2022年11月5日土曜日

島田荘司作「新しい十五匹のネズミのフライ ジョン・H・ワトソンの冒険」(’New 15 Fried Rats The Adventures of John H. Watson’ by Soji Shimada)- その3

日本の新潮社から2015年に出版された
島田荘司作「新しい十五匹のネズミのフライ ジョン・H・ワトスンの冒険」
(ハードカバー版)の本体扉絵
(装幀:新潮社装幀室)


<第一章 インドからの帰還、そして出逢い>


セントバーソロミュー病院(St. Bartholomew’s Hospital → 2014年6月8日付ブログで紹介済)外科手術助手(dresser)だったスタンフォード(Stamford)青年との再会を通し、セントバーソロミュー病院において、ジョン・H・ワトスンは、シャーロック・ホームズと知り合い、ベーカーストリート221B(221B Baker Street)での共同生活に繋がっていく。そして、ワトスンは、ホームズが「緋色の研究(A Study in Scarlet → 2016年7月30日付ブログで紹介済)」事件と「ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)」事件の2つを鮮やかに解決するのを見届けるのであった。


興味を惹かれる事件が無くなってしまったホームズは、ワトスンの目の前で、モロッコ革のケースから皮下注射器を取り出し、左手のシャツの袖口を捲り上げて、モルヒネやコカインが入った注射器を突き刺す場面を、日に三度も見かけるようになる。

ホームズの身を案じるワトスンに対して、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の原作「四つの署名(The Sign of the Four → 2017年8月12日付ブログで紹介済)」通り、ワトスンが、今朝、ウィグモアストリート(Wigmore Street → 2017年8月19日付ブログで紹介済)の郵便局へ行って、電報を打ったことを、観察力と推理力から開示する。


驚くワトスンだったが、ホームズは、ワトスンが持っている時計から、元の持主の個性や習慣等の見解を述べて、更に、彼を驚かせることになる。

コナン・ドイルの原作の場合、時計は、亡くなった父親からワトスンが直接受け取ったことになっているが、島田荘司氏の作品では、時計は、早逝した兄のヘンリー経由、亡くなった父親からワトスンが受け取った設定へと変更されている。

ここで、ワトスンには、亡くなった兄のヘンリーの妻だったヴァイオレット・ブラックウェルが居て、兄の死後、実家のダートムーア(Dartmoor)へと戻っていること、また、ワトスンは、ヴァイオレットが兄のフィアンセだった頃から、彼女に対して、思慕を抱いていることが、ワトスンの独白で明らかにされる。


そして、その場に、ロンドンの経済活動の中心地であるシティー(City → 2018年8月4日 / 8月11日付ブログで紹介済)近くにあるザクセンーコーブルクスクエア(Saxe-Coburg Square → 2016年1月1日付ブログで紹介済)において、質屋(pawnbroker)を営む燃えるような赤毛の初老の男性ジェイベス・ウィルスン(Jabez Wilson)が、いよいよ登場する。


<第二章 赤毛組合>


第二章は、全体で約40ページ程であるが、基本的には、コナン・ドイルの原作「赤毛組合(The Red-Headed League → 2022年9月25日 / 10月9日 / 10月11日 / 10月16日付ブログで紹介済)」通りに、物語が進行する。


コナン・ドイルの原作と島田荘司氏の作品の差異は、以下の通り。


(1)

コナン・ドイルの原作の場合、赤毛組合の解散日は、「1890年10月9日(The Red-Headed League is Dissolved  9 October 1890)」となっているが、島田荘司氏の作品の場合、何故か、「10月10日」とされている。

前回も述べたように、コナン・ドイルの原作の場合、「緋色の研究」事件、「ボヘミアの醜聞」事件や「赤毛組合」事件の発生年月については、必ずしも、発表順通りではないが、島田荘司氏の作品の場合、コナン・ドイルによる発表順に、各事件が発生している設定を採っている関係上、事件発生年を明確にしたくないのであろうが、何故、事件発生月日を、原作の「10月9日」から「10月10日」へと、あえて変更したのだろうか?


(2)

コナン・ドイルの原作の場合、City and Suburban Bank の地下金庫室内へ潜入してくる人物は、コナン・ドイルの原作の場合、ヴィンセント・スポールディング(Vincent Spaulding)こと、ジョン・クレイ(John Clay)と彼の相棒であるアーチー(Archie)の二人であるが、島田荘司氏の作品の場合、ジョン・クレイと、ペシャワールの兵站病院において、ワトスンが出会ったことがある古参兵のサディアス・ショルトー(Thaddeus Sholto)の二人に変更されている。

なお、サディアス・ショルトーは、コナン・ドイルの原作「四つの署名」に登場する人物である。


<第三章 狂った探偵>


「赤毛組合」事件が解決して、また、興味を持てる事件が無くなってしまったホームズは、再度、麻薬を皮下注射する悪癖に溺れていく。

そして、事件解決後の二日目の深夜、遂に薬物中毒になってしまったホームズが、居間の中で暴れ始めて、家具や実験器具等を粉々にするとともに、暖炉の石炭をペルシャ絨毯の上にばら撒いて、火をつける。

止めに入ったワトスンは、ホームズとの大格闘の末、彼をなんとか取り押さえることに成功したが、左足の太ももに、ガラス片が深々と突き刺さり、大怪我を負ってしまう。また、家主のハドスン夫人も、怪我を負った。

大怪我を負ったワトスンは、ロンドンの軍病院に収容されて、1ヶ月間、ベッドから動くことができなかった。

一方、薬物中毒になったホームズは、コンウォール州(Cornwall)ランズエンド( Land’s End)にあるモーティーマー・トリジェニス精神病院へと送られてしまった。


ホームズが送られたコンウォール州の精神病院名である「モーティーマー・トリジェニス」は、コナン・ドイルの原作「バスカヴィル家の犬(The Hound of the Baskervilles)」に登場するジェイムズ・モーティーマー医師(Dr. James Mortimer)に因んでいるのではないかと思う。

なお、モーティーマー・トリジェニス医師は、精神病医で、コンウォール州ランズエンドに住んでいるが、ジェイムズ・モーティーマー医師は、外科医(surgeon)で、デヴォン州(Devon)のダートムーア(Dartmoor)内にあるグリンペン(Grimpen)に住んでいるという違いがある。 


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