2025年9月23日火曜日

コナン・ドイル作「花婿失踪事件」<小説版>(A Case of Identity by Conan Doyle )- その5

1891年9月号に掲載された挿絵(その6) -
ベイカーストリート 221B を訪れたジェイムズ・ウィンディバンクから
「義理の娘メアリーを騙した男を捕まえられるのであれば、捕まえて下さい。」と言われた
シャーロック・ホームズは、部屋のドアに近寄り、鍵をかけると、
「彼を捕まえました。」と宣言した。
それを聞いたジェイムズ・ウィンディバンクは、
罠にかかったネズミのように、辺りを見回したのである。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット
(Sidney Edward Paget:1860年 - 1908年)

サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)作シャーロック・ホームズシリーズの短編第3作目に該る「花婿失踪事件(A Case of Identity)」において、シャーロック・ホームズが見破った真相は、以下の通り。


<事件の真相>


残念ながら、セントサヴィオール教会は実在しておらず、
セントパンクラス オールド教会(St. Pancras Old Church)が、その候補地と思われる。
<筆者撮影>


事件の依頼人であるメアリー・サザーランド(Mary Sutherland)の婚約者で、キングスクロスの近くにあるセントサヴィオール教会(St. Saviour's (Church) near King's Cross 2014年10月11日付ブログで紹介済)で挙げる結婚式の場から行方不明になったホズマー・エンジェル(Hosmer Angel)と彼女の母親の再婚相手であるジェイムズ・ウィンディバンク(James Windibank - メアリー・サザーランドの母親よりも15歳近く年下)は、同一人物だった。



ロンバードストリート(Lombard Street
→ 2015年1月31日付ブログで紹介済)から
フェンチャーチストリートを望む。
<筆者撮影>


フェンチャーチストリート(Fenchurch Street → 2014年10月17日付ブログで紹介済)にある大きな赤ワイン輸入業者ウェストハウス&マーバンクで外交員をしているジェイムズ・ウィンディバンクは、メアリー・サザーランドの母親と金目当てで結婚。

メアリー・サザーランドは、タイピストとして、それなりの収入を得ている他に、オークランド(Auckland)のネッド伯父(Uncle Ned)が遺してくれたニュージーランド公債(New Zealand stock)から、年に100ポンドの利子をもらっていた。メアリー・サザーランドは、母親とその再婚相手であるジェイムズ・ウィンディバンクと一緒に暮らしている間、この利子収入を彼らに渡していた。

メアリー・サザーランド自身、既に年頃で、いつまでも独身で居られる筈もなかったが、彼女が結婚した場合、ジェイムズ・ウィンディバンクにとって、年100ポンドの収入を失うことを意味しており、楽しく暮らすための財源を維持する必要があった。


当初、ジェイムズ・ウィンディバンクは、メアリー・サザーランドを家に閉じ込めて、同年代の男性との交際を禁じようとしたが、長い間通用する訳がなかった。

メアリー・サザーランドの母親の黙認と助力の下、ジェイムズ・ウィンディバンクは、ホズマー・エンジェルに変装して、メアリー・サザーランドと知り合い、彼女に対して愛を誓うことで、他の男性を遠ざけようとした。更に、メアリー・サザーランドと婚約することで、彼女が他の男性に心を奪われないと言う目的も達成。

最後のとどめとして、劇的な方法でこの出来事を終わらせる(=結婚式の場から突然行方不明になる)ことで、メアリー・サザーランドの心にホズマー・エンジェルと言う存在を永遠に残し、将来現れる可能性がある別の求婚者に対して、彼女が目を向けることを阻止しようとしたのである。


1891年9月号に掲載された挿絵(その7) -
部屋のドアに鍵をかけたことは、監禁と脅迫に該る。」と言う
ジェイムズ・ウィンディバンクの訴えを聞いた
シャーロック・ホームズは、鍵を外すと、ドアを開けた。
法律では罰することができないジェイムズ・ウィンディバンクを
狩猟用鞭で打ち据えようとして、
ホームズが鞭に向かって、素早く二歩歩み寄った。
その隙に乗じて、ジェイムズ・ウィンディバンクは、
開いたドアから脱兎の如く走り出ると、
全速力で通りを逃げて行ったのである。


<疑問点>


ジェイムズ・ウィンディバンクは、ホズマー・エンジェルに変装するに際して、鋭い目を色付き眼鏡で隠し、もじゃもじゃの揉み上げと口髭で顔を覆った。また、彼は、はっきり通る声を囁き声に弱めている。更に、ジェイムズ・ウィンディバンクは、ホズマー・エンジェルとして、メアリー・サザーランドと一緒に外へ出かけるのに、昼間よりも夜を選んだ。

上記の通り、ジェイムズ・ウィンディバンクとしては、ホズマー・エンジェルと言う存在が変装であることがばれないよう、かなりの努力と注意を払ってはいる。


一方、メアリー・サザーランドは、タイピストと言うヴィクトリア朝時代における最新の職業に就き、職業婦人ながら、お洒落を楽しむ余裕もある人物。

いくら、メアリー・サザーランドがかなりの「近視」な上に、彼女がホズマー・エンジェルに会うのが、昼間よりも夜間が多かったとは言え、婚約に至る関係までなっている訳で、ホズマー・エンジェルがいつも同じ家に同居している義理の父ジェイムズ・ウィンディバンクによる変装であることに全く気付かないのは、非常に考え難い。


それにもかかわらず、ホズマー・エンジェルが義理の父ジェイムズ・ウィンディバンクによる変装であることを見抜けないメアリー・サザーランドは、あまりにも騙されやすく、不注意な女性であると言わざるを得ない。


あるいは、コナン・ドイルの原作自体、現実味が薄いとも言える。


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