2022年3月27日日曜日

イーデン・フィルポッツ作「灰色の部屋」(The Grey Room by Eden Phillpotts) - その2

東京創元社から、創元推理文庫として出版されている
イーデン・フィルポッツ作「灰色の部屋」(旧カバー版)の表紙
       カバーイラスト: 日下 弘 氏


主にデヴォン州(Devon)を舞台にした田園小説、戯曲や詩作で既に名を成した英国の作家であるイーデン・ヘンリー・フィルポッツ(Eden Henry Phillpotts:1862年ー1960年 → 2022年2月6日 / 2月13日付ブログで紹介済)が1921年に発表した最初の推理小説である「灰色の部屋(The Grey Room)」は、5代目準男爵ウォルター・レノックス卿が所有するチャドランズ屋敷には、「灰色の部屋」と呼ばれる曰くつきの閉ざされた部屋があり、過去に、その部屋で、二人の人間が不可解な死を遂げていたところから、その物語が始まる。


チャドランズ屋敷において、狩猟パーティーが行われ、男性8人と女性3人の一行が参加していた。その夜、狩猟パーティーの一行がビリヤード室へと移動し、大きな暖炉を囲んでいる際、一行の求めに応じて、5代目準男爵ウォルター・レノックス卿は、やむを得ず、、灰色の部屋にかかる話を皆に語る。

5代目準男爵ウォルター・レノックス卿の話を聞いた2人の人物、彼のひとり娘であるメアリの夫であるトーマス・メイ(海軍大佐)とウォルター・レノックス卿の甥であるヘンリー・レノックスが、灰色の部屋の謎に挑戦するべく、その部屋で一夜を過ごそうと思い立った。

予想通り、ウォルター・レノックス卿は、灰色の部屋で一夜を過ごすことを固く禁じたため、トーマス・メイとヘンリー・レノックスとしては、ウォルター・レノックス卿に内緒で事を運ぶしかなかった。銅貨投げの結果、勝ったトーマス・メイが、一人で灰色の部屋に挑戦することになった。銅貨投げに負けたヘンリー・レノックスは、トーマス・メイのことが心配になり、灰色の部屋で一夜を過ごすことを止めるよう、何度も諌めたが、トーマス・メイの決心は頑なであった。トーマス・メイの頑な態度のため、説得を諦めたヘンリー・レノックスは、トーマス・メイ一人を灰色の部屋に残したまま、自室へと引き下がった。


翌朝の8時過ぎ、テラスに出たヘンリー・レノックスが、灰色の部屋の張り出し窓を見上げてみると、その窓は大きく開け放してあり、トーマス・メイが、まだ寝巻き姿のまま、窓際の腰掛けの上にひざまづいて、外の景色を眺めているようだった。

ヘンリー・レノックスがトーマス・メイに対して声をかけたが、相手からは、一言の返事もない上に、顔が異常な程に蒼ざめており、瞬き一つしていなかった。

不安の念に襲われたヘンリー・レノックスが、昨夜の事情を話した後、ウォルター・レノックス卿と従僕のフレッド・コーンターを連れて、灰色の部屋の戸口へと向かった。ドアは鍵がかかっていたため、外から何度も呼びかけたものの、「灰色の部屋は、絶対的な静寂に支配されていた。」(橋本 福夫 氏訳)

ウォルター・レノックス卿の指示で、従僕のフレッド・コーンターがドアをこじ開けて、皆が灰色の部屋へ入り、トーマス・メイのところへ駆け寄ってみると、彼は、何時間も前に、既に息絶えていた。彼の顔は象牙のような白さで、驚いたような表情が顔面にこわばりついていた。

またしても、灰色の部屋に置いて、原因不明の死が発生したのである。トーマス・メイの死は、自然死なのか、他殺なのか、それとも、灰色の部屋の呪いなのか?


東京創元社から、創元推理文庫として出版されている
イーデン・フィルポッツ作「灰色の部屋」(旧版)の裏表紙
       カバーイラスト: 日下 弘 氏

驚愕の展開は、更に続く。


トーマス・メイの葬儀のため、チャドランズ屋敷へと呼ばれた彼の父親で、やや狂信的なセプティマス・メイ牧師が、「自分が神の加護があるから、絶対に大丈夫だ。」と言って、灰色の部屋で一夜を過ごしたが、翌朝、息子のトーマス・メイと同じように、息絶えたままで見つかった。死因は、全く不明だった。


ロンドン警視庁経由、ウォルター・レノックス卿からの依頼を受けて、ピーター・キャッスル(ロンドン警視庁を辞め、私立探偵局を創設しようとしている名探偵)がチャドランズ屋敷へと派遣されたが、灰色の部屋を調べている間に、彼もまた謎の死を迎えたのである。


果たして、灰色の部屋には、一体、何が隠されているのだろうか?灰色の部屋で連続する謎の死は、何が原因なのか?


訳者の橋本 福夫 氏が創元推理文庫版の「訳者あとがき」において述べている通り、本作品は非常に定義の難しい小説で、幽霊小説、怪奇小説や恐怖小説の様相を呈しつつ、最後には、探偵小説として決着する。ただし、「この世のものではない犯人」という設定、また、科学的な裏付けが為されていないこと等を考えると、作者であるイーデン・ヘンリー・フィルポッツの執筆意図は別にして、現代の本格推理小説ファンからは、アンフェアであると言われてしまうのかもしれない。どちらかと言えば、探偵小説と言うよりは、奇談に近い。


次回以降に紹介予定であるが、イーデン・ヘンリー・フィルポッツは、「灰色の部屋」を発表した翌年の1922年に、「赤毛のレドメイン家(The Red Redmaynes)」を出版しているが、これは、現代の本格推理小説ファンの観点からみても、紛れもない本格探偵小説の傑作であり、明智小五郎シリーズ等で有名な日本の推理作家である江戸川乱歩(1894年ー1965年)も、自己の読書体験を「万華鏡」に譬えて、大絶賛している。また、過去には、探偵小説ベスト10の第1位にも選ばれている。


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