2021年12月4日土曜日

ドゥエイン・スウィアジンスキー作「ワトスン博士の犯罪」(An Interactive Sherlock Holmes Mystery / The Crimes of Dr. Watson by Duane Swierczynski) - その3

米国の Quirk Books 社から2007年に出版された
ドゥエイン・スウィアジンスキー作「ワトスン博士の犯罪」の内表紙
(Design by Doogie Horner / Illustration by Clint Hansen)

読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆(2.0)


本作品は、シャーロック・ホームズが、犯罪界のナポレオンこと、ジェイムズ・モリアーティー教授(Professor James Moriarty)とともに、スイスのマイリンゲン(Meiringen)にあるライヘンバッハの滝(Reichenbach Falls)に姿を消した1891年5月以降の大空位時代に、ジョン・H・ワトスンを襲った事件の記録である。刑務所内で、ワトスンが友人のハリー大佐(Colonel Harry)宛に手紙を書く1895年12月の段階で、実際には、ホームズはロンドンに既に帰還済で、日付が合わない。一方で、原作者であるサー・アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル(Sir Arthur Ignatius Conan Doyle:1859年ー1930年)の作品において、この年代辺りで、ある人物に関する言及が全くないこと等について、一定の説明が為されるものの、ややこじつけめいていて、あまり感心できない。


(2)物語の展開について ☆☆(2.0)


本作品は、「ストランドマガジン(The Strand Magazine)」に掲載された「最後の事件(The Final Problem)」が冊子の形で付けられており、また、警告のため、米国からロンドンのワトスン宛に送られてくる5つのものが、封筒と一緒に添付されていたりと、推理ゲームの形式が採られている。

物語は、ワトスンが刑務所に入っているという衝撃的な事実から始まるが、事件自体には若干の驚きはあるものの、動機付けや殺人 / 放火を伴う犯行内容等については、読者の納得性を欠いている。それに、事件のスケールとしては、大きくない上に、後味が悪い。



(3)探偵役であるハリー大佐の活躍について ☆☆半(2.5)


米国からロンドンのワトスン宛に送られてきた5つのものから、米国に住むハリー大佐は、事件の裏に潜む真実を明らかにする。彼は犯人やその動機等を解明するものの、米国に住んでいる関係上、推論の積み重ねだけであって、それに対する補強証拠がなく、彼の説明がストーンと胸のうちに落ちず、今一つ納得性に欠けるような気がする。


(4)総合評価 ☆☆(2.0)


何故、犯人がここまで突き進んでしまったのか、動機付けが弱く、納得性に欠ける。

米国からロンドンのワトスン宛に警告の手紙を送ってきたのは、ホームズだと思われるが、警告があまりにも暗示的過ぎるか、あるいは、解釈するには難し過ぎて、ワトスンには理解し難い上に、ややこじつけ的な感じが強い。

ライヘンバッハの滝壺に姿を消す1891年5月以前から、ホームズはこの事件の発生を予想済だったため、ワトスンには不可解な行動をとっていた訳であるが、仮に事件の発生時期が1895年12月だとすると、失踪後、4年半以上も経過してから、ホームズは、米国にいながらにして、事件発生の危険性が高まったことをどうやって察知したのだろうか?ベーカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)等を使ったのか?そういった肝心な点が、全て明らかにされないまま、本作品は、読者にとって、不完全燃焼気味で終わっている。



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