2022年5月19日木曜日

ソフィー・ハナ作「3 / 4 の謎」(The Mystery of Three Quarters by Sophie Hannah) - その3

英国の HarperCollinsPublishers 社から2018年に出版された
ソフィー・ハナ作「3 / 4 の謎」の
カバーを外した本体の表紙(ハードカバー版)
      Jacket Design : Holly Macdonald / HarperCollinsPublisher Ltd
       Jacket Illustration : Shutterstock.com


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆(3.0)


エルキュール・ポワロの名前を騙って、「バルナバス・パンディー(Barnabas Pandy)なる人物を殺害した。」と糾弾する謎の手紙が、以下の4人宛に送りつけられる。


・シルヴィア・ルール(Sylvia Rule)

・ジョン・マックローデン(John McCrodden)

・アナベル・トレッドウェイ(Annabel Treadway)

・ヒューゴ・ドッカーリル(Hugo Dockerill)


当初、謎の手紙を送りつけられた4人のうち、バルナバス・パンディーの孫娘の一人であるアナベル・トレッドウェイを除くと、誰もバルナバス・パンディーとは何の関係もないように思われたが、ポワロが捜査を進めていくに従って、シルヴィア・ルールとヒューゴ・ドッカーリルの2人については、バルナバス・パンディーとの繋がりが見えてくる。しかしながら、ジョン・マックローデンに関しては、バルナバス・パンディーとの繋がりが全く見えてこない。

関係者4人のうち、3人だけが、何らかの形で、バルナバス・パンディーと繋がっているようであるが、残りの1人だけは無関係のように見える「3 / 4」という謎に、今回、ポワロが挑む訳であるが、シルヴィア・ルールとヒューゴ・ドッカーリルについては、正直ベース、バルナバス・パンディーとの繋がりはかなり希薄な上、ジョン・マックローデンに関しては、地の文章だけから、バルナバス・パンディーとの繋がりを推理することは、非常に無理があり、フェアとは言えない。

シルヴィア・ルールとヒューゴ・ドッカーリルについて、バルナバス・パンディーとの繋がりがは希薄なことは、部分的に、謎の糾弾者の意図に合致するところもあるが、謎の糾弾者として、ジョン・マックローデン宛に手紙を送りつけて、本件に無理に関与させる必要性 / 必然性があったのか、疑問である。作者として、物語の最後で、謎の糾弾者とジョン・マックローデンの繋がりを明らかにして、物語に幅を持たせるというか、余韻を感じさせたかったのかもしれないが、あまり効果的ではなかったように思われる。


(2)物語の展開について ☆☆半(2.5)


物語は、全体で約400ページ近くあるが、バルナバス・パンディーの死が事故死なのか、それとも、殺人なのかがハッキリしないまま、300ページを過ぎる辺りまで、ポワロによる関係者への地道な捜査が続く。事件や背景の設定はそれなりではあるものの、物語の 3 / 4 以上が過ぎるまで、大した進展がないままであり、正直ベース、読んでいて、かなり辛い。

320ページ弱辺りで、アナベルや彼女の姉であるレノーレ(Lenore)等が住む屋敷(Combingham Hall)内に関係者が集められた際、執事のキングスベリー(Kingsbury)が何者かに殺害されるという事件が発生する。そして、そこから、バルナバス・パンディーの件も含めて、ポワロによって、事件が一気に解決の方向へと進むが、かなり駆け足の展開の上、ポワロによって明らかにされる真相について、地の文章だけからでは、推理できない推測の部分もかなりあり、あまり評価できないし、前作もそうだったが、物語の流れの配分について、再考願いたい。


(3)ポワロ / キャッチプール警部の活躍について ☆☆☆(3.0)


作者ソフィー・ハナ(Sophie Hannah:1971年ー)による第1作目「モノグラム殺人事件(The Monogram Murders → 2021年12月11日 / 12月18日 / 12月26日付ブログで紹介済)」(2014年)と第2作目「閉じられた棺(ひつぎ)(Closed Casket → 2022年1月1日 / 1月8日 / 1月15日付ブログで紹介済)」(2016年)の場合、ポワロの若き友人であるスコットランドヤードのエドワード・キャッチプール警部(Inspector Edward Catchpool)が物語の記述者になっているが、第3作目に該る「3 / 4 の謎(The Mystery of Three Quarters)」(2018年)の場合、昨年(1929年)の12月7日の夜に発生したバルナバス・パンディーの死について、浴室での溺死(=事故死)と公式に処理されている関係上、警察関係者が本件の捜査を行うことは難しく、キャッチプール警部の出番は非常に少ない。

また、バルナバス・パンディーの死が事故死なのか、それとも、謎の手紙が言及しているように殺人なのかがハッキリしない中、関係者の口が重い上、やや非協力的なこともあって、なかなか真相が見えてこない。民間の探偵というポジション上、仕方がないことではあるものの、ポワロによる推理の冴えは、あまり際立っているとは言えない。


(4)総合評価 ☆☆☆(3.0)


事件や背景の設定はそれなりではあるものの、物語の 3 / 4 以上が過ぎるまで、大した進展がないまま進むが、執事のキングスベリー(Kingsbury)が何者かに殺害されるという事件が発生した後、そこから、バルナバス・パンディーの件も含めて、ポワロによって、事件が一気に解決の方向へと進む。ただし、かなり駆け足の展開の上、ポワロによって明らかにされる真相について、地の文章だけからでは、推理できない推測の部分もかなりあり、あまり評価できないし、前作もそうだったが、物語の流れについて、もっと適正に配分願いたい。なお、前作に比べると、物語の最後に、それなりの重みというか、余韻を残しているので、前作よりも、少しだけ良い評価にして見た。

コナン・ドイル以外の作者がシャーロック・ホームズを主人公に使った場合、どれもそれなりにホームズに見えるのであるが、ポワロの場合、ホームズよりも非常に特殊なキャラクターであるためか、アガサ・クリスティー以外の尺者がポワロを主人公に使っても、残念ながら、どうしてもポワロには見えてこないという部分がある。そういった意味では、やはり、物語全体を通して、「ポワロ度」が足りないのであろう。そう考えると、アガサ・クリスティーの文章は、簡潔で、かつ、非常に吟味されていて、うまかったと思う。



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