2022年2月23日水曜日

ジョン・ディクスン・カー作「カー短編全集3 パリから来た紳士」(The Gentleman from Paris and Other Stories by John Dickson Carr)

東京創元社から、創元推理文庫の一冊として出版されている
ジョン・ディクスン・カー作
「カー短編全集3 パリから来た紳士」の表紙
(カバー : アトリエ絵夢 志村 敏子氏)


「不可能犯罪の巨匠」とも呼ばれているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)は、米国のペンシルヴェニア州(Pennsylvania)に出生して、英国人のクラリス・クルーヴス(Clarice Cleaves)との結婚後、1932年から1946年にかけて英国のブリストル(Bristol)に居を構えていた米国の推理作家である。彼は、シャーロック・ホームズシリーズで有名なサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の伝記を執筆するとともに、コナン・ドイルの息子であるエイドリアン・コナン・ドイル(Adrian Conan Doyle:1910年ー1970年)と一緒に、ホームズシリーズにおける「語られざる事件」をテーマにした短編集「シャーロック・ホームズの功績(The Exploits of Sherlock Holmes)」(1954年)を発表している。


彼が、ジョン・ディクスン・カー名義で発表した作品では、当初、パリの予審判事のアンリ・バンコラン(Henri Bencolin)が探偵役を務めたが、その後、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)が探偵役として活躍した。彼は、カーター・ディクスン(Carter Dickson)というペンネームでも推理小説を執筆しており、カーター・ディクスン名義の作品では、ヘンリー・メルヴェール卿(Sir Henry Merrivale)が探偵役として活躍している。


日本の出版社である東京創元社から、創元推理文庫の一冊として、「カー短編全集1 不可能犯罪捜査課」が1970年に出版されているが、これは、ジョン・ディクスン・カー名義で出版された短編集「Dr. Fell, Detective and Other Stories」(1947年)、「The Third Bullet and Other Stories」(1954年)および「The Man Who Explained Miracles」(1963年)をベースにして、独自に編み直されている。


「カー短編全集3 パリから来た紳士」には、以下の短編が収録されている。


(1)「パリから来た紳士(The Gentleman from Paris)」(1950年)

本作品は、「妖魔の森の家(The House in the Goblin Woods)」(1947年)と並ぶ短編の代表作と評されている。老婦人を説得して、彼女の遺産を困窮している彼女の娘に譲らせるために、フランスから米国(ニューヨーク)へとやって来た主人公であったが、書き換えに成功した遺言状の所在が判らなくなってしまう。酒場に居た男が見事に謎を解いてくれるのだが、物語の最後に、思いがけない男の正体が明らかにされる。


(2)「見えぬ手の殺人(原題は「King Arthur’s Chair」であるが、その後、「 Invisible Hands」、次に、「Death by Invisible Hands」と改題されている)」(1957年)

岬の岩近くの海浜において、絞殺死体が発見されるが、周囲には、足跡が全く見当たらない。この不可能犯罪の謎を、ギディオン・フェル博士が解いてみせる。


(3)「ことわざ殺人事件(The Proverbial Murder)」(初出誌は不明)

特別捜査班が監視する状況下、スパイと目されているドイツ人の教授が射殺された事件に、ギディオン・フェル博士が挑む。


(4)「とりちがえた問題(The Wrong Problem)」(1938年)

偶然遭遇した白髪の小男が語る回想話を聞いたギディオン・フェル博士が、30年前、密室(池の中の島 / 屋根裏部屋)状況下で発生した2つの殺人事件の真相を看破する。


(5)「外交官的な、あまりにも外交官的な(Strictly Diplomatic)」(1939年)

主人公の弁護士が一目惚れした女性は、彼が見ている中、並木道を通り抜けた筈にもかかわらず、反対の出口に居たシルヴァニア大使は、彼女を見かけていないと答える。この並木道には、通り抜ける以外、他にも出口はない。彼女は、どこに消失してしまったのか?我々の盲点が突かれることになる。


(6)「ウィリアム・ウィルソンの職業(William Wilson’s Racket)」(1941年)

最年少の大臣の婚約者である伯爵令嬢によると、婚約相手の大臣は、パーティーの席上、失態を演じるだけでなく、ある事務所(ウィリアム・アンド・ウィルへルミナ・ウィルソン商会)において、別の女性を膝に乗せている現場に出くわした。伯爵令嬢を見た大臣は、慌てて逃げ出し、ビルの一室に服や持ち物だけを残したまま、失踪してしまったのである。伯爵令嬢の訴えを聞いたロンドン警視庁D三課の課長であるマーチ大佐(「カー短編全集1 不可能犯罪捜査課(The Department of Queer Complaints)」に登場)が、その謎を解明する。


(7)「空部屋(The Empty Flat)」(1939年)

深夜の静寂を震わせるラジオの音を不快に感じたフラットの住民達が調べてみると、騒音の震源地である部屋から、ショック死の死体が発見される。「ウィリアム・ウィルソンの職業」に登場したマーチ大佐が、推理眼を披露する。


(8)「黒いキャビネット(The Black Cabinet)」(1951年)

米国人を父に、そして、イタリア人を母にして生まれたヒロインは、母親達が失敗したナポレオン3世の暗殺を実行しようとする。暗殺実行の直前に、邪魔が入るが、「パリから来た紳士」と同様、物語の最後に、邪魔に入った男の正体が明らかにされる。


(9)「奇蹟を解く男(原題は「Ministry of Miracles」であるが、その後、「All in a Maze」、次に、「 The Man Who Explained Miracles」と改題されている)」(1955年)

結婚前にロンドン観光へとやって来た女性が、誰も居ない筈の回廊において、死の予告を聞いただけでなく、密閉された室内でガス栓が捻られる等、不可解な出来事に遭遇する。女性の身辺に迫る魔手の話が、首都警察の捜査第8課、通称、「奇蹟担当局」を主導するヘンリー・メルヴェール卿のところに持ち込まれる。 


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