2018年4月29日日曜日

ジョン・ディクスン・カー作「帽子収集狂事件」(The Mad Hatter Mystery by John Dickson Carr)−その1

東京創元社が発行する創元推理文庫「帽子収集狂事件」の表紙−
カバーデザイン:本山 木犀氏
カバーイラスト: 榊原 一樹氏

ロンドン塔(Tower of London→2018年4月8日 / 4月15日 / 4月22日付ブログで紹介済)は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家で、「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)によって、殺人事件が発生する舞台として使用されている。それが、1933年に英国のヘイミッシュ・ハミルトン社(Hamish Hamilton)から、また、米国のハーパー&ブラザーズ社(Harper & Brothers)から刊行された「帽子収集狂事件(The Mad Hatter Mystery)」である。
なお、「帽子収集狂事件」は、ジョン・ディクスン・カー名義の長編第7作目で、探偵役のギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)が登場する作品としては、第2作目に該る。

ジョン・ディクスン・カー名義の長編第1作目から第5作目までは、パリの予審判事のアンリ・バンコラン(Henri Bencolin)が探偵役を務め、第6作目の「魔女の隠れ家(Hag’s Nook)」で、ギディオン・フェル博士が初登場する。
なお、ジョン・ディクスン・カーは、カーター・ディクスン(Carter Dickson)というペンネームでも推理小説を執筆しており、カーター・ディクスン名義の作品では、ヘンリー・メルヴェール卿(Sir Henry Merrivale)が探偵役として活躍している。
ちなみに、ギディオン・フェル博士は、ブラウン神父(Father Brown)シリーズで有名な英国の作家 / 批評家 / 詩人 / 随筆家(推理作家としても有名)であるギルバート・キース・チェスタートン(Gilbert Keith Chesterton:1874年ー1936年)が、また、ヘンリー・メルヴェール卿は、英国の政治家 / 軍人 / 作家であるサー・ウィンストン・レナード・スペンサー=チャーチル(Sir Winston Leonard Spencer-Churchill:1894年ー1965年→2017年8月6日付ブログで紹介済)がモデルと言われている。

創元推理文庫「帽子収集狂事件」の旧訳版の表紙–
殺人事件の舞台となるロンドン塔の地図(赤色の部分)、
ロンドン塔内で飼育されているワタリガラス(Raven)、そして、
「いかれ帽子屋」によって盗まれた帽子が
うまい具合にアレンジされている

「帽子収集狂事件」の冒頭、1932年3月、霧深いロンドンにおいて、」「いかれ帽子屋(The Mad Hatter)」による謎の連続帽子盗難事件が世間の話題を呼んでいるところから始まる。巡査の頭からヘルメットが盗まれて、ニュースコットランドヤード(New Scotland Yard)前の街灯に載せられ、また、証券取引所のメンバーの頭からシルクハットがひったくられ、トラファルガースクエア(Trafalgar Square)中心に据えられたネルソン記念柱(Nelson’s Column)を囲むライオン像の頭上にかぶせられた。そして、法廷弁護士が法廷でかぶるカツラがレスタースクエア(Leicester Square)の馬車待合所に寄せられた馬車の馬に載っていたりと、「いかれ帽子屋」による被害は、全部で7件にものぼっていた。「いかれ帽子屋」による連続帽子盗難事件を新聞記事として報道するフリーランスの記者であるフィリップ・ドリスコル(Philip Driscoll)も、「いかれ帽子屋」と同様に、世間の注目を集めていた。

その最中、フィリップ・ドリスコルの伯父に該る引退した政治家で、古書収集家でもあるウィリアム・ビットン卿(Sir William Bitton)から、スコットランドヤード犯罪捜査部のデイヴィッド・F・ハドリー主任警部を介して、ギディオン・フェル博士(と米国人の青年タッド・ランポール)は、ある相談を受ける。
米国の小説家 / 詩人 / 評論家であるエドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe:1809年ー1849年 → 2017年1月28日付ブログで紹介済)が生前住んでいたフィラデルフィア(Philadelphia)の住居において、ウィリアム・ビットン卿が発見したポーの未発表原稿が、何者かによって彼の自宅から盗まれたと言うのだ。また、ウィリアム・ビットン卿は、この3日間の間に、二度も「いかれ帽子屋」によって帽子をひったくられるという被害を蒙っていたのである。

ウィリアム・ビットン卿からの依頼を受けて、ギディオン・フェル博士が盗まれたポーの未発表原稿の捜査に取り掛かろうとしていた矢先に、ロンドン塔(Tower of London→2018年4月8日、4月15日および4月22日付ブログで紹介済)の逆賊門において他殺死体が発見されたという連絡が入る。驚くことに、その他殺死体はフィリップ・ドリスコルで、彼の頭には、先日「いかれ帽子屋」にひったくられたウィリアム・ビットン卿の帽子がかぶせられているという非常に奇妙な状況であった。

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