2021年7月11日日曜日

メイヴィス・ドリエル・ヘイ作「チャーウェル川の死」(Death on the Cherwell by Mavis Doriel Hay) - その2

大英図書館(British Library)から
British Library Crime Classics シリーズの一つとして、2014年に出版されている
メイヴィス・ドリエル・ヘイ作「チャーウェル川の死」の裏表紙
(Cover Image : Mary Evans Picture Library)


女性専用のペルセポネカレッジ(Persephone College)が建つペルセ島(Perse Island)は、元々、チャーウェル川(River Cherwell)の支流の一つである「ザ・ニュー・ロウド(The New Lode)」を間に挟んで建つフェリーハウス(Ferry House)を所有していたアダム・ロンド(Adam Lond)からカレッジ側が購入した経緯があるが、父親であるアダム・ロンドからフェリーハウスを相続したエゼキエル・ロンド(Ezekiel Lond)は、当時の売買について、不服に思っていた。また、今までは、カレッジ側に、近道として、フェリーハウスの庭を横切る小道(foorpath)を使用することが、アダム・ロンドが生きていた頃には、許可されてきたが、これも、エゼキエル・ロンドは非常に不満で、これらのことについて、彼とペルセポネカレッジの経理部長(Bursar)であるマイラ・デニング(Myra Denning)との間で、暫くの間、揉めていたことが判った。


一方で、ペルセポネカレッジは、敷地拡張を考えており、第一候補地として、フェリーハウスが建つ土地を、第二候補地として、隣接するペイガンズフィールド(Pagans Field)を検討していた。ペイガンズフィールドを所有する農場主のジェイムズ・リジェット(James Lidgett)は、ペルセポネカレッジに自分の土地を売却しようと、マイラ・デニング経理部長に対して、強引な売り込みをかけていて、これも揉め事の一つとなっていたのである。


メイヴィス・ドリエル・ヘイ作「チャーウェル川の死」における
事件現場周辺の地図

それでは、いずれかの揉め事が要因となって、マイラ・デニング経理部長は、エゼキエル・ロンドか、ジェイムズ・リジェットのどちらかに殺害されたのだろうか?


地元警察のヴィザ警視(Superintendent Wythe)が調べたところ、マイラ・デニング経理部長の身寄りには、姪のパメラ・エクス(Pamela Exe)一人しか居なかった。マイラ・デニング経理部長は、姪の学費や生活費等、全ての面倒を見ていたが、何故か、姪を自分が働いているオックスフォード(Oxford)ではなく、遠く離れたケンブリッジ(Cambridge)の学校へと送り出し、姪がオックスフォードに近付くことを良しとしなかったのである。これは、一体、何故なのか?


ヴィザ警視による捜査が難航する中、スコットランドヤード犯罪捜査課(CID)のブレイドン警部(Inspector Braydon)が、ペルセポネカレッジへと投入される。また、マイラ・デニング経理部長の死体を発見したサリー・ワトスン(Sally Watson)達4人組は、自分達だけで犯人を見つけようと、行動を開始するのであった。


物語の前半、サリー・ワトスン達4人組は、いろいろと捜査を進めていくが、物語の後半、地元警察のヴィザ警視とスコットランドヤードのブレイドン警部による捜査が本格化してくると、サリー・ワトスン等、一部を除くと、登場する場面が一気に減って、影が薄くなってしまい、活躍する機会がほとんど与えられていない。サリー・ワトスン達4人組の捜査と警察の捜査が、また、警察内部でも、ヴィザ警視の捜査とブレイドン警部の捜査が、あまりキチンとリンクしていないような印象があり、物語の最後まで、三つの線がうまく交わらないまま進んでいるみたいで、物語全体が躍動しておらず、非常に残念である。

また、マイラ・デニング経理部長を殺害した容疑者として、複数の人物が挙げられるが、物語がある程度進んだ段階で、ある特定の人物に収束してしまう。そして、物語の終盤、本当にその人物が真犯人であることが明確になる訳で、正直ベース、本作品はあまり推理小説の形式を成しているとは言えないのも、残念なところである。


作者のメイヴィス・ドリエル・ヘイ(Mavis Doriel Hay:1894年ー1979年)は、推理作家としては、全部で3作品しか発表しておらず、本作品は2番目に該当する。

本作品の舞台となるペルセポネカレッジは架空のカレッジで、作者が1913年から1916年にかけて実際に学んだセント ヒルダズ カレッジ(St. Hilda’s College)をベースにしているものと思われる。なお、セント ヒルダズ カレッジは、オックスフォード内にあり、チャーウェル川沿いに位置している女性専用のカレッジである。


0 件のコメント:

コメントを投稿