で叫び、怒り狂ったように、両手を振った。更に、教授は、顔を痙攣させ、歯を剥き出しにすると、後先を考えない怒りの下、ホームズとワトスンの二人に対して、訳の分からない言葉を発した。助手のトレヴァー・ベネットが間に入らなければ、一騒動が起きるところだった。


プレスベリー教授の屋敷から退散したホームズ達であったが、ホームズは、教授の奇行が激しくなる日付から、9日間毎に、教授が何か非常に強い薬物を摂取していると推理する。更に、教授の指関節、ウルフハウンド犬のロイ、そして、屋敷の壁の蔦から、この謎を解明するのであった。


本作品「這う男」は、非常に怪奇色が強い物語で、プレスベリー教授の奇行は、エディンバラ(Edinburgh)生まれの英国の小説家、詩人で、かつ、エッセイストであるロバート・ルイス・スティーヴンスン(Robert Louis Stevenson:1850年ー1894年)作「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件(The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde)」(1886年)を彷彿とさせる。


ホームズが解き明かした事件の真相については、現代の医学 / 科学の観点からすると、首を捻らざるを得ない部分があるが、ジキル博士とハイド氏、吸血鬼ドラキュラ、フランケンシュタイン、宇宙戦争、タイムマシンや透明人間等の傑作が相次いで、小説のジャンルの境目が明確でなかったヴィクトリア朝時代を生きたホームズシリーズの作者であるサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sire Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の空想性が生んだ一編と見る他はないと言える。


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