2022年4月30日土曜日

ボニー・マクバード作「シャーロック・ホームズの冒険 / 芸術家の血」(A Sherlock Holmes Adventure / Art in the Blood by Bonnie MacBird) - その3

株式会社ハーパーコリンズ・ジャパンから
2016年に出版されている文庫版
「シャーロック・ホームズの事件録 芸術家の血」の表紙
   表紙イラスト: 竹中
    ブックデザイン: albireo
→ 出版社としては、日本国内で本が売れることを狙って、
英国の BBC ドラマ「シャーロック(Sherlock)」のノベライズ本のような
表紙イラストにしているのかもしれないが、
個人的には、英国のオリジナル版のように、
オーソドックスなホームズのブックデザインで進めて欲しかった。  


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆半(2.5)


パリのナイトクラブの花形シャンソン歌手エムリーヌ・ラ・ヴィクトワール(Emmeline La Victoire)の息子であるエミール(Emil)の失踪事件と「マルセイユのニケ(Marseilles Nike)」像の盗難事件の2つを軸にして、物語が進が、舞台がパリから英国のペリンガム伯爵(Earl of Pellingham)の地所へ移ってから、更に、殺人事件が2件発生する。ページ数の割には、話を詰め込み過ぎのきらいがある。最終的には、失踪事件と盗難事件よりも、殺人事件の方が物語のメインになってしまい、当初の主題だった2つの話があっさりと処理されてしまい、やや拍子抜けの感じを否めない。


(2)物語の展開について ☆☆半(2.5)


前半の舞台はパリで、後半はペリンガム伯爵の地所へと舞台を移し、物語は割合とテンポ良くは進む。

前半にフランス人探偵のジャン・ヴィドック(Jean Vidocq)が登場するので、物語の後半、エミールの失踪事件と「マルセイユのニケ」像の盗難事件をめぐって、シャーロック・ホームズとヴィドックの戦いがあるものと予想したが、物語の後半になると、ホームズとジョン・H・ワトスンの2人を除く登場人物がほぼ入れ替わってしまい、ヴィドックが登場する場面はほとんどなく、予想したホームズとヴィドックの戦いも、当然のことながら、全くない。

物語の前半におけるメインとなるエムリーヌ・ラ・ヴィクトワールを含め、物語の前半の登場人物を、後半部分において、うまく生かし切れていない。


(3)ホームズ / ワトスンの活躍について ☆半(1.5)


本作品では、ホームズが打つ手は全て後手後手にまわり、彼が後悔する通り、最悪の結果ばかりを招く。

また、ホームズの不手際も多く、物語の後半、ホームズがある人物に変装して、ワトスンと一緒に、ペリンガム伯爵の屋敷へ潜入することに成功するものの、朝食に発生したあることを通して、屋敷の人達、それも執事に、変装を簡単に見破られてしまうという失態を演じている。

物語全体を通じて、ホームズによる推理の冴えもほとんど見られず、名探偵として、目立った活躍を全くできていない。


(4)総合評価 ☆☆半(2.5)


基本的には、限られた物語の分量(約300ページ)の中に、作者(ボニー・マクバード(Bonnie MacBird))が、自分が書きたいことというか、事件を詰め込み過ぎている上に、物語の前半と後半で登場人物がほぼ入れ替わってしまい、後半において、前半の登場人物をうまく生かしきれていないという難点がある。

当初、話の軸だった2つの事件(失踪事件+盗難事件)に特化して、物語を進めた方が、もっとスッキリした内容になったのではないかと思う。

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