2023年12月19日火曜日

コナン・ドイル作「まだらの紐」<グラフィックノベル版>(The Speckled Band by Conan Doyle )- その10

米国の作家である Mr. Murray Shaw / Ms. M. J. Cosson が構成を、そして、フランスのイラストレーターである Ms. Sophie Rohrbach がイラストを担当したグラフィックノベル版「まだらの紐(The Speckled Band)」の場合、サー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の原作に比べると、物語の展開上、以下の違いが見受けられる。


(22)

<原作>

原作の場合、ヘレン・ストーナー(Helen Stoner)が現在使用している部屋(=双子の姉ジュリア・ストーナー(Julia Stoner)が使用していた部屋)に入り、寝ずの番を続けるシャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの2人。

午前3時になると、突如、換気口の方、つまり、グリムズビー・ロイロット博士(Dr. Grimesby Roylott)の部屋に、微かな光が一瞬煌めいたが、直ぐに消えてしまった。続いて、燃える油と焼ける金属の臭いが漂ってきた。それに、人が動く気配も。

静寂の中、更に待つこと、30分。

沸騰するヤカンから蒸気が噴出するような、非常に微かな音が聞こえてきた。その瞬間、ベッドの端に腰掛けていたホームズが、ベッドから飛び起きると、マッチを擦った。そして、持っていた杖で、ベッドの横に垂れ下がっている呼び鈴用の太いロープを激しく打ち据える。(The instant that we heard it, Holmes sprang from the bed, struck a match and lashed furiously with his cane at the bell-pull.)


英国で出版された「ストランドマガジン」
1892年2月号に掲載された挿絵 -

シャーロック・ホームズは、持っていた杖で、
ベッドの横に垂れ下がっている呼び鈴用の太いロープを激しく打ち据えた。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット
(Sidney Edward Paget:1860年 - 1908年)


<グラフィックノベル版>

グラフィックノベル版の場合、文章では、原作と同様に、「The minute we heard it, Holmes struck a match and lashed savagely at the bell pull with his cane.」と記述されているが、絵的には、残念ながら、ホームズが杖で激しく打ち据えているようには見えない。




グラフィックノベル版の場合、
文章では、シャーロック・ホームズが、持っていた杖で、
ベッドの横に垂れ下がっている呼び鈴用の太いロープを激しく打ち据えたと言う表現になっているが、
絵的には、残念ながら、そのようにはあまり見えない。

(23)

<原作>

原作の場合、シャーロック・ホームズが換気口を見上げていると、グリムズビー・ロイロット博士の部屋から、非常に恐ろしい叫び声が上がった。

ホームズは、ジョン・H・ワトスンを伴って、グリムズビー・ロイロット博士の部屋へと向かった。

<グラフィックノベル版>

グラフィックノベル版の場合、ホームズは、ワトスンに加えて、元々の自分の部屋に戻っていたヘレン・ストーナーも同行させている。


原作の場合、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンの2人だけで、
グリムズビー・ロイロット博士の部屋の様子を見に行っているが、
グラフィックノベル版の場合、ホームズとワトスンは、
ヘレン・ストーナーも同行させている。

(24)

<原作>

原作の場合、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンがグリムズビー・ロイロット博士の部屋に入ると、テーブル脇の椅子に座っていた彼は、既に死んでいた。グリムズビー・ロイロット博士は、長い灰色のガウンを着て、足先には、赤いトルコスリッパ(踵なし)を履いていた。(Beside this table, on the wooden chair, sat Dr Grimesby Roylott clad in a long grey dressing-gown, his bare ankles protruding beneath and his feet thrust into red heel-less Turkish slippers.)


英国で出版された「ストランドマガジン」
1892年2月号に掲載された挿絵 -

シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンが、
グリムズビー・ロイロット博士の部屋に入ると、
彼は沼マムシに噛まれて、既に死んでいた。
グリムズビー・ロイロット博士は、
長いガウンを着ているが、灰色かどうかは、白黒の挿絵のため、不明。
また、スリッパを履いているが、赤色かどうかは、
白黒の挿絵のため、同じく不明。
挿絵:シドニー・エドワード・パジェット
(1860年 - 1908年)


<グラフィックノベル版>

グラフィックノベル版の場合、グリムズビー・ロイロット博士は、原作とは異なり、長い灰色のガウンを着ておらず、寝間着だけの姿である。また、赤いトルコスリッパ(踵なし)ではなく、つま先から踵まである黒いスリッパを履いている。


原作の場合、部屋で死んでいたグリムズビー・ロイロット博士は、
長い灰色のガウンを羽織り、足には赤いトルコスリッパ(踵なし)を履いていたと記述されているが、
グラフィックノベル版の場合、グリムズビー・ロイロット博士は、
ガウンを羽織っておらず、また、つま先から踵まである黒いスリッパを履いている。

(25)

<原作>

原作の場合、事件の真相については、翌日、レザーヘッド駅(Leatherhead Station)経由、ストークモラン村(Stoke Moran)からロンドンへと戻る帰路に、ジョン・H・ワトスンは、シャーロック・ホームズから説明を受けている。(The little which I had yet to learn of the case was told me by Sherlock Holmes as we travelled back next day.)

<グラフィックノベル版>

グラフィックノベル版の場合、グリムズビー・ロイロット博士の部屋において、彼の死体を発見したホームズは、沼マムシ(swamp adder)を金庫に閉じ込めた後、ワトスンに対して、事件の真相を説明している。


原作の場合、翌日の帰路に、
シャーロック・ホームズは、ジョン・H・ワトスンに対して、
事件の真相を説明しているが、
グラフィックノベル版の場合、
グリムズビー・ロイロット博士の部屋で
彼の死体を発見した後に、
ホームズは、ワトスンへの説明を行なっている。

(26)

<原作>

原作の場合、グリムズビー・ロイロット博士の部屋において、彼の死体が発見された後の出来事は、時系列的には、以下の通り。

*朝の列車で、ヘレン・ストーナーをロンドンの北西部にあるハーロウ(Harrow)の叔母ホノリア・ウェストファイル(Honoria Westphail)の元へ送り届ける。もしかすると、シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスンのいずれか(ワトスンの可能性が高い)だけが、ハーロウへ同行したことはありえる。

*地元警察に対して、事件の報告を行う。もしかすると、ホームズとワトスンのいずれか(ホームズの可能性が高い)だけが、地元警察の対応を行ったことはありえる。

*ホームズとワトスンは、ストークモラン村で合流。

*2人は、レザーヘッド駅経由、ロンドンへの帰途へとつく。その際、ホームズは、ワトスンに対して、事件の真相を説明している。

*地元警察は、グリムズビー・ロイロット博士の死因について、彼が危険なペットを不用意に扱っている最中、死に至ったと言う結論で決着。

<グラフィックノベル版>

グラフィックノベル版の場合、グリムズビー・ロイロット博士の部屋において、彼の死体が発見された後の出来事は、時系列的には、以下の通り。

*グリムズビー・ロイロット博士の部屋において、ホームズは、ワトスンに対して、事件の真相を説明している(絵で描かれている)。

*ホームズとワトスンの2人で、ヘレン・ストーナーをハーロウの叔母の元へ送り届ける(文章で処理されている)。

*ヘレン・ストーナーは、婚約者であるパーシー・アーミテージ(Percy Armitage)と無事結婚する(文章で処理されている → 原作上、言及されていない)。

*地元警察は、グリムズビー・ロイロット博士の死因について、正式な捜査を行った結果、彼が危険なペットを不用意に扱っていて、死に至ったと言う結論を下した(文章で処理されている)。


グラフィックノベル版の場合、文章だけではあるものの、
ヘレン・ストーナーが婚約者であるパーシー・アーミテージと無事結婚したことを述べている。

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