2022年2月19日土曜日

ロンドン アルベマールストリート(Albemarle Street)


英国の小説家で、推理 / サスペンスドラマの脚本家でもあるアンソニー・ホロヴィッツ(Anthony Horowitz:1955年ー)が、コナン・ドイル財団(Conan Doyle Estate Ltd.)による公認(公式認定)の下、シャーロック・ホームズシリーズの正統な続編として執筆の上、2011年に発表した「絹の家(The House of Silk)」では、以下のようにして、話が始まる。


1890年11月も終わりに近付いた頃、メアリー・モースタン(Mary Morstan)と結婚していたジョン・H・ワトスンは、古巣ベーカーストリート221B(221B Baker Street)のシャーロック・ホームズの元を訪れた。ワトスンの妻は、ちょうどその時、以前家庭教師をしていたセシル・フォレスター夫人(Mrs. Cecil Forrester)の子息リチャード(Richard)がインフルエンザに罹患したので、見舞いの為、キャンバーウェル地区(Camberwell → 2017年12月9日付ブログで紹介済)へと出かけて、ケンジントン地区(Kensington)の自宅を留守にしていたのである。ワトスンがホームズを訪ねたのは、妻がキャンバーウェル地区へ出発するのを見送った駅からの帰りであった。

そんな中、ウィンブルドン(Wimbledon)に住むエドムンド・カーステアーズ(Edmund Carstairs)が、ホームズのところへ事件の相談にやって来る。彼は美術商で、共同経営者であるトバイアス・フィンチ(Tobias Finch)と一緒に、アルベマールストリート(Albemarle Street)沿いでカーステアーズ・アンド・フィンチ画廊(Gallery Carstairs and Finch)を営んでいると言う。

アルベマールストリートを北側から望む―
画面右手奥にブラウンズホテルの表玄関がある


アルベマールストリートは、ロンドンの中心部シティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)の高級地区メイフェア(Mayfair)内にある通りである。

トラファルガースクエア(Trafalgar Square)から西へ延びるパル・マル通り(Pall Mall → 2016年4月30日付ブログで紹介済)は、セントジェイムズパレス(St. James’s Palace)に至ったところで垂直に曲がり、セントジェイムズストリート(St. James’s Street → 2021年7月24日付ブログで紹介済)へと名前を変えて、北へ向かって延びる。セントジェイムズストリートは、ピカデリーサーカス(Piccadilly Circus)からハイドパーク(Hyde Park)へ向かって西に延びるピカデリー通り(Piccadilly)と交差した後、アルベマールストリートへと名前を変えて、更に北上する。


初代準男爵サー・トーマス・ボンド(Sir Thomas Bond, 1st Baronet:1620年頃ー1685年)がこの一帯を開発した際に、アルベマールストリートも設けられた。

ロンドン市内の交通渋滞を緩和するために、アルベマールストリートは、南から北へと向かう一方通行となっている。

アルベマールストリートと並行する通りとして、東側のオールドボンドストリート(Old Bond Street)と西側のドーヴァーストリート(Dover Street)があるが、オールドボンドストリートは、北から南へと向かう一方通行で、ドーヴァーストリートは、アルベマールストリートと同じく、南から北へと向かう一方通行である。なお、アルベマールストリートは、最終的に、東西に延びるグラフトンストリート(Grafton Street)に突き当たるが、このグラフトンストリートは、東側のオールドボンドストリートと西側のドーヴァーストリートへの抜け道となっている。


アルベマールストリート側から見たロイヤルアーケード全景


アルベマールストリート12番地(12 Albemarle Street)には、東側にあるオールドボンドストリート28番地(28 Old Bond Street)との間を結ぶロイヤルアーケード(Royal Arcade → 2016年1月16日付ブログで紹介済)という屋根付きの街路があり、両側に商業用店舗が軒を連ねている。

アガサ・クリスティー作「クリスマスプディングの冒険 / 盗まれたロイヤルルビー(The Adventure of the Christmas Pudding / The Theft of the Royal Ruby)」の冒頭、ある東洋の国の王位継承者である王子がロンドンで知り合った若く魅力的な女性にその国に伝わる由緒あるルビーを持ち逃げされてしまう。間もなく、王子は従姉妹と結婚する予定で、このことが公になった場合、大変なスキャンダルになる可能性が非常に高かった。その国との関係を重要視する英国政府(外務省)の説得を受けたエルキュール・ポワロは、ルビーを持ち逃げした女性が潜んでいるというキングスレイシー(Kings Lacey)の屋敷で開催されるクリスマスパーティーに参加するのであった。

英国のTV会社ITV1で放映されたポワロシリーズ「Agatha Christie's Poirot」の「盗まれたロイヤルルビー」(1991年)の回では、ポワロがキングスレイシーを訪問する前に、キングスレイシーに住むエジプト学者のレイシー大佐(Colonel Lacey)がエジプト美術商のデイヴィッド・ウェルウェン(David Welwyn)の店に訪れる場面として、ロイヤルアーケードが撮影に使用されている。

ブラウンズホテルの表玄関
(アルベマールストリート側)


アガサ・クリスティー作「バートラムホテルにて(At Bertram's Hotel)」(1965年)では、ミス・ジェーン・マープルが古き良きエドワード朝時代の面影を今なお残しているバートラムホテル(Bertram's Hotel)を訪れるところから、物語の幕が上がる。

彼女は、まだ14歳の時に、伯父夫妻に連れられて、バートラムホテルに宿泊したことがあった。今回、甥のレイモンドと彼の妻ジョーンが、ミス・マープルのために、ここに2週間程滞在する費用を出してくれたのだ。昔を懐かしむミス・マープルは、半世紀ぶりにバートラムホテルを再訪することになるが、昔と全く変わっていないことに驚く。しかし、その裏で事件の影が蠢いていたのである。

宿泊客のキャノン・ペニーファザー牧師(Cannon Pennyfather)が消息不明になり、そして、ある霧深い夜、ホテルのドアマンであるマイケル・ゴーマン(Michael Gormanー宿泊客の女性冒険家レディー・ベス・セジウィックの元夫)が射殺される。レディー・ベス・セジウィック(Lady Bess Sedgwick)と彼女の娘エルヴァイラ・ブレイク(Elvira Blake)の周囲で、何か不穏な動きがあるのだが、一体それは何か?

バートラムホテルは架空のホテルで、ロンドン市内に実在していないが、アルベマールストリート33番地に建ち、作者のアガサ・クリスティーがロンドン滞在の際の宿としていたブラウンズホテル(Brown's Hotel → 2015年5月10日付ブログで紹介済)がそのモデルだと一般に言われている。


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