2021年12月5日日曜日

ジョン・ディクスン・カー作「カー短編全集2 妖魔の森の家」(The Third Bullet and Other Stories by John Dickson Carr) - その2

夕暮れが迫るパル・マル通り


1970年に東京創元社から創元推理文庫として出版されているジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)作「カー短編全集2 妖魔の森の家(The Third Bullet and Other Stories)」の冒頭を飾るのは、短編「妖魔の森の家(The House in Goblin Wood)」であるが、同作品内には、ロンドン市内の場所がいくつか出てくるので、写真と一緒に、紹介したい。

なお、同作品内の文章については、上記の「カー短編全集2 妖魔の森の家」(宇野 利泰訳)から引用している。



(1)

『大戦に先立つこと三年、七月の暑い日の午後、ペル・メル街にある保守党上院議員クラブの反対側の歩道沿いに、セダンのオープン・カーが停めてあった。』



「ペル・メル街(私のブログでは、「パル・マル通り(Pall Mall)」と呼称)」は、ロンドンの特別区であるシティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のセントジェイムズ地区(St. James’s)内にある通りである。

(詳細については、2016年4月30日付ブログを御参照。)



なお、シャーロック・ホームズの兄であるマイクロフト・ホームズ(Mycroft Holmes)が創設した「ディオゲネスクラブ(Diogenes Club)」も、パル・マル通りに所在している。



(2)

『いまは昼食後のひととき。どこのクラブにいても、眠気を催してくる時刻である。街筋には、太陽が明るく輝いているだけで、通行人はまったく途絶えていた。軍人クラブは夢うつつの状態だし、アシニアム・クラブにいたっては、ぐっすり眠りこんでいるかに見えた。』

「アセニアムクラブ」が入居する建物の正面全景


「アシニアム・クラブ(私のブログでは、「アセニアムクラブ(Athenaum Club)」と呼称)」も、ロンドンの特別区であるシティー・オブ・ウェストミンスター区(City of Westminster)のセントジェイムズ地区(St. James’s)内のパル・マル通り107番地(107 Pall Mall)にあるクラブである。

(詳細については、2016年11月27日付ブログを御参照。)


カールトンハウステラス(Carlton House Terrace)から見たウォーターループレイス(Waterloo Place)―
「アセニアムクラブ」が入居する建物は左側に建っている


「アセニアムクラブ」は、アイルランド出身の政治家 / 著述家で、当時英国海軍を統括する Secretary to the Admiralty という重責を担っていたジョン・ウィルソン・クローカー(John Wilson Croker:1780年ー1857年)によって、科学、文学や芸術を愛する紳士が集うクラブとして、1824年に創立された。

「アセニアムクラブ」は、当初、別の場所に入居していたが、同クラブが本宅的に入居する建物の設計者として、英国の建築家 / 都市計画家であるジョン・ナッシュ(John Nash:1732年ー1835年)やジェイムズ・バートン(James Burton:1760年ー1837年)と一緒に、リージェンツパーク(Regent’s Park → 2016年11月19日付ブログで紹介済)の再開発を行ったデシマス・バートン(Decimus Burton:1800年ー1881年 / ジェイムズ・バートンの息子)が選ばれて、彼による新古典主義スタイルの設計に基づき、1827年より建設工事が始まり、1830年初めの竣工を経て、現在の建物へと移転したのである。


「アセニアムクラブ」が入居する建物入口上のテラスに立つパラスアテナ像


建物の建設に予想外の費用を要したこと、また、室内にガス燈を採用した最初の建物の一つだった関係上、空調設備を改善する必要があったこと等から、必要な資金を捻出するべく、「アセニアムクラブ」は、会員数を増やすことを強いられた。この頃に同クラブの会員となったのが、小説家のチャールズ・ジョン・ハファム・ディケンズ(Charles John Huffam Dickens:1812年ー1870年)や自然科学者のチャールズ・ロバート・ダーウィン(Charles)Robert Darwin:1809年ー1882年)等で、シャーロック・ホームズシリーズの作者であるサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)も、同クラブの会員の一人であった。


ナショナルポートレートギャラリー
(National Portrait Gallery)で販売されている
チャールズ・ジョン・ハファム・ディケンズの写真の葉書
(George Herbert Watkins / 1858年 / albumen print, arched top
190 mm x 152 mm) 


ナショナルポートレートギャラリーで販売されている
チャールズ・ダーウィンの肖像画の葉書
(John Collier
 / 1883年 / Oil on panel
1257 mm x 965 mm)


(3)

保守党上院議員クラブから出て来たヘンリー・メルヴェール卿(Sir Henry Merrivale)は、階段の上に落ちていたバナナの皮をうっかり踏んづけたため、足を滑らせて、ひっくり返ってしまった。

『「大丈夫ですの?」青い目の金髪娘(→ イーヴ・ドレイトン(Eve Drayton)のこと)は、心配そうにきいた。「お怪我はありませんでした?」

H・M(→ ヘンリー・メルヴェール卿)は無言のまま、彼女を見あげた。帽子をとばせてしまったので、大きな禿げ頭が露出している。

「とにかく、お立ちになったら、ヘンリー卿?」

「そうですよ、閣下」クラブのポーターも哀願するようにいった。「お願いです。お立ちになって」

「立て、だと?」H・Mは。セント・ジェイムズ・ストリートまで届きそうな大声で吠えたてた。』

セントジェイムズストリートの西側から東側を見たところ -
画面右奥斜めに延びる通りは、ジャーミンストリート(Jermyn Street)


「セント・ジェイムズ・ストリート(私のブログでは、「セントジェイムズストリート(St. James’s Street)」と呼称」も、ロンドンの特別区であるシティー・オブ・ウェストミンスター区のセントジェイムズ地区内にある通りである。

(詳細については、2021年7月24日付ブログを御参照。)


セントジェイムズストリート沿いに建つカールトンクラブ(Carlton Club)

セントジェイムズストリート沿いには、現在、紳士用クラブ、高級店舗やオフィス等が並んでいる。
なお、コナン・ドイルによるホームシリーズの短編「三破風館(The Three Gables)」に登場するゴシップ屋のラングデイル・パイク(Langdale Pike → 2021年7月17日付ブログで紹介済)が居る紳士用クラブは、セントジェイムズストリートに面していると記述されている。 
また、紳士用クラブの中には、コナン・ドイルによるホームズシリーズの短編「高名な依頼人(The Illustrious Client)」に登場するサー・ジェイムズ・デマリー大佐(Colonel Sir James Demery)が会員となっている「カールトンクラブ(Carlton Club → 2014年11月16日付ブログで紹介済)」も含まれている。

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