2021年12月26日日曜日

ソフィー・ハナ作「モノグラム殺人事件」(The Monogram Murders by Sophie Hannah) - その3

英国の HarperCollinsPublishers 社から2014年に出版された
ソフィー・ハナ作「モノグラム殺人事件」の見返し部分(ハードカバー版)
Jacket Design : HarperCollinsPublishers


読後の私的評価(満点=5.0)


(1)事件や背景の設定について ☆☆☆☆(4.0)


エルキュール・ポワロが至福の時を過ごす珈琲館へ突然飛び込んで来る半狂乱の若い女性ジェニー(Jenny)。「自分は命を狙われているが、例え殺されたとしても、警察には絶対に通報しないでほしい。」と、謎の言葉を残すと、夜の街へと姿を消す。

その一方で、ロンドンの一流ホテルでは、宿泊者客3人がそれぞれの部屋で毒殺されるという事件が発生する。しかも、被害者3人の口の中には、「PIJ」と刻まれたモノグラム(イニシャルの図案)付きのカフスボタンが入れられていた。

謎の言葉を残して、姿を消したジェニー、ロンドンの一流ホテルで発生した連続毒殺事件、カフスボタンに刻まれたモノグラム「PIJ」が意味するもの、そして、被害者3人の共通項であるグレートホーリング村(Great Holling)に潜む動機等、魅力的な謎が数多く提示される。


(2)物語の展開について ☆☆☆半(3.5)


ロンドンの一流ホテルにおいて発生した連続毒殺事件は、十数年前にグレートホーリング村で起きたある出来事に端を発したものであることが判明してくる。

提示された魅力的な謎の数々を、ポワロが解き明かしていくが、物語を面白くするためなのかもしれないが、事件の真相や過程等がやや複雑化し過ぎていて、分かりづらい展開になっている。


英国の HarperCollinsPublishers 社から出版された
ソフィー・ハナ作「モノグラム殺人事件」の表紙(ペーパーバック版)


(3)ポワロ / キャッチプール警部の活躍について ☆☆☆(3.0)


原作者であるアーサー・コナン・ドイル以外の作家が、シャーロック・ホームズ作品を執筆した場合、作品の出来不出来には関係なく、余程のことがない限り、登場するホームズはホームズらしい言動をするように思えるが、原作者であるアガサ・クリスティー以外の作家が、ポワロ作品を執筆した場合、登場するポワロがフランス語を多用していたとしても、申し訳ないが、個人的には、ポワロのようにはあまり感じられない。ホームズに比べると、ポワロは、どの作家であっても、扱うことが非常に難しいキャラクターなのではないかと思う。

また、物語の語り手として、アーサー・ヘイスティングス大尉(Captain Arthur Hastings)ではなく、作者独自のキャラクターであるスコットランドヤードの若手警部エドワード・キャッチプール(Inspector Edward Catchpool)を採用しているが、捜査のプロとしての言動があまり見られず、物語の語り手としては、成功していない。逆に、プロにもかかわらず、あまり能力がない人物が物語の語り手を務めているような変な印象を受けてしまう。


(4)総合評価 ☆☆☆半(3.5)


本作品は、アガサ・クリスティー財団(Agatha Christie Limited)が公認したポワロシリーズの正統な最新作である。

魅力的な謎が数多く提供されたり、勿論、ポワロも登場するが、正直ベース、アガサ・クリスティーの後継作品、それも、特に、ポワロシリーズとして、本作品は趣をやや異にしているようにしか感じられず、物語の内容にあまり入り込めない感じが強い。



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