2018年4月8日日曜日

ロンドン ロンドン塔(Tower of London)-その1

ロンドン橋(London Bridge)付近からロンドン塔を望む

サー・アーサー・コナン・ドイル作「四つの署名(The Sign of the Four)」(1890年)では、若い女性メアリー・モースタン(Mary Morstan)がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れて、風変わりな事件の調査依頼をする。

元英国陸軍インド派遣軍の大尉だった彼女の父親アーサー・モースタン(Captain Arthur Morstan)は、インドから英国に戻った10年前に、謎の失踪を遂げていた。彼はロンドンのランガムホテル(Langham Hotel→2014年7月6日付ブログで紹介済)に滞在していたが、娘のモースタン嬢が彼を訪ねると、身の回り品や荷物等を残したまま、姿を消しており、その後の消息が判らなかった。そして、6年前から年に1回、「未知の友」を名乗る正体不明の人物から彼女宛に大粒の真珠が送られてくるようになり、今回、その人物から面会を求める手紙が届いたのである。
彼女の依頼に応じて、ホームズとジョン・H・ワトスンの二人は彼女に同行して、待ち合わせ場所のライシアム劇場(Lyceum Theatreー2014年7月12日付ブログで紹介済)へ向かった。そして、ホームズ達一行は、そこで正体不明の人物によって手配された馬車に乗り込むのであった。

ホームズ、ワトスンとモースタン嬢の三人は、ロンドン郊外のある邸宅へと連れて行かれ、そこでサディアス・ショルト(Thaddeus Sholto)という小男に出迎えられる。彼が手紙の差出人で、ホームズ達一行は、彼からモースタン嬢の父親であるアーサー・モースタン大尉と彼の父親であるジョン・ショルト少佐(Major John Sholto)との間に起きたインド駐留時代の因縁話を聞かされるのであった。
サディアス・ショルトによると、父親のジョン・ショルト少佐が亡くなる際、上記の事情を聞いて責任を感じた兄のバーソロミュー・ショルト(Bartholomew Sholto)と彼が、モースタン嬢宛に毎年真珠を送っていたのである。アッパーノーウッド(Upper Norwood)にある屋敷の屋根裏部屋にジョン・ショルト少佐が隠していた財宝を発見した彼ら兄弟は、モースタン嬢に財宝を分配しようと決めた。

2012年のロンドン・オリンピック / パラリンピック開催時、
ロンドン塔とテムズ河の間にある広場に設置された
マスコットキャラの一つ「ビーフイーター・マンデヴィル(Beefeater Mandeville)」

しかし、ホームズ一行がサディアス・ショルトに連れられて、バーソロミュー・ショルトの屋敷を訪れると、バーソロミュー・ショルトはインド洋のアンダマン諸島の土着民が使う毒矢によって殺されているのを発見した。そして、問題の財宝は何者かによって奪い去られていたのである。
ホームズの依頼に応じて、ワトスンは、ランベス地区(Lambeth)の水辺近くにあるピンチンレーン3番地(No. 3 Pinchin Lane→2017年10月28日付ブログで紹介済)に住む鳥の剥製屋シャーマン(Sherman)から、犬のトビー(Toby)を借り出す。そして、ホームズとワトスンの二人は、バーソロミュー・ショルトの殺害現場に残っていたクレオソートの臭いを手掛かりにして、トビーと一緒に、現場からロンドン市内を通り、犯人の逃走経路を追跡して行く。

ホームズとワトスンの二人が、犬のトビーと一緒に、ストリーサム地区(Streatham→2017年12月2日付ブログで紹介済)、ブリクストン地区(Brixton→2017年12月3日付ブログで紹介済)、キャンバーウェル地区(Camberwell→2017年12月9日付ブログで紹介済)、オヴァールクリケット場(Oval)を抜けて、ケニントンレーン(Kennington Lane→2017年12月16日付ブログで紹介済)へと達した。そして、彼らは更にボンドストリート(Bond Street→2017年12月23日付ブログで紹介済)、マイルズストリート(Miles Street→2017年12月23日付ブログで紹介済)やナイツプレイス(Knight’s Place→2017年12月23日付ブログで紹介済)を通って、ナインエルムズ地区(Nine Elms→2017年12月30日付ブログと2018年1月6日付ブログで紹介済)までやって来たが、ブロデリック&ネルソンの材木置き場という間違った場所に辿り着いてしまった。どうやら、犬のトビーは、どこかの地点から違うクレオソートの臭いを辿ってしまったようだ。

二人はトビーをクレオソートの臭いの跡が二つの方向に分かれていたナイツプレイスへと戻し、犯人達の跡を再度辿らせた。そして、彼らはベルモントプレイス(Belmon Place→2018年1月13日付ブログで紹介済)とプリンスズストリート(Prince’s Street→2018年1月13日付ブログで紹介済)を抜けて、ブロードストリート(Broad Street→2018年1月13日付ブログで紹介済)の終点で、テムズ河岸に出るが、そこは船着き場で、どうやら犯人達はここで船に乗って、警察の追跡をまこうとしたようだ。

ホームズは、ウィギンズ(Wiggins)を初めとするベーカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)を使って、バーソロミュー・ショルトを殺害した犯人達が乗った船の隠れ場所を捜索させたものの、うまくいかなかった。独自の捜査により、犯人達の居場所を見つけ出したホームズは、ベーカーストリート221Bへスコットランドヤードのアセルニー・ジョーンズ警部(Inspector Athelney Jones)を呼び出す。ホームズは、呼び出したアセルニー・ジョーンズ警部に対して、バーソロミュー・ショルトの殺害犯人達を捕えるべく、午後7時にウェストミンスター船着き場(Westminster Stairs / Wharf→2018年3月31日 / 4月7日付ブログで紹介済)に巡視艇を手配するよう、依頼するのであった。

「ビーフイーター(Beefeater)」とは、ロンドン塔の衛兵隊、
もしくは、そこに属する衛兵のことを指す通称である

午後7時を少し過ぎた頃に、私達はウェストミンスター船着き場に着いた。そして、巡視艇の蒸気船は、私達の到着を待っていた。ホームズは船を注意深く見つめた。
「どこかに巡視艇であることを示すものはあるかい?」
「ええ、船の横に緑のランプが付いています。」
「それじゃ、それを外してくれ。」
船の横に付いている緑のランプを外すと、私達は乗船し、ロープが外された。ジョーンズ警部、ホームズと私の三人は船尾に座った。一人の男が舵を握り、一人がエンジンを担当して、二人の屈強な警察官が前に乗った。
「どこへ向かいますか?」と、ジョーンズ警部が尋ねた。
「ロンドン塔へ向かってくれ。ジェイコブソン修理ドックの反対側に、船を停泊するように指示してくれ。」
私達が乗った船は、明らかに速かった。私達の船は、荷物を載せた艀(はしけ)の長い列を、あたかもそれが静止しているかのように、一瞬で抜き去ったのである。私達の船がテムズ河を運行する蒸気船に追い付き、それを後方に置き去りにした時、ホームズは満足そうに微笑んだ。

「ビーフイーター」の正式名は、
「ヨーマン・ウォーダーズ(The Yeomen Warders)」である

It was a little past seven before we reached the Westminster Wharf, and found our launch awaiting us. Holmes eyed it critically.
‘Is there anything to mark it as a police-boat?’
‘Yes; that green lamp at the side.’
‘Then take it off.’
The small change was made, we stepped on board, and the ropes were cast off. Jones, Holmes and I sat in the stern. There was one man at the rudder, one to tend the engines, and two burly police inspectors forward.
‘Where to?’ Asked Jones.
‘To the Tower. Tell them to stop opposite to Jacobson’s Yard.’
Our craft was evidently a very fast one. We shot past the long lines of loaded barges as though they were stationary. Holmes smiled with satisfaction as we overhauled a river streamer and left her behind us.

スコットランドヤードのジョーンズ警部に依頼して、ウェストミンスター船着き場に手配してもらった巡視艇を、ワトスンとジョーンズ警部と一緒に乗船したホームズが向かわせた先のロンドン塔(Tower of London)は、ロンドンの経済活動の中心地であるシティー・オブ・ロンドン(City of London)と隣り合うロンドンの特別区の一つ、ロンドン・タワーハムレッツ区(London Borough of Tower Hamlets)内にあり、テムズ河(River Thames)の北岸に建つ中世の城塞である。


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