2020年3月1日日曜日

ジョン・ディクスン・カー作「連続殺人事件」(The Case of the Constant Suicides by John Dickson Carr)–その3

英国のエディンバラにある
Polygon Books 社から2018年に出版された「連続殺人事件」の裏表紙
(イラスト:  Danny Grogan)

シャイラ城(Castle of Shira)の尖塔の最上階にある寝室(内側から施錠された「完全な密室状態」)から、アンガス・キャンベル(Angus Campbell)が転落死したのが、果たして、自殺なのか、それとも、他殺なのか、全く判らない状況下、その謎を解明すべく、アンガス・キャンベルの弟であるコリン・キャンベル(Colin Campbell)に呼ばれて、ギディオン・フェル博士(Dr. Gideon Fell)がシャイラ城へと乗り込んで来た。

ギディオン・フェル博士がアンガス・キャンベル転落死の謎にかかる調査を進めている最中、今度は、コリン・キャンベルがアンガス・キャンベルの寝室内で一夜を過ごした翌朝、アンガス・キャンベルと全く同じように、コリン・キャンベルが尖塔の最上階にある寝室から転落して、尖塔の真下の地上に倒れているのが発見された。また、寝室内のベッドの下には、またもや、空の犬のケースが置かれていたのである。

謎の事件はさらに続き、投資話でアンガス・キャンベルと不仲になっていたアレック・フォーベス(Alec Forbes)が自殺と思われる状況で縊死しているのが見つかった。

果たして、ギディオン・フェル博士は、アンガス・キャンベルとコリン・キャンベルの銭湯からの転落、そして、アレック・フォーベスの縊死について、どのような解決を行うのであろうか?

第一の事件(アンガス・キャンベルの転落死)と第二の事件(コリン・キャンベルの転落)に関するトリックについては、現代の科学に基づくと、かなり荒唐無稽なものではあるが、著者のジョン・ディクスン・カー(John Dickson Carr:1906年ー1977年)が本作品である「連続殺人事件(The Case of the Constant Suicides)」を発表したのが1941年であることを考えると、彼の発想というか、彼の着眼点には驚くばかりである。また、このトリックの真相へと至るために、ジョン・ディクスン・カーは、キチンと巧妙に伏線を張っていたのである。

本作品の邦題は「連続殺人事件」となっているが、原題は「連続自殺事件」となっている。本作品において、合計で3つの事件が発生するが、その何れもが内側から施錠された密室状況の中で起きており、自殺としか思えないものの、自殺なのか、それとも、他殺なのかの判断が、非常に困難な事件ばかりである。そう考えると、タイトルは、「連続殺人事件」ではなく、原題通り、「連続自殺事件」とした方が良かったのではないだろうか?ただし、原題通りのタイトルにした場合、翻訳版の売れ行き予想としては、あまり良くないと考え、当時、「連続殺人事件」としたのかもしれない。

東京創元社から出ている創元推理文庫版(残念ながら、現在、在庫なし)の内容紹介として、「妖気漂う…」と記されているが、本作品の内容的には、ジョン・ディクスン・カーが得意とする「怪奇性」について、個人的には、あまり強調されていないものと感じられるので、この内容紹介は若干誇張し過ぎのような気がする。

0 件のコメント:

コメントを投稿