2020年3月28日土曜日

ロンドン 西インドドック(West India Docks)–その1

現在は、欧米系の銀行や企業等のオフィスビルが集中して建つカナリーワーフ(Canary Whard)として
再開発された西インドドック(旧造船所 / 修理ドック)

サー・アーサー・コナン・ドイル作「四つの署名(The Sign of the Four)」(1890年)では、若い女性メアリー・モースタン(Mary Morstan)がベーカーストリート221Bのシャーロック・ホームズの元を訪れて、風変わりな事件の調査依頼をする。

元英国陸軍インド派遣軍の大尉だった彼女の父親アーサー・モースタン(Captain Arthur Morstan)は、インドから英国に戻った10年前に、謎の失踪を遂げていた。彼はロンドンのランガムホテル(Langham Hotel→2014年7月6日付ブログで紹介済)に滞在していたが、娘のモースタン嬢が彼を訪ねると、身の回り品や荷物等を残したまま、姿を消しており、その後の消息が判らなかった。そして、6年前から年に1回、「未知の友」を名乗る正体不明の人物から彼女宛に大粒の真珠が送られてくるようになり、今回、その人物から面会を求める手紙が届いたのである。
彼女の依頼に応じて、ホームズとジョン・H・ワトスンの二人は彼女に同行して、待ち合わせ場所のライシアム劇場(Lyceum Theatreー2014年7月12日付ブログで紹介済)へ向かった。そして、ホームズ達一行は、そこで正体不明の人物によって手配された馬車に乗り込むのであった。

ホームズ、ワトスンとモースタン嬢の三人は、ロンドン郊外のある邸宅へと連れて行かれ、そこでサディアス・ショルト(Thaddeus Sholto)という小男に出迎えられる。彼が手紙の差出人で、ホームズ達一行は、彼からモースタン嬢の父親であるアーサー・モースタン大尉と彼の父親であるジョン・ショルト少佐(Major John Sholto)との間に起きたインド駐留時代の因縁話を聞かされるのであった。
サディアス・ショルトによると、父親のジョン・ショルト少佐が亡くなる際、上記の事情を聞いて責任を感じた兄のバーソロミュー・ショルト(Bartholomew Sholto)と彼が、モースタン嬢宛に毎年真珠を送っていたのである。アッパーノーウッド(Upper Norwood)にある屋敷の屋根裏部屋にジョン・ショルト少佐が隠していた財宝を発見した彼ら兄弟は、モースタン嬢に財宝を分配しようと決めた。

しかし、ホームズ一行がサディアス・ショルトに連れられて、バーソロミュー・ショルトの屋敷を訪れると、バーソロミュー・ショルトはインド洋のアンダマン諸島の土着民が使う毒矢によって殺されているのを発見した。そして、問題の財宝は何者かによって奪い去られていたのである。

カナリーワーフ内に建つ高層ビルの一つ

ホームズの依頼に応じて、ワトスンは、ランベス地区(Lambeth)の水辺近くにあるピンチンレーン3番地(No. 3 Pinchin Lane→2017年10月28日付ブログで紹介済)に住む鳥の剥製屋シャーマン(Sherman)から、犬のトビー(Toby)を借り出す。そして、ホームズとワトスンの二人は、バーソロミュー・ショルトの殺害現場に残っていたクレオソートの臭いを手掛かりにして、トビーと一緒に、現場からロンドン市内を通り、犯人の逃走経路を追跡して行く。

ホームズとワトスンの二人が、犬のトビーと一緒に、ストリーサム地区(Streatham→2017年12月2日付ブログで紹介済)、ブリクストン地区(Brixton→2017年12月3日付ブログで紹介済)、キャンバーウェル地区(Camberwell→2017年12月9日付ブログで紹介済)、オヴァールクリケット場(Oval)を抜けて、ケニントンレーン(Kennington Lane→2017年12月16日付ブログで紹介済)へと達した。そして、彼らは更にボンドストリート(Bond Street→2017年12月23日付ブログで紹介済)、マイルズストリート(Miles Street→2017年12月23日付ブログで紹介済)やナイツプレイス(Knight’s Place→2017年12月23日付ブログで紹介済)を通って、ナインエルムズ地区(Nine Elms→2017年12月30日付ブログと2018年1月6日付ブログで紹介済)までやって来たが、ブロデリック&ネルソンの材木置き場という間違った場所に辿り着いてしまった。どうやら、犬のトビーは、どこかの地点から違うクレオソートの臭いを辿ってしまったようだ。

二人はトビーをクレオソートの臭いの跡が二つの方向に分かれていたナイツプレイスへと戻し、犯人達の跡を再度辿らせた。そして、彼らはベルモントプレイス(Belmon Place→2018年1月13日付ブログで紹介済)とプリンスズストリート(Prince’s Street→2018年1月13日付ブログで紹介済)を抜けて、ブロードストリート(Broad Street→2018年1月13日付ブログで紹介済)の終点で、テムズ河岸に出るが、そこは船着き場で、どうやら犯人達はここで船に乗って、警察の追跡をまこうとしたようだ。

ホームズは、ウィギンズ(Wiggins)を初めとするベーカーストリート不正規隊(Baker Street Irregulars)を使って、バーソロミュー・ショルトを殺害した犯人達が乗った船(オーロラ号)の隠れ場所を捜索させたものの、うまくいかなかった。独自の捜査により、犯人達の居場所を見つけ出したホームズは、ベーカーストリート221Bへスコットランドヤードのアセルニー・ジョーンズ警部(Inspector Athelney Jones)を呼び出す。ホームズは、呼び出したアセルニー・ジョーンズ警部に対して、バーソロミュー・ショルトの殺害犯人達を捕えるべく、午後7時にウェストミンスター船着き場(Westminster Stairs / Wharf→2018年3月31日 / 4月7日付ブログで紹介済)に巡視艇を手配するよう、依頼するのであった。

巡視艇がウェストミンスター船着き場を離れると、ホームズはアセルニー・ジョーンズ警部に対して、巡視艇をロンドン塔(Tower of London→2018年4月8日 / 4月15日 / 4月22日付ブログで紹介済)方面へと向かわせ、テムズ河(River Thames)の南岸にあるジェイコブソン修理ドック(Jacobson’s Yard)の反対側に船を停泊するよう、指示した。ホームズによると、バーソロミュー・ショルトを殺害した犯人達は、オーロラ号をジェイコブソン修理ドック内に隠している、とのことだった。
ホームズ達を乗せた巡視艇が、ロンドン塔近くのハシケの列に隠れて、ジェイコブソン修理ドックの様子を見張っていると、捜していたオーロラ号が修理ドックの入口を抜けて、物凄い速度でテムズ河の下流へと向かった。そうして、巡視艇によるオーロラ号の追跡が始まったのである。

カナリーワーフ内に点在する彫刻 / オブジェ(その1)

「石炭をくべろ!おい、もっとくべるんだ!」と、巡視艇の機関室を覗き込みながら、ホームズが叫んだ。彼の必死で鷲のような顔を、石炭の炎が発する凄まじい光が下から照らしていた。「ありったけの蒸気を出すんだ!」
「少し差が縮まったようだ。」と、オーロラ号に目をやって、ジョーンズ警部は言った。
「間違いない。」と、私も言った。「もう少しで、オーロラ号に追い付くぞ。」
しかし、その瞬間、運が悪いことに、三艘のはしけを引いたタグボートが、私達の間に入り込んできた。舵を激しく下手に切って、巡視艇はなんとか衝突を回避したが、タグボートを回り込んで、元の航路に戻った時には、オーロラ号は既に200ヤードを稼いでいた。しかし、オーロラ号は、視界の中にまだ捉えることができた。そして、暗くて、ぼんやりとした夕暮れは、くっきりと星が光る夜空へと変わりつつあった。私達が乗った巡視艇のボイラーは、極限でフル回転で、脆い外殻は巡視艇を推進させる凄まじいエネルギーで振動して、軋んだ。巡視艇は、淀みを突っ切ると、西インドドックを過ぎ、長いデットフォード水域を下り、そして、ドッグ島を回り込んで、また、テムズ河を北上した。私達の前にあった不鮮明なものは、今や、優美なオーロラ号の姿へとハッキリと変わったのである。

カナリーワーフ内に点在する彫刻 / オブジェ(その2)

‘Pile it on, men, pile it on!’ cried Holmes, looking down into the engine-room, while the fierce glow from below beat upon his eager, aquiline face. ‘Get every pound of steam you can!’
‘I think we gain a little,’ said Jones, with his eyes on the Aurora.
‘I am sure of it,’ said I. ‘We shall be up with her in a very few minutes.’
At that moment, however, as our evil fate would have it, a tug with three barges in tow blundered in between us. It was only by putting our helm hard down that we avoided a collision and before we would round them and recover our way the Aurora had gained a good two hundred yards. She was still, however, well in view, and the murky, uncertain twilight was setting into a clear starlit night. Our boilers were strained to their utmost, and the frail shell vibrated and creaked with the fierce energy which was driving us along. We had shot through the Pool, past the West India Docks, down the long Deptford Reach, and up again after rounding the Isle of Dogs, The dull blur in front of us resolved itself now clearly enough into the dainty Aurora.

カナリーワーフ内に建つオフィスビルの一つ

ホームズ、ワトスンとスコットランドヤードのジョーンズ警部達が乗った巡視艇が、バーソロミュー・ショルトを殺害した犯人達が乗ったオーロラ号を追跡して通り過ぎた西インドドック(West India Docks)は、ロンドンの経済活動の中心地シティー・オブ・ロンドン(City of London→2018年8月4日 / 8月11日付ブログで紹介済)の東隣りの特別区の一つであるロンドン・タワー・ハムレッツ区(London Borough of Tower Hamlets)内に所在し、テムズ河(River Thames)に西側、南側と東側を囲まれた半島のようなドッグ島(Isle of Dogs)内に三つある造船所 / 修理ドックの一つである。


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