2022年4月6日水曜日

アラン・メルヴィル作「アントンの死」(Death of Anton by Alan Melville)

大英図書館(British Library)から2015年に出版された
アラン・メルヴィル作「アントンの死」の表紙
(Front cover illustration : Mr. Chris Andrews)


「アントンの死(Death of Anton)」は、英国の推理作家で、プロデューサー、劇作家や脚本家でもあったアラン・メルヴィル(Alan Merville:1910年-1983年)が、1936年に発表した推理小説である。

アラン・メルヴィル(本名:ウィリアム・メルヴィル・カヴァーヒル(William Merville Caverhile))は、イングランド北部のノーサンバーランド州(Northumberland)内を流れるツイード川(River Tweed)の河口に位置するベリック・アポン・ツイード(Berwick-upon-Tweed)に出生。

学校を出た後、彼は家族が経営する材木会社に入るが、仕事が合わなかったため、独立するべく、自宅を出ると、ベリック・アポン・ツイード内のホテルに居を構えた。そして、彼は、材木会社で勤務する一方、夜間、タイプライターを使って、小説を書き続けた。

まもなく、子供向けの短編が BBC によって採用され、その後、詩や小説等も続き、1934年に発表した「スラックリーでの週末(Weekend at Thrackley → 2022年2月20日付ブログで紹介済)」(1934年)が商業的な成功を収めたので、彼は、材木会社を辞めて、作家業に専念することになった。


大英図書館から2015年に出版された
アラン・メルヴィル作「アントンの死」の裏表紙


ジョーゼフ・キャリー(Joseph Carey)が団長を務めるキャリーサーカス団(Carey’s Circus)では、7匹のベンガル虎(Bengal Tiger)とそれらの調教師であるアントン(Anton)が花形で、断トツの人気を誇っていた。

ところが、ある朝、ベンガル虎の檻の中で、アントンが死んでいるのが見つかった。当初、ベンガル虎の檻の中に入ったアントンが、何かの手違いがあって、ベンガル虎に襲われたのではないかと思われた。

念の為、スコットランドヤードのミント警部(Detective-Inspector Minto)が派遣され、現場検証が行われる。


ミント警部による現場検証の結果、アントンは、ベンガル虎に襲われたのではなく、拳銃で殺害されたことが判明する。犯人は、拳銃でアントンを殺害した後、アントンの死体をベンガル虎の檻の中に入れたのである。犯人は、ベンガル虎がアントンの死体を食べてしまうことを期待して、殺人の証拠隠滅を図ろうとしていた訳だが、犯人の期待に反して、ベンガル虎とアントンの絆は強く、そうはならなかったのだ。


早速、ミント警部は、サーカス団のメンバーのことを調べ始めるものの、残念ながら、誰もが、疑惑の域を出なかった。


(1)ジョーゼフ・キャリー: 団長 / 何かを隠しているように思われる。

(2)ドードー(Dodo): 道化役者 / 彼の衣裳には、動物の爪のようなもので引っ掻かれた跡があった。

(3)ロリマー(Lorimer): ブランコ乗り / 同じブランコ乗りで、浮気癖のある妻ロレッタ(Loretta)に激しい嫉妬を抱いていた。

(4)ミラー(Miller): 調教師 / アントンが亡くなった後、彼の後任に抜擢された。


ミント警部としては、檻の中に居た7匹のベンガル虎は、アントンを殺害した犯人を知っているに違いないと確信するとともに、アントンの仇を取るべく、真犯人の逮捕を誓うのであった。


英国の探偵小説における「黄金時代(Golden Age)」(第一次世界大戦と第二次世界大戦の間)に発表された作品の中で、本作品は、サーカス団を舞台にしており、非常に珍しい設定となっている。


作者のアラン・メルヴィルは、劇作家や脚本家でもあったので、とても読みやすいが、物語の結末まで、あまり大きな波乱もないまま、進んでしまうのが、残念なところである。

また、犯人の動機についても、通常の刑事ドラマにおいて取り扱われるようなもので、本格探偵小説のファンとしては、今一つと言った感じである。


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